クランを追い出されたのでクランを作って最強になる
009
僕とペルトは順調にソロモンの天支塔の一層を進んだ。
一層も奥へ行くと同じ魔物でも少しだけ強くなっている感じがする。
それに時々二体や三体が一緒にいる時もあるから、注意が必要だ。
魔物が強くなってもペルトは魔物を引きつけてくれるし、僕の不意打ちも有効だ。
ペルトはとても安定している。もっとあたふたすると思っていたけど、思っていたより安定しているからとても頼もしい。
さらに魔物が複数になってもペルトはまったく動じることがなく、まるで不沈艦のように魔物の攻撃を受け止める。
だから僕は意識がペルトに向いている魔物を後ろから攻撃できて安全に狩りができる。
ペルトがいると複数の魔物相手でも戦闘が安定するのがいいね。
「この鎧と盾のおかげです。おいらの力じゃないです」
「謙遜しなくていいよ。装備がよくてもペルトが使いこなさないと意味がないんだから」
「そ、そうですか? ちょっと照れますね。あははは」
「ペルトは自信を持っていいと思う。とっても頼りになる盾職だよ!」
「ありがとうございます!」
二人で休憩していて何気ない話をしていると、奥から二十人ほどのクランが現れた。
「あれはたしか……クラン『マギカタセス』の人たちだね」
たしか、今はクランランク5の中堅クランだったと思う。
「はい、先頭を歩いているのが使徒様ですね」
マギカタセスは中級魔法神カタセス様のクランで、使徒はアーメルさんという女性の方だ。
エルフのアーメルさんは紺色のローブを羽織っていて、尖がった羽根つき帽子を被っている。
「あら、あなたは……たしかゼクスとか言ったわね?」
「はい、お久しぶりです、アーメルさん」
以前に何度かお目にかかったことがあるだけなのに僕の名前を憶えていてくれたんだ。
なんだか嬉しいな。
尖がり羽根帽子のつばの奥から優しそうな瞳で僕たちを見るアーメルさんはとても綺麗だ。
年齢は……考えるのを止めておこう。先ほどの優しい目とは違って恐ろしい視線で射抜かれそうな僕は背中に嫌な汗をかいた。
「そちらの君は見たことないわね? 二人で魔物退治?」
「あ、彼はペルトって言います。同じクランの仲間なので一緒に魔物を倒していました」
ペルトがぺこりと頭を下げる。
アーメルさんは優しいけど美人なので人見知りのペルトが話しかけるのはハードルが高いみたいだ。
「地下三層辺りでハグレが出没すると言うので討伐に向かったのですが、いませんでした。どこかのクランが討伐したのかもしれませんが、そうでなければまだうろついているかもしれませんから、もし出会ったら逃げるのですよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
アーメルさんは柔らかな笑顔を残して帰っていきました。
アーメルさんの後ろにいたクラン員の方から殺気だった視線を感じたのは何故なのかな?
それと下級享楽の堕天神であるユパの加護を持ったコボルトがハグレだと思われているはずだけど、僕が討伐したとは言えなかった。
言うと面倒なことになりそうで、ユニクス様にも喋らないように口止めされていたから。
僕たちを気遣って注意をしてくれたのに、御免なさい。
「よし、僕たちも魔物討伐を再開しよう」
「はい!」
マギカタセスが来た方向に向かって進む。
そうするとすぐに地下一層への階段があったけど、まだ下りない。
地下一層へ行く前に戦っておかなければいけない魔物がいるんだ。
それにその魔物は、魔物としては珍しいけどアイテムがドロップするんだ。
だからドロップしたアイテムを持ち帰る必要があるけど、僕たちは二人しかいないのでドロップアイテムを持ち帰る量にも限界がある。
そして重い荷物を担いでの戦闘は厳しいのでもっと人員を増やすかポーターが必要なんだ。
「あそこにレギルンが二体いるよ」
考えごとをしていても周囲の警戒は怠らない。
考えごとよりも周囲の警戒の方が大事なのは分かっているつもりだから。
「使徒様はあんなに遠くの魔物を見つけるなんて凄いですね」
距離は100mくらいかな?
「目で見るよりも気配を感じるんだ」
僕はユニクス様の加護の暗黒闘衣を薄く延ばして周囲に放出している。
その範囲が僕を中心にした半径100mくらいなんだけど、その範囲に魔物が入ったら分かるんだ。
堕天神の使徒を倒して暗黒闘衣のレベルが2に上がったからできるようになったんだ。
「気配を感じるのですか? おいらには無理そうです……」
「まぁ、索敵は僕に任せてよ。ペルトにはペルトにしかできないことがあるからね」
「おいらにしかできないこと……」
「そうだよ、どんな攻撃を受けても決して倒れない盾職がいたら僕にとってこれほど頼もしいことはないからね」
「どんな攻撃を受けても……はいです! おいら、絶対に倒れません!」
ペルトは本当に素直でいい子だ。
って、僕より年上なんだけど、なんだか弟みたいなんだよね。
「よし、あの二体を倒したら帰ろう!」
「はい!」
僕たちは二体のレギルンが待っている(そんなわけない)場所に向けて走り出した。
ペルトが走ると鎧がガシャガシャいってうるさいので、ある程度近づいたらレギルンに気づかれた。
でもペルトはお構いなしに走り続ける。
「僕は右に行くね」
「はい! おいらは突撃します!」
僕たちは分かれて進む。
そして僕は暗黒闘衣を全身に纏って気配を消す。
僕の姿が見えなくなったせいか、レギルンは少し慌てた様子を見せる。
「こい! 暗包敵意!」
10mほどに近づいたところでペルトが暗包敵意を発動させる。
するとレギルンは僕のことなんて忘れたようにペルトに攻撃を開始した。
二体のレギルンが棍棒でペルトを殴りつけると、ペルトは器用に盾で二本の棍棒を受ける。
相変わらずよい音がする。
僕はペルトにだけ気がいっているレギルンの後ろに立ち、双短剣の連撃を一体のレギルンの背中に向けて放った。
「グギャァァッ!」
僕の攻撃を受けたレギルンが血を吹き出し棍棒を落としてその場に倒れた。
その様子を横で見たレギルンは一瞬固まってしまったので、その隙をペルトが見逃さずに鉄槌を肩口に叩き込んだ。
「グギャァァッ!」
再びあがるレギルンの悲鳴。
二体目は苦悶の表情でペルトを攻撃しようとしたが、僕がレギルンの首を切りつけたので、そこで力尽きた。
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