クランを追い出されたのでクランを作って最強になる
007
「僕はゼクス。ユニクス様の使徒をさせてもらっているんだ。よろしくね」
「あ、はい。おいらはペルトです。よろしくお願いいたします。使徒様」
「使徒様なんて大げさな呼ばれ方は僕の柄じゃないよ。ゼクスって呼んでよ」
「そ、そんな、使徒様を名前で呼ぶなんて!?」
ブリーイッド様は呼んでいるよね? 親密度が足りないのかな?
見た目は12歳ほどで幼く見えるが、実は僕よりも年上の16歳のペルト。
彼はドワーフとヒューマンの混血のハーフドワーフだと自己紹介をする。
「ペルト、そんなに緊張しなくてもゼクスは取って食ったりしないから~」
ユニクス様が面白半分にちゃちゃを入れる。
「は、はい。暗黒神様!」
大神であるユニクス様とその使徒である僕が揃っていて、そこにブリーイッド様までいるのだから緊張しているようだ。
「ペルトの装備は僕が創るから。神器は無理でもできる限りの物を用意するよ!」
「え? えぇぇぇぇっ!? ブリーイッド様がおいらの装備を!?」
ペルトは驚きのあまりその場で気絶して倒れた。
「あ、ペルト!?」
僕は駆け寄りペルトを助け起こす。
「「……」」
二柱の神はそんなに驚かなくてもと向かい合って頬をかく。
ペルトが起きるとうるさいからと、ブリーイッド様がペルト用の鎧と盾、そしてドワーフの武器の代名詞でもある鉄槌を創り出す。
その光景を見ていた僕は、さすが上級鍛冶神のブリーイッド様だと舌を巻く。
「僕はこれで天上界へ帰ります。ユニクス様、ペルトをよろしくお願いいたします」
「うむ、任されたぞ」
「ゼクスもペルトを頼むね」
「はい、できる限りのことはさせて頂きます」
ユニクス様と僕に丁寧にペルトのことを頼んで、ブリーイッド様は天上界へ帰っていった。
残されたのはペルトと漆黒の装備。
気がついたペルトがその漆黒の装備を見て二度目の気絶をしたのは言うまでもないだろう。
「本当においらの……」
翌朝、起きたペルトは自分用の漆黒装備を大事に抱えると磨きだした。
上級鍛冶神のブリーイッドが創り出した装備だけあって、どれも素晴らしいものだと僕にも分かる。
装備を磨いているペルトの顔がにやけている。
「ペルト、朝ご飯を食べようか」
「あ、すみません! おいらが用意します!」
装備を大事に置くと、朝食を用意しようとしたが、既に朝食は僕が用意した後だ。
「す、すみません!」
ペルトは何度も頭を下げて僕に謝るが、僕はそんなことを気にしていない。
「早く座るのだ。スープが冷めるではないか!」
「あ、はい!」
見かねたユニクス様が椅子に座るように促す。
そして皆で朝食を摂る。
「美味しいです!」
「そうだろ! ゼクスの料理はとても美味しいのだ! ゼクスの料理の腕は一級品なのだ!」
「はい!」
そう言って頂けるのは嬉しいけど、お尻がむずかゆいよ。
あっという間に朝食を食べつくしたユニクス様とペルト。
質素な朝食だったけど、二人は美味しいと言ってすぐになくなってしまった。
「じゃぁ、今日は僕とペルトの能力を確認する感じでいこうか」
「はい!」
僕とペルトはボロ家を出てソロモンの天支塔へ向かった。
僕の躰は元通りになっていて、顔の傷も痕はのこっていなかった。
ユニクス様は若いからと言っていたけど、若いからってあれだけ大きな傷が完全に痕もなく治るのはやっぱりユニクス様の加護のおかげだと思う。
ソロモンの天支塔の入り口は相変わらず人が多い。
「ほ、本当にソロモンの天支塔に入るんだ……」
ペルトも僕と同じように雑用係だったのでソロモンの天支塔に入るのはこれが初めてだった。
「僕もこれで三回目だから変わらないよ」
「そ、そ、そ、そんなことはありません! 使徒様は堕天神の使徒を倒したって聞きました! 凄いことです!」
「ちょ、声が大きいよ」
ペルトは初めてのソロモンの天支塔なのでテンションが異常に上がって声も大きくなった。
だからペルトの口を手で抑えた僕。
「あ? てめぇー、今なんって言った!?」
そう、こういうのが普通にあるのがウィラーの世界なんだよね。
ウィラーの多くは気性が荒い。これは戦闘を生業にしているので仕方がないけど、ちょっとしたことで喧嘩が起こるんだ。
ロッソムさんやフットさんのような温厚な人の方が珍しいんだ。
「あははは、何も言ってませんよ? ペルトが大声出してすみません」
いかつい顔で巨体のウィラーが絡んできたので僕は何も言っていないと誤魔化す。
ウィラーは戦闘をする人が多いのでどうしても体が大きくていかつい人が多いんだ。
「今、堕天神の使徒を倒したって言っただろ!? お前が倒したのか!?」
「ですから、そんなこと言ってませんよ。天ぷらを塩で食べたら美味しいって話してたんですよ」
「む? そうなのか?」
いかついウィラーはとても無理がある言い訳を真に受けてくれたようで、少し気まずい表情になった。
「あなたも天ぷらは塩ですよね? まさか天つゆですか?」
「お、おう、俺も塩が……いい……かな……?」
なんとか誤魔化せたようだ。
いかついウィラーが気まずそうに「悪かったな」と言いながら離れていった。
口に手を当てられてもがくペルトがなんだか苦しそうだ……あ、口と一緒に鼻も抑えていた……ごめん。
「ぜぇ、はぁ、し、死ぬかと思った……」
ペルトは新鮮な空気を肺一杯に満たすように大きく息をする。
「いいかい、ウィラーは血の気が多い人が多いから、刺激するようなことを大きな声で言わないようにね」
「すみません……」
ペルトがしゅんとするので、話を変えよう。
「さぁ、ソロモンの天支塔に入ろう!」
「は、はい!」
目をキラキラさせたペルトは金属鎧と自分の躰がすっぽりと隠れそうな盾を持ってとても動きづらそうに見える。
しかも僕ではとても片手では持てないような鉄槌まで背負っているから、凄いと思う。
「その鎧って重くない?」
気になったので正直に聞いてみた。
「全然重くないです。ブリーイッド様の加護があるのか本当に重さを感じないのです」
これだけの装備を身に着けているのに重さを感じないって凄い。
僕たちはソロモンの天支塔に入った。
一層は相変わらず草原が広がっている。
どういう構造なのかさっぱり分からない。
神々が築いた塔だから僕のような凡夫には理解できないような造りなんだろうと思う。
「すっっっっっっごぉぉぉぉぉぉいっ!」
ペルトは塔の中なのに空があることや、塔の外周よりも広い草原が広がっていることに感動していた。
その気持ちは僕も痛いほど分かるよ。
僕自身、つい最近同じような感動を味わったからね。
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