クランを追い出されたのでクランを作って最強になる

なんじゃもんじゃ

003

 


 僕の朝は早い。
 暗黒神ユニクス様の使徒なのでいずれは夜の活動の方が多くなると思うけど、今は明るい時間帯での活動がメインだ。


「行ってきます!」
「ガンバってくるのだ~」
 ユニクス様に挨拶をしてソロモンの天支塔に向かう。
 今日もいい天気だし、ガンバって魔物を倒そうと思う。


 道々で会った人々と軽く挨拶をしてソロモンの天支塔へ向かう。
 昨夜は初めてのソロモンの天支塔探索をして寝付けなかったので消費した薬品の補充をして眠くなるまで過ごした。
 だから少し睡眠不足だけど、ソッポムガーデンに所属していた頃よりは睡眠時間がとれている。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゼクスが意気揚々とソロモンの天支塔を目指している頃、ゼクスが以前に所属していたソッポムガーデンではひと騒動起きていた。


「はぁ? 傷薬がないだと?」
「あれはゼクスが作っていたからな、ゼクスを追い出してしまった以上、買わなければならないが、ガランは薬用の金を用意してないだろ?」
 使徒ガランがゼクスを追い出したから薬品のストックがなくなってしまい、その補充をしたくても薬品購入用の資金を用意していないので在庫がゼロになってしまった。
 ガランは役立たずだと思っていたようだが、他の者からすればゼクスほど使える奴は滅多にいないという認識なのだ。


「金をくれ。そうすれば薬品を買ってくる。それだけじゃないぞ、食費も今の倍は用意してくれよ」
「倍だと!?」
「ゼクスが台所を任される前の食費に戻るだけだろ?」
 ゼクスは倹約家だったし、創意工夫で美味しい料理を作っていた。
 だから食費が削られてもなんとかやり繰りしていたが、他の者ではそうはいかない。


「ゼクスに頭を下げて戻ってきてもらえよ」
「ゼクスは使える奴なんだから、なんで追放なんてしたんだ?」
 クラン員はゼクスを追放したガランの行動が理解できなかった。
 ソロモンの天支塔に連れて行っていないので戦闘で役に立つかは分からないが、クランの縁の下の力持ちであったのは間違いない。
 クラン員に言われるまでガランはゼクスを役立たずだと決めつけていただけに「ぐぬぬ……」と唸るしかできなかった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 僕は今日も元気いっぱいでソロモンの天支塔にやってきた。
 入り口前では高ランククランの『ウィラーズウォー』が大規模討伐に向かうためにクラン員が終結していて非常にごった返していた。
「うわ~、ウィラーズウォーだ。あ、アーマーさんだ。すっげ~」
 戦神様の使徒であるアーマー様は白銀の金属鎧を着ていて、非常に目立つ。
 熊の獣人としては小柄だけど、ヒューマンでも小柄な方の僕よりははるかに大きな躰がとても逞しく思えたし、羨ましくもあった。
 アーマーさんには他の人にはない圧倒的な存在感を感じるのは僕だけじゃないと思う。


「よう、ゼクス。しばらく見なかったが、生きてたか」
 朝の日差しに輝く金髪をたなびかせて僕に声をかけてきたイケメンさん。
 このイケメンさんの背中には存在感のある巨大な剣がある。
「ロッソムさん。おはようございます」
 巨大な剣を背中に担いだロッソムさんは高ランククランの『ウィラーズウォー』の上級志長だ。
 クランには役職があって、使徒はクラン代表、その下に上級志長、さらにその下に志長、そして平のクラン員がいる。
 上級志長は使徒に次ぐ地位でクランの主要幹部なのだ。


「お前、使徒になったって聞いたが本当か?」
 にこやかな感じだけど、鋭い眼差しを向けられた僕は少し怯む。
 使徒になるというのはそれほどに凄いことで、使徒になりたいと思っている人はこのソロモンの街に腐るほどいるのだ。
「はい、ご縁がありまして暗黒神ユニクス様と契約させて頂きました」
「く~、お前も上手くやったな!」
 ロッソムはゼクスの背中をバンバンと叩き羨ましそうだ。


「しかも大神の暗黒神様と契約か~」
 神にも位階があり、ユニクス様は大神と言われる最上位の神だ。
 大神の下には上級神、中級神、下級神があり、数多くの神が存在する。
 当然のことだけど、下級神よりも中級神、中級神よりも上級神、上級神よりも大神の方が使徒に与える加護の力が強い。


「しかし暗黒神様かよ~。大丈夫なのか? 変わり者って噂だぞ?」
 大神であればクランを持っているのが普通だけど、ユニクス様は十数年クランを持っていなかった。
 僕は使徒になってユニクス様と生活を共にするようになったことで、その理由を知ることになったけど、知らない人からしたら心配でならないのだろう。


「大丈夫ですよ。少し人見知りなだけですから……」
 ユニクス様は簡単に言うと引き籠りなのだ。
 人見知りが激しく神との会合にも滅多に顔を出さない。
 この数千年で神を含めた人の前に顔を出したのは片手で数えられるほどらしい。
 通常の神は信仰を集めることで力を維持したり貯めるけど、暗黒神であるユニクス様は夜の神でもあるので、人々が暗黒の夜に恐怖することで力を得る。
 だから人々の前に顔を出して信者を集める必要はないのだ。
 そういった特殊性がありユニクスは引き籠り神生を送っていた。
 それが何を思ったのか僕を使徒にするという他の神から見たな「何があったんだ?」的なことになっているらしい。


「ロッソムさん! そろそろ行きますよ!」
 どこからか声がかかる。
 これからソロモンの天支塔に入るウィラーズウォーの上級志長であるロッソムさんがいないと話にならない。


「ゼクス。無理はするなよ。何かあれば俺のところにこい。力になれることならなってやる。それと地下三層辺りにハグレが出ていてかなりの被害が出ているらしい。地下三層に行くときは気をつけろよ」
 ハグレとは他の個体よりも明らかに強い個体のことをそう呼ぶ。
 ハグレは滅多に現れないけど、そのハグレが地下三層に出没しているという噂が効けただけでゼクスとしてはありがたかった。


「はい! ありがとうございます!」
 ロッソムさんは手をひらひらとさせて僕から離れていく。
 ロッソムさんが合流したことでウィラーズウォーはソロモンの天支塔に入っていく。


 最高ランクのクランランク10のウィラーズウォーに所属するウィラーは200人を超えている。
 その半数以上の100人規模の討伐隊がソロモンの天支塔に入ってく様子はなかなか壮観だ。
「ナイトユニクスもいつかあんなクランになれたらいいな~」


 僕の夢はじいちゃんが叶えられなかった最高のウィラーになることだ。
 じいちゃんに育てられた僕は幼い時から子守歌代わりに聞かされていたソロモンの天支塔の話を今でも思い出す。
「いいか、ゼクス。最高のウィラーってのはな、誰からも頼られ誰からも尊敬されるだけじゃなくて、魔物から人間を守るために戦い抜くおとこのことを言うんだ! いつかゼクスが最高のウィラーになることをじいちゃんは信じているぞ」
 ウィラーには女性も多くいるけど、『漢』とは性別ではなく、その人物の気概だとじいちゃんは言っていた。
 そんなじいちゃんが他界したことをきっかけに、僕は田舎からこのソロモンの街へやってきたんだ。


 懐かしい記憶を思い起こしていたらソロモンの天支塔の入り口も空いてきたので入ろうと歩き出したら僕の前に大きな影が現れる。
「てめぇ、ゼクスじゃねぇか!?」
 その陰の主は僕をボコボコにしてクランを追い出したガランだった。
 このガランによって全財産をなくした僕としてはよい感情はない。


「おはようございます」
 一応は自分よりもランクの高いクランの代表なので最低限の挨拶をする。
「てめぇ、こんなところで何をしてるんだ!?」
 威圧的に喋りかけてくるのは僕がクラン員だった時と変わらない。
 もうガランの部下でもなんでもないのに困ったものだ。
「僕もソロモンの天支塔に入ろうと思いまして」
「はん! てめぇのような軟弱者を入れてくれるクランなんてねぇぞ!」
 ガランは僕が使徒になったのをまだ知らないようだ。
 まぁ、そんなに有名になるほど何かをしたわけでもないから仕方ないね。
 だから僕がどこかのクランに入れてもらうためにソロモンの天支塔の前で売り込みをしているのだと思っているようだ。


「ガラン、お前、知らねえのか? ゼクスは今じゃ使徒様なんだぜ」
 ソッポムガーデンの上級志長であるフットさんが呆れたように言う。
 エルフであるフットさんは美形で腰には細いレイピアのような剣を携えている。


「な、な、な、なんだとっ!?」
 驚きのあまりに声が裏返ったガラン。
「まったく、お前は……情報が遅いんだよ!」
 驚きのあまり、固まって動かないガラン。
 それを見たフットさんがしばらく戻ってこないだろうからと、僕に「こいつは放っておいていいから、行っていいぞ」と言ってくれた。


「フットさん、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げてソロモンの天支塔の入り口に向かって走っていく。
 ソッポムガーデンにもいい人はいるんだ。
 ガランがちょっとあれなだけなんだ。


「まさかあのゼクスが使徒様か……まったくこいつは将来有望の新人を……」
 僕を見送り未だ固まっているガランに目を移したフットさんがため息をつき眉間を揉みほぐしていた。


 

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