カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】

なんじゃもんじゃ

018 悪意の結果

 


 見る見るうちにゴブリンがサンドスコルピオによって倒されていく。
 こんなことは予想外であった。
 ボス部屋の封印が解除されるまでの時間とゴブリンたちが全滅する時間を比べたら後者の方が早いだろう。


「ダーク、ミドリ、サンドスコルピオを抑え込め!」
 将磨の指示でダークとミドリも戦線に加わる。


「マスター、我が行く」
「テンはだめだ」
 テンは最後の砦。今は投入する時期ではないと将磨は判断した。
 そしてゴブリンが次から次に倒れていく。
 そしてついにゴブリンたちが倒され、ダークとミドリが奮戦している。
「あと三分……」


 しかし奮戦していたダークとミドリがとうとう倒れた。
 サンドスコルピオはハサミを鳴らし将磨たちの方に近付いてくる。
「影丸、拘束だ!」
「御意!」
 サンドスコルピオを影が絡み取る。
 問題は時間だ。まだ二分もある。
 今のままでは将磨たちが撤退するまでに一分はサンドスコルピオが自由に動ける時間があるのだ。


 倒れたゴブリンたちの代わりに他のゴブリンを召喚できれば良いが、既に十体を召喚している。
 戦闘中に召喚した魔物が死亡しても戦闘が終わるまで十一体目の魔物を召喚できない。
 今ほどその制限が恨めしく思ったことはない。


 チラリとテンを見る。
 最悪の場合、テンを犠牲にして撤退をすることも視野に入れないといけない。
 話せるテンとは影丸よりも長い付き合いだから愛着も強いが、霧子と美月を逃がす為にはと考える将磨。
 そんな将磨の視線を受けテンはコクリと頷くのだった。
「っ!……そうか!」
 将磨は背負っていたバックパックを下ろしてゴソゴソと何かを探す。
「神立君、どうしたの?」
 霧子が気になって将磨を覗き込む。


「あった!」
 将磨が手に持っていたのは剛腕の腕輪のカード。
「それは剛腕の腕輪のカード?」
「これをテンに使う!百瀬さんには悪いけど、今は可能性にかけるしかないんだ!」
「私もいいと思う!」
「#”%’&$”」
 美月は何を言っているか分からないが、何故だか肯定しているように聞こえた。


「テン、俺たちの命をお前に預ける!」
「任された!」
 将磨はテンに向けて剛腕の腕輪のカードを掲げる。
 いつものようにカードが光り、その光がテンの腕に纏わりつくとテンの体が眩しく発光する。
「グォォォォォォォッ!」
 テンが雄たけびをあげる。
 更に光が増す。


「……」
 光が収まるとそこにはテンがいた。
 右腕には腕輪が嵌められているが、その容姿はテンである。
 身長や顔、それに体つきに変わりはない。
 唯一変わったのは髪の毛が金髪から赤髪に変わったことだろう。


「テン……なのか?」
「我はテン。ゴブリンデストロイのテン!」
「「ゴブリンデストロイ……?」」
 将磨と霧子が顔を見合わせる。


「何だか凄そうだね」
「ああ、期待していいかな……」
「マスター、命令を」
「うん、サンドスコルピオを倒してこい!」
「承知!」
 矢のように飛び出していったテンが雄たけびをあげる。
「おおおおぉぉぉぉっ!」


 ゴバーンッ。
 テンが勢いのまま繰り出した拳がサンドスコルピオを吹き飛ばす。
 サンドスコルピオを拘束していた影が引きちぎられるほどのパワーだ。
 しかもあれほど硬かったサンドスコルピオの甲殻に穴があいているのが見てとれた。


「いける!」
「凄い!」
 将磨と霧子は歓喜して手を取り合い喜んだ。


 喜ぶ将磨と霧子だったが、サンドスコルピオも伊達にランクEの魔物ではない。
 自慢の甲殻に穴を開けられたが、それでもまだ最大の武器である毒針は健在だし、ハサミも無事だ。
 サンドスコルピオは八本の足を高速で動かしテンに向かっていく。


 ハサミを突き出すとテンは半歩ずれて避ける。
 そこに更にハサミを突き出すと後方に半歩引き避ける。
 テンはサンドスコルピオのハサミ攻撃を見切っているようだ。
 ハサミを交互に繰り出しテンに反撃をさせまいとするサンドスコルピオだったがテンの回避能力はその上をいく。
 業を煮やしたサンドスコルピオは毒針も攻撃に加え三つの攻撃を高速で繰り出す。
 しかしテンはそれをも回避する。


「我はテン!偉大なるマスターの眷属だ!」
 テンはサンドスコルピオの攻撃を見切りカウンターでハサミを打ち砕く。
 サンドスコルピオが後ずさる。
 その隙を見逃さないテンはもう一本のハサミを蹴り飛ばし粉砕する。


「圧倒的じゃないか、俺のテンは!」
「本当に凄いね!」
 テンの活躍を見てテンションを上げる将磨。
 そんな将磨と一緒に喜ぶ霧子。
 二人は手をつないだままの状態である。
 そしてその光景は痺れて動けない美月にしっかりと見られていた。
 二人が我に返った時が楽しみだ。


「はぁぁぁっ!」
 テンがサンドスコルピオとの間合いを一気に詰める。
 サンドスコルピオもそれを待っていたかのように毒針を突き出す。
「ま、拙い!」
「テン!」
 将磨と霧子が毒針に刺さるテンを見た。
 しかし動かなくなったのはサンドスコルピオの方だった。
 テンに頭部を破壊され完全に動かなくなったのだ。
 しかもテンには傷一つない。
 どうやら将磨と霧子が見たのはテンの残像だったようだ。


「あの剛腕の腕輪のカードでここまでテンがパワーアップするとは思わなかったよ……」
「予想のはるか上をいっているよ」
 戦いが終わったボス部屋の中で将磨と霧子は抱き合いながら感想を述べていた。
 そして冷静になった二人は自分たちが抱き合っていることに気が付く。
「「っ!?」」
 バッと離れてわけの分からない言い訳をし合う二人を麻痺して動けない美月が見守る。


 八層のボス部屋での戦いは激戦だった。
 美月は麻痺毒に侵され動けなくなり、六体いたゴブリン系の眷属全滅、ミドリとダークも倒された。
 もしテンがゴブリンデストロイに進化しなかったら将磨も生きていなかったかもしれない。


 美月が麻痺して動けないため、落ちているカードを拾ってすぐにしまうと転移の渦で入り口近くへ帰った将磨たち。
 そして〖探索者支援庁〗に入るとすぐに麻痺毒を消すポーションを購入して美月に飲ませる。


 ポーションを飲ませても麻痺がすぐに回復するわけではない。
 二十分ほど美月は救護室のベッドで横になった。
 流石に女の子が横になっているベッドの傍で見守るのはと将磨はこの救護室にはいない。
「ふっか~っつ!」
「もう美月ったら、本当に大丈夫なの?」
「へ~きだよ~、このとお~り~」
 ぴょんぴょんと跳ねて見せる美月に霧子はひと安心する。


「それよりも~、むふふふ~」
「な、何よ、気持ち悪い笑い方して……?」
 美月は手をワキワキさせて霧子に迫る。
「両手を繋いで喜びあってたよね~」
「っ!?」
「それに~、やったね、神立君!と言って抱き着いていたよね~?」
「っっ!?」
 美月はテンとサンドスコルピオの戦いよりも将磨と霧子の挙動を見ていたのだ。
 実を言うと、体を動かせなかったので偶々二人の方に顔が向いていただけなのだが、そのことは言わない。


 その頃、将磨は〖探索者支援庁〗から貸してもらった部屋でボス部屋で得たカードを確認していた。
「……」




 @ゴブリンの黒装束
 説明:ゴブリンシーフに与えるとゴブリンアサシンにランクアップする。
 レアリティ:★★★
 残数:一


 @ゴブリンの魔法書
 説明:ゴブリンメイジに与えるとゴブリンハイメイジにランクアップする。
 レアリティ:★★★
 残数:一


 @ゴブリンの鎧
 説明:ゴブリンソルジャーに与えるとゴブリンナイトにランクアップする。
 レアリティ:★★★
 残数:一




 更なる上位種にランクアップができるカードが三枚もドロップしたことは非常に喜ばしいことだ。
 しかしもう一枚、将磨の手の中には初めてみるカードが握られている。
「……これはサンドスコルピオからのドロップだよな……」
 ため息を吐き頭を抱える。
「また林原さんに胡乱な視線を向けられてしまうな……」
 そこに扉をノックする音がしたのでカードをしまい入室を許可する。


「やっほ~将磨っち~」
「百瀬さん、もういいの?」
「全然へいきだよ~」
 百瀬は霧子にやって見せたようにぴょんぴょん跳ねる。


「神立君、遅くなっちゃってごめんね」
「別に構わないよ。こっちこそ八幡さんに看病を押し付けてしまってごめんね」
「ううん、そんなことないよ」
 二人がお互いに気にしあっていると美月がヒューと口笛を吹く。
「なんだかここは暑いね~」
「なっ!?み、美月!」
「あははは、冗談、じょうだん~」
 将磨は頭の上に「???」と浮かべている。
 鈍感将磨炸裂であ。


 またドアがノックされる。
 三人は佇まいを正してノックの主を迎え入れる。
 入ってきたのは木崎と林原だ。
「三人とも無事でなによりだったよ。悪いけど話をきかせてもらえるかな?」
 木崎は美月の状態を聞いていたようで、開口一番そういう。
 五人が会い向かいに座り将磨が説明をする。


「何とまぁ~サンドスコルピオが出たのか……」
「よく倒せましたね……」
 木崎と林原はランクEの魔物であるサンドスコルピオが出てきたことにも驚いたが、それを倒してしまった将磨たちにも驚いた。
「テンが進化したから助かりましたけど、結構ヤバかったです」
 その将磨の言葉に木崎の目が光った。
 そして林原が胡乱な目になる。


「それはどういうことかな?」
「えーっと、テンでもサンドスコルピオにダメージを与えるのが難しかったので、剛腕の腕輪のカードをテンに使いました」
「ほう、それでテンが進化したというのだね?」
 将磨はテンのカードを二人に見せる。




 @ゴブリンデストロイ
 説明:ゴブリンの異形特殊個体。
 レアリティ:不明
 残数:∞




「ゴブリンデストロイ!?」
「異形特殊個体!?」
 木崎と林原の驚きようはすさまじかった。
 暫く二人であーでもない、こーでもない、と話をしてぐったりした表情をみせる。


「このゴブリンデストロイに進化したらサンドスコルピオ倒せたのだね?」
「はい、圧倒的でした」
 木崎はここで息を吐いた。
「しかしあの剛腕の腕輪のカードを取っておいて良かったね。あれがなければ厳しかったのだよね?」
「はい、すごくヤバかったと思います」
 売れば数千万円どころか億を超えてもおかしくないカードだったが、それが将磨たちの命を救ったのであれば安いものだろう。


「それと、これを……」
「ん?他にも何かあるのかね?」
 将磨はゴブリンの黒装束、ゴブリンの魔法書、ゴブリンの鎧のカードを見せる。
「……なるほど、ゴブリンが更なる上位種にランクアップするのか」
 木崎はゴブリンがゴブリンソルジャーなどの上位種にランクアップした実績があるから不思議ではないと思う。
「何だか神立様に驚かされ続けて疲れてしまいました」
 林原の言葉に俺のせいじゃないと思う将磨。


「何はともあれ、今日は疲れただろう。帰って休むといい」
 木崎があまり長く引き留めてもと思い将磨たちに配慮する。
 しかし将磨の爆弾はまだあるのだ。
「あの、これも……」
「ん?まだあるのかな?」
 誰もが将磨の差し出したカードに視線を向ける。
「「「「っ!?」」」」




 @毒魔法のスキルスクロール
 説明:使用者に毒魔法を付与する。
 レアリティ:★★★★
 残数:一




「あははは……こんなんも出てしまいました……」
 笑って誤魔化そうとした将磨だったが、これには霧子まで突っ込みを入れてくる始末である。


 

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