カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
017 八層の悪意
七層の探索を終えた将磨たちは〖探索者支援庁〗で林原と対面する。
そこに木崎も現れ二対三で向き合う。
「それでは、七層ではゴブリンメイジが現れ、更にはボスを倒して現れた木の宝箱からはこのカードが出たんだね?」
木の宝箱を将磨が開けたせいか中にはカードが入っていたのだ。
まさか宝箱にも将磨のスキルが適用されるとは思っていなかった。
それはここに顔を揃えた五人全員がそう思っていた。
「その通りです」
「毎回のことだが、神立君がいるとボスが増えるんだね?」
この木崎の言葉に将磨はただ苦笑いを返すしかない。
「そんな言い方はないと思います!神立君の責任ではないのですから!」
「すまないね。悪気があって言ったわけじゃないんだ」
霧子が目くじらを立てて将磨を庇うが、木崎も悪意を持ってのことではないのはこの場の皆が分かっている。
「あ、いえ、私もすみません」
「それはそうと、このカードをどうするかだね」
机の上に置かれ、木崎が指さしたカードをどうするか。
@剛腕の腕輪
説明:腕輪を嵌めると腕力が大幅に上昇する。また腕力の成長力も上がる。
レアリティ:★★★★
残数:一
初めて見る★★★★のカード。
宝箱から得られるカードのレアリティが高く設定されているのか、それともレアリティが高すぎてドロップ率が極端に低く偶々宝箱で出てきたのか、判断に迷うところである。
カードには腕輪を嵌めた腕が描かれており、筋肉質の上腕二頭筋を強調している。
そしてカードに限らずこれまでこういった効果があるアイテムやスキルが発見されたことはない。
前衛系が使えば明らかに戦力アップが図れるだろう。
このカードにいったいどれだけの価値が付くのか分からない。
「これは百瀬さんに使ってもらおうと思います」
「え?私!?」
将磨の言葉に美月も驚いたが、霧子、木崎、林原の三人も驚いた。
もしこれを売れば数千万円、下手をすれば数億円の値が付くだろう。
皆はそう考えていたのだ。
それを将磨は美月に使わせるという。
確かに戦力は強化されるが、金持ちになるチャンスでもある。
「お金はこれから稼げばよいけど、このカードはこれを逃したらもう二度と出ないかもしれないから」
四人が将磨の顔を見る。
四人ともが将磨がいたらまた同じようなカードが出ると何となく思ってしまったのは言うまでもない。
そんな四人の考えなど知らない将磨は美月の強化について強く主張する。
「美月よりも神立君に使った方が?」
「俺はダメだよ。腕力を強化しても元が低いから。大幅に上昇ってのがどの程度か分からないけど俺よりは百瀬さんの方がいいと思うんだ。それに成長だって俺ではそれほど上がるとは思えないよ」
実際に腕力を数値化できるわけではない。
しかし将磨の言うことは四人にも理解ができた。
十に五十を足した六十になるか、百に五十を足した百五十になるかを考えれば後者の方が戦力になるのだ。
「それならテンに使ってみたらどうだい?」
木崎の提案は将磨も考えなかったわけではない。
では、何故テンではなく美月を選んだのか?
それはテンが成長するか分からなかったからだ。
美月であれば経験を積み、ダンジョンの奥へ行くにつれて能力も成長するだろうが、テンに関しては成長があるのかさえ判断できなかった。
更に霧子についても考えた。
弓を使う霧子にも腕力は必要だ。
しかし中堅探索者が使うような弓を霧子は難なく扱っている。
それを考えると霧子の腕力を上昇させるよりも美月の方が戦力アップにつながるだろうと考えたのだ。
「今すぐ決断することではないのだから、もう少し考えてから判断したらどうだろうか?」
この木崎の提案でひとまずこの話は保留になった。
翌日の日曜日、八層に入った将磨たち三人。
ゴブリンシーフのゴブフォーと霧子を先頭に進む。
最早見慣れた草原と森のフィールドで、出てくるのはゴブリンの上位種とイビルキャット、キラーバイパーといったランクGの魔物が多い。
そしてここでテンが倒したキラーバイパーから待望のランクアップカードがドロップした。
@キラーバイパーの牙
説明:キラーバイパーに使うとエヴィルバイパーにランクアップする。
レアリティ:★★★
残数:一
出てくる魔物が同じランクGばかりなのでパワー不足を感じていた将磨にとってはランクFのエヴィルバイパーを手に入れることができるのは嬉しいことだった。
「ミドリをランクアップさせるね」
「「うん!」」
最近、登場回数が減ったミドリにキラーバイパーの牙を使うといつものように発光してミドリの姿が大きくなっていく。
「ほえ~、これがミドリなの?随分と変わったね」
「胴体の太さが倍くらいになっているし体長も十メートルを超えているよね?」
ミドリは相変わらず緑系の色をしているが、所々に茶色の斑点があるのとランクアップ前に比べると圧倒的にデカくなっている。
進化したミドリは戦闘で活躍を見せる。
そして蛇だけあって熱感知系の能力に長けているのではと索敵をさせてみたところ、将磨の考えは外れてしまい、あまり索敵能力は高くなかった。
「まぁ~そういうこともあるさね」
当てが外れて落ち込む将磨を美月が慰める。
「その分、ゴブリンアーチャーやシーフが索敵や罠発見で活躍しているじゃないですか!」
霧子も将磨を励ます。
二人の温かい声で気持ちを切り替えた将磨であった。
順調に八層を攻略しボス部屋の前に到着した将磨たちは小休憩をとり準備する。
「ボス部屋はゴブリンシーフ一体、ゴブリンアーチャー二体、ゴブリンテイマー二体、イビルキャット四体、グリーンバイパー十体。七層との違いはゴブリンシーフが増えているところだね」
小さめのおにぎりを食べながら霧子と美月にボス部屋の陣容を説明する。
「そこに何が追加されるかだよね~」
「ちょっと美月!」
「あははは、いいよ。多分予定外の魔物はいると思うし……」
「何、落ち込んでいるのよ!出てきた奴は潰せばいいんだからさ!」
暗い目をする将磨の背中をバンバン叩き励ます美月だったが、その原因を作ったのは美月である。
「さて、行くかね~」
「うん、頑張ろうね」
「安全第一で!」
美月が先頭になり霧子、将磨が続く。
そして将磨の召喚した眷属たち。
テン:ゴブリンデストロイ(?)
影丸:ゴブリンシャドー(?)
ゴブワン:ゴブリンソルジャー(G)
ゴブツー:ゴブリンソルジャー(G)
ゴブスリー:ゴブリンアーチャー(G)
ゴブフォー:ゴブリンシーフ(G)
ゴブゴ:ゴブリンシーフ(G)
ゴブロク:ゴブリンメイジ(G)
ミドリ:エヴィルバイパー(F)
ダーク:ビックキラーキャット(F)
ボス部屋の中には情報通りの魔物と予想通り情報になかった魔物がいた。
情報にない魔物はゴブリンメイジとゴブリンソルジャーの二体だ。
そして〖名古屋第二 ダンジョン〗では見かけない魔物、サンドスコルピオだ。
「何あれ~?」
「サソリのようですが……大きいですね」
「サンドスコルピオだ……麻痺毒があったと思う……」
「うへぇ~毒か~初めてのタイプだねぇ~」
お茶らけている余裕はない。
サンドスコルピオはランクEの魔物なのだ。
将磨が五層のボス部屋で倒したスライムよりも上のランクである。
「参ったな、毒対策はしてないよ……」
この〖名古屋第二 ダンジョン〗で毒を使ってくる魔物はもっと下の層にしかでない。
そのため、毒を中和するポーションなどの用意をしていない将磨。
(どうする?撤退するにも暫くはボス部屋から出られない……)
将磨は迷った。ランクEの魔物との戦い、しかも毒を使う魔物との戦いはリスクが大きすぎる。
「何迷っているのよ!ボス部屋からは出られないんだから、やるしかないんだよ!」
バンと美月に背中を叩かれ我を取り戻す将磨。
「神立君、指示をお願い!」
「……わかった!テンがゴブリンとミドリとダークたちを連れて雑魚をせん滅してくれ!」
「承知」
テンが首を僅かに動かす。魔物たちから目を離さないため、僅かな動きに留めているのだ。
「百瀬さんはサンドスコルピオを、尻尾に毒があるから攻撃はせずに防御に徹して!」
「おっけ~」
元気いっぱい返事をする美月。
「八幡さんは雑魚の掃討を!」
「はい!」
将磨は自分が戦力外なのを分かっている。
だから霧子の傍で指示することに徹するつもりだ。
「皆、行くよ!」
「ういっ!」
「はい!」
「参る!」
「戦闘、開始!」
将磨の声で美月とテンに率いられた眷属たちが飛び出していく。
霧子も弓に番えた矢を放ち先制攻撃をする。
厄介な飛び道具を使うゴブリンアーチャーの胸に矢が突き刺さりゴブリンアーチャーが倒れる。
ゴブリンアーチャー程度では霧子の矢を避けることはできないし、かなり高い確率で急所に命中させるだけの技量が霧子にはある。
「よし、テンはゴブリンメイジを、ダークはゴブリンシーフを!」
将磨の指示でテンが猛スピードでゴブリンメイジに迫る。
ゴブリンメイジはサンドスコルピオの手前、魔物たちの奥にいるのでテンは魔物の間をすり抜け直線的に進む。
ゴブリンメイジの詠唱が終わって魔法が放たれるのが先か、テンが攻撃するのが先か、微妙なタイミングだろう。
ガツンと何かを潰すような鈍い音がするとゴブリンメイジの頭部がグチャリと潰れ吹き飛ばされる。
テンのスピードが勝ったようだ。
ダークは将磨の指示を受けてゴブリンシーフに迫る。
こちらもテン同様に猛スピードだ。
そしてゴブリンシーフの横を黒い影が通り過ぎたと思ったらゴブリンシーフの首から血が噴き出す。
ゴブリンシーフはなす術もなく倒れる。
美月がサンドスコルピオの元に到着した。
薄い茶色の甲殻が硬そうだな、と印象を持つ。
次の瞬間、美月は盾を前に突き出すとガンと言う音と共に衝撃が手に伝わってきた。
「うひゃ~、やっぱ強そうだわ~」
今までにない衝撃の強さに気を引き締める美月。
剣はもっているが、将磨の指示通り防御に徹するようだ。
美月がサンドスコルピオと対峙している間に雑魚の掃討戦が急ピッチで行われていた。
霧子が三本の矢を一度に放つとスパッ、スパッ、スパッと魔物に突き刺さっていく。
威力は落ちるが、もともとがオーバーキルなので丁度良いダメージを三本の矢は魔物に与える。
五分もすると大量にいた雑魚魔物の殲滅は完了する。
しかし美月と対峙しているサンドスコルピオは健在で、美月も将磨の指示を忠実に守り防御に徹していた。
「美月、大丈夫!?」
「へーき、へーき!」
いつもの調子で返事をする美月だが、その手に持っている金属の盾は何度もサンドスコルピオの攻撃を防いだためかボコボコになっていた。
「八幡さん、サンドスコルピオに矢は通じるかな?」
サンドスコルピオの甲殻は見ただけで硬いと分かる。
「やってみるね」
矢を番えサンドスコルピオの胴体に向けて放つ。
矢は見事にサンドスコルピオに命中したが、甲殻に弾かれてしまった。
「ダメか……テン、甲殻を潰せるか?」
「承知!」
サンドスコルピオが美月に尻尾の攻撃をした瞬間、テンが加速し胴体を殴りつける。
ガンという大きな音が響き渡り、サンドスコルピオの体が僅かに浮いた。
しかし甲殻は健在であり、テンの拳を受けた部分は僅かに傷が付いている程度だった。
「うは~硬いなぁ~」
間近で見ていた美月の感想は至って簡単だったが、それが全てを物語る。
(拙いな、テンのパワーでもほとんどダメージを与えられないぞ……)
「ゴブロク、魔法で攻撃だ!」
将磨の指示で魔法の詠唱を始めるゴブロク。
その間もサンドスコルピオの美月への攻撃は止まない。
テンも攻撃をするが一向にダメージを与えられていない。
ゴブロクの詠唱が終わり魔法を放とうとするところで将磨は美月とテンに合図をする。
ゴーッと音を立てて火の球が飛んでいく。
その火の球をテンが体を僅かにずらして避けるとサンドスコルピオに命中する。
「……ダメか」
火の球が当たって火だるまになったサンドスコルピオだったが、すぐに火は消えてしまいサンドスコルピオは平然としている。
「硬すぎるわ、どうする?神立君」
(どうするって聞かれてもな……今のままならお互いに決め手に欠けるから撤退もできそうだけど……あと五分か……)
「影丸、あいつを拘束できる時間はどのくらいかな?」
「強い魔物でござれば、一分程かと」
「……再使用まで何分?」
「あれを一分拘束した後では五分ほどは使用できないかと……」
撤退を考えた将磨だったが、ここで一番拙いことが起こった。
「きゃっ!?」
美月がサンドスコルピオの毒針を受けてしまったようだ。
しかも悪いことに鎧の継ぎ目から針が入り美月に毒針が刺さってしまったのだ。
「拙いっ!?テン!百瀬さんを!?ゴブリンたち、全員でサンドスコルピオを抑えこめ!」
サンドスコルピオの麻痺毒は即効性の麻痺毒なので美月は体が痺れ動けなくなてしまった。
そんな美月の鎧を持って引きずってくるテン。
「美月!大丈夫!?」
「&#’&#”#!」
麻痺して口が上手く動かないようで美月が何を言っているか分からない。
ゴブリンたちはゴブワン、ゴブツーのソルジャーコンビが剣でサンドスコルピオの攻撃を躱しているがいつまでもつか分からない。
「……撤退できるまであと四分半、間に合うか?」
「撤退、するの?」
「できたら……だけど」
「そ、そうよね……」
将磨と霧子がサンドスコルピオと戦っているゴブリンたちを見る。
既にゴブワンは倒されており、今はゴブツーとゴブフォーがサンドスコルピオを抑え込んでいる。
しかしゴブツーも程なく倒されてしまう。
(間に合うのか……)
将磨の頬を大粒の汗が流れ落ちる。
最悪の場合は自分が体を張り霧子と美月を逃がそうと決心した瞬間だった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
52
-
-
221
-
-
353
-
-
4
-
-
75
-
-
337
-
-
1168
-
-
37
-
-
39
コメント