カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】

なんじゃもんじゃ

015 計画

 


 十月は高校三年生にとって非常に重要な時期だ。
 大学に進学する学生は私立大学、そして国公立大学の入試を控えている。
 それだけではなく、普通に高校の中間テストもある。
 今月初旬に行われた中間テストでは霧子が学年三位、将磨が上の下、美月が中の中、といった成績だった。


 霧子の成績は毎回片手で数える範囲から落ちたことはないし、将磨も学年順位はそれほど変動はない。
 しかし美月は部活を引退してから部活に注いでいた情熱を少し勉強の方に向けたことで順位が少し上昇している。


 将磨たちが通う学校は進学校で毎年東大や京大に何人もの合格者を出している。
 その為、成績上位の霧子が進学せずに探索者になるということが教師の間でも波紋を呼んでいた。


「本当に進学しないのか?」
「はい、卒業後は探索者として活動します」
「探索者がダメとは言わないが、大学を出てからでも遅くはないと思ぞ?」
 教師は進路指導という名目で霧子を説得する。
 それは霧子の将来のためを考えてのことなのか、学校の進学率や評判を気にしてなのか。
 いずれにしても東大合格ほぼ間違いなしと言われている霧子が進学しないのだから教師の中には良い顔をしない者もいた。


 一方、将磨の進路指導では探索者より進学をというような説得は一切なかった。
 成績的には何とか国公立大学かそこそこ有名な私立大学を狙えるレベルの将磨。
 過去の進路相談や進路指導時に探索者になると終始一貫していた将磨に対しては教師もあっさりとした対応である。


「そうか、探索者登録をしたのか。神立は以前からそう言っていたからな、死なないようにな」
 探索者は危険な職業だ。だから高校生が探索者登録することは学校としてもあまり良い顔をしない。
 それが最後の言葉に現れている。
 法律的に合法だし国の方針で高校生であっても探索者登録を妨げないようにとお達しがあるので際立った成績でない将磨は特に遺留されることもなかった。


 これが美月になると。
「私立大なら問題なく進学できるんだぞ、それでも探索者になるのか?」
「はい、探索者になります」
「ふ~む、分かった。しかし無理はするなよ?」
「はい」
 上辺だけは大学進学をと勧めるが、霧子のようには固執しない。
 それは美月の成績によるものなのは明らかだ。


「あ~疲れた~」
 美月がいつものファミレスの椅子に腰かけると背伸びをしてだらける。
 三人はいつものようにドリンクバーで好きなドリンクをグラスに注いで持ってきている。
 高校生の普通の風景だが、霧子の家は金持ちだし将磨も探索者として稼いでいるのだからケーキくらいは頼んでも良いだろう。
 それに美月だって意外と金持ちの娘なのだからドリンクバー以外にも頼んでも問題ないお小遣いをもらっている。


「お母さんは進学っていうの、でもお父さんは好きにして良いって」
「霧ちゃんのお母さんは教育ママだもんね~」
 霧子には二人の兄がいるが、共に東大へ進学している。
 長男は既に卒業してヤワタ生産所の東京本社で働いているし、次男も来春にはヤワタ生産所に就職することになっている。
 当然、霧子にも東大からヤワタ生産所、もしくは一流企業への就職を母親は希望しているのだ。


「それよりも福井の件、何とか説得しないと本当に私と将磨っちで行っちゃうよ?」
「う、うん。頑張ってみる……」
 進学の話を「それより」で切って捨てる美月はなかなかの勇者である。
 美月も霧子の母親の性格をある程度は知っているので難しいのは分かっているが、そちらの話も進めないといけない。


「木崎さんから福井の日程が送られてきたんだ」
 将磨は福井へ行けるか分からない霧子に申し訳なさそうにスマホのメールを転送する。
「何々、十二月二十八日に新幹線で福井入りね。二十九日と三十日はダンジョン探索、大晦日と元日、それと二日は休みで三日から六日まで探索をして七日に名古屋に帰って来るのね」
 北陸新幹線が全線開通したことにより福井へは米原経由で新幹線で行けるようになって久しい。
 開通当初はテレビでも頻繁に放送されていたが、最近はほとんど見なくなった。
 地域的に金沢と京都・大阪、もしくは名古屋への通過点という認識で話題性が乏しいのは仕方がないが、将磨たちにとっては今一番の話題だ。


「冬の福井か~、大晦日から二日までの三日間は自由行動だよね?冬の福井って何が見どころなんだろうね?」
 観光気分の美月は某旅行雑誌を購入しようと呑気に考えていた。
 そんな美月を羨ましそうに見つめる霧子と気楽なものだと微笑ましく思う将磨。


 ダンジョン探索には〖探索者支援庁〗からも人を出して将磨たちを支援するとある。
 ダンジョン内の道案内もしてくれるそうで、将磨たちは魔物との戦闘に注力すれば良い。
 恐らく初日(二十九日)で五層を踏破できるだろうから、二日目にはスライムが出る六層を探索できるだろうと書いてある。
 つまり、五日はスライム狩りの時間があるので、かなりの数を倒すことができるだろうとのことだ。
 因みに〖福井ダンジョン〗の低層に関しては虫や植物の魔物が多く配置されている。


「八幡さんは本当に無理しないでね。お母さんとの関係を大事にしてほしいな……」
「うん……」
 家族のいない将磨の言葉は霧子の心に響いたようで、神妙な顔をして返事をする。
 将磨にはそれ以外に声をかけることができなかった。
 霧子も福井遠征に同行できれば楽しいだろうし、何より心強いのにと思う。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ゴブリンシーフの罠発見精度確認から戻りました」
「ご苦労様。それでどうだった?」
「はい、探知範囲は狭いもののしっかりと罠を発見します。何と二十三層の罠も全て発見していますよ」
「それは凄いですね。ゴブリンシーフのカードがあれば罠で死傷するリスクをかなり抑えられることになりますね」
 報告しているのは以前将磨と同行した宇喜多だ。
 彼はゴブリンシーフの罠発見の能力を確認する為にダンジョンに入っていたのだ。
 そしてゴブリンシーフの罠発見能力が二十三層でも問題ないことを確認して帰ってきた。
 勿論、二十三層という深層に足を踏み入れるのに一人ではない。
 〖名古屋第二 ダンジョン〗を管理する〖探索者支援庁〗に所属する職員でありトップクラスの元探索者たちによる確認作業である。


「報告書は明日にでも提出します」
「分かりました。今日はしっかりと体を休めて下さい」
 宇喜多は木崎に一礼しその場を辞すと仲間たちが待っている職員食堂へ向かう。
「盗賊系のスキルを持っている探索者は少ないからこれで罠による死傷者が減るといいのだがな」
 歩きながらブツブツと呟く宇喜多。


 一方、宇喜多の後ろ姿を見送った木崎は作成途中であるゴブリンシーフ、そしてゴブリンアーチャーのカード販売に関する企画書を仕上げるためにキーボードをたたくのだった。
「ゴブリンシーフが三十万、ゴブリンアーチャーが二十五万の販売価格で神立君からの仕入れをゴブリンシーフが二十一万、ゴブリンアーチャーが十七万五千円かな。利益率三十パーセントと」


 この値段も企画が通ってから関係部署との調整や、更に将磨との交渉によって変動する可能性は否定できない。
 しかしランクの低い魔物のカードをあまり高額してしまうと売れないし、公的機関なので人件費や物流費、それとカードの有用性の検証に対する経費などを考慮して利益率は三十パーセントに抑えられている。
 その分、値引きはしないし購入者の管理もすることになる。


 カードの魔物は将磨以外はダンジョンの中でしか召喚できないし、召喚した魔物をダンジョンの外に連れて出ることもできないのは確認できている。
 しかしダンジョン内であれば魔物を使って悪さをしようと思えばできる。
 その為にカードの購入者の管理は必要だと木崎は考えているのだ。
「どの程度の管理ができるのか……管理方法を考えなければな……」


 

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