カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
008 五層探索
十月八日、日曜日。
今日も〖名古屋第二 ダンジョン〗を探索する将磨。
今日は〖探索者支援庁〗の職員の同行はない。将磨の自由時間だ。
昨日、四層のボスを倒したことで五層の探索をすることにする。
昨日以上に探索者の数が少ない階段を降り草原タイプの五層に立つ。
探索者の労働時間は自由裁量だ。出勤時間もなければ残業もない。
だから朝早くからダンジョンに入る人はあまりいない。
稼いでいる人の中には夜中に歓楽街で遊んで昼に起き出しダンジョンに入る。そんな自由な職業である。
「四層と雰囲気は変わらないか」
そう、この五層は四層とほぼ同じ作りになっているので、奥に見える森の中にボス部屋がある。
周囲に誰もいないことを確認しゴブリンのカードを取り出す。
「従魔召喚!」
カードを束で持ち召喚と唱えると将磨の前にゴブリンたちが現れた。
今回、将磨は召喚時の掛け声を変えている。
掛け声を変えても召喚できるのか?という単純な疑問と「ゴブリン召喚」よりもこっちの方がカッコイイからだ。
ゴブワンとゴブツーはゴブリンソルジャー、ゴブスリーはゴブリンアーチャー、ゴブフォーとゴブゴはゴブリンシーフだ。
ここに昨日入手したグリーンバイパーとイビルキャットを召喚する。
「うーん、普通に見分けがつかない!」
ダンジョン内でPOPして将磨が倒した(正確にはゴブリンたちが倒した)ころとカードから召喚したグリーンバイパーとイビルキャットの見分けがつかない。
ゴブリンの場合は髪の毛の多さが違うので見分けは簡単だったが、これは難しいと唸る将磨。
見分けについては置いておいて更にカードを取り出す。
取り出したのはグリーンバイパーの毒袋とイビルキャットのかぎ爪のカードだ。
この二枚でグリーンバイパーとイビルキャットをランクアップさせようというのだ。
将磨はグリーンバイパーに口を開けさせグリーンバイパーの毒袋のカードを現物化する。
カードが光っている内にグリーンバイパーの口の中に光ったままのカードを入れる。
一応、ゴム手袋は持ってきているが、毒袋といわれるような物を手袋越しとはいえ手で持ちたくなかったからこのようなことをする。
グリーンバイパーがそれを飲み込んだ瞬間、体が光り輝く。
発光が終わるとそこにはキラーバイパーにランクアップした元グリーンバイパーがいた。
「おおー、毒々しいな」
その胴体は大蛇のように太く長い体に緑色を基本として赤色の斑点がある。
音もなく忍び寄り、その逞しい筋肉質の体で巻き付き遅効性とはいえ致死毒で相手を殺す。サイレントキラーだ。
普通の人ならヘビの姿を見て一歩下がるだろうが、将磨はヘビに限らず爬虫類を嫌悪することはない。
女性の天敵であるキッチンなどに出やすいGでも普通に触れる将磨はどこか感覚がずれているのかもしれない。
「よ~っし、この調子でイビルキャットもいってみようか!」
イビルキャットにイビルキャットのかぎ爪を与える。
発光しそれが収まるともうネコというよりはトラやライオンのようなネコ科の大型動物を思い起こすほどの巨大な体のネコがいた。
体毛が真っ黒なので見た目はクロヒョウなのだが体の大きさはライオン並みだ。
「うお~!いい感じじゃん!」
将磨は黒いネコに抱き着きそのモフモフな体毛や耳を堪能する。
ランクアップしたその黒いネコはビックキラーキャット。
将磨が召喚した魔物で初めてのランクFであり、将磨のモフモフを嬉しそうに受け入れている。
「くそ~いつまでもこの毛並みを堪能していたいが、俺には目的があるんだ……先に進まないといけないのだ!」
涙を呑んでビックキラーキャットから離れ再びカードを取り出す。
このカードも昨日手に入れたゴブリンメイジとゴブリンテイマーを召喚する。
杖を持った髪有りゴブリンと鞭を持った髪有りゴブリンが姿を現す。
これでゴブリンの上位種であるソルジャー、アーチャー、シーフ、メイジ、テイマーの五種類七体となった。
キラーバイパーとビックキラーキャットもいるので一層のころから見ると非常に強力になった布陣だ。
まだ普通の髪有りゴブリン一体を入れなければならないが、それでも強力な布陣となっている。
「よし、行くぞ!ゴブスリーとゴブフォー、そしてミドリは先行してくれ。他は俺を守るように!」
ミドリというのはキラーバイパーの名前だ。因みにビックキラーキャットはダークと名付けられている。
少し進むとゴブリンアーチャーのゴブスリーが魔物を見つけたようで歩を止め手をあげる。
「ミドリが戦闘の火ぶたを切ってくれ。ゴブスリー(アーチャー)とゴブゴ(メイジ)はその後に支援攻撃を。ゴブワン、ゴブツーは――――」
将磨は十体の従魔を視界にいれると素早く命令をする。
将磨の命令でそれぞれ行動を起こす従魔たち。
ミドリは音もなくスルスルと草の中に消えていき、十秒ほどするとゴブリンが悲鳴をあげながら吹っ飛んだ。
どうやらミドリが長く太い体でゴブリンたちを薙ぎ払ったようだ。
そこにゴブスリーとゴブゴの支援攻撃が行われ一体は喉に矢を受け暫くもがき苦しんだ挙句血の混じった泡を口から出し絶命した。
更にゴブゴの放った火の玉が命中したゴブリンは全身火だるまとなり地面にころがり火を消そうとするも火は消えず絶命する。
(あの火って草に燃え移らないのかな?)
そんな将磨の心配は杞憂に終わった。
この草原に生えている草は全て青々としていることから仮に燃え移っても草が持っている水分ですぐに消えてしまうだろう。
しかもダンジョン内で草原が火事になったとしても日本の法律は適用されないし、人死にがなければ問題視もされない。
そもそもダンジョンなので草原が燃えても自浄作用的な力が働き大きな火事にはならないのだ。(既に多くの者が検証していた)
スピードに乗ったダークが飛び込み鋭い爪で髪無しゴブリンを切り裂き即死させる。
更に少し遅れてゴブワンが率いるゴブリン部隊が乱入して髪無しゴブリンを倒していく。
戦闘は一分ほどで終わり将磨の従魔たちには怪我もなく圧勝した。
「うん、良い感じだ。皆、よくやったぞ!これからも頼むよ!」
将磨に褒められた従魔たちは嬉しそうな表情を作り頷く。
今回手に入れたカードは全てレアリティが★だったのが残念だが、これは運なので気長に考える。
この五層は四層と同じ構造となっているが、違いもある。
違いの一つは四層よりも魔物の密度が高く、更に凶悪になることだ。
四層ではランクHのグリーンバイパーとランクGのイビルキャットが単体で現れるが、五層では十体以上のゴブリンの部隊やグリーンバイパーの群れ、そしてイビルキャットの群れも現れるのだ。
一度に多くの魔物と戦う必要があるのがこの五層の特徴であり、その中にはランクGのイビルキャットが群れで現れるというキツイ状況もある。
そして今、将磨たちは四体のイビルキャットの群れと戦闘をしている。
イビルキャットの特徴はスピードを生かしたかく乱を行い獲物の隙を作って爪や牙によっての攻撃だ。
しかし今の将磨は遠近の攻撃手段もあり色々な特徴の戦術を取れる。
「ダークは突撃だ。ゴブワン、ゴブツーはダークの動きに合わせて切り込め。ゴブスリー、ゴブゴは支援を!他は俺の周囲で防御重視!」
命じられたようにダークが弾かれたように飛び出し、その傍をゴブスリーの矢が飛んでいく。
矢が着弾したとほぼ同時にダークが一体のイビルキャットを切り裂き通り過ぎる。
そこに火の玉が別のイビルキャットに着弾し怯んだそのイビルキャットにダークが牙をむく。
イビルキャットの喉元に噛みついたダークはその大きな体からくるパワーでイビルキャットを振り回し喉を噛み切った。
ここでゴブワンとゴブツーが参戦しダークを後ろから狙っていたイビルキャットに切り付ける。
最初にダークの爪によって切られたイビルキャットはかなり動きが悪くなっていたので矢と火の玉の集中砲火によって力尽きる。
残ったイビルキャットもダークが飛び掛かり太い前足を二度振り抜いただけで戦いは終わった。
ゴブワンとゴブツーも二対一の戦闘だったことから危なげなくイビルキャットを倒した。
こうして被害なく四体全てのイビルキャットを殲滅した。
「ランクFパネェ~な」
ゴブワンとゴブツーの参戦やゴブスリーなどの支援がなくてもダーク一体で圧倒したのではと思えるほどダークは強かった。
草原エリアを抜け森に入る。
森の中でも将磨の従魔たちは圧倒的な戦いを見せる。
森の中なので木が邪魔してダークの機動力が生かせないのではと思っていた将磨だったが、ネコ科特有の柔らかな動きで木を蹴って立体的な機動力を発揮する。
「ランクFってこんなに凄いのか?」
もしかしたらダークだけなのかもと将磨は思ったがランクGとランクFの間には大きな隔たりがあるのは熟練探索者なら誰も知っていることである。
しかし将磨はネットなどの情報から得た知識で強いと分かってはいてもここまで力の差がでるとは思っていなかったのだ。
ダークのおかげでかなり楽な探索ができた将磨たちはボス部屋に挑戦する。
ネットの情報ではゴブリンソルジャー一体、ゴブリンテイマー二体、イビルキャット二体、グリーンバイパー四体とこれまでのボス戦では最多の数が将磨たちを迎え撃つはずだった。
ボス部屋の中に入った将磨の前に現れたのはゴブリンソルジャー一体、ゴブリンテイマー二体、イビルキャット二体、グリーンバイパー四体、ここまでは情報通りで問題ない。
しかしもう一体、考えもしなかった魔物がそこにいたのだ。
「か……か……カワイイ!」
目の前にいたのは骨がなさそうな涙型で薄い青色の魔物だった。
そう、ゴブリンと並んでファンタジー系魔物の代表格であるスライムがそこにいたのだ。
直径三十センチメートルほどの小さな体につぶらな瞳が二つあるが口や鼻、そして耳などは見当たらない。勿論、手や足もない。
将磨でなくても初めて見たらカワイイと叫んだだろう。
テンションがマックスにまで上がった将磨は他の魔物など眼中にないとばかりにはしゃぐ。
しかしここはボス部屋であり、目の前には将磨たちを狙う魔物が十体もいるのだ。
最初に動いたのは四体のグリーンバイパーで体をくねらせ将磨たちに近づく。
それを見たゴブフォーが将磨の横腹を突っつく。
「ん、どうした?って、やべ~っ!?」
ゴブフォーのおかげでグリーンバイパーの接近に気が付いた将磨は皆に命令をする。
ゴブワンとゴブツーが飛び掛かってきたグリーンバイパーを剣で切り付ける。
ダークとミドリもそれぞれ一体を受け持つが、そこにイビルキャット二体が登場して乱戦もようとなるが、ゴブスリーとゴブロクがそこに援軍として加わる。
四対四、ボス補正があり強化されていても将磨側にはダークがおり戦局は有利に進む。
グリーンバイパー四体とイビルキャット二体を倒すのに少し苦戦してゴブロクが傷を負ったが、その程度ですんでいる。
残るはゴブリンソルジャー一体とゴブリンテイマー二体、そして愛嬌のある姿のスライムだ。
ゴブリンソルジャーにはゴブワンとゴブフォーが向かい、ゴブリンテイマー二体にはダークが向かいゴブスリーが支援をする。
ゴブリンソルジャーは剣を薙ぐとその剣を受けたゴブワンの体が僅かに浮く。
そこにゴブフォーが後方からスピードに乗り短剣の一撃を与えるが、ゴブリンソルジャーが殺気を感じたのか首筋を狙った一撃はズレて右肩を傷付ける。
「GYAAAAA!」
右肩から血を流して怒り心頭といったゴブリンソルジャーはゴブフォーに切りかかろうとするが、視線がそれた隙をついてゴブワンの突きが放たれた。
「GYAAAAA!」
最後の言葉ではなく叫びとなったゴブリンソルジャーは力なく倒れカードとなった。
ダークはゴブリンテイマー二体の間を猛スピードで駆け抜ける。
当然、何もしなかったというわけはなく、ダークが駆け抜けた後にゴブリンテイマー二体は浅くない傷を負っていた。
切り裂かれた二体のゴブリンテイマーは傷を押さえのたうち回る。
そこにゴブスリーの矢がシュパッ、シュパッとゴブリンテイマー二体に突き刺さる。
これにより息絶えたゴブリンテイマー二体はカードとなる。
スライムに向かったのはゴブツーとゴブゴ、そしてゴブハチの三体と支援としてゴブセブンだ。
スライムはカワイイ外見とは裏腹にランクFの魔物なので油断はできない。
つまりランクHのゴブリンでは敵うわけもなく不用意に近づいたゴブハチはスライムに飲み込まれた。
「え……っえぇぇぇぇぇ!」
スライムの胴体が上下に裂けてゴブハチをパクリと食べてしまったのだ。
体長三十センチメートルほどの小型の魔物が比較的小柄とはいえ百三十センチメートルほどのゴブリンを食べたことに動揺する将磨。
スライムはゴブリンを咀嚼もせず丸呑みにするともとの涙型の体に戻る。
そして誤差範囲なのかもしれないが、少し大きくなっているように見える。
「どうすればあんなに大きな口?が……」
茫然とする将磨をよそにゴオォッと火の玉がスライムに向かって飛んでいく。
その火の玉が当たったスライムは体が火に包まれた苦しむが暫くして火は消える。
そして先ほどより少し体が小さくなった感じがしたが、プラマイゼロ的な変動だ。
「っは!?ボーっとしてはダメだ!ゴブセブンはそのまま魔術を撃ちまくれ!他はスライムに近づき過ぎずけん制に終始しろ!」
復活した将磨はスライムが火の玉に弱いと見て従魔たちに命令をする。
ピョンピョンと跳ねて移動をするその愛らしい姿とは真逆にゴブリンを丸呑みするというショッキングな光景を目にしてしまった将磨は早く戦いを終わらせないと被害が増えると考えたのだ。
スライムは思いのほか強く、丸呑み以外にも溶解液を吐き出す攻撃をしてくる。
偶々狙われたのはシーフのゴブフォーだったので辛うじて回避ができたが、あれが飲み込まれたゴブハチのような普通のゴブリンであれば間違いなく被弾して酷いことになっていただろう。
それでも何とかゴブセブンの火の玉が追加で三回着弾したらスライムは動かなくなりカードになった。
「やっべ~、スライムつえ~よ!?」
ひと息ついた時、思わず漏れてしまうほどスライムは将磨にショッキングな強さを印象付けた。
それでもスライムもカードになったことからスライムも従魔にできると嬉しく思ったのだが、思わぬ落とし穴があった。
「え?……合体?」
拾い上げたスライムだったカードを見て放心する将磨。
@合体
説明:スライムの特徴である合体が行える。
レアリティ:★★★
残数:一
「これって……スライムが複数いないと意味ないのでは?」
レアリティが★★★と滅多にドロップしないのカードだが、スライムが手に入ると思っていた将磨の顔には明らかに落胆の色が見えたのだった。
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