カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
002 探索者登録
「神立様、神立将磨様」
「はい」
ダンジョンに入って探索をする為に将磨は〖探索者支援庁〗で探索者登録を行う。
見た目が二十代と思われる艶やかな黒髪を肩下まで伸ばした色白の綺麗な受付の女性に名前を呼ばれカウンターに赴く。
近くで見たら更に美人だと分かる受付嬢はさぞ探索者に人気があるだろうと思いながら探索者の説明を受ける将磨。
一.ダンジョンへの出入りは〖探索者支援庁〗にて管理しており予め探索エリアと探索期間を申請する必要がある。
ニ.申請された探索期間を十時間経過した時点で自衛隊のダンジョン特殊強行部隊による捜索が行われる。
ダンジョン特殊強行部隊が出動した場合は探索者が費用負担を行う。
三.ダンジョン内では探索者の自己責任で探索を行い、探索者が負傷や死亡しても〖探索者支援庁〗及び日本国政府は一切の責任を負わない。
四.負傷した探索者を発見しても助ける義務はないが、助けた場合は〖探索者支援庁〗から報奨金が贈呈され優良探索者として支援の拡充が行われる場合がある。
この場合は助けられた探索者は〖探索者支援庁〗が支払った報奨金と同額を〖探索者支援庁〗に支払う義務が発生する。
また、死亡者を発見した場合は探索者登録証を持ち帰れば〖探索者支援庁〗から報奨金が贈られる。
五.探索者同士の争いは禁止しており、ダンジョン内で無闇に他の探索者に近付いてはならない。
また、他の探索者が戦闘を行っている魔物やアイテムなどを奪ってはならない。
六.ダンジョン外で一般市民に対する暴行は懲罰対象となり、刑罰対象となった場合は探索者の身分を剥奪しダンジョンへの立ち入りを禁止する。
七.ダンジョン内で得られたアイテムは〖探索者支援庁〗に対してのみ販売を行える。
但し、〖探索者支援庁〗が買い取ったアイテムの転売先を指定することはできる。
また、アイテムの販売金額より指定されている税が天引きされる。
八.〖探索者支援庁〗は日本国政府や民間企業、個人などから取得依頼があるアイテムを探索者に仲介することがある。
この場合、依頼を受けることで報酬があり、更にアイテム買取依頼だった場合には通常時よりも増額されることが多い。
九.探索者は探索者年金に加入しなければならない。
探索者年金はアイテム買取時に自動天引きされ、探索者が引退した後に積み立てた年金を受け取ることができる。
また、死亡時には遺族への遺族年金、負傷し障害が残った場合は障害年金として受け取ることができる。
但し、懲罰対象となり罰金の支払いを命じられそれを支払わなかった場合は年金から支払いが行われる。
十.ダンジョン外で人や動物に対し戦闘系スキルの使用を禁止する。
また、どのような場合においてもスキルを犯罪に使用することを禁止する。
他にも注意点などの説明を受ける将磨は時々受付嬢のブラウスの隙間から覗く胸の谷間に目が行く。お年頃なので仕方がないのだ。
「これらのことに違反しますと探索者登録を解除し再発行には厳しい審査が必要となりますし、悪質な場合は罰金、または懲役が科せられることがあります。以上ですが、何か質問は御座いますか?」
「いいえ」
聞かされたことは既に一般人でも知っていることなので敢えて確認するまでも無い内容である。
「では、この登録用紙に署名捺印をお願い致します」
今までの説明が長々と記載された用紙を差し出され指さされた署名欄にスラスラと自分の名前を記入し三文判で押印する将磨。
「此方が神立様の探索者登録証となります。ICタグが内蔵されておりダンジョン産アイテムの買取金はこの探索者登録証の口座に振り込まれます。お金の引き出しや預け入れはあちらのATMまたは窓口で行えますのでご利用下さい」
キャッシュカードのような探索者登録証と銀行の通帳のようなものを渡される。
署名と同時に暗証番号を明記する欄があったことから暗証番号を記載したが、既に探索者登録証でキャッシュカード機能が使えるとは思っていなかった将磨は少し驚いた。
綺麗な受付嬢との至福のひと時を終えた将磨は〖探索者支援庁〗内の店で販売しているGランク装備セット(初心者用装備セット)と言われる防具と短剣を購入する。
探索者用に無償で用意されている更衣室で初心者セットの防具に着替えができる。勿論、男女別の更衣室である。
Gランク装備は初心者用の装備なので魔物由来の素材は使われていない。
見た目は完全に自衛隊員だ。目立った防具的特徴はないが動きやすさと防弾ベストと思われるベストにはポケットが幾つもついており便利だな、という感想が先に立つ。
コインロッカーに着替えなどの荷物を預け、自衛隊員のような恰好でダンジョンの入り口へ向かう。
ダンジョンに入る為には入り口にある申請用端末で音声案内に従って必要事項の入力を行う。
コスプレみたいで結構恥ずかしい見た目だが、周囲にも将磨同様の恰好をした若者も多少存在していたので見た目で浮いてはいない。
「これで良しっと。後はスマホのアラームをセットしておけば時間になったら分かるから戻ってくる時間を守れると」
端末でダンジョンから出る時間を入力すると探索者登録証を抜き回収する。
そしてダンジョンの入り口にある駅の改札のような機械にかざすとバーが下がりいよいよダンジョンに入って行く。
初めてのダンジョンで胸が高鳴るのを抑え、たった一人でダンジョンに入った将磨。
一般的にはダンジョン探索は複数人のパーティーや大人数のギルドと言われる単位で行うが、将磨にはパーティーを編制する相手がいない。
昨日まで十七歳だったので現在の将磨は高校生という身分であり、将磨が通っている高校に友達と呼べるような存在はいない。
人付き合いが悪いわけではないが、将磨には友達と言える存在がいないのだ。
五年前のスタンピードによって親友といえる二人の友達と別れることになった。
悲しいことに一人は亡くなり、一人は将磨同様親を亡くし遠方の親戚に引き取られていったからだ。
それ以来、将磨は友達を作ろうとしなかった。
友達を失うという心の痛みが彼を臆病にしてしまったのだろう。
ダンジョン内は洞窟のようで無骨な岩肌がむき出しとなっており、その岩肌が僅かな光を湛え二十から三十メートル程度の視界が確保できる。
魔物との戦闘があっても崩れない頑丈さを誇る壁だ。
以前見た映像では自衛隊がプラスチック爆弾を設置して爆破しても表面に少し傷ができた程度で崩れ落ちるようなことはなかった。
壁に手を付けると意外と暖かく人肌ほどでは無いが二十度程はあるだろう。
ダンジョン内の温度も二十度程とやや涼しい。
全てのダンジョンが同じ環境ではないが、将磨が最初の探索に選んだ〖名古屋第ニ ダンジョン〗は湿度も高くなく非常にすごし易い環境になっていた。
暫く進むと三叉路にさしかかる。この三叉路を左に行くとこの一層を支配するフロアボスが存在する場所に繋がっている。
勿論、フロアボスに至るまでには魔物と遭遇し戦うことになるだろう。
そして三叉路を右に進むと直ぐに階段がある。
この階段がどこまで続いているかは分かっていない。解明されていないのだ
各層のフロアボスを倒すと一つ下の層が解放される。
今の〖名古屋第二 ダンジョン〗は二十三層まであるのが確認されている。
少なくとも三十層まではあるだろうが、各層のボスを倒さなければ次の層へは行けないのだ。
一度は階段を見ておきたいと思った将磨は先ず右に進む。
視線の先に階段が現れる。
しかし見えない壁にぶつかり鼻を抑えて悶えることになった。
この層のボスを倒さないとこの見えない壁に阻まれ下の層へは行けないのだ。
三叉路に戻り左に進む将磨はスマホを取り出しダウンロードしてある〖名古屋第ニ ダンジョン〗の地図アプリをタップする。
便利なもので先人が踏破した層であればこうしてマップを確認でき、安全エリアや危険エリア、それに罠の場所まで分かってしまう。
更に遭遇するであろう魔物の情報もあり攻撃の癖や弱点なども親切に教えてくれるのだ。
これは〖探索者支援庁〗のサービスの一環であり探索者の生存率を上げる施策である。
将磨はマップを見ながらボス部屋を目指す。
暫く通路を進むと魔物を発見する。
スキルの内容が分からない状態でもこの一層に現れる魔物であれば何とか倒せるはずであり、【カード化】というスキルの能力や効果を知るには取り敢えず戦闘をするしかない。
それにダンジョン外でのスキルの使用は制限されているので態々ダンジョン内でこうしてスキルの確認を行うのだ。
「【カード化】か……普通に考えると魔物を倒すと魔物がカード化する、だよな?やるしかないか!」
短剣を鞘から抜き構える。
武術の心得があるわけもなく、テレビやネットなどの映像をもとに見よう見まねで構えているのでその姿はどこかぎこちない。
目の前にいる魔物はファンタジー世界で最も有名と言ってよいほどのゴブリンだ。
ゴブリンは小学生程度の背丈だが、筋肉質で肌の色も緑色、そして身に纏っているのは腰蓑一枚なのですぐに見分けがつく。
顔を見れば醜悪で何かの本に載っていた悪魔のような大きな口と鋭い歯、そして血走った三白眼以上の白目率が特徴だ。
「一層ではほとんどが一体で行動しているから複数を相手にしないだけましだよな」
一層ではゴブリンの配置が比較的広いエリアに一体となっており、複数のゴブリンを相手取ることはまずない。
ゴブリンの武器はその長く尖った爪だ。
しかも見た目からして不衛生なのでその爪で傷を付けられるとばい菌が傷口から入りそうで怖い。
だからできるだけ傷を負わない戦い方をするのが良いだろうと将磨は考える。
将磨はゆっくりと音を立てないようにゴブリンの背後に忍び寄る。
鼓動が早くなるのを必死で抑えるのに苦労しながら呼吸をゆっくりと、そして深く行ないながらのすり足に近い歩行をする。
あと二歩ほどでゴブリンに攻撃できるほど近づいたその時、ゴブリンが歩き出した。
口から心臓が飛び出すのではと思うほど驚いた将磨は必死に声をあげるのを抑える。
ゴブリンは将磨には気づいておらず、ただたんに数歩前進しただけだが、将磨にとってはその数歩分が遠く感じられた。
(こ、ここでグズグズしていては気付かれる。飛び込んで首を切りつければ……いや、止めておこう。ここは慎重にゆっくりと確実にだ)
意を決しまた足音を殺しながらゆっくりとゴブリンに近づく。
ほんの数歩だが、とても遠い。
そしてとうとう将磨の間合いとなった。
(やれる!やれるんだ!いっけーっ!)
ズサッ。短剣がゴブリンの首筋をなぞる。
家では自炊をしている将磨なので豚肉のブロックを包丁で切ることもあるが、そんなグニュっとした感覚が手に伝わる。
「GYAAAAAA!」
ゴブリンが悲鳴にも似た声をあげ、振り返り将磨をその白目ばかりの濁った瞳で睨みつける。
シャーーッ!
将磨の利き手が左手だったことが幸いしたようで動脈があった場所を切り付けた。
ゴブリンの首から盛大に血しぶきが飛び散り周囲を赤黒く染める。
ゴブリンは首を抑え反撃もできずにその場にうずくまり絶命した。
「や、やった……オベェェェェェ」
初めて生き物を殺し、それが血の海状態なのを見た将磨が胃の中の物を吐き出しても誰も咎めないだろう。
しかしここはダンジョンの中、いつまでもうずくまって胃液しかない嘔吐を繰り返していては命に関わる。
将磨は何とか立ち上がりゴブリンの死体から魔石を取り出そうとゴブリンを見る。
しかしゴブリンの死体があるはずの場所には血の海しかなかった。
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