ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_057_移動手段

 


 アジ料理を心行くまで味わった後は朝早くから市場を回って海の幸を買いあさった。初日に訪れた時は時間が遅かったのであまり魚が置いてなかったが、3日間朝早く市場に通ったら色々な魚が手に入った。
 マグロ、マダイ、スズキ、ヒラメ、カレイなんでもある。今度は寿司でもしようかな。


 さて、俺たちは徒歩でフィッツバルグを出た。
 最初は歩きもいいと思ったが、変わり映えのしない風景にウンザリしてきた。
「久しぶりに【等価交換】を使うか」
「【等価交換】? 何それ?」
 一ノ瀬が不思議そうに首を傾げた。
「俺のスキルだよ。材料があれば大概の物は創れるんだ」
「うわー、やっぱりツクル君はチートだね!」
 チートって、一ノ瀬がそんなことを言うとは思わなかったぞ。


「ご主人様、乗り物をお創りになるのですか?」
 こんどはカナンが目をキラキラさせて俺を見てきた。
「そのつもりだが、上手くできるかは分からないから、少しだけ期待して待ってろよ」
「そろそろお茶の時間ですから、お茶を淹れます」
「おう、よろしく頼むよ、ハンナ」
 ハンナは相変わらずできるメイドだ。ケモミミ触っていいかな? はい、ごめんなさい。一ノ瀬よ、なぜ俺の考えがわかる!?


 気持ちを変えて乗り物の材料になりそうな物を【素材保管庫】から取り出した。取り出したのはフライングシープの毛だ。
 毛でどんな乗り物を創るんだと思うだろうが、俺の創るのは空飛ぶ絨毯だ。
 イメージを固めて【等価交換】を発動させると、魔力が消費されていくのが分かった。このくらいの消費速度なら魔力切れにはならないだろう。
 以前、【等価交換】で日本に帰れるスキルを創ろうと思ったら、魔力消費が半端なく一気に魔力がなくなった。意識の飛びそうになった俺を黒霧が引き留めてくれなければ、あのまま魔力を吸い続けられて俺は死んでいただろう。
 だから世界を渡るスキルは禁断のスキルとして、俺の中の作成禁止スキルになっている。レベルが上がった今なら耐えきれるかもしれないが、やるならもっとレベルを上げたいと思うほどの危機だったと俺は認識している。


 空飛ぶ羊の魔物の羊毛からペルシャ絨毯のような敷物が出来上がった。
 面積は六帖くらいだけど、白い毛から赤を基調とした豪華なペルシャ絨毯になったのは【等価交換】のハイスペックなところだろう。
 ただ、問題は俺たちを乗せて空を飛べるかということだ。乗る前に【詳細鑑定】で見てみよう。


 空飛ぶ魔法の絨毯 : フライングシープの毛で創られたから空を飛ぶと思ってるわね? だけど、これは空を高速で飛ぶんだからね!


 飛ぶというのは分かった。問題は高速というのが、どのくらいの速度なのかだ。
「ご主人様、お茶をどうぞ」
 いい香りが俺の鼻をくすぐる。ハンナは本当にお茶を淹れるのが上手いな。
 一ノ瀬とカナンがテーブルを囲んで座っているので、俺もそれに加わった。
「美味いお茶だ」
「ありがとうございます」
 一般人でも買えるようなお茶だけど、それを高級茶顔負けのよい香りとスッキリとしたのど越しに変えるハンナはお茶の魔術師だ。俺が認定してやろう!


「ツクル君、あの絨毯はもしかして……」
 お茶を飲みながら絨毯を眺めていた一ノ瀬が聞いてきた。まぁ、一ノ瀬ならあの有名な話くらい知っているだろう。
「ああ、あれのイメージで創ってみた」
「あれって何ですか!? ご主人様、教えてくださいよ~」
「この後、試しに乗ってみるからカナンも乗せてやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
 嬉しそうに話すカナンは言葉の合間にクッキーを食べるのを止めない。ぶれない奴だ。
 お茶を楽しんでお菓子も食べたので、試乗をするかな。
「ハンナ、美味しいお茶だったよ。ハンナのお茶は世界一だ」
「ありがとうございます! 今後も精進いたします!」
 ハンナは嬉しそうにケモミミをピコピコさせている。


 絨毯の上に乗ってみる。特に何かがあるわけではない。
「ご主人様、私も乗っていいですか?」
「まぁ、いいだろう」
「わーい、ありがとうございます」
 カナンがちょこんと絨毯の上で女の子座りをした。嬉しそうだな。
「よし、カナンいくぞ!」
「はい!」
「行け! 魔法の絨毯よ!」
 俺の声に反応して絨毯はギューンと急加速を始めた。おいおい……。
 俺は絨毯の上であぐらをかいていたが、あまりの急加速に絨毯を掴んだ。そして後ろのカナンを見てみると、絨毯から転げ落ちそうになったのだろう、必死に絨毯の縁に掴まっていた。まるでたこの尾のように絨毯から体が飛び出していた。
「あわわわーーー。助けてくださいーーー!」
 俺は絨毯の上をゆっくり移動してカナンを引き上げる。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思いました」
「俺もびっくりだわ。ここまで速いとは思っていなかったぞ」
 速度はおそらく時速五百キロメートルは出ているだろう。一般人なら体中に当たる風圧で死ねそうだ。
「カナン。風の魔法でこの風圧を相殺できないか?」
「はい、やってみます!」
 カナンはマジックバッグから赤き賢者の杖を取り出してひと振りした。そうすると、爆風のような風圧が収まった。
「おお、いいぞカナン。よくやった」
「はい、これくらいお任せください!」
「この状態を維持するのは辛くないか?」
「この程度でしたら、問題ありません!」
 これで風圧対策はできたな。次はこの魔法の絨毯のコントロールだ。既に一ノ瀬とハンナの姿が見えない。
「魔法の絨毯よ、ゆっくりと速度を落とせ」
 俺の命令で魔法の絨毯は速度を落としていく。時速三十キロメートルくらいまで速度を落としても墜落はしないので、浮くと、飛ぶは別々の原理なのだろう。
 右旋回、左旋回を命令通りにこなす魔法の絨毯は優秀のようだ。飛び出す時の命令を考えて出せばカナンが転げ落ちることはないだろう。


「よし、一ノ瀬とハンナのところに戻るぞ。ゆっくり速度を上げろ」
 その命令の直後だった。魔法の絨毯の進む先に米粒くらいの黒い影が見えた。
 それは徐々に大きくなって、米粒のようなシルエットからしっかりとした姿に変わってきた。
「ご主人様、ワイバーンのようです!」
 カナンは焦りもせずにワイバーンを見ていた。それもそうだ、ワイバーンのレベルは110だし、目立つスキルもないのだから。
「雑魚だ。黒霧、やるぞ」
「なんだ、私が必要か?」
「暇だろ? 遊んでやれよ」
「仕方がないな。ならば遊んでやるか」
 俺は黒霧を鞘から抜き、その漆黒の刀身を露わにした。


 俺たちはワイバーンの縄張りに入り込んだようで、三匹のワイバーンがこちらに向かってきた。
「カナン、魔法の絨毯を頼んだぞ」
「はい。行ってらっしゃいませ!」
 俺は魔法の絨毯から飛び出した。そして、【風魔法】を発動させて俺の足場を一時的に創って蹴る。タンタンタンと【風魔法】の足場を蹴ってワイバーンに迫りすれ違いざまに黒霧を一閃する。
「つまらぬ物を切ってしまった」
 お前は盗賊の仲間かよ!
 俺が心の中でツッコミを入れていると、先頭で飛んでいたプテラノドンのようなワイバーンが左右に真っ二つに分かれて落ちていく。俺はそれを無視して次のワイバーンに迫った。


「おらっ!」
 黒霧は嫌そうなことを言っているが、内心では久しぶりの登場だから嬉しいのだ。それが俺には伝わってきた。
「ツクルよ、振りが甘い! もっと気合を入れろ!」
 ほらな、黒霧は使われることが嬉しくてたまらないのだ。妖刀かよ!
「これでどうだ!?」
「馬鹿者! 力を入れればいいという物ではないんだ!」
 うるさい奴だ。
 黒霧を三回振ったら三匹のワイバーンは落下していった。弱すぎて準備運動にもならない。
「よっと」
 俺は魔法の絨毯の上に戻った。カナンが【風魔法】を駆使して落下するワイバーンの死体を拾ってマジックバッグにしまっていた。


「おーい、一ノ瀬~。ハンナ~」
 二人が見えてきたので、呼んでみた。
「ツクルく~ん」
「ご主人様!」
 二人は俺たちに手を振ってくれたので、俺とカナンも振り返した。
「魔法の絨毯よ、二人の前でゆっくりと止まれ」
 魔法の絨毯は俺の命令通り、地上から三十センチメートルほどで浮いている状態で二人の目の前でゆっくりと止まった。


 

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