ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】
ガベージブレイブ(β)_056_アジ料理
魔族は満を持して侵攻してきたらし人族至上主義の国の土地をかなり広い範囲で支配下に置いていた。魔族は反抗勢力に対しては苛烈な対応をしたが、初期段階で降伏した町や村には大きな被害はなかった。
勇者で生き残ったのはたった三人。ラーデ・クルード帝国所属のヒデオ・クジョウ。同じくラーデ・クルード帝国所属のタケル・アイカワ。アルファイド王国所属のアキラ・ジングウジ。
六十人もの勇者を投入して生存が確認されたのが、たった三人という事実に人族至上主義の国々は驚きを覚えた。今回の戦いは魔族が参戦したことで亜人連合軍も軍を引かざるを得なかったのがまだよかった。もしあのまま魔族と亜人の侵攻があれば被害は天文学的な数字になっていただろう。
「まさかギガンヘイムの者が攻めてくるとはな。ぬかったな、テマスよ」
「申し訳ございません。ただちに奪われた地の奪還を―――」
「構わぬ。ギガンヘイムがあの土地で勢力を安定させるまで待ってやるがよい」
「しかし……いえ、分かりました……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺はカナン、ハンナ、そして一ノ瀬を連れて旅だった。目指すのはラーデ・クルード帝国内にある、俺たちがこの世界に召喚された神殿だ。と言っても神殿は最終目的地なので、その前に人族至上主義の国々に嫌がらせをして回ろうと思っている。
カナンとハンナはいいけど、一ノ瀬はどうしたらいいのだろうか? チラリと一ノ瀬を見るとカナンとハンナの二人と楽しそうに話をしていた。
こうして見ると三人は美形揃いなので俺的には非常に嬉しいシチュエーションなんだろう。姦しいという漢字があったと思うけど、三人もその漢字のようになるのだろうか? それはいい、それはいいのだが、一ノ瀬をどうしたらいいのだろうか?
歩いていると、いつの間にか女性三人が俺の前を歩いていた。三人の後姿を見て思うのは、この三人は……いいお尻をしていると……。
ローブを着ているカナンのお尻の形は分からないけど、カナンのお尻の形は知っている。カナンが俺の前で着替えたりしていたからな。
ハンナもメイド服なのでお尻のラインが分からないけど、いい形をしていると思うんだよ。多分、筋肉が程よくついた引き締まったお尻だと思う。
一ノ瀬は……何故かぴちっとした革パンだからしっかりとお尻の形が分かるんだよな~。聖女でもローブを着ることはなかったそうだ。まさか、ルク・サンデール王国の誰かの趣味なのか?
そんな感じで、三人のお尻に見入っていた。俺だって正常な若い男だから、綺麗な三人の女性のお尻くらいガン見するさ。
一ノ瀬の装備も創ってやらないとな。レベル上げをどうするかな……。
なんの根拠もないけど、一ノ瀬にはこのままでいてほしいと思ってしまう。
「ツクル君。何見てるの?」
三人が振り向いて俺の視線の先にお尻があることに気がついたようだ。
「な、何も見てないぞ」
「別に……見てもいいけど……」
一ノ瀬が恥ずかしそうにモジモジする。そんなキャラだったっけ? でも、可愛い。
「ご主人様! 私のお尻でよろしければ触ってください!」
「ぶっ!?」
カナンは何を言っているんだ!?
「それでしたら、ハンナのお尻もどうぞ。尻尾もありますよ」
うっ!? 尻尾モフモフはある意味夢の一つだが……。一ノ瀬、その半眼は止めてくれ。なぜか一ノ瀬の半眼は俺の心にグサッと刺さるんだ。
「か、勘違いをしているぞ……俺は何もお尻を見ていたわけではない……」
嘘です。ガン見していました。
「考えごとをしていたんだ」
話を変えよう。一ノ瀬の俺に対するイメージが悪くなる!
「は、ハンナ、これから行く町はどんなところなんだ?」
「はい、エンゲルス連合国という人族至上主義の国との国境に近い町のフィッツバルグという町です。漁港としても有名な町です」
お、漁港か! 海の幸で美味しい料理を作ってやれるじゃないか。
今回は一ノ瀬たちを助けるために急ぐ必要がないので、ボルフ大森林の中を疾走する必要はない。だから、色々な場所を巡ってラーデ・クルード帝国の神殿へ行こうと思っている。
その土地の食材をゲットしようと思ってのことだ。
「漁港!? 美味しいお魚さんが食べたいです!」
「おう、美味い魚料理を食わせてやるぞ!」
「はい、です!」
相変わらずカナンは食欲に忠実な奴だ。それが俺には心地よいけどな。
「ツクル君、話をそらしたよね?」
「な、何を言っているんだよ、一ノ瀬」
半眼で俺を見てくるのを止めてくれ。ごめんよ、もうお尻をガン見しないから、許してくれよ。
「ツクル君、これからどこへ行き、何をするのか聞いてもいいかな?」
うーむ、一ノ瀬に俺の目的について話すべきなのかな?
「何か言えないことをしようとしているの?」
俺が考えていたら一ノ瀬が俺の顔を覗き込むように見てきた。こういう何気ない仕草が一ノ瀬は可愛いよな。
「いや、そうだな……一ノ瀬には正直に話すよ」
「うんうん、私に話してみなさい!」
カナンやハンナと比べると明らかに劣る大きさの胸を張っている一ノ瀬を見ると自然に笑顔になってしまうな。
「ちょ、今、変なこと考えたでしょ!?」
「何も考えてないぞ! 冤罪だ!」
なんで分かるんだよ!? 一ノ瀬は昔からこうだ!
「もう!」
一ノ瀬は両手で胸を隠すようにして、俺を可愛らしく睨んできた。
「ご主人様、胸なら私のを見てください。触っても構いませんから!」
「カナンさんだけずるいです! 私の胸もどうぞ」
カナンとハンナは火に油を注ぐようなことを言うのを止めてくれ! 一ノ瀬はその半眼を止めてくれ。俺が触らせてくれと頼んだわけじゃないぞ!
俺は走り出した。逃走とも言う。
暫く走っていたら、目的の町が見えてきたので走るのを止めた。
そしたら俺の背中にドンと誰かがぶつかってきて、そのあとに「キャイン」と可愛らしい声がした。それが三回続いたのだ。なんで三人とも一列になって俺を追いかけてきたんだよ?
「「「ひたひ……」」」
鼻を抑えた三人が、多分「痛い」と言っている。三人が揃うとポンコツになるのか?
「大丈夫か?」
三人は涙目で頷いた。まぁ、可愛いからいいけど。
「あの町がフィッツバルグか?」
「はい、そうです」
気を取り直してハンナに聞いてみたら、肯定の答えが返ってきた。
人族至上主義の国との国境近くにある町なので、兵士が厳重に門を護っていた。
「お、可愛いお嬢さんたちだ。この町になんの用かな?」
門で検問を受けると、タヌキの獣人が聞いてきた。
「魚が食いたいから来たのです!」
「おぉー、このフィッツバルグの魚は美味いからな! 沢山食って行けよ!」
タヌキの獣人は嬉しそうに魚自慢を始めた。この町の魚が好きなんだと俺にも伝わってくるような熱の入りようだ。
「お~そんなに美味しいのですか!?」
カナンが目をキラキラさせてタヌキ獣人の話に聞き入っている。食べ物のことになると凄く嬉しそうだ。
町に入るとすぐに市場巡りをした。この町で一番水揚げが多いのはアジだと聞いた。アジの開きになめろう、それに刺身でも美味しい魚だ。つみれ汁にしてもいいな。
他にはなんと、鱧があった。漁師が外道として捨てるところだったので、安値で買い取った。鱧は骨切りが大変だけど、骨切りができれば湯引きやお吸い物にいい。考えるだけでもお腹が空いてくる。
宿屋に泊まるのは久しぶりだ。ここまで野宿が多かったからな。
風呂に入りたかったけど、残念ながら風呂はなかった。だから、いつもお世話になっている【クリーン】で体を綺麗にした。女性陣はこの【クリーン】にとても感謝している。やはり汚れとか臭いが気になるようだ。
「よし、魚づくし料理を作るぞ!」
「はい!」
「承知しました」
「私、あまり料理は得意じゃないから……」
なんだ、一ノ瀬もカナンと同じで食べ専か。まぁ、カナンほどは食べないけど。カナンはカレーだと十キログラムは食べるからな……。(遠い目)
「先ずはアジの開きだが、これは俺のスキルで作るから、ハンナは刺身にするアジを三枚に下してくれ」
「承知しました」
ハンナは大振りの四十センチメートルほどのアジを器用に三枚に下し始めた。
ハンナが三枚下しをしている間に、カナンと一ノ瀬にはなめろう用のアジを叩いてもらうことにした。
俺は三人を横目に鱧の骨切りをし始める。骨をしっかりと絶ち、それでいて完全に切れないように力加減を調整する必要がある。骨が残っていると舌触りが悪いので、繊細な包丁さばきが必要だ。
「ご主人様、三枚に下しました」
「おう。じゃぁ、適度な厚みで切って綺麗に盛り付けてくれるか」
「お任せください」
ハンナは手際よくアジの刺身を準備していく。
逆に悪戦苦闘しているのはなめろう組の二人だ。カナンと一ノ瀬はなめろう用に叩いてもらっているが、なかなか手際が悪い。ハンナと比べると天と地ほどの差がある。この二人には料理のセンスがないのが俺でも分かった。
まぁ、なめろう以外で美味しい料理を作ろうと思う。
出来上がったのは、アジの開き、アジの船盛(刺身)、アジのなめろう、アジのつみれ汁、アジのフライ、鱧の湯引き梅肉そえだ。
鱧のお吸い物はアジのつみれ汁があったので次の機会にして、代わりにアジのフライを作った。ちゃんとソースも作ったから、アジのフライも美味しく食べよう!
「すっごーーーい! 美味しそう!」
カナン君、涎を拭きなさい。
「美味しそーーー!」
一ノ瀬もカナンよりだな。最近、イメージが崩れてきたぞ。
「ご主人様、ご飯の量はこのくらいでよろしいでしょうか?」
俺用のお茶碗に少なすぎず、多すぎない、丁度よい量を盛りつけたハンナは俺のことを分かっているな。
「ああ、それでいいよ。ありがとう」
カナンにはどんぶりで山盛りにして渡し、一ノ瀬と自分用には俺よりも小さめのお茶碗に普通盛りにしたハンナが椅子に座ったところで、俺は「いただきます」と言った。
「「「いただきます」」」
三人も俺に続いて合唱をして、箸を料理につけた。
「っ! 美味しい!」
カナンが満面の笑みで食べ進めるが、なめろうを口に入れた瞬間、顔を曇らせた。
「うぅ……美味しくないです……」
それ、お前が作ったなめろうだからな。全部食えとは言わないが、そこまで落ち込むなよ。
「ごめんなさい……」
一ノ瀬がしょぼんとするが、これから上手になればいいから。
「あーこれなら、味噌を足して、こうして……これでどうだ?」
「「っ!? 美味しい!」」
なめろうの味つけをし直して、しっかりと薬味と馴染ませるように叩き直したものを二人の前に差し出したが、それを食べた二人が目を剥いて驚いた。
「美味しいと言ってくれると、食材だって嬉しいだろう。それに沢山食べてくれたらもっと喜ぶぞ」
「「はい」」
素直な二人だ。
俺も食べるとするかな。先ずはハンナがおろしてくれた船盛からだ。うん、美味い。しっかりと身が引き締まっているので、弾力もあるし魚臭さもそんなにない。下ろし方が上手かったから人の手の熱で焼けてもいない。
「ハンナ、この刺身、美味いぞ」
「ありがとうございます!」
いつもクールビューティーなハンナがにっこりとほほ笑んだ。笑顔が可愛い。
次は俺が作ったアジフライだ。ソースを少したらして、かぶりつく。美味い。サクサクの衣に厚みのある身。食べごたえがあるのに、繊細な味だ。
「ご主人様、このアジフライは美味しすぎます!」
ご飯粒を口元につけたカナンがアジフライを褒めてくれた。可愛い顔で愛嬌のあることをするが、これがわざとではないのだから憎めない奴だ。
「サックサックの衣の歯ごたえがいいですね」
一ノ瀬も可愛らしい口でアジフライにかぶりついていた。
つみれ汁は臭みもなく、美味しかった。アジのすり身も程よい歯ごたえで、俺は好きだな。アジの開きは素朴な味でこれも美味かった。そして、鱧の湯引き梅肉そえは鱧の歯ごたえと芳醇な香がよく、そこに梅肉のさっぱり感がいい。
どれも美味しく頂いた。カナンはどんぶりに山盛りのご飯を四杯も食べた。相変わらずいい食いっぷりだ。
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