ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_054_化け物勇者2

 


 討ち捨てられた村。
 小さな小屋のような家が十数軒ある廃村。
 いや、規模的には集落かな。
 その住民もいない集落で夜を迎えた。


 焚火を囲み俺、カナン、ハンナ、イチノセ、フジサキ、化け物勇者たちが夕飯を摂る。
 今夜のメニューはカレーだ。
 カナンの大好物ってこともあるけど、イチノセやフジサキ、それに化け物勇者たちも懐かしい味だろうと思って作ってみた。


「カレーっ!」
「美味い!」
「カレーが食べられるなんて夢のようだよ!」
 皆が喜んで食べてくれた。
 それはいいが、さすがに焚火の向こうに浮かぶ化け物勇者の姿はかなりヤバい。
 小さい子が見たら泣き出しそうな絵面だ。


「これからどうなるのかな?」
 イチノセがスプーンを止めてカレーを見つめながらぽつりと呟いたのが聞こえた。
 日本に戻れる見込みは今のところないけど、暮らすだけならイチノセとハヤマ、そしてフジサキは問題ない。
 問題なのは化け物勇者たちだ。
 この姿では受け入れてくれる場所を探すだけで一生かかってしまいそうだ。


「ご主人様。お代わりをください!」
「おう、食え!」
 カナンにはカナン用の巨大な皿がある。
 その皿にはご飯が四キログラムほどとカレールーがなみなみに盛られているけど、カナンはそれを二杯食べる。
 ルーも含めれば六キログラムは超える量になるだろう。
 あの細い体のどこに入っていくのか不思議でならない。
 もしかしたらあの大きな胸に……イチノセ、睨むなよ……。


 そんなカナンの食べっぷりをハヤマやフジサキ、化け物勇者が見つめる。
 カナンの可愛い顔に見とれているのではなく、食べっぷりに見惚れているのだろう。
 実に気持ちの良い食べっぷりである。


 食事も終わったので、今後のことを決めてもらわなければいけない。
 酷なようだが、化け物勇者たちと行動を共にする気はない。
 自立するのなら支援はするけど、何でもかんでも面倒を見るのは御免こうむる。
 そのことを話すとやっぱり荒れた。
 話が堂々巡りで、まったく進まない。
 だから今日は話し合いを中断して寝ることにした。
 そこでまたひと悶着があった。
 カナンとハンナが俺と一緒の家で寝ようとするのでイチノセが反応したのだ。


「そもそもお二人はツクル君のなんなのですか!?」
「私たちはご主人様の奴隷です!」
「身の回りのお世話をするのが私たちの仕事です!」
 カナンとハンナが胸を張ってイチノセに答える。
 二人は奴隷から解放するって言うのに断るんだよ。
 人聞きが悪いから、あまり奴隷を強調しないでほしい。
 ほら、イチノセが俺を半眼で見てくるじゃないか。


「ツクル君、説明してもらえるかな? 奴隷のこともそうだけど、なんでこんなに可愛い女の子二人が奴隷なの?」
「いや、そのだな……成り行きなんだよ。な、二人とも」
 奴隷はやっぱり人聞きがわるいよな。幼馴染の一ノ瀬だってあまりいい顔はしなかった。


「二人は俺が買おうと思って買ったわけじゃなくてだな、サイドルと伯爵にだな……」
 俺は一生懸命、二人を奴隷にした経緯を説明した。それで一ノ瀬は分かってくれたようだ。


「もう、相変わらずお人よしなんだから……」
「それでもツクル君と二人が一緒の部屋で寝るのはだめだよ」
「もちろんだとも!」
 俺とフジサキが一緒の家で、イチノセはまだ寝ているハヤマとカナン、ハンナの四人で一つの家で寝ることになった。
 化け物勇者はデカくて家の中に入れないので外で野宿だ。雨が降らなくてよかったな。


「スメラギ君、ごめんね。僕なんかと一緒で」
「別に構わないから、気にするな」
 フジサキは意外と喋るようで、この世界に召喚されてからのことを夜中まで話してくれた。
 おかげでラーデ・クルード帝国のことがある程度理解できた。
 俺も色々あったが、フジサキたちも苦労をしたようだ。


 翌朝、外が騒がしいので起きだした。
 外に出てみると化け物勇者の二人が殴り合っていた。
 こんな姿になって色々と不満があるのだろう。鬱憤が溜まっているのだろう。
 うんうん、気が済むまで殴り合えばいい。などと思って生温かい目で見ていたら矛先が俺に向いてきた。
「てめぇだけいい思いしやがって!」
 完全に言いがかりだ。まぁ、いい。ここで力の差という物を教えておいてやろう。
 次々に参戦する化け物勇者をちぎっては投げ、ちぎっては投げて俺は圧勝した。


 折り重なって倒れている化け物勇者たちの上でガッツポーズをしていると……。
「何をやっているの?」
 後ろから声がした。この声はイチノセだけど、その声はとても冷たい物だった。
 俺はゆっくりと振り向く。そこに一ノ瀬とカナン、ハンナがいた。
「いや、朝の軽い運動だよ。な、フジサキ!?」
 俺たちの軽い運動を見ていたフジサキに同意を求める。
「え? 僕? ……そ、そうだね、運動をしていたんだ!」
 フジサキ、お前、キョドリ過ぎだよ! もっと自然に喋れよ!


 イチノセのお小言を聞いた。なんだか久しぶりに一ノ瀬のお小言を聞いたので懐かしさがこみあげてくる。
「あははは、ツクルンも相変わらずだね」
「お、おう。体の調子はどうだ? ハヤマ」
 ヒマワリのような明るい笑顔をしているハヤマも起きていた。
 昨日は死にかけたからか起きなかったが、一晩たったので起きだしてきたようだ。
「ツクルンのおかげでこの通りだよ。本当にありがとうね」
 再生した右腕で力こぶを作るハヤマもつらい思いを何度もしただろうに、相変わらず明るい性格でよかった。


 朝食はアユに似た魚の塩焼きと卵焼き、みそ汁、それから白菜の一夜漬けだ。
「うわ~、この世界で日本食が食べられるなんて思ってもいなかったよ!」
 ハヤマに昨夜のカレーのことをイチノセが話したら自分も食べたいと言い出した。
 残っているからいいけど、朝からお茶碗四杯分は食べ過ぎじゃないかな?
 カナン君、ハヤマをライバル視しないの。間違いなくカナンの方が大食いなんだから。
 え、違うって? 自分の食べる分が少なくなりそうで嫌だって? 沢山あるから大丈夫だよ。


 朝食を食べ終えると、再び話し合いが行われた。
「ツクル君はこれからどうするの?」
「俺? 俺はやることがあるから……」
 復讐をするなんて言うとイチノセが心配しそうだから話を変えてしまおう。
「イチノセとハヤマ、それにフジサキが人里で住めるように支援するのは問題ないけど……」
 俺は化け物勇者たちを見た。
 普通の姿の俺たちの視線が化け物勇者に注がれると十人の化け物勇者はシュンとする。


「サルヤマたちはその姿じゃね」
 ハヤマがストレートに指摘をした。相変わらずの物言いだ。そういうの嫌いじゃない。
「ミキ、そんな言い方は―――」
「オブラートに包んだ言い方だって結局は同じことなんだから、はっきりと今の自分を分かってもらった方がいいよ」
 たしかにハヤマの言う通りだ。回りくどい言い方をすると理解できない奴もいるだろうし、酷なようだがはっきりと言ってやった方がいいと俺も思った。


「俺たちはどうすればいいんだよ……」
「くそーっ! クジョウの奴、今度会ったらぶっ飛ばす!」
「ぶっ飛ばすだけじゃダメだよ! 僕たちをこんな姿にしたんだ、地獄に叩き落としてやる!」
 こいつらは変わらないな。
 クジョウの責任は大きいと思うけど、今はそれよりも今後のことを考えるべきだ。
「クジョウが許せないと言うのならラーデ・クルード帝国の帝都に行ってクジョウをぶちのめすくらいに強くなればいいし、静かに暮らしたいと言うのならどこでどうやって暮らすかを考えればいい。ここでグダグダ言っていても改善はしないぞ」
「ちっ、てめぇはこんな姿になっていないから簡単に言えるんだよ!」
 サルヤマがいきり立つが、他の化け物勇者たちは俺の言ったことが理解できているようだ。


「なんだ、俺に慰めてほしいのか?」
「っ! てめぇっ!」
「止めなよ! ツクル君、もう少し優しく言ってあげてもいいと思うよ」
 はぁ、イチノセのその優しさがこいつらの自立を妨げると気づいてほしい。


「俺の懇意にしている貴族に頼んでやる。俺ができるのはそこまでだ」
 伯爵に頭を下げるのは癪だが、こいつらを受け入れてくれる土地を探すよりは話が早いだろう。
「ただし、それでも町中で暮らすのは難しいだろうから、町から少し離れた場所に暮らせるようにできるくらいだと思う」
 体長が三メートル近い肉の塊のような化け物勇者を受け入れてくれて、住む場所を与えてくれるだけで我慢してくれ。
 それが嫌なら自分でなんとかしろよ。


「俺たちに人もいない場所で暮らせって言うのか!?」
「……」
 サルヤマが噛みついてくる。こいつは本当にバカだ。自分の置かれている立場を分かっていないのはお前だけだぞ。
 他の化け物勇者は俺の提案を受け入れる方向で考えているように見えるぞ。


「俺はスメラギの提案を受け入れる。スメラギ、その貴族に執り成してほしい」
「俺もスメラギの案を受け入れるぞ!」
「僕も!」
 サルヤマ以外の九人が俺の提案を受け入れた。
「けっ! ふざけんなよ! なんで俺が! くそっ!」
 結局、サルヤマも受け入れることになったが、こいつそのうち絶対に問題を起こすだろうと思ってしまう。


「イチノセ、ハヤマ、フジサキはどうする? 三人なら町中で暮らせると思うし、知り合いの商人に頼んで働かせてもらうこともできると思うぞ」
 サイドルならなんとかしてくれるだろう。俺の勝手な思い込みだが、サイドルはそういう人だ。


 

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