ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_044_試練2

 


「……なーなーっふひゃぁーく!はぁはぁ」
「……なーなーっふひゃぁーく、いーちぃぃっ!はぁはぁ」
「……なーなーっふひゃぁーく、にーぃぃっ!はぁはぁ」
 ひたすら世界樹の木刀を振る。
 前回、七百で気を緩めてしまい落としたが、今回は最後まで振り切ってやる!
 ぜってー千回振り切ってやる!


「……なーなーっふひゃぁーく、さーーーーんっ!はぁはぁ」
 無心だ。無心で木刀を振れ!
 重くない。重さなんて感じない!


「……なーなーっふひゃぁーく、ごーじゅーぅーーっ!はぁはぁ」
 何だよこれ……あり得ねぇ―だろ……。
 俺はここで倒れてしまった。
 あと二百五十回で終わるのに、その二百五十回がとてつもなく遠くに感じる。


 全身から汗が噴き出る。
 暫く休み息を整える。両腕が上がらない。
 両腕どころか全身の筋肉が悲鳴をあげている。


「これが……世界樹の試練かよ……」
 まったく、半端ねぇな。
 あの世界樹の木刀はどこまで重くなるんだよ……あのまま行けば数十トンになるよな……。


「ちっ、弱音を吐くな!俺は俺の恨みを、そしてサーニャの恨みを晴らすんだろうがっ!」
 起きろよ、体!
「ぐっ!?」
 焼き肉を食べようと取り出す……。
 しかしこの肉を食ってやり直してもいいのだろうか?
 エントが何も言わないからいいのかもしれない。
 が、そんな軟弱な考えでいいのか?
 あのクソジジィに勝つための試練で楽をしてもいいのか?


「ふっ……俺自身、俺を甘やかしていたようだな……」
 何だかんだ言って俺は甘えていたのかもしれない。
「気合を入れろっ!そんなことじゃクソジジィに勝てねぇーぞっ!」
 鉛のように重い体、少しでも動かすと節々が悲鳴をあげる俺自身の体を鼓舞する。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「無理です~イナゴの佃煮ってなんですか~」
 アリライスを三度目のチャレンジで完食して終わったと思ったのにイナゴの佃煮が出てくるなんて聞いてないです~。
 何ですかこれ、バッタですよね?何でバッタなんて食べるのですか?
 おかしいですよ!バッタは昆虫であり食べる物じゃないと思います……。


「あ……足も付いています……アリの卵はアリの卵じゃなくて普通の卵って考えてやっと食べたのに……」
 そのままの姿のイナゴを食べるなんてできないです~。


 イナゴを箸でつんつんとつっついたりしても食べられるようにならないと思いますが、躊躇しちゃいます。
 最近はご主人様の故郷の食器である箸も使えるようになりました。
 慣れてしまえばとても使いやすい箸ですが、それとイナゴの佃煮は話が別です。
 どうしたら食べることができるのでしょうか?


 私が躊躇していると砂時計の砂が全部下に落ちてしまいました。
 砂時計の砂が全部落ちると料理が消えてドームカバーが現れます。
「無理ですよ~……」


 私はイナゴの佃煮を食べる決心がつくまで立ち上がりテーブルの周囲をウロチョロします。
 完食した時は椅子を離れなくても連続で食べることができるようですが、失敗すると連続では食べられません。
 だから席を外さなければならないようです。


「ふ~、行きます!」
 椅子に座りドームカバーを開けます……嘘?
 ドームカバーの中から出てきた料理はアリライスです。
「何故?」
 せっかく、アリライスを食べきってイナゴの佃煮に進めたのに……。
 まさかとは思いますが……失敗すると最初からなのですか?


「はぁ~」
 ため息しか出ません。
 何だか出鼻を挫かれてしまいました。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ハンナ、何故俺の命令が聞けない!?」
「お姉ちゃん、何で分からないの!?」
 あぁぁぁぁぁ、私はどうしたらいいのでしょうか!?


 ご主人様の命令は絶対です。
 でもサーニャを殺すなんて私にはできません。
 逆もそうです。
 ご主人様に牙をむけるなんて絶対にできません。
 私はどうすればいいのですか?
 あぁぁぁぁぁぁ……どうしたらいいのですか!?


「ハンナ!俺の命令が聞けないのなら、もう主人でも奴隷でもない!」
「ご、ご主人様!?」
「俺はお前が毒を盛っても許したんだぞ!」
「そ、それは分かっています!」
「なら何故ハンナは俺の敵を殺さないんだ!?」
「そ、それは……」
 何故ご主人様とサーニャが敵対しているのですか?
 私には地獄のような状況です。
 ご主人様には返しても返しきれない御恩があります。
 でもサーニャはこの世でたった一人の私の妹なのです。
 どうしてこんな状況になってしまったのですか!?


「お姉ちゃん、あいつは私たち姉妹のご主人様じゃないの。あのご主人様は偽物なのよ!」
「サーニャ、ご主人様になんてことを!?」
「私たちのご主人様が私を殺せなんて言うわけないよ!」
 そ、それは……そうだけど……。


「騙されるな、ハンナ!そいつはサーニャの姿をした偽物だ。サーニャは死んだんだぞ!」
 そ、そうです。サーニャは死んだのです。
 でもあの匂いは間違いなくサーニャなのです……。
 私はいったいどうすればいいのですか!?


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「三人とも苦しんでいるようですね……」
『っほ、っほ、っほ、苦しんだ先にこそ道が開けるものだ』
「分かっております。しかしツクルは……いえ、あの三人は必ず試練を乗り越えて私の元に戻ってきます」
 正直に言うと三人全てが試練を乗り越えることは難しいでしょう。
 しかしツクルは私を殺した男ですから、必ずこの試練を乗り越えてくるものと考えて待っていましょう。
『っほ、っほ、っほ、随分を三人を買っているようだな。アンティアがここまで執着するのは珍しいの。っほ、っほ、っほ』


 試練は身体的な能力を伸ばす意味合いよりも精神を鍛える意味合いが強い。
 どんな逆境に陥っても諦めない強い心を作るのが試練の本来の目的です。
 しかし精神を鍛えるのは体を鍛えるよりも難しいのです。
 下手をすれば精神が崩壊して廃人となることも少なくない。


「暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬」
 これはこの試練で課せられる課題です。
 ツクルならテマスに対する怒りを、憤怒をどう乗り越えるか。
 カナンであれば食に対する欲求を、暴食をどう乗り越えるか。
 ハンナは自分では気付いていないようですが、嫉妬をどう乗り越えるか。
 三人に課せられた試練はどれも一癖も二癖もあるものです。


『大罪を乗り越えねばあの者たちに未来はこぬわ』
「分かっています。三人は必ず試練を乗り越えエント様の元に現れるでしょう」
 誰が試練を乗り越えるのか……。


 この世界樹は世界そのもの。
 世界樹が世界を支え、世界が世界樹を作る。
 エント様はその世界樹の精霊。
 エンシェントエルフである私をお創りになられた存在。
 至高にして尊いお方。


『そう言えば、ノーマの小倅が動いたそうだな?』
 ノーマの小倅とは人族と人族の長であるエンシェントヒューマンのテマスのことです。
「はい、アルスガルズ神より与えられた魔法陣を使い異世界の者を召喚しております。ツクルも異世界より召喚されし者の一人です」
『それだけではなかろう?』
「はい、テマスが我らが聖地、ボルフ大森林へ立ち入っています」
『ノーマの小倅め、我らの聖域を犯すとは舐めたことをする。しかも最近は我が子たちだけではなく、フェリクスやフラウの子らとも敵対しているのであろう?』
 フェリクスの子はドワーフ族、フラウの子は獣人族を指します。
 人族は人族至上主義を掲げ我らの子らを迫害しているのは確かです。
 我らがいがみ合えば、あの者たちにつけ入る隙を見せることになり、またラグナロクが起きるかもしれないと言うのに……。
 愚かなことだと気づかないのでしょうか。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 二人の男が剣を合わせて鍔迫り合いをしている。
 一人は立派な鎧を身にまとい、一人は傷だらけの古ぼけた鎧を身に着けている。
 立派な鎧の男は鍔迫り合い中も笑顔を見せるが、古ぼけた鎧の男は額から汗を流して歯を食いしばって剣に力を込める。


「クジョウ殿、力任せでは剣は上達しませんぞ」
「くっ、分かっています……よ!」
 剣を引き相手の体勢を崩そうとしたのは古ぼけた鎧を着たヒデオ・クジョウである。
 対する立派な鎧の男はラーデ・クルード帝国で騎士団を預かるデールスタックである。


「その程度で私の体勢は崩れませんぞ」
「はぁ、はぁ、うりゃぁぁっ!」
 ヒデオは目にも止まらないスピードでデールスタックに斬りかかるが、デールスタックは涼しい顔をしてその剣を受ける。


「か、片手で……」
「不用意に飛び込んでも状況を打開できませんぞ」
「まだまだぁーーーーーーっ!」
 剣と剣がぶつかり合う音が訓練場に響き渡る。
 ヒデオの剣はデールスタックに尽く受けきられる。
 しかし今のヒデオの相手ができるのはこのデールスタック以外にいない。
 既にラーデ・クルード帝国の騎士団員ではヒデオの相手ができなくなっているのだ。


 日が暮れる頃、訓練場の地面に大の字になって荒い息をするヒデオの姿があった。
 その傍にはデールスタックが佇み、ヒデオを見下ろす。


「今日はこれまでにしましょう。クジョウ殿」
「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございました……」
 この世界に召喚されてから半年以上経つがデールスタックにだけは勝てない。
 悔しくて悔しくて仕方がない。


「その悔しさがクジョウ殿を成長させるのです。悪いことではありませんぞ。しかし遮二無二剣を振るだけでは成長は望めません。考えなされ」


 考えて勝てるなら幾らでも考えるだろう。
 しかしあのデールスタックにはどんなに考えても、どんなに強くなっても追いつかないと思わせる雰囲気があった。
 とてつもなく高く、そして険しい山を登っているような錯覚を覚えるのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 次から次に運ばれてくる怪我人。
 その怪我人を治療する少女。
 彼女は勇者としてこの世界に召喚された一ノ瀬涼乃である。
「彼の者の傷を癒せヒール」


 傷が癒えるとまた訓練に戻っていく勇者の姿を見送る。
 そんな日々がもう半年以上も続いている。
 そして、来週からは本格的にダンジョンに入ることになっており、勇者たちも気合が入っている。


 訓練が終わると勇者専用の食堂で食事を摂る勇者たち。
 今日も沢山の怪我を治したスズノは机の上に積まれた料理を見てため息を吐く。
「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ」
「何でもないという顔じゃないよ?言ってみなよ」
 スズノに話しかけるのは親友の葉山美紀だ。


「彼のこと考えていたんでしょ?」
「え、う、うん。いつになったら会えるのかな……って」
「厳しいよね。今どこにいるかも分からないし……」
「うん……」
「元気出せなんて言わないけど、ご飯はしっかりと食べようよ!いつか彼と会えると思ってさ。ね?」
「うん、そうだね」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁぁぁぁぁっぴゃく……」
 意識が飛びそうだ。
「はぁぁぁぁぁっぴゃく、いぃぃぃぃぃっちぃ!」
 気を緩めるな! 気を緩めたら一瞬で無に帰するぞ。
「はぁぁぁぁぁっぴゃく、にぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!」
 俺はやり遂げるんだ!


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うぷっ」
 食べた物が口から出てきそうです。
 アリライスを食べきり、イナゴの佃煮を食べきり、カエルの姿煮……。
「あははは……私は何を食べているんだろ……?」


 巨大なバッファローフロッグの姿煮を食べつくしてもまた次の料理が出てくるのですよね?
 いったいどれだけのゲテモノ料理が出てくるのですか?


「あはははははははは…………………………はぁ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ハンナさん、この二人はご主人様でもサーニャちゃんでもありません!」
「何を言っているんだ、お前こそカナンではないだろ!」
「そうです、カナンさんはもっと綺麗なのです!」
「言うに事欠いて私が不細工だなんてどの口が言うのですか!?骨も残らない程に燃やし尽くしますよ!」


 ……カナンさんまで現れてしまいました。
 ……何で三人はいがみ合うのですか?
 ……何で三人はお互いを偽物と言うのですか?


「私には分かりません……どうしたらいいのですか……」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 木刀を振り続ける。
 どれほどの時間が経ったのかも分からない。
 この木刀はどこまで重くなるのかも分からない。
 一トンや二トンじゃないだろ……。
 俺じゃなければ振ることもできないだろう……そうだ、俺だけしか振れないんだ。


「きゅぅぅぅひゃぁぁぁぁっく、はぁぁぁぁちぃぃぃぃじゅぅぅぅななぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺はやりきる!
 決して諦めない!
 決して折れない!
 決して壊れない!


「きゅぅぅぅひゃぁぁぁぁっく、きゅぅぅぅぅぅじゅぅぅぅぅごっ!」
 誰も俺を、俺を止めることはできない!
 俺はあのクソジジィをぶっ倒すんだ!


「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっんっ!」
「はぁはぁはぁ、やったぞ千回だ!俺はやったんだ!」
 地面に大の字に倒れた俺はとにかく肺に空気を取り込む。
 激しい呼吸とは逆に手足はピクリとも動かない。


 俺の横にはあの忌々しい木刀が転がっている。
 その木刀の柄には真っ黒な跡が見える。
 俺の両手の皮はとっくに剥がれている。
 血だらけの手で持てばあのようになるのだろう。


『ツクルよ、よくぞ試練を乗り越えた。さぁ、進むが良い』
「エント……か」


 今まで真っ暗で数メートルの視界しかなかった周囲がパーッと明るくなる。
 思わず目を抑えてしまうほどに眩しかった。
「少しは休ませろよな……」
 光の道ができて俺に進めと言っている。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 カエルの姿煮の次は何ですかこれは……。
「く……も……?」
 大きいクモです……。
 クモの姿焼きです……。


 ゲテモノ料理もここまでくると諦めがつきます。
 私を甘く見ないで下さい!


「はむはむ、かみかみ……」
「意外と美味しいじゃないですか!」
 私は何も考えずにひたすらクモの姿焼きにナイフを入れ、フォークで肉を口に持っていきます。
 何も考えなければどーってことはありません!
 私に食べきれない物なんてないのです!


「……ケップ……やりました。食べきりましたよ!」
 さぁ、次は何ですか!?
 私は次の料理が出てくるものと思い身構えます。


『試練を乗り越えし者よ、よくやった』
「へ?」
『さぁ、進むが良い』
 目の前に光の道ができました。
 私はゲテモノ料理を食べきったのです……か?




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ハンナ、この二人を殺せ!」
「お姉ちゃん、この二人が偽物なの。殺すのはこの二人よ!」
「ハンナさん、この二人こそ偽物です。ぶっ飛ばしてください!」
 三人が三人ともいがみ合っています。
 こんな三人、私が知っている三人じゃありません!
 ……おかしい……何で三人はいがみ合うの?
 ……私が知っている三人はお互いを思いやって、笑いあうような人たちです。
 なのに何でいがみ合っているの?


「ハンナ!」
「お姉ちゃん!」
「ハンナさん!」
「……貴方たちは本当のご主人様ですか?サーニャですか?カナンさんですか?」
「「「何をいっている(の)」」」
「私の知っている三人はこのようないがみ合いをする人たちではありません!」
 ビシッと指を指され三人は顔を見合わす。


「容姿、声、匂い、どれをとっても本物ですが、貴方たちには思いやりの心がありません!本物の三人であれば人を思いやる心があります!だから三人とも偽物です!」
 ハンナが言い切ると三人の姿が消える。


『試練を乗り越えし者よ、進むが良い』


 パーッと光の道ができる。


 

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