ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_042_サーニャ

 


 三体のエンペラードラゴンを倒した俺はカナンたちが戦っている戦場に向かった。
 気配で分かっていたが、あちらの戦いも終わりに差し掛かっているようだ。


「はぁはぁ、これで終わりです!」
「こっちも終わりだよ!」
 丁度、ハンナ、サーニャのケモミミ姉妹が最後の魔物を倒したところだった。
「ご主人様!?」
 二人を後方から援護していたカナンが俺を見ると走り寄ってきた。
「ご苦労だったな。怪我はないか?」
「はい、怪我はありません!ご主人様もご無事で何よりです!」


 カナンと話していると戦いを終えたケモミミ姉妹も近寄ってくる。
「ご主人様!ご無事でしたか、良かったです!」
「ご主人様、お帰りなさい。お姉ちゃんの方が疲労困憊の状態だよ?」
 クールビューティーのハンナが妹に突っ込まれている。
 なかなかにシュールだ。


「サーニャの言う通りだな。ハンナの方が疲れ切った顔をしているぞ」
「そ、そんなことはありません!」
 俺の言葉にあたふたして顔を手で触るハンナの意外な一面を見た気がする。


「取り敢えず素材を回収したら休憩にし―――――」
 ここで俺は悪寒を感じる。
 カナン、ハンナ、サーニャの三人も俺同様に何かを感じたようで、ケモミミ姉妹の方は耳を折りたたみ尻尾を股の間に挟んでいる。
 カナンも真っ青な顔色となり歯がカチカチと鳴っている。


 俺は嫌悪感漂う方向に体を向ける。
 そこには一人の人族が悠然と歩いてこちらに近づいてきていた。
 声にならない。
「……」
 馬鹿らしいほどの威圧。
 強くなったから分かる部類の恐ろしさ。
 それが目の前の人族が持つ雰囲気なんだろう。


「ほう、辺境の森が騒がしいからエルフどもが騒いでいるのだと思ったら人族……獣人もいるか」
 しわがれた声の老人。忘れもしない声。
 パッと見は腰の曲がった好々爺。忘れもしない姿。
 クソジジィだ。


 何故ここにクソジジィがいるんだ?
「ほほほ、そんなに怖がらなくても良いぞ」
 俺が生きていることを知っているのか?
 それで俺を始末しにきたのか?


「小僧、そんなに怯えるでない」
 怯える?
 俺がクソジジィを?
 よく見てみると俺の手が震えていた……。
 そうか、俺はクソジジィを怖いと思ってしまったのか。
(どうしたのだ?心臓が爆発しそうなくらい打っているぞ?)
(これから会いに行こうと思っていたが、向こうからやってきてくれたんだ、嬉しくて心臓も爆発しそうだぜ)
(ほう、ではあれがツクルの言っていた?)
(ああ、クソジジィだ!)
「ふ、ふはははは、あーはははっはは!」
「恐怖で気でも触れたか?」


 ほざいていろよ!
 これは怖くて震えているわけじゃない!
 これはこれからクソジジィをぶちのめせると気が高ぶっているんだ!
「あんた、帝国から態々ここまでやってきたのか?」
「小僧、わしが帝国の者だと何故しっているのだ?」
 そうか、このクソジジィは俺をこのボルフ大森林へ捨てたことも忘れているのか。
 俺を忘れるとはいい性格しているぜ。
 上等だよ、その傲慢な鼻っ柱をへし折って俺のことを思い出させてやる!


「ぼけ老人に話してもすぐに忘れるだろ」
「わしを馬鹿にするか。命が要らないようだな」
 ピクリと薄い眉毛を動かしたことから馬鹿にされるのは慣れていないようだ。
「帝国では随分と猫を被っているようだな。喋り方が全然違うぞ」
 そこで俺の目の前の地面が隆起してきて槍のように先が尖った土は俺の腹を串刺しにしようとする。
 が、俺はそれを躱して横に飛ぶ。


「カナン、ハンナ、サーニャ、下がっていろ!」
「し、しかし」
「邪魔だ!」
「っ!……」
 何とか口がきけたカナンにキツイことを言ってしまったが、目の前にいるクソジジィは俺が思っていたようなモブじゃなかった。
 こいつはアンティアと同格の化け物だ。
 そんな化け物を相手にして三人を気遣ってやれるほど今の俺は強くない。
 だが、ここで会ったが百年目、クソジジィをぶちのめす!


「小僧、望み通り殺してやるわ!」
 地面がいくつもの隆起し俺に襲い掛かってくる。
 これがクソジジィの魔法、【大地魔法III】だ。




 氏名:ハーゲン・テマス
 種族:エンシェントヒューマン レベル四百二十
 スキル:【格闘術II】【気配感知II】【大地魔法III】
 ユニークスキル:【大地を支配する者】
 エンシェントスキル:【第二の命】
 能力:体力EX、魔力S、腕力S、知力C、俊敏A、器用B、幸運E
 称号:始祖人族、試練を課す者




 アンティアよりわずかにレベルが高い。
 しかも『体力EX』だから簡単にはダメージは通らない。
 一瞬の隙をついて必殺技を叩き込むか……いや、ダメだ。
 クソジジィも【第二の命】を持っている以上、アンティア同様に生き残るだろう。
 ここは【解体】の連打に限る!
(私を使わないのか!?)
(お前を使っても命が二つあるクソジジィには通じないんだよ!)
(ならば二度倒せばよいではないか!)
(レベル四百二十の化け物に二度も隙が生まれると思うか?)
(隙がないなら作るまで!それができなければいつまでたっても格上とは戦えないぞ!)


 黒霧の言うことは分かる。
 分かるが、そんなに簡単なことじゃないんだよ。
 隆起する大地を避けながらクソジジィの隙を窺う。
 早く殴りたい。
 蹴っ飛ばして顔面を踏みつけてやりたい。
 くそ、邪魔な【大地魔法III】だ。


 次から次へと襲い来る大地の向こうでクソジジィが鼻くそをほじっているのが見える。
 調子に乗りやがって!
(いかん!)
 クソジジィの態度に冷静さを欠いてしまった俺は後方からの攻撃に対応することができずに左足に激痛が走る。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
 大地の槍が俺の左足の太ももに突き刺さったのだ。
 それを機に二本目、三本目と俺の体に大地の槍が刺さる。
「ぐほっ」
「ほほほ、坊主、その程度か?」
 余裕をかましているクソジジィの悦に浸った顔がムカつく。


「「「ご主人様!?」」」
「く、くるなっ!」
 カナンたちが涙目で叫んでくれた。
 俺にはこんなところでクソジジィにやられてやることはできないんだ。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 三本の槍を気合で吹き飛ばし瞬時に焼き肉四切れを口に入れむしゃむしゃと頬張る。
 一瞬で俺の体に開いた穴は塞がり完全回復した俺をみてクソジジィが驚いた顔をする。
「ほう、傷口が塞がっているか。何をしたのだ?」
「俺の前で土下座したら教えてやるよ」
「ほほほ、まだ実力差が分かっておらぬようだな」
 今度は目にも止まらぬ速さで何かが飛んできた。
 それは俺の肩を貫通して後方の大木にも風穴を開けていた。
 拙いと思った俺は【鉄壁】を発動し焼き肉を二切れ食べる。
 次から次へと襲い来る飛翔物体を【鉄壁】が防いでくれ俺の体に開いた穴は塞がる。


「ふむ、何かを食べて回復しているようだな。
 このクソジジィは【大地を支配する者】というユニークスキルを持っているだけあって半端ない攻撃を繰り出してくる。
 だから【鉄壁】が有効なあいだに突撃をする。
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
(闇雲に突っ込むな!)
 黒霧が何か言っているようだが、聞こえなかった。
「死ねや、クソジジィィィィィィッ!」
 安っぽい仁侠映画の一シーンのように黒霧日本刀を持った俺がクソジジィに突撃する。


「ぐはっ!?」
 何が起こったか分からない。
 しかし俺が何かに吹き飛ばされたのは分かる。
「遅いぞ、小僧」
 吹き飛ばされ何度も何かが俺に当たる感触があった。
 だが、それは【鉄壁】によって守られた俺にダメージを与えることはない。
 そう、【鉄壁】の効果が消えるまでは……。
「ぐはっ」
 空中で飛ばされていく中、効果の切れてしまった【鉄壁】の代わりに【絶対防御】を発動させる。


「なんだ、まだ防御系スキルを持っていたか」
 クソジジィは余裕をぶっこいている。
 くそ、何で届かない。
 ほんの一瞬でもいいんだ、クソジジィに触れさえすれば……。


 地面に叩きつけられた瞬間にその地面から槍が現れ俺を串刺しにしようとする。
 体勢を整えようとしても次から次に現れる槍に突かれビリヤードの玉のように翻弄される。
「くそうぜーっ!」
 次から次に現れる槍を【覇動】で破壊し、なんとか体勢を整える。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 ここまで追い込まれることは今までも何度もあった。
 これがクソジジィじゃなければここまで腹が立たなかっただろう。
 だが、今はクソジジィに辛酸を舐めさせられている。屈辱だ!


「ほう、【覇動】か?何故小僧のような矮小な者が【覇動】を使えるのだ?」
「はんっ、矮小って言う奴が矮小なんだよ!」
 子供の口喧嘩だな。と自分で苦笑いが出る。


「そろそろ面倒になってきた。小僧、覚悟は良いな?」
「さんざんやっといて覚悟もへったくれもあるかってんだ!」
「ほほほ、確かにそうだな!」
 全方位から槍が襲い掛かってくる。
 いや、上だけは開いているので上に飛びのく。


「かかったな」
「何!?」
 そこに高速飛翔物体が。
 俺の体が蜂の巣のように穴だらけになっていくのを感じる。
「ご主人様!」
 何かが俺の前に……おい、ちょっと待て……何だよこれ……。
「「サーニャ!」」
 え?サーニャ?
 どさりと地面に叩きつけられ更に俺の上に何かが落ちてきた。


 時間が止まったような感覚だ。
 僅かな時間なんだろうが、俺はその物体がサーニャだと分かってしまった。
 体中が穴だらけで首がない胴体。
 何でサーニャが……。
「さ、サーニャ……」
 呼んでも返事はない。
「何してるんだよ……おい、返事をしろよ!」
 返事ができるわけがないんだ。
「おい、サーニャ……首……はどこだよ……」
 クソジジィの攻撃を俺の代わりに受けたのだから胴体が残っただけでも幸いなのかも知れない。
 何言っているんだ、俺は。
「く……び……首がなけりゃ焼き肉が食わせれないだろ……」
 おい、サーニャ、何とか言ってくれよ。


「ほほほ、獣人如きが主人を守るか。下郎のくせに見上げた忠義よな」
 はぁ?何フザケタこと言ってるんだよ!
 貴様に何が分かるんだよ!
 サーニャは長い間、投獄されやっと自由の身になれたんじゃないか!
 何でお前がそんなに偉そうに喋っているんだよ!


「やっと……やっと自由になれたのに……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 この身がどうなろうが知ったことか!
 クソジジィを殺してやる!


「殺す!クソジジィを殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!」


「ご主人様、いけません!」
「ここは撤退するべきです!」
 はぁ?何言ってるんだよ!
 俺に縋り付いて引き留める二人を払いのける。
 サーニャが殺られたんだぞ!
 何で二人はそんなことが言えるんだよ!
「「ご主人さま!!」」
「黙れ!サーニャが殺られたんだ!このまま引けるかってんだ!」
(この馬鹿者が!冷静さを失った貴様にアヤツを殺せるわけがないだろ!)
「黙ってろよ!」


 俺は尚も止めようとする二人を引きはがし黒霧を構え走り出す。
 しかしそれはかなわなかった。
 俺を押しつぶすほどのプレッシャーが放たれたからだ。


「何やら騒がしいと思って来てみれば……テマス、これはどういうことですか?ここがエルフの聖域だと知っていますよね?」
「ほほほ、アンティアか、久しいの。わしはじゃれつく捨て犬を躾ていただけじゃ」
 アンティアの奴、俺限定でプレッシャーを放っている。
 おかげでそのプレッシャーに耐えるだけで精いっぱいだ。


「その者は私の客です。テマスの好きにして良い者ではありませんよ」
「ほほほ、分かったわい。小僧、命拾いをしたな」
 そう言うとクソジジィは地面の中に消えていった。
「ま、待て!」
「「ご主人様、ダメです!」」
「待てって言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺はクソジジィが消えていった地面をまるで親の仇のように見つめる。


「落ち着きなさい」
「何でだ、何でクソジジィを逃がした!」
「冷静になりなさい!」
 パシッと俺の頬を平手打ちするアンティア。
「くっ……」
「今のあなたではテマスを倒すことはできません。それくらいは分かっているはずです」
「ぐぅ……」
(ぐぅの音はでたか。だが、このエルフの言うことは正しい!)
「……」
「少しは冷静になったようですね。……ところでその獣人の娘をそのままにするのですか?」
「はっ!?」
 サーニャ……。


「その娘を弔ってやらなくて良いのですか?」
「「ご主人様……」」
 ああ、そうだな……サーニャを……ちゃんと弔ってやらないとな……。


 

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