ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_036_敗北

 


「カナン、俺は少し外すが町までこいつらの引率を任せても大丈夫か?」
「え?……はい、大丈夫ですが……ご主人様はどちらへ?」
「ちょっと野暮用ができた」


 ゴリアテたちをカナンに任せて俺は走り出す。
 帰るだけならカナンでも面倒を見れるだろう。
 ここら辺にいる魔物ならカナンの魔法で殲滅できる。


 木々を躱しながらボルフ大森林の奥へと向かう。
(これはなかなかに面白そうだな)
 黒霧の奴は妙にウキウキしていやがる。
 俺は森の奥に行くにつれ背中に冷や汗をびっしりとかいている。
 走っているから汗をかいているわけではない。
 レベル三百を超えた俺にこれほどの悪寒を与える奴がこの先にいるのが気配で分かるからだ。


 本当は逃げ出したい。しかしこの先に物凄い数の魔物が集まっているのが分かる。
 数がいるだけで魔物自体は大した存在じゃないのは分かるが、一体だけ恐ろしく強い存在感を放っている奴がいる。
 下手をすれば……いや、おそらく俺よりも強い奴がいる。


 そんな危ない奴がいるのに何故そっちへ行くのか。
 それは魔物が徐々にアルグリアへ向かっているからだ。
 少し前から感じていた気配が次第に近づいてくる。
 もし魔物がアルグリアに向かっているのであれば、アルグリアはひとたまりもないだろう。
 レベルが百以上の魔物に対抗できる奴なんて俺とカナンしかいないからな。


 あの町には世話になった人たちがいるから。このまま魔物を放置するのは流石に無理だ。


「行きたくねぇ~な~」
 本音が出てしまった。
 自分より強いやつがいるのに何で行かなきゃならないんだよ~。
 俺の性格が恨めしい。
 それに【野生の勘】が行けっていっている気がするんだよ。
 今まで何度も俺を助けてくれた【野生の勘】を信じたい気もするしな。


 魔物がアルグリアへ向かわずにボルフ大森林内で集まっただけならどれだけいいか。
『なんだ、弱気だな。まぁ、この圧力だ、ツクルより強いのはほぼ確定だな』
 そうなんだよな、俺より強い奴が一体いるんだよな。
「気軽に言ってくれるな」
『ははは、私はツクルがより強くなる為の試練だと思っているぞ』
 黒霧は勝手に盛り上がっているが、俺的にはそんな試練なんて要らないぞ。


 ドンッ。黒霧と話しているとまるで壁に出もぶつかったような衝撃を受け足を止める。
「くっ!?」
 思わず片膝をついてしまう。
 初めからヤバい気がしていたが、本当にヤバそうだ。


「あら、何か来たと思ったら人族ですか?」
 急に話しかけられビクッとする。
 ボルフ大森林で俺と話が通じるやつなんて今まで黒霧以外にいなかった。
 そして今、俺の目の前には空中からスーッと降りてくる女性の姿がある。
 見た目は人族の女性。
 容姿が半端なく良い。
 長くて綺麗なストレートの銀髪をゆらゆらと揺らしながら降りてくる。


「あなたがこの森を荒らした張本人ですか?」
 森を……荒らした……だと?
 俺は強まる圧力に逆らうように足に力を入れ立ち上がる。
「あら、立てるのですね。面白いわ。うふふふ」
「くっ!?」
 圧力が更に強くなる。
 歯を食いしばり耐える。
 一瞬でも気を緩めればあっという間に意識を持っていかれそうなプレッシャーだ。


「そろそろ私の質問に答えて下さいな。この森の番人であるエンペラードラゴンを倒したのはあなたですか?」
 エンペラードラゴン……森の番人だと?
 エンペラードラゴンはダンジョンボスじゃないのか?
「……エンペラードラゴンを倒したのは俺だ……お前は何者だ?」
「そうですか、あなたがあの子を……人族がどのようにあの子を倒したのか興味がありますね」


 ちっ、俺の質問は無視かよ。
(あれはエルフだな)
(エルフ?そう言えば耳が長く尖っているな)
(おそらくはエンシェントエルフだ)
(エンシェント……太古のエルフ?)
(エルフの原種にして始祖のエルフだな。ただのエルフでも数が少なくて珍しいのにエンシェントとは、当たりを引いたな!)
 声高に笑う黒霧。
 めちゃくちゃ嬉しそうだな。俺は嬉しくないぞ。


 それはいきなりだった。
 【野生の勘】が悲鳴のような警鐘を鳴らさなかったらヤバかった。
 無意識に黒霧を抜いて防御しなかったら今頃俺の体は真っ二つになっていただろう。
 目の前のエンシェントエルフは俺に向かって風の刃を飛ばしてきたのだ。
 無意識に防いだが、それでも俺の左腕は大きく切られもう少しで完全に切断されるところだった。


「問答無用どころかいきなりだな!」
「ほう、あれを防ぎますか。面白い。あなたは本当に人族ですか?」
「人の話は無視か!?」
「五月蠅いですね。いいですか、この森は我らエルフの聖域です。そこに無断で入り込んだあなたは問答無用で有罪なのです!」
 あ~これは、言葉を理解できるのに通じないってやつだな。


「だったら看板でも立てておけよな、それにこの森がお前の土地だと俺は認めていない!」
「あははは、口は立つようですね!」
 その瞬間にまた見えない風の刃が飛んできた。
 話している間に左手の傷は【超再生】の効果で完治しているが、また切られてはたまったもんではない。
「ハッ!」
 黒霧を一閃し風の刃を打ち落とす。


「愚かな人族。苦しまずに死ねたものを」
「うっせー!こっちは死の間際まで行ったことは一回や二回じゃないんだ。簡単には死なねぇぞ!」
(右だ!)
 ちぃぃぃぃっ!
(左!)
 くそっ!
 エンシェントエルフの奴、詠唱もせずに連続で致死性の魔法を放ってきやがる。
 だが、俺だって伊達に剣聖なんて称号があるわけじゃないんだ!
 格上が相手だろうと、俺と黒霧のコンビは最強だ!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
 無数に飛んでくる風の刃を躱し、上空にいるエンシェントエルフに迫る。


「甘いですよ」
「ぐはっ……」
 目の前に現れた竜巻に弾き飛ばされ俺は地面にたたきつけられる。
 竜巻に弾き飛ばされたときに細かい風の刃によって無数に切り付けられ全身から血を流す。
 死熊のコートを始めとする着ていた装備が見るも無残なボロボロ状態だ。
 ……何だかこの森に捨てられた頃を思い出す姿だ。
 あ~、あの頃のことを思い出したら無性に腹が立ってきた。


「ペッ」
 俺は立ち上がると口の中の血と砂が混じった唾を吐く。
 そして偉そうに俺を見下ろすエンシェントエルフに目をむける。




 氏名:アンティア
 種族:エンシェントエルフ レベル四百十五
 スキル:【危機感知II】【魔力感知II】【暴風魔法III】
 ユニークスキル:【風を支配する者】
 エンシェントスキル:【第二の命】
 能力:体力S、魔力EX、腕力C、知力B、俊敏A、器用C、幸運D
 称号:始祖エルフ、試練を課す者




 む?種族だと?
 このアンティアというエンシェントエルフは魔物と同じ表記か。
 しかもレベルが四百十五って俺より百も上じゃねぇか!
 はぁ、勝てる気がしなかったのはこのせいかよ。
 それにユニークスキルだけじゃなく、エンシェントスキルの【第二の命】、称号の試練を課す者って何だよ?
 わけ分からん!


「何かしましたか?う~ん、鑑定系のスキルでしょうか?」
 アンティアには鑑定系のスキルがないので俺のステータスは分からない。
 相手の強さは感覚でわかるのだろう。
 それに鑑定系のスキルを使われたことも分かるようだ。
 しかしアンティアのステータスが分かっても、どうやればアンティアに勝てるか思い浮かばない。


「まったく、私の問いを無視しますか。もういいです。死になさい」
 アンティアが手を初めて動かした。
 そして俺の周囲に無数の竜巻が発生し俺を襲う。
「黙ってやられるほど俺は甘くねぇぞ!」
 とアンティアに言うよりは自分自身を鼓舞するかのように気炎を吐く。


 目の前に迫る竜巻の中に突っ込む!
 この際に【鉄壁】を発動しダメージを無効にするが、おかげで俺が身にまとっていたボロボロの装備が全てはぎ取られてしまった。
 いわゆるフルチンってやつだ。


 フルチンで黒霧だけ持っている俺ってどうなの?
 絶対怪しいよな!
 【素材保管庫】から予備の装備を取り出して着る。
 スッポンポンだから取り出すのと着るを同時に行う神業を発動した!
 ズボン、シャツ、ブーツだけだが、これなら絵面的に問題ないだろう。


「む!?どこに行ったのですか!?」
 アンティアはきょろきょろと周囲を窺う。
 先ほどまで俺を睨みつけていたのに、いきなりきょろきょろとする。
 いったいどうしたというのだ?


 ……これって……あ~あいつか……変出者……嬉しくない称号。
 竜巻の中を強行突破したときに存在のゴールドリングが壊れ、服を着たことで俺の存在感は路肩の石程度になってしまった。
 存在がいきなり路肩の石になってしまったので俺がどこにいるのか分からないってやつか……嬉しいのか、嬉しくないのか、びみょぉ~だな。


 しかしこれはチャンスだ!
 やられてばかりは俺の性に合わない!
 闇の中に入りアンティアの傍に移動する。
 そしてアンティアを【解体】!
 と思ったら避けやがった!?


「何をしたかは分かりませんが、見えないなら見えなくても構いません!」
 アンティアの周囲に爆風が吹き荒れる。
「くっ!?」
 闇の中に入っていた俺にもダメージを与えるほどの爆風が猛威を振るう。
 俺は闇からたたき出され爆風によって体中を切り刻まれる。
 マジでやべー。
 右腕が切断され左足もどこかへ飛んで行った。
 俺の血で爆風が赤く染まる。


 爆風によって上空に投げ出された俺は自然落下を始め数秒後には地面に叩きつけられた。
 手足の感覚がない。
 耳もかなりダメージを負ったのか何も聞こえない。
 視界がかすむ。


「あら、まだ生きていたのですね。ですが、既に虫の息。【超再生】があるようですが、今回の攻撃は【超再生】の効果を無効にしますからね。うふふふ」
 アンティアが何かを言っているのは分かる。
 だが、何を言っているのか聞こえない。
 しかも目もかすみ今にも意識が途切れそうだ。


「私を楽しませてくださったお礼にすぐに楽にして差し上げましょう」
 かすむ視界にアンティアの手が……俺の顔を鷲掴みにして持ち上げる。
 そして手に力を加えていく。
 ミシミシと頭蓋骨が嫌な音を立てていることだろう。
 今の俺には何も聞こえない。
 だが、アンティアは油断した!
 喰らえ!【解体】!


「っ!?」
 ドサッ!
 ……俺は地面に再び横たわる。
 体中の感覚がないから痛みも感じない。
 このままでは本当にヤバいから……え?
 何故?何故、アンティアが生きているんだ!?


 目の前で立っているアンティア。
 何やらひどく驚いているようだが、それでもピンピンしてやがる。


 まいったな。【解体】の効果がない奴なんて初めてだ。
 まさか人型は解体できないのか?
 でもオークやオーガは解体できたぞ?
 どうでもいいか、【解体】が効かなかった以上、俺に勝ち目はない。
 今まで何度も逆転劇を演じてきた【解体】。
 俺の最後の手段の【解体】。
 この【解体】が……何でだよ!?何で解体できないんだよ!?


「あなたは何をしたのですか?」
 何を言っている?
 俺の顔を覗き込んでいるのは分かる。だが、声が聞こえない。


「面白いですね」
 俺は恐ろしく美しいアンティアの笑みを見た。
 かすれる視界と途切れそうな意識の中でアンティアが笑っていた。
 それが俺の見た最後の光景だった。




 

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