ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

ガベージブレイブ(β)_031_依頼

 


 ドックムを捕縛し、ロッテンの妻を捕縛して俺の知らないことも明らかになった。
 後ろで糸を引いていたのがフーゼル伯爵でドックムはフーゼル伯爵の下でドルチェ暗殺を主導し、更にアリーも暗殺対象としており俺が助けたあの盗賊襲撃事件はフーゼル伯爵とドックムが仕掛けたものだった。
 アリーもそれを聞いて青ざめていたが、心の強い子なので気丈に振舞っている。
 流石にアリー暗殺をエイバス伯爵家のドックム派騎士たちが実行するわけにもいかないのでフーゼル伯爵家の騎士が盗賊に偽装し、更に元騎士やならず者を金で雇っていたらしい。


 アリー暗殺時に護衛の責任者だったロッテンもついでに亡き者にしようとしていたらしい。
 ロッテンの息子を伯爵の跡取りにするには絶対的にドルチェが邪魔で、ドルチェが死んだらアリーが邪魔になり、そのアリーが死んだらロッテンが邪魔になるからだ。
 今回の企みにはエイバス伯爵家の騎士や魔法士も多く関わっておりその殆どが捕縛されている。
 ただし、フーゼル伯爵はエイバス伯爵と同等の爵位なので簡単な話ではないらしい。


 ドックムは裁判で有罪となり斬首刑が決まった。
 証拠があるので裁判は紛糾することもなくすんなり判決が下った。
 ドックムの一族郎党も捕らえられて犯罪奴隷に落とされる予定だ。
 更にドックムに協力していた騎士や魔法士たち、それに捕らえられていたあのメイドも犯罪奴隷に落とされることが決定した。


 カナンは犯罪奴隷から解放されその慰謝料や賠償金などが支払われることになった。
 賠償金は没収されたドックムの家財から支払われ、協力していた者たちの家族からも多額の慰謝料が支払われる。
 ついでにカナンを自腹で購入している俺にはカナン解放によって購入金額の倍の百万ゴールドが支払われた。


 更に俺は真相を突き止めたことの成功報酬である一千万ゴールドをもらった。
 そして今回のことにある程度の終止符がうたれるまで伯爵の屋敷に逗留することになった。
 そしてカナンも何故か今まで通り俺の部屋で寝泊まりをしている。オカシイ……。


「カナン、よかったな。犯罪奴隷から解放されたんだぞ」
 カナンには毎日ボルフ大森林で戦闘訓練をさせている。
 今はレベルが百七十に到達しているが、何より魔法を詠唱しなくても発動できるようになったのが良い。
 しかもメッチャ凄そうな【獄炎魔法】なんていう魔法も覚えてしまった。
 この【獄炎魔法】の威力は【火魔法】なんて目じゃないほど強力でたった一発の魔法でボルフ大森林に直径三キロメートルほどのクレーターを作ったほどだ。


「……」
「どうした?」
 椅子に座り紅茶を飲みながらカナンに話しかける。
 伯爵家のお茶は本当に美味しいな。ここを発つ時は茶葉をもらっていこう。


「お願いがあります」
「何だ?言ってみろ」
 真剣な眼差しで俺を見つめるカナンに何故か気後れしそうになる俺。
 美人のそういう表情は苦手だ。
「もう一度私をご主人様の奴隷にして下さい!」
「はぁ?」
 何を言うかと思ったらもう一度奴隷にしてくれときたもんだ。
 せっかく奴隷から解放されたのにこの娘は何を言っているのだか。


「奴隷プレイ?」
「違います!いえ、違いませんがプレイじゃありません!」
 そうだと言われても付き合う気はないけどね。
「今の……私にはご主人様の姿が見えないのです!」
「え?」
「奴隷だった時は見えていたのです。でも今は……」
「見えないのか?」
「影のようにぼやけるのです……」
 俺ってそんなに影が薄いのか……?


(プハハハ!そう来たか、ツクルも大概だからな!)
(笑いごとじゃないぞ!俺ってそんなに存在感が薄いか?)
 スキルに【気配遮断】はあるが、このスキルはアクティブスキルなので発動しなければ効果は現れない。
 隠者のコートも羽織っていないし何でだ?
「熊のコートを着ておられるともう少しは見えるのですが……それがないと……」


 ……あっ!……あいつだ……『変出者』、称号のこいつだ……服を着ると路肩の石……フッザケルナッ!
「それには色々と訳があるんだ。だから奴隷にならなくても問題ない」
「いいえ、奴隷の時はご主人様との繋がりを感じられましたし、何よりお姿も見えていました!奴隷じゃなくなって私はとても不安なのです!」


 結局、俺はカナンに押し切られる形でカナンを再び奴隷にすることを了承してしまった。
 解放して直ぐに奴隷に戻すってどんなプレイだよ!でもカナンの目が怖かったんだ。
 あんな目で詰め寄られたらウンと言うしかなかったんだ。


 サイドルの店に行って奴隷の契約をし直す予定だが、その前に俺の存在感を増すアイテムを創ろうと思う。
 用意するのは成金御用達の金だ。
 ボルフ大森林の中を流れていたエルリン川には砂金があるんだ。
 その砂金を見つけたのは偶然だけど、見つけた以上は採取しなければ砂金様に失礼なのでしっかりと取ってきた。
 その砂金を机の上にパラパラと出し【等価交換】でリングを創ろうと思う。
 存在感満点の指輪だ。


 存在のゴールドリング ⇒ この純金製リングを身に着けたら目立って目立って仕方がない。だから盗難には気を付けてね♡


 よし!これで俺も目立つだろう!
「どうだ?」
 リングを指に嵌めてカナンに俺の存在感をアピールする。
「あ、見えました!すごいです!」
見えたから奴隷にならなくてもいいよな?と聞いたが、繋がりを感じません!と返されてしまった。
 ぶれないカナンだった。


 館内で会った伯爵、アリー、ゴリアテに俺の存在感について聞いてみたら、皆視線を外して見えていたよって言うんだ……その後に一様に「今はしっかりと見えているから!」とフォローしてくる。
 目から汗が出そうな俺はカナンを連れてサイドルの店に向かった。
 サイドルの店に着いたのでサイドルにも聞いてみたが、こいつも視線を外しやがった。


「本当に良いのだね?」
「はい、お願いします!」
 おにぎりの納品後、カナンが俺の奴隷になりたいと言うとサイドルは目を丸くし何度も考え直すようにカナンを説得した。
 俺も一緒に説得したが、カナンの意志は固く奴隷として俺に仕えることを熱望し続けたのだ。


 ため息交じりにサイドルは諦め、カナンを俺の奴隷にする契約を行った。
「これでカナンはスメラギ様の一般奴隷となりました。どうかカナンを宜しくお願い致します」
 深々と俺に頭を下げるサイドル。苦労しているね。


 館へ帰ると伯爵に呼び出された。
「うむ、やはり良く見えるな」
 こいつ、今まで見えていなかったのを見えていたふりをしていやがったのがもろバレだぞ!
 伯爵の後ろにいるゴリアテと魔法士っぽい男がウンウンと頷くのが納得いかねぇ~。


「……話とは?」
「そうだな、スメラギ殿に三つ頼みがあるのだ」
「頼み?」


 伯爵からの頼みの一つ目はフーゼル伯爵のことだった。
 戦の準備を指示したもののドルチェがどうしても戦はダメだと言っており、伯爵も根負けしたらしい。
 だから伯爵はフーゼル伯爵の罪を問うために国王の裁可を仰ぐというものだった。
 フーゼル伯爵がドックムに宛てた書状や姪に宛てた書状でも証拠は問題ないが、より確実にフーゼル伯爵を潰すためにも他の不正の証拠がほしいというのだ。


 国王も下手な判断をして国内で有力貴族同士が争うのは避けようとするからフーゼル伯爵が言い逃れできない証拠をしっかりと揃えたいらしい。
「あやつは色々と黒い噂が尽きぬのだ、探せば必ず不正の証拠が見つかると思うのだ!」
「それを俺に集めてこいと?」
「頼めないだろうか?」


 民の為に戦争を回避するというドルチェの考えは立派だし、戦争をしない代わりに政治的に追い込みフーゼル伯爵を潰そうとする伯爵の考えも分かる。
 だからと言って俺がそれを手伝う義務も借りもない。


「いや、すまなかった。この件は忘れてくれ。貴殿でも無理なことはあるからな」
 カッチーン。こんにゃろ、やる前から無理と決めつけやがって!
「良いだろう、その依頼を受けてやろう!」
「だが、難しい依頼だぞ?」
 俺が伯爵の口車に乗せられたのは分かっている。その上で敢えて乗ってやっているのだ。
「構わん、報酬の話をしろ」
「そうか、ありがたい!報酬は二千万、いや、三千万ゴールドでどうだろうか?」


 アリーを助けた時やドルチェ殺害の真相を突き止めた時よりも高額な報酬だ。
 戦争になればもっと費用がかかるだろうし、人も死ぬからだろうか?
「……良いだろう」
「よし、頼んだぞ!」
 伯爵と俺の間で報酬までしっかりと決まったので俺は【素材保管庫】の中に仕舞ってあったある物を取り出してテーブルの上に置く。


「……これは?」
「証拠だ」
「は?」
「フーゼル伯爵が行っている密貿易、不法奴隷売買、麻薬の製造と密売の証拠だ」
「……」


 ドルチェ殺害の証拠となる書状を持ち帰ったベーゼにその書状が本物か確かめる為にフーゼル伯爵の書状や書類を集めさせ署名や紋章の比較をしたことがある。
 その時にこの書類が手に入ったわけだ。ベーゼ、マジ優秀だよ!


「一つ目の依頼はこれで完了だな?」
「……あ、うむ、そうだな……しかし……」
 自分の世界に入りなにやらブツブツ言っている伯爵が復活するまでに暫くかかった。
 でもちゃんと三千万ゴールドをもらった。
 まさかその場で証拠が手に入ると思っていなかったようで報酬の三千万ゴールドを用意するのに少しだけ時間がかかった。


 二つ目の頼みは今回のドルチェ殺害に関することで、騎士や魔法士の多くがドックムに加担していたことで伯爵は軍部の立て直しを迫られている。
 新人の補充もするが、それ以上に軍の質を向上させたいと言う。
 そこで俺に教官をしてほしいというわけだ。


「無茶を言うな、俺は軍事に関わったことなどないぞ」
「そうかもしれぬが、カナンを見れば一目瞭然だ」
 俺とカナンは顔を見合わせるが、二人とも頭の上に「???」とついていただろう。
「ロッテンを助けたのは伝説の【光魔法】であろう?元家臣だったのだ、カナンが【光魔法】を使えなかったことは分かっている」
「「……」」


 そう言えばカナンが【光魔法】を覚えたのはレベル百十を超えたころだったか?
 一般的には到達できないレベルだから【光魔法】は伝説になっているのか?
「過去の勇者や大賢者が【光魔法】を使っていたと聞く。今のカナンはそういった偉人たちと肩を並べているのだ。しかもただの【回復魔法】では決して助からないだろう傷を瞬時に完治させたのだ、私でなくても気づくだろう」
「「……」」


 流石と言うべきか、伊達に伯爵なんぞやっていないようだ。
「報酬はしっかりと出す!頼む!」
 頭を下げる伯爵。
「条件がある」
「聞こう!」
「十人だ。大勢の面倒を見るのはできん。だから俺が選んだ十人だけを鍛えてやる。あとはその十人に軍を鍛えさせろ」
「分かった。ただ、こちらである程度の人選をするから、その中から選んでほしい。下手な者が力を得ると碌なことにはならぬからな」
 なるほど、忠誠度の高い家臣から選べということか。
「良いだろう。但し死んでも責任は持たんぞ」
「……死ぬほどのものなのか?」
 伯爵は俺を見てからカナンを見ると、カナンはコクリと小さく頷く。


 オカシイな、カナンにそれほど大変な訓練を強要したことはないぞ?と俺は過去の記憶を消す。
「ご主人様には常識でも他の人には非常識なのです」
 とカナンがポツリと呟く。
 納得がいかない……こともないが、不満だ!


 

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