ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

028_襲撃

 


 カナンに焼肉を食べさせてもスキルを覚えなかったことを思い出す。
 だから今度は【スキル付与】でスキルを付与してみようと思い、まだ寝ているカナンに実行してみる。
 与えるのは焼肉と同じ【鉄壁】にしてみる。
 スキルを発動させ付与したが、俺の視界に文章が現れる。
『対象には【鉄壁】を覚える素質がありません』
 なるほどと思う。
 スキルを覚えるには素質が必要なんだと今更ながら思う。
 カナンは『魔術師』だから『体力』系の【鉄壁】を覚える素質がないのは何となく分かる。
 もしくは現在のカナンの『体力C』では【鉄壁】が覚えられないのかもしれない。
 しかしだ、そうなると俺はどうなんだ?
 俺自身も覚えられないスキルはあったが、それでも魔法系や脳筋系のスキルを覚えている。
 特殊なスキルならわかるが、『調理師』の俺でも覚えることができた【鉄壁】をカナンが覚えられない理由が分からん。


 分からんものは仕方がない。
 いずれ分かる時が来るかもしれないし、来ないかもしれない。
 俺はそれほど頭が回る方じゃないから頭を悩ませるだけ時間の無駄だ。
 だからサイドルに渡すおにぎりを作ろう。
 昨日は情報収集をしていたら夜中になってしまったので作るまえに寝てしまったのだ。
【素材保管庫】から肉、塩、米、そしてエルリン川の水を取り出し【究極調理】を発動させる。
 百個分なので量が多いが、【究極調理】なら一気におにぎりになる。
 体力のおにぎりを二十個、魔力のおにぎりを二十個、腕力のおにぎりを二十個、知力のおにぎりを十個、俊敏のおにぎりを二十個、器用のおにぎりを十個。


 最近は包丁やフライパンを使った調理はしていない。
 包丁やフライパンがあってもコンロやオーブンがないので出来ないのだ。
 館の調理場は借りられると思うが、俺が使った後に毒が仕込まれていたってなったら嫌なので借りない。
 元の世界に帰れないのであればいつかこっちの世界で家を建てて自分の気に入った調理器具を設置しよう。


 さて、おにぎりが百個できたのでカナンを起こすかな。
「おい、起きろ」
「あと十分……ムニャムニャ……スー、ピー」
 カナンの肩を揺らし起こそうとするが、カナンはなかなか起きない。
 だから仕方がなく、そう、仕方なくだが、俺はカナンをお姫様抱っこしてそっと床に落とす。
「ギャュンッ!?」
 最近のカナンはこんな起こし方がお気に入りのようだ。
 お尻をスリスリして涙目で俺を見るカナンに向かって俺は言う。
「もうすぐサイドルとの約束の時間になる。早く着替えて朝飯を食え」
「あ、はい、只今!」
 テーブルの上に置いてある目玉焼きとカリカリベーコンとパンをあっという間に平らげ牛乳に似たモウ乳を流し込むカナン。
「ご主人様、食べ終わりました!」
 口の周りにパンのカスを付けたカナンが満面の笑みを俺に向ける。
 美人なのに非常に残念な光景だ。


「お待ちしておりました、スメラギ様」
「遅くなってすまん」
「いえいえ、時間通りですよ」
 カナンが少し居心地悪そうにする。
 そんなカナンを横目に俺はサイドルに百個のおにぎりを渡す。
 そして代金として売値の半額をもらう。
 しかし今の俺は結構バブリーだ。
 アリーを助けた謝礼金が一千万ゴールド、ドルチェ殺害捜査を引き受けて五百万ゴールド、そして今日から三十日間毎日百万ゴールドが俺の懐に転がり込んでくる。
「では、早速冒険者ギルドに卸します!明日もお願いしますぞ、スメラギ様」
「ああ、明日も頼む」
 忙しそうにサイドルは店の奥に消えていった。


 サイドルの店に行く時もそうだったが、帰る時も俺たちを追跡する奴がいる。
 数は三人で伯爵が送ってきた追跡者より質が落ちる。
 ドックムが送ってきた奴らと同等ていどのスキルしかないだろうから、またドックムが送ってきたのかも知れない。
 ストーカー如きに俺は目くじらを立てないので構わんさ。
 そんなことより今日はこのアルグリアの町を散策しよう。
「カナン、町の案内を頼む。どこでも構わん、色々と連れて行ってくれ」
「分かりました!」
 カナンの案内で先ず向かったのは武器屋だった。
 何故武器屋にとカナンに聞いたら以前世話になったのだと言う。
 その証拠に武器屋の店主はカナンが奴隷になってしまったことは嘆いていたが、元気でやっていると喜んでいた。
 次はその隣にある防具屋だ。防具屋はただ単に隣だからという理由だった。
 その後はマジックアイテムを販売している店やポーションなのどの魔法薬を販売している店などを回る。


「なぁ、カナン」
「はい、何でしょうか?」
「俺は冒険者や傭兵ではないのだから他の店やこの町の名所に案内してくれるか」
「申し訳ありません!」
「謝る必要はない。カナンに任せたのは俺だからな」
「……はい」
「そうだな、次は服屋にでも連れて行ってくれるか?」
「はい、分かりました!」
 カナンについて町を歩く。
 地球の中世では町中に糞尿が放置されていたりかなり不衛生だったはずだが、この町ではそんなことはないようだ。
 時々荷車を引く動物がウ〇コをしたような跡があるが、それも直ぐに取り除かれる。
 糞尿は疫病の元にもなるので良いことだ。


 カナンについて脇道に入ると追跡者に動きがあった。
 どうやら襲撃してくるようだ。
「カナン、少し待て」
「はい?」
 カナンの持っている感知系のスキルは【魔力感知】なので敵意までは分かりずらいようだ。
「俺たちに敵意を持っている奴らがもうすぐそこの角を曲がってくる。対応はカナンに任せるが、殺すなよ」
「え、私ですか?」
「お前のレベルなら余裕だろ?」
「あ、そうでした……」
 限界突破したカナンなら雑魚を無力化するのも簡単だろう。
 どうやって無力化するか見させてもらおう。


 角を曲がって現れた三人の男。
 どれも獣人で見た目は粗暴という感じだ。
 彼らは俺とカナンを見止めると嫌らしい笑いを浮かべ俺たちに近づいてくる。
「お前らに恨みはないが、ここで死んでもらうぞ!」
 懐から短剣を抜いた猫系の男が俺を刺そうとしたが、その前にカナンの【木魔法】が発動し男を拘束する。
 大した時間はなかったのでカナンは俺が任せると言った後から詠唱を始めていたようだ。
 しかしまだ詠唱をしなければいけないのはいただけない。
 詠唱しなければ魔法を発動できないのであれば瞬時のことに対応ができないからだ。
 いつも俺が守ってやれるとは限らないので詠唱破棄なのか無詠唱なのかは分からないが覚えさせなければいけないな。
「チッ、おい!」
 猫系獣人が拘束されて後ろの二人が動いた。
 どうやら犬系獣人がリーダー格のようで、もう一人のタヌキのような獣人に指示を出すとタヌキのような獣人が魔法を発動させようと詠唱を始めた。
 タヌキのような獣人が詠唱を始めると犬系獣人が拘束されている猫系獣人の横をすり抜けて接近する。
 手には剣が握られており、その剣の先をカナンに向けて突き出す。
 カナンは焦りもなくその剣を杖で払うと犬系獣人が大きくよろめく。
 魔術師のカナンに払われただけで大きくよろめいたことに犬系獣人が目を見開き驚愕した。
 しかしそれが隙となってカナンの杖が横腹を捉えると弾き飛ばされ建物の壁に激突し気絶する。
 大人の獣人を弾き飛ばして驚いたのはカナンも一緒で「え?」と隙を作る。
 そこに拘束されていた猫系獣人が持っていた短剣をカナンに投擲するとカナンの胸に命中する。
 それを見て拘束されている猫系獣人はにやりと笑うが次の瞬間、驚愕の表情に変わる。
「いた……く……ない?」
 カナンは短剣が刺さったと思ったようだが、俺が作ったその装備を貫通させるほどこの三人の攻撃は強力ではない。
「早く終わらせろよ」
 俺は不満げに言う。カナンの実力ならこんなに時間はかからないはずだ。
「はい!」
 カナンは拘束していた猫系獣人に拳大の土の塊を射出しその腹部に命中させると猫系獣人は白目をむいて気絶する。
 そして同時にタヌキのような獣人が俺たちに向かって風の刃を放つ。
 カナンは魔法を使ったばかりなので風の刃を防ぐ術がなく、俺の目の前に出て防御姿勢を取り風の刃を受ける。
「やったぞっ!」
 タヌキのような獣人が俺たちを討ち取ったと勘違いしてガッツポーズをする。
 しかし実際にはカナンは怪我をしていないし、俺も言わずもがなだ。
 そんなタヌキのような獣人に向かってカナンは火の玉を放つ。
 その火の玉によって尻尾に火がついたタヌキのような獣人は大慌てで火を消そうとするが、その隙に近づいたカナンの杖で頭部を殴られ気を失う。
 ハッキリ言えばもっとスマートに制圧できる実力があるのだからそうしてほしい。
 それに詠唱だ、詠唱は邪魔だ。詠唱をする時間が隙となる。
 今後も特訓が必要だ、地獄の特訓がな。


 俺の講評を受けてしょんぼりするカナン。
 気持ちを切り変え服屋に案内してもらう。
「店主、彼女の服を見繕ってくれ」
「畏まりました~」
 ちょっとオネエ系の男性店主にカナンの洋服を選んでくれと頼む。
 自慢ではないが女性に服を贈ったことなんてない俺だとボディースーツのような物を選んでしまうからな。
「ご主人様、私のような奴隷に服など……」
「俺の傍にいるのであればちゃんとした服を着てもらう。分かったな」
「はい!」
 店主が見繕った服を着せ替え人形のように試着するカナン。
 その中からあまりカナンに合わないような服以外は購入した。
 値段は気にしてなかったが服って結構高いのね。値段聞いた時はビックリしたわ。


 

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