ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】

なんじゃもんじゃ

022_依頼

 


 味噌を作ることができたので味噌を塗った焼きおにぎりを作ってみた。
「美味しいです!」
「そうか、一杯あるから沢山食べろよ」
「はい!」
 両手に焼きおにぎりを持ち交互に食べ進むカナン。熱くないのかな?
 そんな緩やかな時間を楽しみながら人間の世界に帰ってきたのだと実感をする。
 すると扉をノックする音が聞こえた。
 俺はカナンを部屋の奥にやり扉を開ける。
 そこには見覚えのある鎧で見覚えのある男が一人と知らない顔の男が一人立っていた。
「私はエイバス伯爵の家臣でロッテンという。すまぬが我らと同道頂けないだろうか?」
 見覚えのある男は先日助けた馬車で護衛をしていた男でロッテンと言うらしい。
「人違い、ではないのだな?」
「貴殿で間違いない」
「奴隷も一緒だが問題ないか?」
「……構わないが……あまりお勧めはせぬ」
 明らかに顔色が変わったロッテン。カナンのことを知っているようだ。
「カナン、出かけるぞ」
「……はい」
 人違いと言い張っても状況は変わらないだろう。
 そして色々と思うことがあるのだろう、カナンは暗い表情だ。
 俺とカナンはロッテンが用意した馬車に乗り込む。
 暫く町の中を走ると大きな館に到着する。
 エイバス伯爵の住む館だからか一際大きく綺麗な館の玄関前で馬車が止まり俺たちは馬車を降りる。
「ようこそお越しくださいました」
 ザ・執事という風貌の老紳士が綺麗にお辞儀をして俺たちを迎え入れる。
 執事が先導し俺とカナンが続き、更にその後ろにロッテンたち二人がついてくる。
 何故か俺を初めてみる人は程度の差はあれど驚いたような顔をするのだろうか?
 宿屋の女将や従業員もそうだったが、基本的に初見の人は俺を見て驚く。謎だ。


 応接室なのか、無駄に豪華な部屋に通された俺とカナン。
 ソファーにどっかりと腰を下ろす俺とソファーの後ろで立ったままのカナン。
「座らないのか?」
「ど、奴隷ですから……」
「俺はそんなこと気にしないから座れよ」
「いえ、ご主人様が気になさらなくても他の方はそう思われないでしょうから」
「……細かいことを気にすると禿げるぞ?」
「は、禿げません!」
 そんな感じでカナンを弄っていると扉から先ほどのロッテンともう一人の鎧が入ってきた。
「すまないが、腰の物をお預かりしたい」
「これか?」
 俺は黒霧の柄をピンとデコピンする。
(痛いではないか?)
(嘘つけ!)
「そうだ」
「悪いが、これを誰かに触らせる気はない」
「っ!貴様、下手に出ていれば!?」
 剣に手をかける鎧。
「やめないか!」
「し、しかし!」
「すまなかった。だが、剣を携えた者を我らの主に合わせることが出来ないのも分かってほしい」
 ロッテンは落ち着いて同僚又は部下を制止するが、彼の言うことは彼ら視点でしかない。
「なぁ、俺の半身ともいえるこの黒霧を預かると言うのなら俺は帰らせてもらう」
「それは……」
 ロッテンはこの屋敷にいる他の者よりはよほどマシだが、他の者は俺に、いや、カナンにかなり嫌悪の感情を持っている。
 だから殺気を普通に向けてくる奴もいたが、俺もあるていど事情は理解しているので放置したが、黒霧を渡せと言うのであればもう話すことはない。
(嬉しいことを言うではないか、半身……ふふふ)
 何だか黒霧が嬉しそうに笑っているが、今は放置だ。
「言わせておけば、平民風情がっ!」
 鎧が剣を抜き俺に剣先を向ける。
「馬鹿者!止めぬか!」
「しかしロッテン隊長!」
「「ぐっ!」」
 剣を抜いたってことはこれは正当防衛だ。
 こいつは俺に剣を向けた。敵対したんだ。
 俺の殺気を受けロッテンと剣を抜いた鎧は片膝をついて苦しがっている。
 殺気はスキルではない。剣の訓練をしている内に殺気を操る技術に長けただけだ。
 今の俺の殺気を受ければレベル二百を超えるヘルベアーやムスクレパードでも委縮して動けなくなる。
 勿論、こんなところで本気の殺気を放つなんてことはしない。
 そんなことをすれば離れたところにいる関係のない人に死人がでてしまうだろう。
「剣を抜いたな。良いだろう、相手になってやるからかかってこい」
「ち、ちがうのだ、これは……」
「ロッテンとか言ったな、俺は敵には容赦しないんだ。剣を抜いた以上、生かしておく気はない。諦めろ」
 立つこともできないロッテンと鎧は青い顔をしている。
 まったく本気を出していないが、俺の殺気を当てられて気絶しないのは褒めてやっても良い。
 だが、この鎧は殺す。


 ドッガーンッ!
 扉が吹き飛び部屋の中に飛び込んできたのは大柄で顔に大きな傷がある鎧の男だった。
「まった!」
 俺の殺気によって顔を歪めながらも飛び込んできた顔に傷があるゴリラ顔の大男。
 なのに大男は苦しみながらも俺とロッテンたちの間に割って入るだけの動きを見せた。
「私は、エイバス伯爵家の騎士団を預かるゴリアテと申す!すまぬが、その殺気を抑えてもらえないだろうか!?」
「……」
 俺はゴリアテの頼みを聞き殺気を放つのを止める。
 一パーセントも本気を出していないが、俺の殺気を受けて尚俺の前に出てくるその根性を評価してのことだ。
「か、忝い」
 ゴリアテが俺に頭を下げると立ち上がったロッテンも頭を下げる。
 俺に剣を向けた鎧はゴリアテが入ってきたとほぼ同時に気を失ってしまった。だらしのない奴だ。
 ゴリアテとロッテンは俺の実力を正確に把握はしていないが、束になっても勝てないことを悟っているようだ。
「此度のこと全ての責任は私の責任であり、責めは私にあります」
「アンタはここにいなかったんだ。そこで寝ている奴が負うべき責任であってアンタが負うべき責任ではない」
「この者には厳しい罰を与え申す!故に、何とか!」
(ははは、熱い男だな。どうするんだ?)
(もういいや、このオッサンの覚悟も本物のようだし収めてやるわ)
(良いのか?今後の為にその傷の男の片腕でももらっておいてはどうだ?)
(それこそ面倒な話になるだろう。それにこのオッサンの生真面目さに中てられて気が抜けたわ)
(ふふふ、十分に面倒なことになっているがな)
 黒霧の奴はこの状況を楽しんでやがる。困った奴だ。


「もういいよ」
「え?良いので?」
「ああ、いいと言った。だから帰って良いか?」
「あいや、待って下され!」
「何だよ?もういいだろ?」
「主と対面を……」
「黒霧は誰にも触らせないと言っているが?」
「問題ない!」
 そこに壊れた扉からダンディーなオジサマと十五歳ほどの可愛らしい顔をした少女が入ってきた。
「「お館様!?」」
 ダンディーなオジサマはどうやらこの館の主のようだ。
「家臣が失礼をした、すまなかった。私はデンガロ・エイバスと言う、こっちは娘の」
「アルテリアスと申します」
 ペコリと頭を下げる少女。
「アルテリアス様……」
 カナンが少女の名を呟く。顔見知りのようだ。
「カナン、お久しぶりですね。元気そうで良かったわ」
 にっこりとカナンに笑顔を向ける少女。
 裏表のない笑顔に俺には見えたがカナンは答えない。
「色々積もる話もあるかも知れないが、俺を呼び出した理由を聞こうか」
「こ、これ……我らには構わんがエイバス伯爵に向かってそのような」
「構わん」
 ゴリアテが俺の口調をたしなめるが伯爵が構わないと言うのだから良いのだろう。
 まぁ、丁寧な言葉を強要されれば帰るだけだ。
 伯爵とアルテリアスがソファーに座ったので俺もソファーに座り直す。
 それと同時にロッテンが倒れている鎧を引きずって部屋を出ていくが、すぐに戻ってくる。
「で、俺に何の用だ?」
「アルテリアスを救ってくれた礼がしたくて呼びつけてしまった。私にも立場というものがあるので理解をしてもらえると助かる」
 昨日から俺に付きまとっていた奴はどうやら伯爵の手の者と考えるのが無難のようだ。
 そうすると俺のことはちゃんと調べていると思うのが妥当か。
「通りがかっただけだ。礼には及ばん」
「そうも行かぬさ。先ほども言ったように私にも立場があるのだ。娘を助けてくれた恩人に何の礼もしてないというのは好ましくないのだ」
 犬耳のようだが犬耳とは少し違う耳をピクピクさせて伯爵がにやりと笑う。
 尻尾を見るとフサフサで太いので恐らくキツネの獣人ではないかと思う。
 娘のアルテリアスの方も同じような形の耳と尻尾で、尻尾はフリフリと緩やかに揺れている。
「……そういうものなのか?俺には分からんことだな」
「貴族とはそういう生き物なのだよ」
「ふ~ん。で、礼とは?」
 伯爵が手を二度打つと壊れて開けっ放しになっている入り口から先ほどの執事が二人のメイドを連れて現れる。
 メイドがソファーとセットになっている豪華なテーブルの上に革袋と短剣を置いて下がっていく。
 殆ど音がしなかったので相当訓練されているのだろう。
 どこかのカフェでご主人様と言ってオムライスにハートマークを描くメイドとは違うな、と思ってしまった。
 ただ、できればそういうシチュエーションも味わってみたいと思う。
「ご主人様?」
 あれ、何でカナンが反応するの?ちょっと怖いんですが?
「何でもないぞ……それよりもこれは?」
 無理やり話を変えて目の前に置かれている物に視線を移す。
「娘の命の代価としては少ないが、一千万ゴールドと我がエイバス家の紋章入り短剣だ」
 一千万ゴールドって……カナンが五十万ゴールドだったので二十人分?
 金額が多すぎてわけわからんわ。
「金はあり難くもらっておくが、短剣はどういう意味だ?」
「それを持っていればこの町では困ることはない。他の町でもこの国の中であれば私の身内として扱ってもらえるだろう」
 重いわ!身内って何だよ!?
「その短剣は貴殿の名で登録をしておく。剣には貴殿の名が既に刻まれているので返却は無用だ」
「……そ、そうなのか……」
 伯爵はダンディーな風貌なのでニカッと笑うとそうとうな破壊力のある笑顔だ。
 俺が女だったら惚れていたかもしれない。
「それとな、貴殿に頼みがあるのだ」
 何だよ、裏があったのかよ!?
「それは?」
「そこにおるカナンのことだ」
「……カナンがどうした?」
「カナンは我が息子であるドルチェを殺した!」
「っ!」
 カナンが青い顔で困惑の表情をする。
 カナンが殺した貴族の子供というのは伯爵の子供だったのか。
 そりゃ~この町の役人がカナンを買った俺に良い顔をしないだろうな。
 この町の最高権力者を誰も敵にしたいとは思わないわな。
「となっておるが、私はそうは思っていない」
「え?」
 カナンが呟く。困惑の度合いが増している。
「なら何で奴隷にした?」
「無実の証拠もなく仕方がなかった。だから本来は死罪のところを犯罪奴隷としカナンの親代わりであったサイドルへ預けたのだ」
「そんなことを言って大丈夫なのか?」
「ここにおる者は皆私と同じ考えの者だ」
 つまりゴリアテとロッテン、そして娘のアルテリアスはカナンを無実だと思っているわけか。
「で、俺に頼みとは?」
「弟の仇を、本当の犯人を見つけて頂きたいのです!」
 アルテリアスが伯爵に変わりに発言する。
 そして立ち上がり俺に深々と頭を下げる。
(お~、これは意外な展開だな。さて我が主殿はどのような判断をするのやら)
 五月蠅いわ。しかし面倒な話だな。
 俺は刑事でもなければ探偵でもないんだぞ。
 犯人捜しなど伯爵の部下がすれば良いではないか。
 だが、それができない状況下にあると……何か隠しているように思える。
 思えるが、何を隠しているのだ?
「報酬は勿論用意する。前金で五百万ゴールド、真犯人を見つけたら更に一千万ゴールドを支払おう!」
 ぶっちゃけまだ受け取っていないが、目の前には一千万ゴールドがあるのだから金には当分困らないだろう。
 この依頼を受けて更に真犯人を見つければ一千五百万ゴールドだが、『捜査』の『そ』の字も知らない俺に何ができるのだろうか?
「ご主人さま……」
 カナンが目を潤ませて俺を見つめる。
 前を向けばキツネ耳少女が俺に期待のこもった眼差しを向ける。
「分かった、依頼を受けよう。しかし俺は素人だぞ?」
「頼んだぞ!そして貴殿であれば必ずや成し遂げてくれると私は信じている!」
 今日、初めて会ったのにそんなに信用していいのか?


 依頼を受けた俺はゴリアテとロッテンから事件のあらましを聞く。
 そして思い出したくはないだろうが、当事者のカナンにも事件のことを聞く。
 はぁ、面倒だ。
 美少女二人にあんな目で見られては嫌と言えない俺の馬鹿!


 

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