ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】
020_カナン
どうしてこうなってしまったのだろうか?
私は職務を全うしようと一生懸命努力をしたし、御館様に忠誠を誓っていた。
でも今の私はその御館様のご子息であるドルチェ様を殺した罪で投獄されている。
あの日、確かに私はドルチェ様の死体のそばにいました。
でもそれはドルチェ様が誰かに襲われていると聞いたからで私がドルチェ様を殺すなんてとんでもない言いがかりです。
結局私は裁判で有罪となってしまった。
何で?私は何もしていないのに!
私を呼びに来たあの男性が偽証をしたせいだ。
あの人が呼びに来たから私はドルチェ様の危機に駆け付けようと向かったのに、そこで待っていたのはドルチェ様の死体だった。
そして私が現場に到着した直後に現れたドックム様。
ドックム様はエイパス伯爵家で筆頭魔法士の重職に就く方ですが、あまり良い噂を聞かないので私はあまり好きではありませんでした。
そのドックム様に私は捕らえられそして牢に繋がれ今に至ります。
おかしなことは伯爵家の跡取り息子であるドルチェ様を殺した罪で有罪になった私は犯罪奴隷となったのです。
殺されたのが平民であれば奴隷落ちになるのも分かりますが、伯爵家のご子息を殺したとして有罪になった私が死罪でなく奴隷落ちなのはおかしな話です。
数日牢の中で過ごしました。
食事は殆ど与えられず与えられても水の中に固形だった物が少しあるだけの味も最悪のものです。
何故こうなったのか……
私が何をしたと言うのか……
あああ……
気が付くと馬車でどこかへ移動しているところでした。
あああ……
再び気が付くと目の前に黒髪黒目の少年が私に食事を差し出しておりました。
この方が私を購入したご主人様なのでしょう……
私はこれからどうなるのでしょうか?
犯罪奴隷には人権はありません。
ですから一般奴隷のように人間扱いもされません。
家畜と同じかそれ以下の存在なのです。
そんな私にご主人様は机で食事をするようにご命じになりました。
その食事が今まで食べたこともないほど美味しいのは空腹だからでしょうか?
久しぶりにお腹に溜まる食事を摂り私はまた意識をなくしました。
ここは……ベッドの上?
私は……犯罪奴隷……ベッドで寝るなんてできるわけがありません。
夢なのですね……目の前では黒髪の少年が暗がりで食事を摂っております。
あ、目が合ってしまいました。
「……」
「……」
「……食うか?」
その美味しそうな匂いに無意識に頷いていました。
椅子に座ると少年が何か白い物を差し出してきました……これは米?
エイパス伯爵家のパーティーで何度か食したことがありますが、あまり美味しいものではありませんでした。
その米をフォークで口に運びます。
……っ!お、美味しい!
エイパス伯爵家で食べた米とは天と地ほどの差がある米です。
ほのかに香る甘味のある匂い、そして口の中で咀嚼することで醸し出される甘味とうま味。
それにこちらの何かのお肉と野菜の炒め物も米と相性がとても良いです。
無心で食べてしまいました。
こんなに美味しい食事は生まれて初めて食べた気がします。
お腹が一杯で再び睡魔が襲ってきます……
朝日が私を優しく包み、何だかとても気持ちの良い朝を久しぶりに迎えた気がします。
……あ、私は奴隷に……ベッド……横のベッドには……誰かいるような……よく見ると黒髪の少年が寝ています……この少年が私を購入したご主人様……
それにしても認識しずらいご主人様です。何かスキルを発動させているのでしょうか?
それにしても綺麗な黒髪です。
黒髪はあまり珍しくありませんが、ここまで綺麗な黒髪は初めて見ました。
触ったら叱られますよね?でも何だか触り心地が良さそうな髪の毛に自然と手が出てしまいました。
柔らかい。そしてきめ細かくサラサラの髪の毛……羨ましいな、私の髪の毛は癖が強くウェーブがかかっているのでこんな気持ちよくないのです。
暫く綺麗な黒髪を触りご主人様が寝返りをしたので私はハッと気付きました。
こんな光景を見られたらどんなお仕置きが待っていることか……ですからもっと触っていたい欲望を抑え込みご主人様の寝顔を見ることにしました。
あれ?そう言えば……こんなにクリアな思考なんていつ以来だろう?
ご主人様が目を覚まされました。
「おはようございます、ご主人様」
寝ぼけ眼で私を見るご主人様は私の後ろの窓から差し込む朝日に少し眩しそうにします。
「おはよう、気分はどうだ?」
「はい、今までのことが嘘のようにとても良いです」
何故か自然と笑顔になります。私は奴隷なのに……
「そうか、それは良かった」
起き出したご主人様はベッドから下り伸びをします。
そして二人で宿屋の裏の井戸へ行き顔を洗います。
今思いましたが、私って相当酷い顔をしているのではないでしょうか?
体を拭いたのだっていつだったか覚えていません……臭いますよね……え~ご主人様に臭いと思われているのでしょうか!?
部屋に戻るとご主人様は食事を用意されました。
え?今どこから……アイテムボックス?
……ご主人様の用意してくださる食事は非常に美味しくついつい食べ過ぎてしまいます。
そう言えば、昨夜何か美味しい物を食べたような……記憶があやふやで思い出せません。
「そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺はツクル・スメラギだ。昨日お前を購入した」
「あ、はい。私はカナンと申します。宜しくお願いします。ご主人様!」
「早速だが、今の俺は金がない!」
「……へ?」
「だから金を稼ぐ手立てが必要だ」
「……はぁ……」
「幸い、俺は『調理師』だから食べ物を売って金を稼ごうと思う。カナンにそれを手伝ってもらいたい」
マジですか!お金がないのに奴隷を購入したのですか!?
ヤバいです、このご主人様は頭がおかしいです!
何ですか、『調理師』だから食べ物を売る?
そんな簡単に売れたら苦労はしませんよ!
「取り敢えずサイドルのところに行って相談しようと思う」
「え?サイドル?それって……」
「サイドル総合商店のサイドルだ。大きな店だから名前くらいは知っているだろ?」
知ってますとも!ご主人様はサイドルおじ様と顔見知りなのでしょうか?
サイドルおじ様は二年前に他界した私の父の友人で、私も小さい頃からよく遊んで頂いた記憶があります。
父の葬儀でも大変お世話になりましたし、天涯孤独となった私を気にかけて下さる優しいおじ様です。
「はい、存じ上げております!」
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