異世界転移者のマイペース攻略記
045_赤の塔の氾濫2
96式装輪装甲車に乗り戦場を移動しながらブローニングM2重機関銃をぶっ放す。
ランク2のサンドリザードは少なくなったが、まだまだ魔物は地面を埋め尽くすほど多い。
サンドリザードの後方にランク3のウルドラゴの姿も見える。
このままいけば近々ウルドラゴと冒険者の戦いが始まるだろう。
冒険者もサンドリザードとの戦いで多少なりとも疲弊しているので連戦は辛いだろう。
そんな冒険者にウルドラゴが迫る。
しかしそのウルドラゴが爆発する。
「あれは……」
「手榴弾ですね」
そう言えば、冒険者ギルドに手榴弾を納品したのを思い出す。
冒険者ギルドはランクの低い魔物に対し手榴弾を使うのではなく、ランク3以上の魔物の数を間引くのに手榴弾を使うようだ。
ランク2程度なら初心者でない限りなんとか倒せるからより強力な魔物に手榴弾を使う作戦なんだろう。
手榴弾の爆発があちらこちらで起こる。
密集隊形で迫ってくるウルドラゴが一度の爆発で五・六体は息絶え、数体が傷を負う。
手榴弾でウルドラゴの勢いが完全に抑えられ、爆発から逃れ冒険者までに到達したウルドラゴは逆に数の暴力で冒険者に倒される。
「なかなかやるじゃないか」
「これもグローセさんが手榴弾を納品したからできた戦術ですね」
「ご主人様、凄いっピー!」
セーラとルビーが俺を褒めてくれる。
褒められるのは好きだ。気分が良い。
俺は褒められて育つタイプなんだ。
百人の手榴弾要員が連携し、ウルドラゴの勢いと数をそぎ落とすので、冒険者はランク3のウルドラゴ相手でも健闘している。
それでもウルドラゴの数は多い。
更に手榴弾対策なのか冒険者の近くでは密集隊形を解除して手榴弾の爆発に巻き込まれる数を減らしてくる。
次第に冒険者が怪我をして戦線を離脱する人が増える。
『マスター、てき弾の使用を具申致します』
『てき弾って……グレネードか』
『既にストレージ内には96式40mm自動てき弾銃が改造された状態で収納されております』
96式40mm自動てき弾銃は96式装輪装甲車の武装の一つだ。
五十発の弾倉により連射もできる。そんな96式40mm自動てき弾銃が魔改造されているのだから魔物には悲しい事実だろう。
ブローニングM2重機関銃を外し96式40mm自動てき弾銃を装着する。
魔改造によって換装も時間がかからず楽にできるようになっている。
冒険者もあちこちで手榴弾を使っているので、てき弾を撃っても驚かないだろう。
だから俺は手榴弾では届かないところにいる魔物を狙う。
冒険者に近い魔物は手榴弾や冒険者自身が対応するだろう。
ポンと軽い音がしててき弾が発射される。
そして冒険者の最前列より二百メートルほど離れたウルドラゴに直撃して数体を巻き添えにして爆ぜる。
ここから見てもてき弾の威力がかなり向上しているのが分かる。
直撃したウルドラゴだけではなく周囲のウルドラゴも巻き込んだ爆発は絨毯のように地面を覆っているウルドラゴの群れに大きな穴を開けてしまった。
ポン、ポン、ポンと連射する。
着弾の度に大きな爆発が起こりウルドラゴが消し飛ぶ。
これではウルドラゴの素材の回収はできないだろうな、と苦笑する。
ウルドラゴも少なくなってきたので周囲を見渡す。
リーシアとサンルーヴは怪我をしているように見えないので一安心だ。
そして冒険者は戦線を押し上げ二層と一層を繋ぐ階段に近づく。
これまでのスタンピードの経験ではウルドラゴの大群の後はゴーレムが出てくるので、包囲を狭めた方が戦力を集中できるのだという。
包囲を狭めた冒険者の中に三人の日本人少女の姿もあった。
ハジメの町では猪突猛進だった三人だが、今回はしっかりと周りの冒険者と歩調を合わせ安定した戦いを繰り広げている。
しかも周囲の冒険者がピンチになりそうになると、その冒険者を助けるほどに周囲がしっかりと見えているし、余裕もある。
彼女たちの成長を目にしてオジサン嬉しいよ。
ここまで成長した彼女たちなら俺も全力で応援してやろうと思える。
「ゴーレムだ!ゴーレムが来るぞ!」
どこからか慌てたような声がすると、冒険者たちに今まで以上の緊張が走る。
ゴーレムは硬いのでダメージが与えずらい魔物だ。
冒険者でもそれなりの腕前にならないと厳しいだろう。
しかしそれほど数が多くないし動きが遅いので手榴弾の良い的になると思う。
俺はバレットM82A1対物ライフルを取り出す。
ブローニングM2重機関銃や96式40mm自動てき弾銃でもゴーレムは倒せるが、バレットM82A1を久しぶりに使ってみようと思った。
バレットM82A1を使うような魔物は滅多にいないし、何よりリーシアたちが瞬殺してしまうので俺がこの化け物ライフルを使うまでもなかったのだ。
ドラゴンの鱗を貫くほどの威力を持つバレットM82A1を構える。
発砲音と共に肩に衝撃がくる。
次の瞬間にはゴーレムの胸に穴が開きゴーレムは動きを止める。
ゴーレムは下手な攻撃を与えるより核のある胸の部分を破壊すれば止まる。
多少の破損は再生するので胸への攻撃ができるのであれば、その方が簡単だし面倒がない。
俺がバレットM82A1を撃っていると他のゴーレムが爆発する。
冒険者もゴーレムの硬さが分かっているので手榴弾で木っ端みじんにしていた。
ゴーレムを次から次に撃ち抜く。冒険者も手榴弾でゴーレムの数を調整しながら肉弾戦で戦う。
だからゴーレムが途切れる。
次に出てきたのはアイアンゴーレム。
このアイアンゴーレムも胸を貫けば止まるので胸を撃ち抜く。
多くのアイアンゴーレムを倒したのは認識しているが数は覚えてない。
そしてここで煌めくボディーのゴーレムが現れた。
一定の条件下でないとPOPしないミスリルゴーレムだ。
「あれは何だ!?あんなゴーレムは見たことないぞ!」
レア度の高いミスリルゴーレムはゴーレムやアイアンゴーレムの親玉のようなポジションなのか一体しかいなかった。
そんなミスリルゴーレムに照準を合わせていると俺を呼ぶ声がする。
「グローセさん、あれは私にやらせて下さい」
「セーラが?」
「はい、拘束系の魔法も覚えましたし、何より距離がありますから大丈夫です」
たしかに冒険者の先頭グループからもまだ五百メートルは離れているので足の遅いミスリルゴーレムを一方的に攻撃するには良い。
「分かった、96式装輪装甲車を前進させてくれ」
「有難う御座います」
生き残っていたサンドリザードやウルドラゴを跳ね飛ばして96式装輪装甲車を走らせミスリルゴーレムまで三百メートルの場所に移動する。
魔物の死体が地面を埋め尽くして地獄絵図の様相だ。
この光景を創り出したのが自分だと思うと少し恐ろしくなる。
ミスリルゴーレム以外の魔物をブローニングM2重機関銃で始末する。
これでセーラが思う存分魔法を撃てるだろう。
俺はブローニングM2重機関銃を構えて周囲を警戒し、セーラはミスリルゴーレムがもう少し近づいてくるのを待つ。
そろそろセーラの間合いに入るころだと思ったらセーラが魔法を詠唱し始める。
俺は周囲の警戒を一段上げる。
「焼き尽くせフレアストーム」
セーラが獄炎の魔杖を掲げるとミスリルゴーレムの周囲が赤く染まる。
炎の渦がミスリルゴーレムを包み、百メートル以上離れているここまでその熱気が伝わってくる。
フレアストームは大地を焼き、ミスリルゴーレムの周囲にいる他のゴーレムも巻き込んで燃え盛る。
一分ほど経ってやっとフレアストームが収まると、その跡にはドロドロに溶けたゴーレムだった物があった。
しかしゴーレムとアイアンゴーレムは溶かされていたが、ミスリルゴーレムはまだ健在だ。
「凍えよ、アイスダスト!」
細かい氷の粒が視界を覆いつくす。
その中心にはミスリルゴーレムがいる。
極限にまで熱した金属を急激に冷却するとミスリルゴーレムの体が脆くなる。
「ストンパレット!」
拳大の石がガンッ、ガンッとミスリルゴーレムに当たりミスリルゴーレムが木っ端みじんに爆散した。
「オオォォォォォォォォォッ!」
後方で冒険者たちの歓声が上がる。
どうやらミスリルゴーレムを倒したセーラの魔法の派手さに見とれていたようだ。
ミスリルゴーレムはセーラが拘束系魔法を使うこともなく呆気ない最後だった。
「お疲れさん」
「大して疲れていませんが、これで私もミスリルゴーレムの単独撃破を成しました!」
そこを張り合っていたのね。
俺の妻たちはまったく……
しかし冒険者ギルドと国の政策で、高ランクの魔物を単独討伐できる冒険者には貴族の位が与えられる。
ミスリルゴーレムはランク5の魔物だ。
つまりミスリルゴーレムを単独で倒せるのであれば男爵になれるのだ。
三人の妻たちはいずれもミスリルゴーレムを単独討伐できるから男爵は確実だ。
まぁ、彼女たちは貴族の位に興味はないようだけどね。
ミスリルゴーレムを倒したことで俺たちは一旦後退する。
冒険者の方もひと息入れれる状況のようで交代の冒険者を投入して今まで戦っていた冒険者を下がらせる。
その間に回復系の魔法を使える冒険者や神官は冒険者の手当てをしていく。
「魔物の数に対し冒険者の被害が少なく済んだのはグローセ殿のおかげだ」
「いえいえ、私は大したことしていませんよ」
俺たちが96式装輪装甲車で参戦したこととウルドラゴが密集した場所に冒険者が手榴弾を投げ入れたことで冒険者の被害はかなり少なく済んだようだ。
しかしまだスタンピードが鎮静化したわけではないので俺は一度家に帰り翌朝また赤の塔に来ることにした。
死者もそうだが、重傷者がかなり少なく済んだので、ポーションなどの薬品の消費もそうだが回復を担当する冒険者や神官の消耗が少なく済んだ。
このため、ギルド長のグラガスさんは俺に対し家に帰って休養をとるように勧めてくれたのでお言葉に甘えることにしたのだ。
「主とセーラで美味しいところを持っていってしまったな」
「良いじゃないか、セーラだってミスリルゴーレムを倒したかったんだよ」
「リーシアさん、これで三人並びましたね」
「むむむ~」
セーラはコロコロと笑いリーシアはぷくっと頬を膨らます。
サンルーヴは俺の膝の上でお菓子を食べ、魔物との戦闘で出番がなかったルビーもまたお菓子を啄んでいる。
和やかな日常の風景とあまり変わらないけど、先ほどまで魔物の大群と戦っていたと思うと身震いがする。
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