異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

011_風雲急を告げる2

 


「大変だ!魔物が押し寄せてくるぞっ!」


 そんな声があちこちで起こり、町中は騒然とする。
 それに呼応するように俺の護衛をしていた『アルスの剛腕』が身を寄せ合う。


「スタンピードか!?」
「取り敢えず冒険者ギルドに行って情報収集が優先だね」
「……」


 『アルスの剛腕』の三人が冒険者ギルドに行こうとする。


「待ちなさい!」
「何だい、セーラ」
「私たちは護衛依頼の途中なのですよ。自分勝手に行動し護衛対象に何かあったらどうするのですか?」
『うっ!』


 冷静に『アルスの剛腕』の三人を説き伏せるセーラさん。


『インス、如何すれば良いかな?』
『先ずはこの町で一番安全な場所に逃げるのが宜しいかと思います』
『一番安全な場所ってどこかな?』
『領主の館、冒険者ギルド、商人ギルド、は建物も丈夫なので避難するには良いでしょうが、領主の館には簡単に入れてもらえないでしょうし、冒険者ギルドは対策本部が設置されるでしょうから避難民を受け入れる余裕はないでしょう』
『つまり商人ギルドに行けと?』
『最善の選択かと』


「私は戦闘ができないので避難をします。リーシアとセーラは私の護衛として避難に付いてきてください」
「私たちは、何をするのですか?」
「『アルスの剛腕』は冒険者ギルドに行き情報収集をして下さい。私は商人ギルドに避難させてもらおうと思いますので、状況が分かったら報告をお願いします」
「分かりました。では、これからは別行動ですね」
「はい、一応連絡が取れないといけないので夕方前には商人ギルドに一度集まって下さい」
「了解です」


 こうして『アルスの剛腕』は俺たちと別行動をとることになった。
 そして俺はリーシアとセーラに守られながら商人ギルドを目指す。
 その際、リヤカーは邪魔なので買ったばかりのアイテムポーチに仕舞って先を急ぐ。


「アンブレラさん!」
「おお、ヘンドラー様、ご無事でしたか!」
「すみませんが商人ギルドに避難をさせて頂けないでしょうか」
「ええ、構いません。私のオフィスへどうぞ」


 アンブレラさんは俺たちを自分のオフィスに通してくれた。
 簡素なデスクとチェアーに見た目は豪華絢爛と言うわけではないが座り心地の良いソファーがあるこじんまりとした部屋だ。


「こちらでお待ちください」


 そう言ってアンブレラさんは部屋を出て行った。


『インス、スタンピードはよくあるの?』
『数年から十数年のスパンで発生します』
『前回はいつ頃発生したの?』
『9年前ですので期間としてはいつ起きても不思議ではなかったようです』


 そんな時期に俺をこの町の傍に転移させたのかよ。
 あの金髪さんならその程度はやりそうだ。


「主、これからどうするのだ?」
「さて、何をどうすれば良いか分からないから、先ずは情報収集だね。この商人ギルドが魔物に襲われることになればリーシアにも働いてもらうからね」
「これまでのスタンピードと同じなら町の外で殲滅できます。この町の中に被害があったのは百年以上も前の話ですから」
「セーラの言う通りなら少し安心だね。できれば誰も死んでほしくはないし」
「グローセさんは優しいですね」


 セーラの話を聞くと少しだけ安心できた。
 だけど何事にも例外はあるし、今回は俺のような転移者が多くこの町を訪れているだろうから、何かあると思っていた方が良いだろう。


 夕方、情報を仕入れた『アルスの剛腕』と合流した。
 状況としては明朝には戦闘が行われる状況らしい。
 そして気になる魔物の戦力はウルフ系の群れだそうだ。
 グラスウルフが少なくとも千匹、他にグラスウルフの上位種であるグレーウルフやブラックウルフが百匹以上、更に上位種のブラッドウルフが数匹確認されているらしい。


「もしかしたらキングが居るかも」
「キング?」
「ウィットニーはキングも知らないの?今回の群れの規模はかなり大きいのでキングウルフが統率している可能性もあるらしいよ。しかもキングのランクは5以上だからもう化け物だよね」


 何か大事になってる?
 これは市街戦も想定するべきか?
 今からじゃ武器屋に行くだけでも大変だし、行っても売ってくれるか分からないからな、どうしよう。


『インス、俺は生き残れるかな?』
『分かりません』
『そこは大丈夫!って言うところじゃないかな?』
『マスターに嘘はつけません』
『……なら俺でも扱える武器ってないかな?』
『マスターが生まれた地球の武器を購入してみては如何でしょうか?』
『地球の武器?』
『地球は殺戮兵器の宝庫ではないですか』
『……なるほど、確かに地球の歴史は戦争の歴史だけど……』
『剣や弓をマスターが使えるとは思えませんのでその方が良いかと思います』


 遠まわしどころかストレートに「お前は戦闘センスがない」と言われている気がして落ち込む。
 でもインスの言う通りなんで何も言い返せない。


 その日はアンブレラさんの厚意でオフィスに泊めてもらった。
 そして皆が寝静まった頃にインスに起こしてもらい【通信販売】で武器を探す。
 剣や弓よりも扱い易いと言えば……何?


『インス、俺でも使える武器って何かな?』
『銃でしょう』
『やっぱ銃か。……俺にはどんな銃が合うかな?』
『マシンガンが良いのではと思います』
『……てか、デカくね?』
『サブマシンガンであれば比較的小さいですよ』
『サブマシンガンねぇ……』
『それとレーザーサイトも有ればいいですね』
『サブマシンガンにレーザーサイトね……MP7、レーザーサイト付き、これどうかな?』
『良いかと思います』
『てか、このMP7で魔物を倒せるの?』
『グラスウルフ、グレーウルフ、ブラックウルフ程度であれば問題ないです』
『ブラッドウルフは?』
『……会わないことを祈りましょう』
『おいっ!』
『サブマシンガンでは流石にブラッドウルフやキングウルフには致命傷を与えるのは難しいでしょう』
『もっと強力な武器を買うしかないのか?』
『対戦車砲などであればダメージを与えることができますが、マスターに扱えるかは分かりません』
『……地味に俺の心がダメージを負っているのですが……他にないの?』
『【通信販売】がランクDになると『改造』が解放されますので、そうすればサブマシンガンを改造して強化できますが……』
『ランクアップするまでに時間が掛かりそうなの?』
『はい、【通信販売】のランクアップは取引額ですが、あと九千百二十万円ほど取引をしないと解放されません』
『ははは、それってまさか取引額一億円がランクアップ条件なの?』
『はい』


 今の勢いならそれほど遠くない時期に一億円ぐらいは取引できると思うけど、今回の戦いには間に合わないか。


『……ちょっと待てよ。その取引額って購入金額だけじゃなく、販売金額も合わせての取引額なの?』
『はい、購入金額と販売金額を合わせた取引額になります』
『この世界の物を売るとして、何が売れるかな?こっちの砂糖って売れるの?』
『この世界の砂糖も売れますが一キログラムで数十円程度でしょう』
『マジか……』


 今回は諦めるしかないのかよ。時間が必要だな。
 あれ?……この世界の名物を売れば高値が付かないかな?


『ねぇ、インスさんや』
『何でしょう?』
『魔物が売れるって最初のチュートリアルの時に言っていたよね?』
『はい、売れます』
『ホーンラットは幾らで売れるの?』
『残念ですが金額については分かりかねます』
『じゃぁ、この世界のホーンラットの末端価格を教えて』
『ホーンラットは魔石がなく、食用の肉として売る程度ですが一頭で千円程度でしょう』
『今攻め込んできているグラスウルフの方が高いよね?』
『明確には言えませんが、高い確率でホーンラットより高値で売り買いできると思います』


 俺が死闘を繰り広げストレージに仕舞い込んだままだったホーンラットの死体を【通信販売】で売りに出すと……八千円。これ、いけるんじゃね?


 MP7というサブマシンガンを購入する。
 装弾済みのマガジンも大量に購入しておく。
 しかし銃って意外と安いのね。俺はもっと高いかと思っていたよ。


 翌朝、日の出とともに遠くの方から喧騒が聞こえてきた。


「始まったようです」
「悪いけど護衛は任せたよ」
「主は俺が守る!」


 この夜明けで『アルスの剛腕』とセーラへの護衛依頼の期間は完了している。
 夜明け前に依頼完了のサインをして契約完了とした。
 本人たちとは継続依頼が決まっていたが、冒険者ギルドに話を通すまえにスタンピードの件でそれどころではなくなってしまった。
 だから『アルスの剛腕』の三人が他の冒険者と共に前線で戦う、と言った時に止めることもできなかった。
 しかしセーラは俺との約束だからと口約束ながら律儀に俺の護衛をしてくれている。
 そして忙しく職員に指示を出しているアンブレラさんを見つけ提案する。


「今回の魔物の死体を買い取りたい、ですか?」
「はい、私には戦う力がありませんので、私にできることで冒険者の皆さんの頑張りに報いたいと思います」
「しかしグラスウルフは毛皮程度しか使い物になりませんよ?しかも冒険者ギルドでの討伐依頼が一匹あたり三千円ですが毛皮は良くても二千円程度にしかなりません」
「では、一匹当たり五千円で購入しますので冒険者ギルドに渡りを付けて頂けないでしょうか?」
「……分かりました。しかし今回のスタンピードの件は冒険者ギルドではなく領主様の管轄になりますので領主様にご提案致しましょう」
「え?」
「スタンピードの対応は領主様が冒険者ギルドに依頼をしており、グラスウルフなどの死体については領主様の所有物になります。尤も大量のグラスウルフを解体する労力を考えますと焼却処分になるでしょうから、ヘンドラー様が一体五千円で購入されるのは領主様にとっても資金面で良い実入りになるでしょう」


 何か話が大きくなってアンブレラさんに領主の館に連れていかれた。
 一時間も待たされずに領主の執務室に通された。
 この時期にこんなに簡単に領主に会えるものなのか?と思うが、アンブレラさんの顔なんだろう。


「ご領主様、商人ギルドのアンブレラがご挨拶申し上げます」
「うむ、アンブレラ殿、ご苦労」
「こちらの方は商人のヘンドラー様で御座います。本日はヘンドラー様からご領主様にご提案が御座いますのでまかり越しました」
「グローセ・ヘンドラーと申します。以後お見知りおき下さいませ」


 茶髪の髪の毛に白髪が混じり始めた壮年の男性が執務机を挟んで俺を値踏みするように見つめている。


「領主のキドーだ。して、提案とは?」


 現在進行形で城壁の外では冒険者たちとウルフ系魔物とが戦っているので、領主も時間が惜しいのだろう。前置きもなく本題を促してきた。
 アンブレラさんも俺に頷く。


「今回の戦闘で討伐したグラスウルフの死体を一体当たり五千円で買い取りたいと思いまして、こうしてご領主様にお目通り願った次第で御座います」
「ほう、死体を引き取ると?」
「はい、戦闘が終わりましたらグラスウルフの死体を城壁の傍に纏めて頂ければ後は私の方で回収します」
「ヘンドラーとか言ったな?その話にソナタの利益はあるのか?」
「あります」
「ほう、どんな利益があるのだ?」


 視線が厳しくなった。背中に冷汗が流れる。


「それは企業秘密で御座います。たとえご領主様であってもお教えすることはできません」
「……あい分かった、その話受けよう。戦闘が終わったら城壁の外に纏めるまではしよう」
「有難う御座います」
「商人ギルドへの仲介料は二割で良いな?」
「はい、有り難き幸せ」


 領主との商談は終わった。拍子抜けするほどアッサリと纏まったのでこれで良いのか、と思ってしまう。


 

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