絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

15・大群

 


「保穂さん、右!」
「チッ、限がないっ!」


 逃げようとした。
 だが、逃げようとした朱雀たちの進路上にゴブリンの五体編制パーティーが現れそれを倒している間にゴブリンの大群に囲まれてしまった。


 ことの起こりは杏子が山の麓に大量のゴブリンが群れをなしていたのをみつけたことから始まる。
 それを見た杏子はすぐに朱雀たちのところに戻り撤退を進言した。
 その進言を受けて朱雀たちはすぐに撤退するのだが、残念ながら追いつかれてしまったのだ。


 保穂は次から次に襲い掛かってくるゴブリンをライオットシールドを横に薙ぎ払い弾き飛ばす。
 だが右から来たゴブリンの棍棒で殴られてしまう。
 遥は二体のゴブリンの相手をしており保穂の援護に回る余裕がない。
 杏子はヒットアンドアウェイが基本の戦闘なのでこういった大群相手にはジリ貧だ。
 朱雀や秋葉は中・遠距離攻撃主体だから乱戦は苦手だ。
 詩織も回復職なのでこれだけ接近されてしまっては非常に厳しい。


(この数を倒すのは無理だ、このままでは数の暴力に屈するだろう。どうする、このままでは数に押され俺たちは間違いなく死ぬことになるだろう。どうする……)


「まてよ……詩織ちゃん!【聖結界術】を頼む!」
「あ、はい!」


 朱雀は詩織の技能に【聖結界術】があることを思い出し、詩織に【聖結界術】を張るように指示すると詩織は呪文を詠唱し出す。
 朱雀はゴブリンを詩織に近付けないように体を張って詩織を庇う。
 幸いにして多くの職業に就いたことで以前よりは体力が上がっており、棍棒を数回受けただけでは沈みはしない。


「く、やらせん!やらせはせんぞ!」


 朱雀は気を吐き左手に握っていた弓を横に薙ぐ。
 武力も上がってはいるが、ゴブリンを多少弾き飛ばす程度で倒すほどのダメージは与えられない。
 しかし何度殴らようが、詩織には近付けないという強い意志を持ち耐えしのぐ。


 朱雀の視界に剣を振り上げたゴブリンソルジャーがニタっといやらしく笑った顔が映る。
 だが、朱雀の右手は既に骨折しており動かせる状態ではない。
 更に左手に持った弓はゴブリンを殴ったせいでポッキリと折れてしまった。
 受けることは無理だし避けるだけの力が出ない。これまでか……と諦めににた感情が支配をする。


「まだです!まだやれます!」


 遥が朱雀に剣を振り下ろそうとしたゴブリンソルジャーに刀を突き刺し朱雀を助けてた。
 しかしそれが悪かった、ゴブリンソルジャーが硬直したのか刀が抜けないのだ。
 刀を抜こうとしている遥を見た別のゴブリンが遥に近づき背後から剣を振り下ろす。


「遥ちゃん!」


 遥はその場にドサリと倒れた。
 背中からは大量の血が流れだし、その傷口は痛々しく大きい。
 肉だけではなく骨にも達しているように見えた。


「いきます!【聖結界術】」


 ボウっと耳鳴りのような感覚を覚えたと思うと周囲が透明な壁に囲まれる。
 朱雀は倒れた遥ちゃんに駆け寄り抱きかかえる。


「遥ちゃん、大丈夫かっ?おい、しっかりしろっ!」


 朱雀は抱きかかえた遥ちゃんの体を揺らし彼女の目を覚まそうとした。
 後から思えば馬鹿なことをしていたものだ。
 そんな朱雀の目を覚ましたのは朱雀の襟首を掴み後方へ思いっきり放り投げた秋葉だった。
 秋葉は遥から朱雀を引き離すと持ち物から小瓶を取り出し遥の背中の傷口に振りかけた。
 その水色の液体が振りかけられた傷口はまるで筋肉が増殖しているかのようにモコモコと肉を作りそして皮膚も繋がっていく。
 あっという間に傷口が塞がると肌は何も無かったかのように元通りとなり破れて血の付いた服のみが今まで怪我をしていたのだと主張している。


「はるっちは大丈夫だから!今は気絶しているだけだから!冷静になりなさい!」
「え、あ、あぁ、秋葉ちゃん……何か色々取り乱してゴメン」


 冷静に考えれば朱雀の作ったポーションなら大怪我も直すので怪我をした遥に使えば良かったのだ。
 朱雀はそんな簡単なことさえ思い浮かばなかったと、自分のヘタレぶりに落ち込む。


「ハーレムリーダー、結界内の戦闘が終わったよ。皆に指示をしてよ!」


 秋葉の言葉で朱雀は我に返る。
 そして皆の無事を確認する。
 遥は別として、皆かすり傷は受けているが命にかかわる怪我はしていないようだ。
 取り敢えず一安心をする。


 遥の血を見て焦ってしまった朱雀はリーダー失格だと反省しきりだ。
 言い訳するつもりは無いが平和な世界で生きてきた朱雀には仲間が大量の出血をして倒れた経験などない。
 しかもボッチだったのでアドリブには弱いのだ。
 焦っても仕方がないだろう。しかし……


「詩織ちゃん、結界はどの程度の時間持つかな?」
「分からない、でも一時間位は大丈夫だと思う」
「凄いね、これだけの結界を一時間も維持できるの?」
「多分、もっと大丈夫。でもその間はヒールとかできないみたい」
「詩織ちゃんには悪いけど今の内に休憩しよう」
「そうですね、詩織ちゃんには申し訳ないですが今は少し休憩がしたいです」


 朱雀が反省を後回しにして結界の維持時間を確認したことで休憩が取れる時間があることが分かった。
 杏子は詩織に申し訳なさそうにし、詩織の近くで地面に腰を降ろす。


「詩織なら大丈夫。結界を張りながら休憩できるから」


 出会った最初の日の夜、ゾンビ無双した時にも認識していたが詩織のスペックは半端ない。
 職業の『聖女』は伊達ではないということだろう。
 戦闘力は殆どないが回復や防御特化の職業としては破格のスペックだ。


「ねぇ、ハーレムリーダー。これからどうする?しおりんのお陰で安全圏を確保したけど結界の外はあの通りだし」


 秋葉は詩織が【聖結界術】で作り上げた結界の壁の外で壁に剣や棍棒などを叩きつけているゴブリンたちを見まわしウンザリした顔をする。


「皆、惜しまずにポーションを使ってくれ。ケチって死んでもアホらしいからね」
「その考えには賛成します。死んだら何にもなりませんから」
「え、あ、遥ちゃん起きたんだ!」
「はい、心配をかけましたが生きています。うっ」


 立とうとした遥ちゃんは体をふらつかせ尻もちをつく。


「はるっち、これ飲んで。血を流し過ぎたから貧血状態だと思うの。ポーションで血が補えれば良いけど、まぁ、気休めだと思ってね」


 遥は秋葉が差し出したポーションを一気に呷ると咳き込む。


「ゴホッゴホッ、まずっ!」
「そんなに不味いの?」


 詩織が嫌そうな顔をして遥に確認する。


「今まで味わったことがないほどニガイです」


 詩織が『ウゲー』って顔をする。
 八歳の彼女には許容でできない味なんだろう。
 朱雀も一本いってみたが間違いなくニガイ、とてつもなく苦かった。
 皆も飲んでかなり渋い顔をしている。


「ハーレムリーダー!今後の課題としてポーションの味の向上を要望するですっ!」
「うん、これは飲みにくいから少しでも改良できればお願いしたい」


 秋葉に同意し保穂も味の改良を希望した。
 この中では保穂が一番ポーションにお世話になるだろうから切実なことなんだろう。
 朱雀もそれには同意なのでやることリストの上位にしようと思った。


(先ずは砂糖を入れてみるかな、それともフルーツ系で味を付けてみるか)
「いつまでもこうして休憩していたいけど、そろそろ次の作戦の説明をお願いできますか?」
「うんうん、杏子っちの言う通り、そろそろ作戦を聞かせてよ、ハーレムリーダー!」


(今更だけどその『ハーレムリーダー』は止めてほしい。てか、俺ハーレムなんて作ってないから!)
「……各個撃破する」
「これだけ大量にいるゴブリンを各個撃破するのは容易ではないと思うけど……?」
「保穂さんの言っていることは正しいけど、正しくない」
「あ、分かった! しおりんの結界だ!」
「そう、秋葉ちゃんの言う通り結界を利用する。詩織ちゃんの結界は只の結界じゃない。詩織ちゃんの許可したものは出入りができるんだ」


 朱雀がいつの間にか普通に喋っていることに杏子や保穂は気が付いている。
 しかしこの方が話が速いので敢えて何も言わずこの場を乗り切ろうと考えた。


「つまり少数のゴブリンを結界内に誘導し各個撃破するのですね」
「杏子ちゃんの言う通りだ。詩織ちゃんには俺が指示したゴブリンを個別に結界内に入れてほしい。できるかな?」
「うん、大丈夫!」
「よし、えらいぞ!」


 朱雀は詩織の頭を撫でてから皆を見回す。


「保穂さんと杏子ちゃんはそれぞれ一体ずつ受け持ってほしい。それと秋葉ちゃんは万が一、二人がとりこぼしたゴブリンが詩織ちゃんや遥ちゃんの方に行くのを防ぐフォローをしてほしい。俺は指示とフォローをします」
「私も戦います!」


 遥が前線に出たいと言い出したが、朱雀はそれを許さない。


「今の遥ちゃんを前に出すわけには行かないよ」
「でもっ!「これはリーダーとしての判断だよ」……」


 もうこれ以上仲間が傷つくのは見たくない。
 できるだけ多くの安全マージンをとろう。
 そして石橋をたたいても渡らないような、そんなリーダーになろう。
 仲間を失うことだけはしない、そんなリーダーになろう。
 もっと皆の力を引き出せるようになりたい。
 そして強大な敵が現れても力を合わせて立ち向かえるようなそんなパーティーにしよう。
 朱雀は皆に指示をしながら強く、強く決意するのだった。


「今は遥ちゃんを守らせてほしい。俺たちは仲間なんだから……」
「……はい、解りました」
「よし! 話は決まったから、早速ゴブリンたちをぶっ飛ばすぞ!」
「「「「「はい!」」」」」


 朱雀は皆に準備を促し位置についてもらう。
 そして詩織にゴブリン二体を結界内に入れるように指示を出す。
 結界内に入る許可が与えられたゴブリンはそれまで結界を破壊しようと力を込めていたこともあり前のめりに倒れ込む。


「保穂さん、杏子ちゃん、今だっ!」


 せっかく態勢を崩してくれたゴブリンたちに朱雀は攻撃を仕掛けるように指示を出す。
 朱雀の指示で保穂は持っていた鉄パイプをゴブリンの頭に叩きつけた。
 一瞬、ビクっとしたゴブリンは声もあげることなくそのまま絶命する。
 杏子は倒れて立ち上がろうとしていたゴブリンの喉元に短剣を撫でるように這わせるとゴブリンは首から血飛沫が噴き出して絶命した。


「よし、詩織ちゃん次はあそこの二体を入れて!」
「うん!」


 順調に危なげなくゴブリンの数を減らしていく。
 結界内に入れるゴブリンを二体に限定していることから保穂や杏子は危なげなくゴブリンを倒していく。


 全部で一三九体のゴブリン。
 ゴブリンが八三体、ゴブリンソルジャーが二二体、ゴブリンシーフが一六体、ゴブリンアーチャーが一三体、ゴブリンメイジが四体、そしてハイゴブリンが一体だ。
 恐らくこのハイゴブリンが群れを率いていたのだろう。
 まだ数回しかダンジョン探索をしていない朱雀たちの前に現れるには過剰戦力だったはずだ。
 このダンジョンは朱雀たちを排除しようとしたのか……朱雀が考えをめぐらす。


 全てのゴブリンを倒して朱雀たちの前に現れたのは宝箱だった。
 漫画やゲームなどで見るタイプの木の本体に金属で補強がしてある宝箱だ。
 大きさは十キログラムのミカン箱よりも二回りほど大きい。
 以前、『採取の短剣』を得た時にはドロップアイテムとしてストックされたが、今回は宝箱が残された。


【技能【統率】を覚えました】


(はいっ、来ました!今更何も言う気はない!しかも今の俺の戦闘スタイルにもってこいの技能じゃないか!俺もとうとう戦闘チートの領域に足を踏み入れたようだな。実際見てみないと分からないけどチートの予感だぜ!)


「まさかモンスターを倒すと宝箱が現れるとは……正にダンジョンだな」
「ハーレムリーダー!早く開けようよ!」
「待つんだ、秋葉。宝箱に罠が仕掛けてある可能性もあるぞ」
「そんなこと言っていて宝箱が消えて無くなったらどうするのよ!」


 朱雀がアナウンスを確認していた間に藤原姉妹は宝箱を巡ってヒートアップしていた。


「あの、私レベルが上がって罠解除の技能を取得しましたので罠があるか確認しますね」


 何とも都合が良い杏子の提案に秋葉は狂喜する。
 しかし『盗賊』なら何れはと思っていたがグッドタイミングである。


「本当に!杏子っち、ヤッター!早く開けて!」


 杏子は秋葉に急かされるも朱雀の方に視線を向けてきた。
 その視線の意味をくみ取り朱雀は頷いて了承の意を伝える。


「まだ覚えたばかりだから罠があった場合に解除が失敗するといけないので離れていてもらえますか」


 こればかりは杏子に任せるしかないことから全員が少し離れる。
 それでも杏子に何かあった時の為に詩織には【聖浄化術】を準備してもらうことにしたし、朱雀自身もポーションを用意しておく。


 宝箱にそーっと近付いた杏子はマジマジと宝箱を観察する。
 一つ頷いてそして鍵穴に向かって掌を翳すと数秒後にはカチという音が聞こえ杏子は宝箱の蓋を開ける。
 杏子が蓋を開けたのを見計らい神速で近付く秋葉。
 朱雀は解錠時に何もなかったことにホッとし秋葉の後をユックリ追う。
 皆で宝箱を囲み中を覗き込むとそこには手を保護する籠手が鎮座していた。




 銘: 武士の籠手
 品質: ★★★
 能力: 武力+20、体力+20
 効果: 刀術系武器の扱いに補正。
 価値: 500,000ギル




「遥ちゃんだね」
「「「「うん」」」」
「え、あ、有難うございます!」


 因みに宝箱には鍵はかかっていたが罠は仕掛けられていなかったらしい。
 宝箱とドロップアイテムの差は何か分からない。これについてはもっと情報が必要だ。






 氏名: 神流川朱雀かんながわすざく
 職業: 育成士Lv22
 情報: 新人類、ランク1、男、28歳
 固有技能: 習熟II
 正技能: 契約III、経験値共有II、育成II、強化II、可視化II
 副技能: 弓術II、矢弾命中補正II、採取I、魔法薬錬成I、統率I
 育成ポイント: 1202GP
 武力39
 体力37
 知力58
 器用74
 俊敏49
 魔力39
 魅力138


 @統率 英雄レベル1解放/指揮下にある者の連携が向上し魅力以外の能力も上昇する。






 氏名: 茜部杏子あかねべあんず
 職業: 盗賊Lv15
 情報: 新人類、ランク1、女、16歳
 固有技能: 加速I
 技能: 隠密II、開錠I、地形把握I、短剣術I、罠解除I
 契約者: 神流川朱雀
 武力53
 体力39
 知力30
 器用67
 俊敏83
 魔力20
 魅力28


 @短剣術 盗賊レベル11解放/短剣による攻撃に補正。
 @罠解除 盗賊レベル15解放/罠の発見、解除において補正がある。






 氏名: 石津詩織いしづしおり
 職業: 聖女Lv16
 情報: 新人類、ランク1、女、8歳
 固有技能: 祈りII
 技能: 聖治癒術II、聖浄化術II、聖結界術II、魔力上昇I
 契約者: 神流川朱雀
 武力17
 体力17
 知力74
 器用27
 俊敏29
 魔力102(79+23)
 魅力48


 @魔力上昇 聖女レベル15解放/魔力が上昇する。






 氏名: 藤原保穂ふじわらやすほ
 職業: 撲殺戦士Lv14
 情報: 新人類、ランク1、女、21歳
 固有技能: ウォーサークルII
 技能: 撲殺術II、盾術II、身体強化I
 契約者: 神流川朱雀
 武力93(72+21)
 体力117(90+27)
 知力21
 器用32
 俊敏44(33+11)
 魔力14
 魅力22


 @身体強化 撲殺戦士レベル10解放/武力、体力、俊敏が上昇する。






 氏名: 藤原秋葉ふじわらあきは
 職業: 火魔術師Lv14
 情報: 新人類、ランク1、女、18歳
 固有技能: 魔力増加II
 技能: 火魔術II、魔力操作II、魔力回復I
 契約者: 神流川朱雀
 武力16
 体力18
 知力67
 器用40
 俊敏35
 魔力82
 魅力30


 @魔力回復 火魔術師レベル10解放/魔力の回復量と回復速度が向上する。






 氏名: 鴻池遥こうのいけはるか
 職業: 剣闘士Lv15
 情報: 新人類、ランク1、女、17歳
 固有技能: 剣舞II
 技能: 剣闘術II、体術II、身体強化II、剣撃強化I
 契約者: 神流川朱雀
 武力114(88+26)
 体力72(56+16)
 知力35
 器用50
 俊敏66(51+15)
 魔力18
 魅力35


 @身体強化 剣闘士レベル10解放/武力、体力、俊敏が上昇する。
 @剣撃強化 剣闘士レベル15解放/剣による攻撃力が上昇する。


 

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く