絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?
14・錬金術
乾燥させた回復柴草をビニール袋に入れて手でもむと粉々になるので、その粉をすり鉢で更にきめの細かい粉にしていく。
次は厚みのあるビニール袋を二重に重ねその中にランク1魔石を入れて金床に置きハンマーを振り下ろし粉砕する。
ランク1魔石が砂粒程度になるまでハンマーを振り続けて、すり鉢で更に細かくする。
因みにランク1魔石というのは最下級の魔石のことであり、朱雀たちでも入手できるゴブリンの魔石がこのランク1魔石となる。
ランク1の魔物から得た魔石がランク1魔石になるのだ。
魔道竈に鍋を置き水を入れる。
この水は車で一時間ほどの場所にある名水百選にも選ばれた全国的に有名な湧き水を汲んできたもので魔道竈に火を入れて沸騰させる。
沸騰したお湯の中に回復柴草の葉一枚分の粉末を入れるとサーっと紫色がお湯の表面に広がる。
ここで三回ユックリかき混ぜると紫色がお湯全体に馴染んでいく。
次はランク1魔石一個分の粉末を投入する。
灰色の魔石の粉末だが、お湯の色は変わらない。
全ての材料の投入が終わった、ここからが本番である。
魔力を注ぎながらユックリと紫色のお湯をかき混ぜていくと少しずつ色が変わって行く。
濃い紫から薄い紫、そして黄緑から濃い緑、濃い青に変わって最後に水色になる。
ここで魔道竈の火を止めて魔力を注ぐのも止める。
ここまで凡そ八分、水色の液体を十数分放置して馴染ませるとポーションの出来上がりである。
これでポーション二本分の量となる。
「できましたね!」
「できるもんだね!」
杏子と保穂が朱雀の作ったポーションを覗き込んで嬉しそうにいう。
銘: ポーション
品質: ★
効果: 傷を治す魔法薬
価値: 1,000ギル
錬金術師ギルドの組合員になるには★★の品質が要求される。
初級のポーションなので★★の品質を作れない者を組合員として認められないのだという。
「最初ですからこんなものですよ!」
「そうそう、最初から失敗せずに作れただけも凄いと思うよ」
杏子と保穂が朱雀を慰めるが、朱雀も最初から高品質のポーションが作れるとは思っていないので慰められる必要はないと苦笑いが出る。
朱雀なりの試行錯誤を繰り返す。
薬草の乾燥の仕方や粉の荒さ、魔石の粉砕方法や粉の荒さなどを色々試す。
時々ポーションにならない失敗もあったが、それでも★★の品質を作れるようになってきた。
【技能【魔法薬錬成】を覚えました】
朱雀はこんなに簡単にこのアナウンスが出るとは思っていなかった。
恐らく弓術のような戦闘技能より採取やポーション作りの方が朱雀に合っているのだろうと予想できる。
銘: ポーション
品質: ★★★★
効果: 大怪我も治す魔法薬
価値: 20,000ギル
朱雀に感動の波が襲う。
★が四つもあるポーションが出来上がっていたからだ。
錬金術師管理組合の組合員になるには試験があるが、その試験で品質★★が合格ラインだ。
★四つとまでは言わないが、★三つを安定的に作れるようになれば合格間違いなしである。
品質については錬金術師管理組合で教えてもらった。
品質の★は確認されているだけで★★★★★★(六つ)まである。
エルフの店員は★が粗悪品、★★が普通品質、★★★が高品質、★★★★が超品質、★★★★★が国宝級、★★★★★★が神器級だと言っていた。
一般的には★から★★★程度が多く★★★★以上の品質は滅多にお目にかかれないそうだ。
しかし朱雀は★四つの品質を作り上げている。
これは凄いことだと後にエロフの店員に聞くことになる。
「何この品質?おかしくない?」
ポーション作りを始めて一日目でこの品質はオカシイだろうと秋葉はいう。
いくら技能を得たとしてもここまで高い品質の★四つになるものなのかと頭をひねる。
しかし出来てしまったものは仕方がない。
その事実を素直に受け入れポーション作りに励む朱雀であった。
結局、【魔法薬錬成】を覚えてから二十本分のポーションを作ったが★三つが十四本、★四つが六本作れてしまった。
朱雀本人も信じられないほどの上達ぶりである。
【弓術】を得た後にも感じたことだが、このポーション作りは明らかに【魔法薬錬成】の技能補正を感じることができた。
【採取】も併せて考えると、朱雀は戦闘よりも生産の方が相性がよさそうだ。
「夕食の時間ですよ」
調子に乗って材料が尽きるまでポーションを作り続け、夕方になったのも知らなかった朱雀を遥が夕食に誘いに来た。
杏子、保穂、秋葉はすでにいなくなっており、そのことにも気が付いていなかった朱雀は少し反省をする。
夕食を摂りポーション作りの為に魔石と薬草が必要なのでダンジョンに入らないといけないな、と思う。
ポーション作りに魔石が必要だと知っていたらギルドに売らなかったのにと思ったが、ギルを得るためには魔石を売らなければならず、ギルがないと錬金術も始められなかったのだからと諦める。
「朱雀さんがポーション作りに熱中し過ぎて回復柴草と魔石の在庫が無くなってしまいましたね」
「それならまた回復柴草を採取に行かないとね」
「明日の探索では採取を優先しましょうか。ポーションはいくらあってもいいですし」
こうして翌日の探索では採取を優先にすることが決まった。
そして忘れない内に皆にポーションを渡す。
一人三本、品質の良いものは前衛の保穂、遥、杏子に渡す。
「使わない方が良いけど、お守りだよね」
杏子がにこやかに話す。
(そうだ、忘れずにステータスを確認しておかないとな)
氏名: 神流川朱雀
職業: 育成士Lv15
情報: 新人類、ランク1、男、28歳
固有技能: 習熟I
正技能: 契約II、経験値共有II、育成II、強化II、可視化I
副技能: 弓術II、矢弾命中補正I、採取I、魔法薬錬成I
育成ポイント: 635GP
武力25
体力23
知力37
器用46
俊敏35
魔力25
魅力103
@採取 採取者レベル1解放/植物の採取、鉱物の採掘において、品質が向上しやすい。
@魔法薬錬成 錬金術師レベル1解放/薬品を使った製品を錬金術で生産する時に品質が向上しやすい。
最近は技能の安売りをしているのかと思うような状況である。
【採取】は回復柴草を採取していたら取得し、【魔法薬錬成】はポーションを作っていたら取得した。
その前には弓の練習をしていたら戦闘技能である【弓術】を取得した。
固有技能の【習熟】があってのことだとは分かるが、あまりにも取得のペースが早いと思うのだった。
翌朝、ダンジョンの探索予定なので朝七時に起き出した朱雀はテントの外が騒々しいのに気が付く。
寝ぐせも直さずにテントから出ると数人の民間人が自衛隊員に詰め寄っているのが見えた。
その周囲にも十数人の民間人がおり、その中に保穂の姿を見つけた朱雀は何事かと近付く。
「おは、よう、どう、した?」
「あ、朱雀さん。おはよう。私もちょっと前に来たばかりであまりよく分からないけど、どうやらダンジョンから帰ってきていないパーティーがあるみたいなんだ」
なるほどと、納得する朱雀。
ダンジョン探索をすれば魔物と戦闘になるのは必然であり、場合によっては自分たちが死ぬことだってありうる。
自衛隊員に詰め寄っている人たちは家族が帰ってこなかったので自衛隊に何とかしろと言っているのだ。
「はい、捜索隊を出しますので」
「その捜索隊ってのはいつ出してくれるんだい?」
「そうだ、ここでこうしている間にも博は魔物に襲われているかも知れないんだ!」
言いたいことはわかるが、ダンジョン探索は自己責任だ。
魔物との戦闘が絶対条件である以上、自衛隊員だって死ぬかも知れないのは誰にだって分かることで、それを自衛隊のせいにはできない。
結局、民間人の方はやいのやいのと言うだけで何も進展はない。
自衛隊も急遽捜索隊を出すと言っているが、見つかるとは限らない。
「ダンジョンの中で死んだら死体はのこるのかな?」
朱雀は疑問に思ったことをポツリと呟く。
誰かに話しかけるわけではないので普通の言葉が紡がれる。
しかし朱雀の隣にいた保穂にはその呟きが聞こえた。
「まさか死体は残らないの?」
独り言に反応され聞き返されてしまった朱雀は焦った。
しかも保穂の声が他の民間人にも聞こえたようでまた騒ぎになる。
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