絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

13・採取

 


 ゴブリンの上位種が何度も現れたが先制攻撃と連携で危なげなく戦えることが確認できた朱雀たち。
 そんな戦闘を何度か繰り返し修正点を洗い出す。
 そして朱雀たちはギルドへの帰途についていた。


 帰る途中に遭遇し戦ったゴブリンの上位種からドロップアイテムとして得た『採取の短剣』を六人がマジマジと眺める。




 銘: 採取の短剣
 品質: ★★★
 能力: 刺突(普)、斬撃(普)
 効果: 対象に使用するとレアアイテムのドロップ率が上がる
 価値: 300,000ギル




 ゴブリンシーフからドロップした短剣だったが特殊な効果が付いていた。
 ゴブリン系の魔物がこのような良いアイテムを持っているのが不思議だったが、何より驚いたのは【可視化】によって得られるアイテムの情報が結構細かかったことだ。


 この『採取の短剣』を使えば戦闘後のドロップアイテムのレアドロップがしやすくなるはずで、素直にそれは嬉しいことだと皆が思った。
 しかし朱雀だけは更に斜め上の考えをする。
 戦闘不能になった魔物に使っても効果が発動するのか?
 倒れて動かなくなった魔物は一分ほどで消えてなくなる。
 その間にこの『採取の短剣』を刺しておけばレアアイテムのドロップ率が上がるのかも知れないと。
 もっと言えば薬草採取などに使うとどうなるのか、朱雀の頭の中で『採取の短剣』の使用用途が広がっていく。


 朱雀の考えを聞いた秋葉が「流石ハーレムリーダー!」と褒め称えたのは言うまでもない。


(そう言えば【可視化】って人や魔物以外にも有効なのか?)


 そう思った朱雀は足元に自生している見た目は毒草にしか見えない紫色の草を見てみた。




 銘: 回復紫草かいふくしそう
 効果: 傷薬やポーションの材料になる薬草




(薬草かよっ!)


 朱雀は見た目は毒草なのに薬草だった回復紫草に心の中で激しく突っ込みを入れる。
 そして丁度良いと『採取の短剣』で回復柴草の根元に刃を入れて切り取る。




 銘: 回復紫草かいふくしそう
 品質: ★★
 効果: 傷薬やポーションの材料
 価値: 450ギル




 採取すると自生していた時と表示が変わる。
 品質が『★★』なのは良いことなのだろう。
 ただ、これがどれほど良いのかが分からない。
 『採取の短剣』と手摘みで回数をこなして差を確認する必要があるだろう。


「「「「え、これって薬草なの!?」」」」


 朱雀の説明を聞き、詩織以外の女性陣の声が揃った。
 詩織は朱雀の横で腰を落として採取したての『回復柴草』をマジマジと見ている。


「見た目はこんなに毒々しいのに薬草なんですね」


 杏子のその感想は全員が思っていたことだ。
 その後、朱雀たちは『回復柴草』を見つけると採取を行った。
 手摘みで二〇回、『採取の短剣』で二〇回、採取を繰り返した処、手摘みより『採取の短剣』での採取の方が品質が良いことが確認されたのだ。


【技能【採取】を覚えました】


(え!?そう来たか!?いつかは他の技能を取得できると予想はしていたけどこんなに早く取得できるとは思っていなかったよ)


 朱雀の才能もあるだろうが、ある程度の回数を熟せば【習熟】によって技能を覚えるのだろう。


 手摘みの回復柴草のステータスは全てが品質『★』だった。
 それに対し『採取の短剣』を使って摘み取った場合は品質が『★★』が殆どで三本が『★★★』だ。
 この『★』、『★★』、『★★★』は品質の階級で多い方が良い品質なのは間違いないだろう。


 採取と同時進行でゴブリンを倒した後に『採取の短剣』を死体に突き立てることも繰り返す。
 こちらは絶命したゴブリンに『採取の短剣』を刺してもレアドロップはなかった。
 このことから死体に『採取の短剣』を刺してもドロップアイテムに影響はないと考えられる。


 ギルドに戻ると先ずは受付に探索時に討伐した魔物の報告をする。
 本日の探索で討伐した魔物はゴブリンが四十八体、ゴブリンソルジャーが七体、ゴブリンアーチャーが六体、ゴブリンシーフが一〇体、ゴブリンメイジが二体だ。
 それぞれから魔石や何かしらのアイテムがドロップしている。


 只のゴブリンの魔石は一個千ギル、上位ゴブリンは一律で一個千五百ギルで引き取りをしてもらえる。
 これは朱雀の【可視化】で確認した価値よりは低いがどれも七割程度の引き取単価りとなっている。
 恐らくだがギルドの運営資金として三割ほどピンハネしているのだろうと朱雀たちは考えた。
 この変革した世界にいきなり現れた塔の中に存在するギルドだから運営資金が必要なのかは分からない。
 それを言うとこの受付嬢たちはどこからやってきたのか、地球人なのかも怪しいと言えるだろう。


 本日の収益、八万五千五百ギル。
 ギルに換金した場合は六人で均等割することにしているので一人当たり一万四千二百五十ギルとなる。
 このギルの価値がどの程度なのか今現在は分からないが、少しは買い物ができるだろうと予想ができる。


「今日は奥の販売エリアを見ていきませんか」
「賛成、賛成!」


 杏子の提案に飛びついてきたのは秋葉だ。
 ギルドのフロアからは四本の通路が伸びている。
 その内の一つはダンジョンへの扉や転送陣が設置してある部屋に繋がっている。
 一つは飲食できるフロアに繋がっている。
 残りの二つの内一つはギルドの買い取り部屋やギルドの立ち入り禁止区域に繋がっており、朱雀たちはこのエリアで買い取りをしてもらっていた。
 そして最後の一つが提携ギルドが店を出している販売エリアとなっているのだ。


 前回訪れた時には販売エリアを見ていく余裕がなかったが、今回は見て回ろうということになった。
 朱雀は皆を連れ立って販売エリアに向かう。
 通路を進むと左右にドアがありドアの上に看板がかかっている。
 ショーウインドなどはなく中は見えない店ばかりだ。


 左のドアは『鍛冶師組合の店』、右のドアは『錬金術師組合の店』とあり、その奥にも等間隔でドアがいくつも設置されていた。


「どこから見て行きましょうか?」
「私は鍛冶師組合からかな」
「私も鍛冶師かな」
「え~、私は錬金術師組合が良いな~」
「詩織はどっちでも良いよ!」


 保穂と遥は鍛冶師組合の店、秋葉が錬金術師組合の店、詩織どっちでも良いという。


「私は錬金術師組合の方に興味があります。上手く行けばポーションの作り方が分かるかも知れません。そうすれば先ほどの『回復柴草』でポーションを作れるかもしれませんし」


 杏子はポーションが自作できるのであれば探索にも役立つと考えている。
 事実、ポーションがあれば詩織の回復が追いつかなくても何とかできるかもしれないのだ、持っていて損はない。
 しかしポーションの作り方を簡単に教えてもらえるのか?
 そのような情報や技術は部外秘や門外不出というのが定番ではないだろうかと朱雀は考えるのだ。


「なるほど、それなら錬金術師組合の方でも構わないよ、実益を優先するべきだから」


 保穂は杏子の意見に同意し錬金術師組合を先にすることも構わないと考えを変えた。
 遥も頷いているし詩織は元々どちらでも良かったので全員一致で錬金術師組合の店に入った。


(あれ、俺の意見は?誰も聞いてくれないのね、おじさん寂しいよ)


 錬金術師組合の店の中は結構広かった。
 どう考えても通路に設置されている扉の感覚に見合わぬ広さがあった。


「いらっしゃいませ」
「っ!?」


 朱雀は固まった。
 朱雀だけではなく一緒にドアを潜った杏子も固まっている。
 店の奥から出てきた女性に息をのむ。
 朱雀たちの目の前には綺麗な金髪に透きとおるようなエメラルドグリーンの瞳の色白超絶美人が佇んでいた。


「チョットー早く入ってよ」


 固まっている朱雀たちの背後から秋葉が早く入れと急かし、朱雀と杏子の隙間から顔を出す。


「っ!?」


 朱雀たちの前に微笑みを称えた超絶美人が立っているのを見た秋葉も一瞬固まる。


「え、え、エ」


 そう、朱雀たちの前に佇んでいたのはファンタジーでお馴染みの、あの、


「エルフっ!?」


 である。


「はい、エルフですが何か?」


 しかも目の前にいるのは朱雀からみればエロフと言えるような存在である。
 長く尖った耳に胸元が大きく開き胸の谷間が強調された服、更に超ミニのスカート、長身でスラッと伸びた白く綺麗な脚、口元にはホクロ。
 そしてエルフの定番である美形ときたら朱雀でなくても男なら見ていてとても嬉しい存在である。
 これほどの美人が現実にいるのかと思うほどの美人である。


「いたっ!」


 杏子と秋葉のダブル突きで朱雀は現実に引き戻された。


「エルフがどうしたんだい?」
「エルフ、私も見たい!」
「エルフって何?」


 三人三様のリアクション。


「おおおお~、別嬪さんやな~」


 遥がなんちゃって関西人となる。
 朱雀はそのリアクションはオヤジだと思った。
 保穂は普通にエロフを見入って、詩織は外人のようなエロフを首を傾げて見つめる。
 朱雀はもっと見つめていたい衝動を抑える。
 何故なら杏子の視線がとっても冷たいからだ。


「すみません、私たち錬金術師組合のことが分かっていないので錬金術師組合のことを聞かせて頂けないでしょうか?」
「はい、了解しました。簡単に錬金術師組合についてお教えしますね」


 エロフのお姉さんは杏子の求めに応じ錬金術師組合について丁寧に説明をしてくれた。
 簡単に言うと錬金術師組合は以前の日本で言うところの農協のような存在らしい。
 つまり錬金術師が作った各種アイテムを購入して販売を行っており、錬金術師に対して材料卸や融資に技術的な援助も行っているらしい。
 朱雀はエロフの薄めの唇に吸い付きたくなる衝動を抑え視線を胸元に移すとスネに痛みが走る。
 杏子と遥が朱雀の左右のスネを蹴っているのだ。
 秋葉は朱雀の首を絞め、保穂はその手に鉄パイプを持ち胡乱な視線を放つ。
 詩織だけは初めて見るエルフの耳に興味深々といった視線を送っていた。


「錬金術師組合には試験に合格すれば誰でも加入できます」
「え?誰でも加入できるのですか?職業が錬金術師じゃないと加入できないと思っていました」
「職業が錬金術師の方が良いのは言うまでもありませんが、職業に縛られるものではありません。試験に合格すれば、ですが誰でも加入できます」
「その試験はどういったものですか?」
「至って簡単です。一時間以内にポーションを十本分を作って頂きその内八本以上の品質が合格基準を満たしていれば合格となります」


 職業が錬金術師じゃないと組合に加入できないと思っていた朱雀たちは驚いている。
 しかしよく考えてみればダンジョン管理組合は誰でも加入できた。
 それを考えれば試験があるだけ錬金術師管理組合の方が門戸は狭いと言える。


「ポーションってどうすれば作ることができますか?」


 杏子は確信に迫る。
 ポーションの作り方が分からなければ試験どころの話ではないのだ。


「それでしたら教本がありますよ。ちょっと待って下さいね…………」


 エロフは少し離れた棚に並んでいた本の中から最も薄い本を手に取って戻って来た。
 そしてその本を杏子に差し出す。


「錬金術師<入門書>」
「はい、その教本にポーションの作り方が記されております。この教本は四千ギルですが他に初心者用の魔道竈まどうかまどとすり鉢にポーションを入れる空き瓶五本をセットで一万ギルで販売していおりますので合わせて一万四千ギルですが購入されますか?」


 今日の朱雀の稼ぎを知っているかの様な値段である。


 

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