絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

08・仲間

 


 自衛隊員からの提案で民間人もダンジョン攻略に向かう者が準備を進める中、朱雀もまたダンジョンに入る決心をした。
 しかし朱雀一人ではただのやられ役となってしまうので、仲間を見つける必要がある。
 一番良いのは気の知れた杏子を入れた数人を集めることだが、コミュ障の朱雀にそれが難しい。


「契約者、能力、引き上げ、技能、持つ。でも、仲間、必要……」
「私は朱雀さんについていきます!朱雀さんがいなければ私は今頃……」


 ゴブリンに犯されて死んでいただろう。
 そう杏子は言おうとしたが詩織がいることもあり言葉を飲んだ。


「これでも私は朱雀さんの契約者ですから!」
「詩織もついていく!」
「「えっ?」」


(いやいやいやいや、ちょっと待て!確かに詩織ちゃんがいるだけでパーティーの安全性は上がるが、詩織ちゃんはまだ八歳だぞ!八歳の幼女を魔物の闊歩するダンジョンに連れて行って良いのか?どう考えても良くないだろ!?)


「詩織ちゃんはここで待っていようね」


 杏子も朱雀と同じように考えているのか、詩織をダンジョンに連れていくのに否定的だ。
 だから詩織を説得しようと試みる。


「いや!詩織もお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に行く!」


 杏子の必死の説得も虚しく詩織は引くことなく朱雀たちについてくると強く主張して崩さない。
 そんな詩織の頑固さに困り果てる朱雀と杏子であった。


 失敗に終わった詩織の説得に結構な時間を費やしたが、朱雀たちのダンジョン探索は決定した。
 詩織については自衛隊の意見も聞きつつ自衛隊側がNGを出すのであれば自衛隊に説得を丸投げしようと思う朱雀だった。
 しかし自衛隊のスタンスは保護者に任すというものだった。
 そして詩織の今の保護者は朱雀であり、杏子に関しても同様に保護者が朱雀だという認識で一致しているというのだ。


 詩織も杏子も共に未成年であり、朱雀は成人で二人とも朱雀が保護していたことから朱雀が保護者なのだという。
 それを聞いた朱雀は絶句した。
 しかしこの異常な世界を目の当たりにしている以上、それらの既成事実を無視するわけにはいかないのは朱雀にも理解ができた。
 詩織の件は棚上げしようと思ったが、それだと結局解決しないと杏子の言葉もあり朱雀は判断を迫られる。


「一緒、行くか?」
「うん!」


 朱雀はいきなり保護者と言われ、その覚悟があるわけではなかった。
 しかし詩織を残していっても結局ついてきそうな勢いを考え同行させる判断を下した。
 子供の扱いは得意どころか知らない朱雀はそう判断し、自分の身を挺して守る決意をする。


 詩織のことがひと段落した朱雀が次にするべきことは『契約者を増やしてパーティーを結成する』と『自分の攻撃手段の確立』だ。
 二日後にダンジョン探索希望者を集めて簡単な説明会を行うと自衛隊から通達があり、その時にパーティーの登録と職業の確認をすると聞いているので契約者はそれまでに集めたい。


 自衛隊からの情報ではダンジョン内で活動できるのは六人までのパーティーだという。
 何故六人なのかは分からないが、七人以上のパーティーだと一人がダンジョンに弾かれてしまうらしい。


(いったいどういうことなんだ?)


 聞いても要領を得ないので、取り敢えず六人パーティーを作ることを目指す。


 攻撃手段の方は【持ち物】に入れっぱなしのアーチェリーでも練習をしようと安易に考えた朱雀。
 朱雀自身、防御力にはまったくと言ってよいほど自信がない。
 だから前衛は避けるべきであり、中衛か後衛しか選択肢はない。
 ただ、アーチェリーが簡単に扱えるわけもなく、本当は自衛隊が持っている銃火器を貸出してほしいとさえ思っている。
 こう思っているのは朱雀だけではなく、拳銃を支給してほしいと頼んだ民間人は多い。
 しかし自衛隊はそんな民間人に対して素人が扱える物ではないと取り付く島もない。


 銃火器の支給には自衛隊の実情が厳しいのもある。
 それは弾薬だ。
 弾薬は消耗品なので使えばなくなる。
 しかし今の自衛隊に弾薬の補給目途が立っていないのだ。
 使えば減る一方の弾薬を使用する銃火器を貸し出すわけにはいかなかったのが本音のところなのだ。
 朱雀はその自衛隊の本音に気付いた一人だった。


 朱雀がアーチェリーの練習をしたいと言ったら自衛隊員が基地の一角を貸し出しててくれた。
 自衛隊としても戦力はほしいし、矢なら木工師もいることで作り出すのは難しくないからだ。


 最初は十メートルほどの距離で的に当てる練習をする。
 当然、的に当てるどころか的まで届かない。
 先ず弦を引くのにかなり苦労する。
 女性でも扱えるなどと自衛隊員は言っていたが弦を引くのにかなりの力が必要なのだ。
 弦を引いてプルプルする腕を保つのにも苦労する。
 朝から始めた訓練を昼食を挟んだだけでほぼ休みなく行った。
 その為か弦を引くだけならなんとかなるようになったが、的に矢が当たるのはまた別の話だ。


 夕方、杏子と詩織と合流した。
 コミュ障の朱雀なのでやんわりとパーティーメンバー集めは自分が行うと杏子からの提案を受けて、朱雀はアーチェリーの練習に励んでいたのだ。


「朱雀さん、友達が一緒にダンジョン探索をしたいって言ってくれました。如何でしょうか?」
「え?本当!?友達?」


 杏子はこの基地に避難して以来、同年代の人たちと交流をもっていた。
 だからそこそこ知り合いができたと言っていたが、そんなに簡単にパーティーメンバーが集まるとは朱雀は思っていなかったのだ。
 ダンジョンの探索をしたいという人がいたら、上手くいったら、その程度に考えていたのだ。


 話によれば朱雀たちとダンジョン探索に行きたいと言ってくれたのは二人だ。
 その二人とは夕食の後で落ち合うことになっているらしい。
 杏子は意外と行動力があるのだなと敬意を払い、その交渉力に感謝をして夕食を摂る。


「初めまして、私は藤原保穂ふじわらやすほ、こっちは妹の秋葉あきはです」
神流川朱雀かんながわすざく。宜しく、お願い、」
「本当に片言なんだ!?」
「秋葉、失礼でしょ!?」


 朱雀としても一生懸命にコミュニケーションを取ろうとしているが、面と向かって片言と言われたことに落ち込む。
 膝を抱えて地面にのの字をぐりぐり書く。
 そんな朱雀の頭を小さな手でよしよしと慰める詩織が朱雀には天使に見えた。


(お、俺は……ロリではない!?)


 この二人の姉妹は姉の保穂の方が健康的な小麦色の肌に髪の毛を短く切り揃えたスポーティーな見た目でエクボが特徴的な女子大生だ。
 妹の秋葉の方はセミロングの茶色がかった髪に大きめの眼鏡をかけソバカスが特徴の女子高生だった。
 秋葉の髪の毛の色は地毛だという。


 このご時世、血縁者と離れ離れになっているのが普通だが、この二人は姉妹が揃ってこの基地に避難できたことは奇跡的なのかも知れない。
 朱雀は天涯孤独だったが、杏子や詩織も家族とは再会できていないのだからこの二人はまだ幸せだと言えるだろう。


「誘い、受けた、ありが、とう」
「朱雀さん、今回の話は私たちにとっても渡りに船だったのでこちらこそありがとうございます」


 保穂は随分と大人びた受け答えをする。それが朱雀の第一印象だ。
 保穂が朱雀の話し方に何も言わないのも朱雀には嬉しいことだった。
 それから色々と話をしてみて何となくだが信用できる姉妹だと朱雀は思った。
 ただ、妹の秋葉が「男一人に女が四人、ハーレム。グフフフウフ」と言っていたのがちょっと怖かった。
 姉の保穂に聞いてみたら秋葉はオタク系らしくこんな世界になっても「魔術師キターーーーーーーー!」なんて叫んで喜んでいたらしい。


(うん、その気持ちは分かる。結構共感できる。俺も魔術師とか魔法使いになってみたかったよ)


 今の朱雀は【契約】のレベルが上がっていることから藤原姉妹と【契約】できるスロットの空きがある。
 だから二人と【契約】を行う前にステータスを確認してみる。
 勿論、朱雀のステータスも提示をする。


「撲殺、戦士……」
(保穂さん、何があった!?撲殺戦士って怖すぎる!)


「襲って来た小さいのをバットで殴ったらこうなってしまったようで……」


 現在、職業システムの職業については最初のアクションで職業が決まる可能性が最も高いと考えられている。
 これは自衛隊員の多くが最初に戦闘した時の戦闘スタイルに近い『銃士』や『狙撃手』、『格闘家』などの職業に就いていると聞いたことが判断の理由だ。


 杏子は不意打ちでゴブリンを倒し『盗賊』になったし、詩織はゾンビをアルコールで大量に消し去ったことで『聖女』になった。
 これらのことからほぼ間違いないと朱雀は思っている。


 因みに自衛隊員や避難している民間人の中でモンスターと戦闘をしていなくても『新人類』になった人もいる。
 これらの人たちは戦闘職ではなく生産職や補助職、それに回復職と勝手に朱雀たちは言っているが、簡単に言うと後方支援型の職業が多い。
 自衛隊員の中でも車両整備などをしていた人はそのまま『整備士』となっていたり医者は『治癒魔術師』や『治療師』に『薬剤師』、衛生兵も『治癒魔術師』や『治療師』になっているらしい。


「バット、撲殺……」
「私は結構気に入っているんですよ、大学のソフトボール部ではキャッチャーで四番でしたから」
(なるほど、だからバッドで撲殺なんだ)


 保穂は小麦色の肌にエクボを作ってあっけらかんと笑う。


「そ、そうなんだ……それで秋葉ちゃんはどうやって魔術師になったの?普通に考えたら魔術師なんてレアな職業だと思うけど」


 杏子は保穂から秋葉に話を変える。


「簡単よ、火炎瓶投げてゴブリンを焼き殺したの」
(過激だな、おい!火炎瓶は俺も考えたけど、ゾンビ相手の時だったから既に『育成士』になった後なんだよ……くそ、もっと早く気付いていたら俺も魔術師になれたのに!)


 しかし女子高生の秋葉が火炎瓶なんてよく考えついたな、と朱雀は思い質問をする。


「あいつら私たちを凌辱しようと殺到してきたから、投げまくってやったわ!火炎瓶の構造なんて簡単だし、お父さんが飲んでいたお酒のアルコール度なら簡単に燃えるのは分かっていたしね」
秋葉このこ怖いッス!)


 撲殺娘と火炎瓶娘、この二人との話をなんとか受け止め朱雀は二人と【契約】を行う。
 朱雀の【契約】はレベルがIIに上がっておりスロット6になっているので六人まで契約が可能だ。
 ダンジョン探索のパーティーは六人までなのでスロットは一人分余るが別に全てのスロットを埋める必要はないだろう。
 それにダンジョンの中で遭遇した魔物と契約ができる可能性だってある。


 二人と【契約】をした朱雀は二人の能力を確認することにした。




 氏名: 藤原保穂ふじわらやすほ
 職業: 撲殺戦士Lv6
 情報: 新人類、ランク1、女、21歳
 固有技能: ウォーサークルI
 技能: 撲殺術I、盾術I


 @撲殺戦士 鈍器を武器に敵を屠る戦士。盾でさえも武器として敵を撲殺する。高い体力と合わせ前衛で敵の攻撃を引き受ける盾役としても活躍できるだろう。


 @ウォーサークル 敵の敵対心を上げる代わりに武力を上げる。


 @撲殺術 撲殺戦士レベル1解放/鈍器による攻撃に補正。


 @盾術 撲殺戦士レベル1解放/盾の扱いに補正。


 武力40
 体力43
 知力15
 器用19
 俊敏20
 魔力8
 魅力16






 氏名: 藤原秋葉ふじわらあきは
 職業: 火魔術師Lv5
 情報: 新人類、ランク1、女、18歳
 固有技能: 魔力増加I
 技能: 火魔術I、魔力操作I
 契約者: 神流川朱雀


 @火魔術師 火の魔術を行使する攻撃職。物理防御はとても低い。


 @魔力増加 魔力の上限値を底上げする。更に魔術の効果を上げる。


 @火魔術 火魔術師レベル1解放/火の魔術を行使できる。


 @魔力操作 火魔術師レベル5解放/魔力の行使を効率的に使うことで魔術使用時の魔力消費を抑え威力を上げる。


 武力9
 体力10
 知力33
 器用20
 俊敏21
 魔力40
 魅力18






 

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