チートあるけどまったり暮らしたい
144 悪魔神復活……でも……
剣が空中で繋がり円を描くように回転する。
回転の速度が徐々に上がっていくと次第に光り出す。
「どうやら真打登場かな?」
「シンウチ?」
「最後のボスって感じの意味だよ」
「はぁ……」
俺は先ほど聖オリオン教国の教皇が立てこもっていた大神殿で教皇を捕縛したところだった。
しかし外で邪悪な気配がしたので大神殿の外に出てみたら上空で趣味の悪い剣が数十本も繋がって回っていた。
地上に目を移すと召喚された勇者と思われる若者が血を流して倒れていたので、ペロンに状況説明をしてもらうことにした。
「……そんなことがあったのか」
「急だったので防ぐことができなくて……」
「まぁ、気にすることはない。ペロンのせいじゃないのだから」
勇者たちの拘束にあたっていたペロンが責任を感じている。
彼は優しいからこういうことに責任を感じてしまう。
だけどこれはペロンのせいじゃないし、俺のせいでもない。敢えて言うなら聖オリオン教国の狂信者たちのせいなのだ。
発光して円を描いて回転していた剣の円の中から何かの手のようなものが出てくる。
何かが現れると予想はしていたけど、あれは何だ?
【氏名】キャトル・ヘッド・エ・フェ・シェイ
【種族】亜神
【身分・職業】半神
【称号】悪魔神
長ったらしい名前と悪魔の神だというのは分かった。しかしそれ以外の情報は得ることができなかった。
とうとう俺は神と言われる存在と戦うことになるのだろうか?
「ほほほ、とうとう我が主の復活です」
大神殿の屋根の上で声がしたのでそっちを見る。
それさえなければヒューマンにも見えたが、角があることから悪魔だと思われる。
「我が主の復活を祝して盛大な祝砲を打ち上げましょう!」
そう言うと悪魔は手を前にかざして魔法陣を起動させる。
だが、そうそう思い通りになると思わないことだ。
「く、私の魔術が解除されただと!?」
「あ~そういうの良いから、それよりも……」
俺は悪魔の後方に瞬間移動をしてその背中に剣を突き立てる。
今現在、このクリセント・アジバスダには転移系を妨害する結界を張っているが、それは俺には適用されない。
そんな抜けたことはしないし、目の前で喘いでいる悪魔に突き刺した剣は俺が創った神剣だから悪魔には効果絶大だ。
「グフッ……やはり貴方が最大の障害でしたね」
「悪いが悪魔神を倒す前に邪魔な存在を始末させてもらう」
「……貴方はあのお方が悪魔神だと分かっている……のですか……?」
「俺や俺の周囲の者に手を出したのだから悪魔神にはその報いを受けてもらう。それが悪魔神の意思でなくてもな」
「ふふふ、人が神に勝てるとでも?」
「悪いな、俺は既に神を殺しているんでね」
そう、俺は神格を持った八岐大蛇を殺している。
あの時は命をかけた文字通りギリギリの戦いだったが、今の俺はあのころとは違うのだ。
「……うそ……ではないようですね……私としたこと……が早まりましたかね。グボッ」
悪魔は腕が1本なくなっても数秒で再生してしまうようなバカげた再生力を有している。
しかし悪魔が神剣で傷つけられた場合は再生が行われずその傷口から細胞が破壊されていき、最後には体全体の細胞が死滅する。
生命力が高く再生力が高い悪魔だが、全ての細胞が死滅しては受肉した肉体を保つことはできない。
悪魔はエンジェル同様に精神体なので肉体がなくても滅ぶことはない。
しかしそれは精神体にダメージを負わなければという但し書きが付く。
神剣によって肉体を貫かれた悪魔がどうなるか、神剣は悪魔の本体である精神体も傷つけそして肉体同様に精神体も侵食するように徐々に破壊していく。
悪魔にとって神剣は聖剣以上に危険な武器であり悪魔を瞬殺できる武器なのだ。
俺の目の前で砂が風に飛ばされるように消えてなくなる悪魔。
上空では悪魔神が剣の輪から上半身を現していた。
さて、どうするか。倒すのは確定事項だが、それが俺じゃなければダメというわけではない。
勿論、俺が戦えば一番確実なのだが……
俺は地上に転移する。
「ペロン、あれ殺っちゃって」
「え、ボク?」
「うん、ペロンと皆で袋叩きにしてやってくれるかな。泣きが入っても容赦なくボコって大丈夫だから」
ハッキリ言おう。
現在のペロンたちは神の域に片足を突っ込んでいる。
ペロンだけじゃない。カルラ、クララ、プリッツにドロシー、フィーリア、リリイア、エグナシオは何故か半神となっているのだ。
そのことに気づいたのはこの戦いの前だった。
ドロシーは慈愛神、ペロンが慈悲神、カルラが魔闘神、クララが策謀神、プリッツが隠密神、フィーリアは戦獣神、リリイアが剣神、エグナシオが英知神。
皆、半神となっていた。
因みに俺は中級神にまで神格が上がっている。
これは信者が増えたことが大きいと思う。
聖オリオン教国で虐げられてきた獣人、エルフ、ドワーフなどの百万人単位の人が魔技神を信仰し始めたのが大きい。
支配者層であるヒューマンもオリオン教の悪辣な現状を夢で知ったことで改宗している人もいる。
そうして俺への信仰パワーが増えれば増えるほど俺は神格を上げ、そして俺の身近にいたドロシーやペロンたちが神格を得たようだ。
ゲールたちが神格を得ていないのにリリイアやエグナシオが神格を得たのは、元々が賢者と剣聖なので神格を得やすかったのだろう。
それと今回は勇者であるビザズドルは神格を得ていないが、彼は俺の配下となって日が浅いので仕方がないだろう。
「それ、良いわね。このクズ虫をボコっただけじゃ気が済まないのよ!」
顔面をボコボコにされた男を引きずってカルラが近づいてきた。
「それ誰?」
「こいつはワーナーよ」
「……そんな顔だっけ?」
「生意気だったからちょっとお仕置きしてやったのよ」
……まぁ、良いか。
「それより、あのバケモノをボコって良いのよね?」
「皆で殺っちゃってOK!」
「よし、ペロン、クララ、プリッツ。行くわよ!」
……プリッツ居たのか!?陰が薄すぎるぞ!
「カルラ、今までとは比較にならないほどの相手だから慎重にね」
「私もフラストレーションが溜まっていたのよ、やってやるわよ!」
「……うん」
プリッツは神格を得て余計に無口になってないか?
「私も援護します!」
ドロシーはアルーを地上に降ろして皆に合流する。危ないからリュートは俺が預かった。
ええ、預かりましたとも。
ドロシーは止めてもいくだろうから止めるのはやめました。
「フィーリア、リリイア、エグナシオ。ドロシーたちを守ってやってくれ」
「了解しました」
「はい!」
「ご婦人のエスコートは私めにお任せを!」
悪魔神キャトル・ヘッド・エ・フェ・シェイがほぼ全身を剣の輪から出した。
その姿は牛のような顔に人間のような胴体に皮膚は真っ黒で角がとても大きく鋭い。
全裸に見えるが大事なところに性器はない。
体長はおそらく15メートルほどだと思う。タイラントジャイアントよりもデカい。
悪魔神というよりはミノタウロスという感じの出で立ちだ。
そのデカいミノタウロスにペロンたちとドロシーたちが立ち向かう。
デカいけど半神なので神格的にはペロンたちと同じだ。
つまり同格の一対多の戦いなわけでそうなるとどうなるかというと……一方的な蹂躙劇になるわけだ。
空を駆けるペロンの風属性を纏ったパンチがミノ……もう牛でよいな。
牛の顔面にペロンのパンチがクリーンヒット。
顔面に攻撃を受けた牛は後ろにのけ反りたたらを踏むが、そこにプリッツが音もなく現れ牛の足のアキレス健の辺りを切り裂く。
「ブモォォォォォ!」
雄叫びをあげる牛の腹に容赦なくクララが蹴りを入れると、牛はくの字に体を曲げ唾液を吐き出す。
可愛そうな牛に容赦がないのはカルラで、得意の火属性の魔法を撃ちこみ右肩を爆散させると牛の右腕がドカンッと地面に落ちる。
俺の胴体の数倍はある太い腕がピクピクと動いて気持ち悪い。
「セイントサークルレイン!」
上空に神々しい光が集まると、その光が雲のように広がりそこから光の雨が降り牛を痛めつける。
一つ一つのダメージは少ないが、悪魔神の牛には光属性のこの攻撃は地味に痛くジワジワと効いてくるだろう。
おっと、忘れていた。
俺はその光の付近から現れるようにラーフ・バトラーを召喚する。
更にタイラントジャイアントも呼び出し牛を攻撃させる。
涙目の牛が俺に勘弁してほしいと言っているように見えた。
知らん。お前を召喚した悪魔が悪いのだ。俺を恨むなよ。
おおーと!
呼び出したタイラントジャイアントが自分よりもデカい牛に怒涛の連打を繰り出す!
ボクサーのようにピーカブースタイルで頭を左右に振り軽いフットワークを見せるタイラントジャイアントの容赦のない連打が牛を痛めつける。
そしてラーフ・バトラーが高速飛行から光の剣で牛の体を切り刻む。
血しぶきが飛ぶ光景は傍から見たらけっこうスプラッターだ。
更にエルフ勇者であるビザズドルと真祖の吸血鬼であるアトレイがコンビを組んで聖剣と魔剣を振り、牛の膝が地面につく。
そこにフィーリアの槍が牛の片目に突き刺さり視界の半分を奪うとリリイアも逆の目を切り付け牛は完全に視界を失った。
「ブモォォォォォォォ!」
残った片腕をブンブン振り回し暴れる牛のパンチをエグナシオが大盾で受け止める……脳筋賢者は無茶をする。
エグナシオによって動きを止められた牛に更なる悲劇が襲い掛かる。
『トドメだ!ライトニングフレアタイフーン!』
トドメとばかりにカルラ、ペロン、クララ、プリッツの4人による合体魔法が放たれる。
「ブモォォォォォォォォォォォォォ」
カルラが火属性魔法、クララが雷属性魔法、プリッツが風属性魔法を放ち、それをペロンが合体さっせるというのがこのライトニングフレアタイフーンの特徴で3つの魔法が合体することで威力が三倍どころか、三乗にもなる強力な魔法だ。
轟音と物凄い熱量が牛を包み込む。
その中ではクララの雷属性魔法が刺すように牛を痛めつけ、プリッツの風属性魔法が牛を切り裂き、カルラの火属性魔法が牛を焼く。
以前見た時よりも威力は上がっているのに効果範囲を絞り込んでいるのは調整役であるペロンの努力の賜物だろう。
「ブ……モ…………ゥ…………」
良いところのまったく無い牛は大の字になって後方に倒れる。
その体は真っ黒に炭化しており、牛は虫の息だ。
ほんの数分前には血走った目をしていたのに、今では目の焦点があっていない。
そしてその目から光が失われ、砂の城のように体が崩れていく。
「終わりましたね」
「結局、我らは何もせずに終わってしまったな」
後ろでゲールたちが牛との闘いに参戦することがなかったと話している。
まぁ、俺も参戦していないからそんなに嘆くなよ。
「リュートレクスもママが無事でよかったな」
「ばぶばぶ!」
俺の腕の中で今の戦いをつぶさに見ていたリュートレクスはちょっと興奮気味だ。
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