チートあるけどまったり暮らしたい

なんじゃもんじゃ

142 召喚されし者4

 


 エルランが暴走して少女の勧告を拒否した。


「そう、ならこれより殲滅を開始するわね」
「できるものならやってみろっ!」


 鼻息の荒いエルランだけど、少女が手にもっていた杖を軽く上から下に振ると炎の球が現れ城壁にぶつかる。
 轟音と爆炎が立ち上る。
 城壁の上に立っていた僕たちは大地震かとおもうほどの振動に腰を落とし揺れに耐える。
 振動が落ち着くのに数秒あったが、エルランが強がりを言う。


「ふん、防御魔術を何重にも施しているんだ、その程度の魔法ではこの城壁は崩せんわ!」


 強がっているけどその表情は硬い。
 多分、強がりを言わないと怖くて立っていられないのだろう。そういうのってあるよね。


「な、なんだこれっ!?」


 爆炎が晴れると僕たちが立っていた場所から十数メートルほど先の城壁が崩れ落ちていた。
 クラスメートたちが騒ぐ。


「防御魔術があるんじゃないのかよっ!?」
「あんな威力聞いてないよっ!」


 クラスメートだけではなく、騎士や神官たちも騒ぎ我先にと逃げ出し始めた。
 それを見たクラスメートたちも逃げ出す。
 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す騎士、神官、クラスメート。
 僕は隣にいた佐々木さんの手をギュッと握り彼女を落ち着かせようと必死だった。
 佐々木さんは少し震えており、僕はこれが戦いなのかと崩れ落ちた城壁を茫然と見つめる。


「双葉君……私たちどうなるのかな?」
「分からない。でもこのままじゃダメだ」


 僕は逃げ出したクラスメートたちを目で追う。
 騎士や神官と先を競うように巨大な神殿に逃げ込もうとしているのを見て少しドン引きした。
 城壁の上にはエルラン、宇津城、久城、佐々木さん、僕、そして怪しい仮面男しかいない。
 僕を目の敵にしている山田はクラスメートの先頭を走っている。あれだけ僕に大きなことを言っていたのに無様だ。


 反対側の城壁の下に目を移す。
 先ほどまでそこには少女が立っていたけど、今はそこに誰もいない。
 うん、僕たちの直ぐそばにいたよ。


「アンタたちは逃げないの?」
「くっ!貴様に背など見せぬ!」


 エルランは強気の発言をするが腰が引けているのは僕にも分かる。


「そう、アンタたちも抵抗をするの?」


 僕と佐々木さん、久城の3人は首を横に振る。
 宇津城だけは剣を構えて少女に抵抗する構えを見せているが、足が震えているのが見える。


「そっちの変な仮面も抵抗するのね?」
「ふん、貴様などに膝を屈するなどありえん!」
「……アンタどっかで聞いた声ね……どこだっけ?」
「……貴様のようなブスなど知らんわ!?」
「変な仮面の変態にブスとか言われてくないし!そうだ!アンタ、ワーナーね!?あのバカの声だし可愛い私をブスッていう目が腐っていいるのもワーナー以外にいないわ!」


 仮面男は一歩二歩と後ずさりする。
 どうやらワーナーという名前で正解だったようだ。


「アンタこんなところで何悪さしてるのよ?温和なボクでも少し怒るわよ」


 少女は仮面男の方にツカツカと進み話しかける。知り合いのようで話が盛り上がっている?


「ふん、貴様のような腰ぎんちゃくなどに僕の邪魔はさせん」
「こ、こし……ぎんちゃく……言ってくれるわね、アンタなんか親の七光りでズルして王立魔法学校に入学したけど、親の爵位がなければ何もできず、取り巻きがいなかったら何もできず、一人では何もできないクズ虫のくせにボクに腰ぎんちゃくなんて言えるような価値もない腐った変態半仮面じゃないの!」


 この少女は仮面男と知り合いのようだけど、相当仮面男を嫌っているようだ。
 随分な言われようのクズ虫こと変態半仮面は悔しかったのか歯噛みしているよ。


「う、五月蠅い!お前みたいなブスに何が分かる!?」


 子供の喧嘩かよ。


「アンタ、ほーーーーーーーーーーーーーんっとに馬鹿ね」


 物凄く気持ちのこもった言葉だ。
 このやり取りを聞いているとやっぱり男は女の子には口では勝てないと思う。
 あ、逃げた!
 脱兎のごとく走り出した変態半仮面。
 足を引きずっているけどかなり早い。


「まったく悪あがきばかりするんだから」


 そういうと少女は自分の背丈ほどある杖をクイッと動かした。


「ウガッ!何だこれは!?」


 走っていた変態半仮面が盛大に転んで何やら体に巻き付いていた。
 よく見るとロープのような物が変態半仮面の体を拘束していた。少女がやったのは分かるけど……魔法だよね?詠唱は?
 少女はスーッと変態半仮面のところに歩いて行き持っていた杖で変態半仮面の後頭部を殴り飛ばした。
 騒がしい変態半仮面の体が力なくだらりとなり沈黙した。
 ……凄い音が聞こえたけど大丈夫か?


「さっき上のドラゴンを攻撃したのはアンタ?」


 変態半仮面の襟首をもって引きずって戻ってきて最初の言葉がこれだ。
 しかもその相手は僕だった。
 僕は首をブンブンと横に振り否定する。


「そうよね、アンタが魔法を放ったらあんなショボイ威力で収まるわけないものね」


 おい、宇津城、お前の魔法がショボイと言われているぞ。
 自信満々に魔法を撃っていたけど、上には上がいるようだ。


「アナタかしら?」


 僕の横にいた佐々木さんの前に移って確認をする。
 佐々木さんは涙目になっている。


「さ、佐々木さんじゃない」


 ブルブル震えている佐々木さんはテンパっているので僕が分かりにこたえる。


「じゃぁ、誰なの?」


 僕と佐々木さんは自然と宇津城の方を見てしまう。宇津城からは非難の視線が帰ってきたけど隠していたら死ぬと思ったので仕方がない。
 僕たちの視線で宇津城の方に歩いていく少女。その後方からエルランが忍び寄り剣を振り下ろす。
 僕は目をつむってしまう。
 しかし聞こえてきたのは野太い男の呻き声だった。
 目を開けてみるとエルランがその場でうずくまっていた。


「まったく、何でこいつらは人をだまし討ちすることしかしないのかしら?」


 うずくまるエルランを更に蹴り上げ宙を舞うエルラン。
 白目で気絶しているエルランを無視して宇津城の前に行く少女。


「アンタ、誰を攻撃したのか分かっているの?」
「え、あ、あの……」
「いい、耳の穴をスコップでかっぽじって聞きなさいよ!」


 スコップは無理だよ。


「今アンタは百万の兵によって包囲されているのよ」


 ひゃ、百万っ!
 そんなこと聞いてないよ……
 少女が南を指さす……大きな川がある……川を埋め尽くすように多くの船が浮かんでいる。


「あれはブリュトゼルス辺境伯様が指揮する艦隊よ。上のドラゴンに乗っているドロシー様はそのブリュトゼルス辺境伯様の義理の娘になるわ」


 つまり権力者の義理の娘だと……宇津城ヤバいぞ。
 今度は東を指さす少女。


「ここからは見えないけど東にはクジョウ侯爵が指揮する軍がいるわ。ドロシー様はそのクジョウ侯爵様の孫娘よ」


 青ざめる宇津城。
 僕も宇津城の立場なら青ざめると思う。
 そして今度は西を指さす少女。


「西には私が所属する軍、ブリュトイース公爵が指揮する軍がいるわ。このブリュトイース公爵がドロシー様の旦那様よ」


 はい終わった。宇津城、君の骨は拾えたら拾ってやるから死んで来い。


「そしてドロシー様は生まれたばかりの嫡男様を抱いているわ。もし嫡男様に傷でも付けようものなら……楽に死ねないわよ」


 最後の言葉に物凄い魔力が乗せられた。
 僕でも分かるほどの魔力に宇津城はその場にへたり込んだ。……なんか宇津城の股間から液体が……
 見るのは止めてやろう。男の情けだ。


「何よその程度でお漏らししちゃうの?まったくワーナーといい、軟弱な男が増えたわね」


 少女は宇津城がお漏らししたのを流す気はないようだ。
 可哀そうに宇津城は佐々木さんにまでお漏らし現場を見られてしまった。
 僕は知っているんだ。宇津城が佐々木さんに気があることを。
 しかし今回のこの光景を見ては佐々木さんの宇津城を見る目がどうなったのか、聞いたら可哀そうだな。


 宇津城は置いておいて僕たちはこれからどうなるのかな?
 この少女が僕たちの生殺与奪権を握っているわけで……でも少女は僕の味方だよね?


「さて、貴方たちもこのお漏らし君同様、私たちを攻撃するの?」


 少女は久城や僕たちを視界に入れて敵か味方か聞いてくる。
 ここで敵判定されたら僕たちは生きていられるのだろうか?


「無理だな、アンタは強い。俺たちが生き残るにはアンタに降伏するしかないようだ」
「……降伏します」


 久城と佐々木さんが少女に降伏を申し出る。
 でも僕は兎も角、佐々木さんや久城は奴隷なので主を倒さなければ本当の意味での降伏はできないはずだ。


「で、アンタは?」
「僕は……」
「相変わらず詰めが甘い奴だ!」


 いつの間にか目を覚ましていた変態半仮面が少女に向かって大声で叫んだ。


「あら、まだ騒ぐ気?もっと酷い目に合わせるわよ?」
「くくくくく、そんなことができるものか!」
「その状態でそれだけの強気なのは蛮勇と言うのよ?クズ虫君」
「お前が余裕を見せていられるのも今の内だ!」
「そうなの?アンタはいつも強気だけどアンタが成功したところを見たことのないボクはどう反応すればいいのかな?」


 最初は不気味な人だと思っていたけどかなり小者臭がする変態半仮面さん。


「ふん、今頃教皇が勇者どもをまとめ反抗作戦を進めているはずだ!」
「逃げて行った人たちなら今頃ペロンたちが包囲していると思うわよ。アンタを助けようなんて余裕はないはずよ?」
「ペロンだと?あの男女など勇者どもの敵ではないわ!」
「そう思うのは自由だけど、私と同等の強さのペロンを簡単に退けられるほどの強者がいるとは思えないけどね」


 この少女と同等の強者がいるのか?それじゃぁ無理だよ。もういい加減諦めろよ。


「そうそう、私より強い子もいるからあまり調子にのっているとその子に引き渡すわよ。その子、クリストフのためならアンタを拷問して苦痛という苦痛を与えて殺すことも厭わないわよ」


 ブルっと背筋に冷たいものが走り、背中に嫌な汗が流れる。
 そんな極悪な人がいるのか……敵対はしたらダメだ。


「ふん、ならば……」
「何よ、まだ悪あがきする気?」
「ふっ、後悔しろ!奴隷ども自害しろ!」
「え?」


 少女が少し呆けた。
 僕も何を言っているのか分からず呆けた。
 そしたら……


「ぐわっ!ぐえぇぇぇっ!」


 漏らしてへたり込んでいた宇津城が叫んだのでそっちを見ると宇津城があの禍々しい剣を自分の腹に刺していた。
 何してるんだよ、お前は!


「くっ」
「い、いやだ……」


 久城と佐々木さんも剣を抜いて……


 

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