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なんじゃもんじゃ

133 貴族家に生まれた新米兵士の活動日記2

 


「ケルトン隊長!」
「おう、そっちは任せたぞ!」


 私はベンドレイ・ケルトン少尉だ。准尉から昇進して少尉になった私は練兵用のダンジョンでランクEの魔物であるワーウルフ4匹と戦っている最中だ。
 ん、何か以前より逞しくなったって? そりゃ~逞しくもなるさ。地獄のような訓練の毎日、教官からは人に対する尊厳などないとばかりに罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられていたんだ。精神的にも身体的にも私は成長したと思う。


 部下たちと連携しワーウルフ4匹を倒し魔結晶や牙をはぎ取る。地上と違ってダンジョンの中では魔物の魔結晶をはぎ取らなくても魔物は死霊化することはない。何故なら魔物の死体は一定時間が経過するとダンジョンに取り込まれて無くなるからだ。
 私たちが死んでも同じようにダンジョンに吸収されてしまうので、ダンジョン内では死にたくないと誰もが思う。
 では何故ダンジョンに入り魔物と戦うのか?
 それは人それぞれの理由があるが私たちは軍の訓練で入りたいと思わなくても無理やり放り込まれるし、探索者たちは生計を立てるためにリスクを冒してダンジョンに入る。


 このダンジョンはブリュトイース公爵家の専用ダンジョンで軍の訓練に使われている。
 1層から3層までは新兵の訓練に使われ4層からはダンジョンらしさを出してきて難易度が徐々に上がって行く。
 1層と2層を除けば魔物も集団で連携するようなものが多く集団戦闘の訓練には非常に適していると言わざるを得ない。


 今日の訓練は7層の予定で私たちは既に精鋭と呼ばれる域に達していると言われるようになった。
 先日エグナシオ大尉にお伺いした処、このダンジョンは6層そして11層に到達するとアイテムの質がグンと上がり11層に到達した小隊隊員の収入は激増するらしい。


 6層以降では手に入るアイテムの価値も上がるので我々の様に訓練でダンジョンに入ってもそのアイテムを持ち帰ることで軍の運営費を賄っている現実があり、ダンジョンだけではなく地上でも魔物を討伐して得られた利益の一部はその部隊の隊員に還元されると言う報酬システムが成り立っている。
 そう言えば11層に到達していると言う中尉殿はかなり羽振りが良く部下や後輩たちと飲みに行って全て奢りだと聞いた。
 実際、私の給料も一般的な少尉階級の先輩よりも多いと聞くが、これがダンジョン効果なのだろう。
 因みにブリュトイース公爵家の小隊全てがダンジョン内で訓練するわけではなく、将来性のある者だけがダンジョン内で訓練をするらしい。このことは幹部候補である私は知っておくべきだと言う反面、部下や他の者には話してはならないとエグナシオ大尉からきつく口留めされている。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 神聖歴515年6月。
 我が国の王女であらせられるドロシー殿下の降嫁により伯爵から公爵にと陞爵されたブリュトイース公爵。
 王都で盛大なパレードが行われたと聞くが、このイーストウッドでもパレードが行われ私は警備任務を仰せつかった。


「美男美女で絵づらとしては極めて良いですな」
「主家に対して不遜な物言いですな、レッビル中尉」
「ん? 不遜か、私としては褒めているのだがな」


 同じく警備を命じられている【特2小隊】のレッビル中尉と周辺情報の共有を行っていた時に彼が呟いた言葉は聞きようによっては誉め言葉には聞こえるものではない。しかし彼は悪びれることもなく飄々としている。


 豪華な宝飾が施された真っ白な屋根のないオープン馬車に乗ったお2人は集まった民衆に手を振られながらゆっくりと進む。レッビル中尉ではないが本当に美男美女のお2人だ。
 使われている道具はどれも最上級の物で、ドロシー殿下……いや、ブリュトイース公爵夫人はレインボウクロウラーと言うランクAの魔物から極僅かに採れると言う希少な糸から織られた非常に美しい虹色に輝くドレスを着ておられるが、ドレスに負けず美しいその姿に集まった民衆も目を奪われているようだ。
 私も任務さえなければお2人のパレードをずっと眺めていたいと思うが、そうも行かないのだ。


『ガッ……ケース2、B3ブロック3階建ての建物。繰り返す、ケース2、B3ブロック3階建ての建物』


 ブリュトイース公爵軍に最近配備された通信機なるマジックアイテムから緊急事態の報が発せられる。
 ケース2。これは武装集団を発見と言う意味でBブロックの第3区画にある3階建ての建物に武装した危険人物たちが集まっていると言う意味だ。
 Bブロックを担当する警備班はこの報によって武装集団を制圧に向かうだろうが、私はその隣のCブロック担当なので制圧戦から逃げ出した制圧対象を警戒することになる。


 20分もすると危険人物たちを制圧したと言う報がもたらされる。
 制圧対象は5人で予想通りブリュトイース公爵夫妻を狙っていたらしい。
 今後彼らの背後関係が調べられるだろうが、今はこのパレードが無事に終わるように私に任されたこのCブロックを確実に警備することを考えよう。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 神聖歴516年1月


 ブリュトイース公爵家の私設軍隊に所属している私は新年の休みを満喫している。
 開発が進められ好景気に沸くイーストウッドをはじめとするブリュトイース地域の各町。物が溢れ皆が笑顔で新年を迎えているのが街中を歩くとよく分かる。
 領都であるイーストウッドは人口が急激に増えているが治安は非常に良い。これはブリュトイース領の住民登録システムのお陰でもある。
 表立って言えないのだがこの住民登録システムがあることで犯罪者の動向が分かるのだ。


 このブリュトイース地域ではイーストウッドなどの街や村に入るには必ず住民登録をするか、旅人や商人にはブリュトイース公爵家が発行している身分証を持たなければならない。
 そしてそれらの身分証はマジックアイテム化されており犯罪歴が分かるようになっているのだ。
 しかも身分証を持っていない者が領内の何処にどれだけ居るのかも分かるマジックアイテムもあり、これによりブリュトイース領では盗賊などの犯罪者を徹底的に排除しているのだ。
 だから犯罪発生件数が極端に少なく好景気なのでスラムのような貧民街ができることもない。


「このバッグをリンダにプレゼントしたら喜ばれるかな?」


 ふと目に付いた女性向けバッグを行きつけの飲み屋の看板娘であるリンダにプレゼントすれば少しは私のことを気にしてくれるだろうか?
 愛嬌があり、いつも明るいリンダに似合いそうなバッグを見つめながら色々と思い浮かべる。
 と、俺の横をカップルが楽しそうに話しながら歩いて行く……何だかあの娘がリンダに似ているような……てか、リンダじゃんっ!


 バッグを買わずトボトボと官舎に帰るのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 神聖歴516年4月。
 私と同期の士官候補生は最低でも少尉、昇進が早い者だと大尉となって小隊や中隊規模の部隊を任されている。
 私も訓練ダンジョンの11層に到達したことで中尉に昇進しており、出世頭とは言わないが決しておそくない出世をしている。


 ダンジョンで訓練を行う兵は出世が早く俸給も多いので、ある意味探索者のようだと自分たちで思っていたのだが、上官のエグナシオ少佐曰く私たちは特殊部隊として今後実戦に投入されると言う。
 特殊部隊と言うのは完遂困難な任務を任されたり、ある一定の条件下で非常に高い能力を有する部隊のことを言い、特殊部隊の隊員は一般兵とは違い宿舎の部屋なども個別に与えられ優遇されるのだ。


 私の部隊は【特3小隊】と呼称されており、主に哨戒系の任務に就いている。
 これもダンジョン内で無駄な戦闘を避ける為に周辺警戒能力を上げた結果だとエグナシオ少佐は言う。
 現在特殊部隊は【特1小隊】から【特5小隊】まであり、それぞれ得意分野が分かれると言う。特殊部隊の任務については極秘なので例え小隊長であっても他の小隊の任務内容は知らされない。ただ、最初の特殊部隊となった【特1小隊】は極めて戦闘力が高く現在でも大森林内での拠点制圧によく投入されていると噂になっているし、彼らの羽振りの良さはそれを裏付けていると思う。


「小隊長殿、前方500mに村を発見しました」
「警備兵の状況はどうか?」
「門を守る農民兵と思われる者が1名、他には探索者らしき5人組と3人組の集団を確認しました」
「よし、地図のマーキングと情報の記載を忘れるな」
「はっ!」


 私の【特3小隊】に与えられる任務は哨戒が多くその為に戦闘はあまり行わない。戦闘は極力避けて周辺哨戒を確実に遂行するのが我が【特3小隊】に与えられた任務なのだ!
 だが、決して戦闘が不得手と言うわけではない。任務を遂行するのに邪魔な魔物などを排除するだけの戦闘力がなければ特殊部隊とは言われないのだ!


 そして今、我が【特3小隊】は聖オリオン教国侵攻作戦前の地形確認と村や町の所在確認を行う為に単独で聖オリオン教国内に潜入している。
 ブリュトイース公が近々ゴルニュー要塞に入られるのでそれまでに出来る限り多くの情報を持って帰らねばならないのだ。


 

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