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120 オリオン包囲戦<ベルム方面軍2>

 


 ベルム公国は呆気なく陥落した。
 大公であるアムキッツァ3世と執政であるブレンガ・ガーランド伯爵も捕縛されたが、大公の嫡男であるロマーニオ王子はどこかに落ち延びたようで行方が分かっていない。
 神聖バンダム王国軍はベルム公国の首都であるサンテオリットを占拠にした後、ベルム公国全土を掌握する為に軍を各地に派遣した。
 そして神聖バンダム王国軍の司令官であるクジョウ侯爵は逐次送られてくる各地の戦況報告に目を通しているところだ。


「閣下、ロマーニオ王子の行方ですがどうも既に国外に逃亡している可能性が高いようです」


 クジョウ侯爵の片腕であるアカツキ子爵が読んでいた報告書を机の上に置き目頭を揉みほぐしながら自分の予想を語る。


「可能性としてはそうかも知れぬな。だが、我々はベルム公国の大公位を継ぐ資格を有する者を探す必要がある」
「ロマーニオ王子も重要ですが他の子供は確保しておりますし、ロマーニオ王子の捜索は期限を設け発見がなくとも一旦打ち切ってゲンバルス半島の掌握を優先するべきと考えます」
「うむ、そうだな……ロマーニオ王子の捜索は2日後を目途に打ち切る事にする」
「各所に通告しておきます」


 その後、2日が経過したがロマーニオ王子は発見されなかった為に捜索は打ち切りとなった。
 そしてアムキッツァ3世とその一族は神聖バンダム王国の王都へ移送されることになり、ドルフィン級1隻をその任にあてることにした。ホエール級4番艦のイザナミではなくドルフィン級を任にあてたのはドルフィン級の方が航行速度が速く5日ほどで神聖バンダム王国東部の港へ入港できるからだ。


「さて、我らは予定通りゲンバルス半島の掌握に動くとするか」


 実際は既にゲンバルス半島の各国に味方になるように使者を送っているのだが、どの国も様子見を決め込んでいる状態だ。
 そんな中で唯一神聖バンダム王国に味方すると表明したのはベルム公国に隣接するアバロン王国だった。アバロン王国は元々反聖オリオン教国の色が強かったようでベルム公国が陥落して直ぐに協力を約束してきたのだ。


「キダイ方面とズモー方面は完全に掌握しておりますのでセルマ方面に増援を送りますか?」
「セルマ方面には5個大隊を増援とする。それから態度を決めておらぬ国には海上より威嚇を行うこととする」


 態度を保留している国々に対しクジョウ侯爵はホエール級イザナミやドルフィン級によて海上より威嚇を行い決断を促すことにした。
 この決定より10日程で4ヶ国が神聖バンダム王国に味方すると使者を送ってきたが、クジョウ侯爵は態度を明確化していない数ヶ国に対し海上封鎖を行い、陸上から協力国の5ヶ国が進軍を行う。


 神聖バンダム王国に協力を表明したアバロン王国を始めとするイズガ共和国、アレバン王国、フィッテルーダ連邦、クロダイ王国はそれぞれ神聖バンダム王国の軍団と共に非協力国に進軍を開始する。
 これにより3ヶ国は直ぐに降伏をすることになり残り3ヶ国が徹底抗戦の構えを見せた。特にベルム公国の南に隣接するリオン剣王国は激しい抵抗を見せ、神聖バンダム王国軍にも少なくない被害が出ていた。
 これによりクジョウ侯爵は一旦軍を引き戦力の集中を図る。


 リオン剣王国は名が示しているように聖オリオン教国の姉妹国として発足した歴史があり、初代剣王は聖オリオン教国の聖クロス騎士団の出身であった。
 9代目の現剣王も聖オリオン教国に対する強い忠誠心を持っており国民が全て殺されるまで戦い抜くと表明していた。


 リオン剣王国の国民は全て剣を使えると言うほどの軍事国家であり、その兵力は国民全てだと言えるほどで、6歳以上の子供には剣の訓練を科すほどの徹底ぶりだ。
 クジョウ公爵は徹底抗戦するリオン剣王国への戦術を力攻めから持久戦に切り替え包囲してから力を削ぎ取り少しずつ浸食するように兵を配置する。
 そして他のゲンバルス半島の国々を掌握した後、リオン剣王国を完全包囲した。


 リオン剣王国は総人口8万人余りの国家であり、物量で押す神聖バンダム王国と諸国連合に対し打開策がないまま首都であるヘリレオンに閉じ込められていた。
 クジョウ侯爵はヘリレオンを無理に攻めず兵糧攻めにすることを決定すると、総兵力の半分以上の20万の兵でヘリレオンを包囲すると残りの兵15万人を聖オリオン教国へ向けた。
 聖オリオン教国に入って最初に到達した都市を3日で陥落させるとその都市を拠点に進軍を再開する。
 この後、聖オリオン教国の都市を数ヶ所落とすと同盟国であるヒの国と合流を果たす。
 そしてそれから半月ほどでリオン剣王国陥落の報がもたらされクジョウ侯爵は後顧の憂いがなくなり聖オリオン教国侵攻に戦力を集中できることになった。
 リオン剣王国は総人口の7割もの人命を散らし最早国として成り立つことさえできない状態だと報告も添えられていた。


 聖オリオン教国への進軍は当初順調に進んでいたが、中央に近付くにつれ民のオリオン教への信仰度が高く力で抑えるにも限度を感じ始めたクジョウ侯爵だった。
 そして碌な武器も持たずに死を覚悟した狂信的な信徒たちによって戦況は悪化するばかりであった。


「武器も持たない民が抵抗を止めることもなく突撃してくる様は異常としか言いようがありませんな」
「彼らはオリオン教の為に死ねば転生して幸福になれると信じているのだ」
「転生できるかも分からず、転生できても幸福になれたのかさえ分からないのに何を信じて命を投げ出すのか、某には理解が出来ません」


 アカツキ子爵がオリオン教徒の無謀な突撃に辟易した顔を見せる。クジョウ侯爵もアカツキ子爵と同様の心情ではあった。
 停滞よりは後退と言える状況下で敵は中央からの援軍を得てまとまりつつあった。




 

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