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105 クリストフたちの日常1

 




 覚えているだろうか?
 まだ王立魔法学校に通っている頃、上級ダンジョンのラスボスを倒した後で発見した魔導書、グリモワールを。
 最近、少しずつだが自分の時間がとれるようになったのでグリモワールを調べてみた。
 グリモワールとは意思を持つ魔導書であり、持ち主を選ぶ魔導書であり、主として認められない場合は力を発揮しないものから持ち主の命を奪うものまで様々だ。
 そして今回見つけたグリモワールは持ち主の命を奪う禁書とよばれる類のものであった。
 だが、禁書だからといって全てが悪かと言えば、そうではないので詳細に調べる事にした。


『我を起こす者は何ものぞ?』


 不意に俺の脳裏に声がしたと思ったらグリモワールが光り輝いていた。


『我を起こしたのである。そなたが主として相応しいかその力を見せよ』


 何勝手な事を言っているんだろうかと少し不機嫌になるも、グリモワールは俺から魔力を吸い出した。
 なる程、これが持ち主を殺す禁書の正体ってことか。
 こうやって持ち主の魔力を吸い、魔力が少ない者は魔力を吸い尽くされ更には生命力をも吸い尽くすって事だな。


 俺の許可なく魔力を吸うような真似をしてくれたグリモワールに少し御仕置きをしようと思う。
 俺はグリモワールにドンドン魔力を送り込む。


『ほう、自ら我に魔力を献上するか。だが、我は簡単に満足せんぞ』


 さて、どこまでその減らず口が叩けるかな?
 俺はグリモワールに魔力をドンドン注ぎ込む。
 最初は俺の魔力を気分良く吸収していたのだが、その内にグリモワールの雰囲気が変わってきた。


『むむむむむ』


 更に注ぎ込む。
 俺は人間だった頃でも膨大な魔力を保持していたのだが、半神となった事で更に底が無くなったような魔力量を誇る。
 その俺の魔力をどこまで吸収できるか確認してやろう。


 と、思っていたら。


『むっ! ・・ちょ、ちょっと待て・・・ぬおぉぉぉぉぉ』


 誰でもそうだが、食事をすれば何れ腹が膨れ一杯になるだろう、満腹感を覚えた後は遠からず限界がやって来るし限界を超えれば吐いたりもするが、吐ければ良い方だろう。
 つまり俺はグリモワールに無理やり魔力を食わせている状態であり、仮にグリモワールが魔力を放出し俺が供給した魔力を消費しても俺はそれ以上の量を送り続けるだけだ。
 そしてグリモワールは限界摂取魔力量を超えつつあり、このままいけば・・・ボンッて事になるね。


『うぉぉぉ・・・や、やめろ・・・やめ、やめてください・・・ゴメンなさい・・・』


「あまり調子に乗るな。私の魔力を勝手に吸収した罰だ、お前はこの世から消滅しろ」


 お~、俺自身もビックリなほどの低音ボイスだ。


『ほっ、本当に許してください! 後悔しております! 貴方様の従順な僕となりますのでお許しを!』


 必死だな。
 もう少しは魔力を喰わせても大丈夫だろう。


『うあぁぁぁぁ、も、もう、限界・・・ユ・・ル・・・ジ・デ・・・』


「私の眷属となるのだな?」


『はい``』


 俺は送り続けていた魔力を止め、グリモワールを手に持った。


「貴様の名は何と言うのだ?」


 グリモワールには『真名』というものがあり、その真名を明かす事でその相手を主として認め主従契約が成立する事になる。
 但し、通常は主従契約をする前に契約の代償を求めるのだが、今回はそんな悠長な事をしていたら消滅させられると思ってか奴は必死だ。
 まぁ、これで真名を言わねばグリモワールは魔力供給過多となり奴の末路はこの世から消滅する事になるだろう。


『ホ、ホードン・ブリアブルと申します』














 謀反騒動が終わり俺も大分落ち着いてきた。
 そして延び延びとなっていたエリザベート姉様の結婚式も行われた。
 エリザベート姉様は当初は昨年の11月に婚儀が予定されていたが聖オリオン教国が攻め込んでくる時期と重なってしまった為に延期され、意外と早く戦いが終わってしまったので4月に婚儀をする事になっていたが、王妃様を含む王族も暗殺され、王族の誘拐事件があったので再延期となっており、今後の予定として王妃様らの喪が明けるまで待つ方向で話が進んでいた。
 しかし陛下タヌキはこれらの件で祝い事を延期するなどそれこそ世の中が暗くなってしまうと祝い事を進んで行うように厳命したのだ。


 俺も領地に戦争奴隷を投入して開発を加速させているし、大量の移住者を受け入れているので人口も鰻上りだ。
 お陰でイーストウッドは10万を超える人口となっているが、所詮はその程度の人口であり伯爵領としては少ない人口である。
 ただ、それでも収益は多い。
 収益の柱としてはブリュト島及びブリュト商会が最大であり、次いで探索者ギルド経由で齎されるルーン迷宮産アイテムの売買収益、そして特産となりつつあるイーストウッド湖の魚介類の乾物だ。
 このイーストウッド湖は汽水湖、つまり海水と淡水が混ざり合っている湖なので魚も貝も海水や淡水のものが多く生息している。
 残念ながらイーストウッドの開拓地からの作物については収穫量がまだ多くなく収益はあるが他の産業に比べると少ない。
 但しブリュト島で奴隷たちに任せている開拓地からは大量の収穫が得られているし、今年の秋にはイーストウッドでも多くの収穫が得られるだろう。


『ご主人様、領内西部の山間部に盗賊の反応があります。数は34です』


 こいつはあのホードン・ブリアブルと言うグリモワールで、俺の僕だ。
 元々は闇の魔導書であった事から闇の部分について敏感に感じ取れるので盗賊とか犯罪者探しに活用している。
 先ずは部隊を送るとしよう。


「ゲールを呼んでくれ」


 俺はすぐに軍部の副司令官で王都在任のゲールを呼び出し部隊を組織させ盗賊を掃討すべく動き出した。


『ご主人様、盗賊の尋問はこのホードンめにお任せ下さい!』


 こいつ、尋問とか言って拷問でもするつもりだぞ、絶対に。
 止めはしないけど、すすんでお前に盗賊を渡すのも何か気に入らないな。


 今回の盗賊退治ではジャバンを隊長として3個小隊にプリッツとリリイアをつけている。
 ジャバンは以前の盗賊退治の手際が評価されこういう作戦によく駆り出されている。
 そしてリリイアには実戦経験を積ませると共に自分の親兄弟を殺した盗賊に対して苦手意識を持っているようなのでこれを克服させる為の荒療治ってところだ。
 プリッツは何かの時に全体をフォローしてくれるだろうと思い同行させている。


 人間誰しも死にたくはない。
 商人だろうと農民だろうと騎士だろうとだ。
 だが、盗賊は自分たちの勝手な都合で他者から奪い、犯し、そしてあやめる。
 それは盗賊にとっては当然の事だが、奪われる方にとっては理不尽であり不条理な事だ。
 こんな事は許さない!
 俺にできる限りの盗賊対策はするつもりだし、捕まえた盗賊は一生後悔させてやるつもりだ。
 死にたいと思うような苦痛を延々と味合わせてやろう。
 因みに貴族も一歩間違えば盗賊と大して変わらないのだが、今回は横に置いておく。


 それと俺の結婚式が行われる事になった。
 エリザベート姉様の結婚式に続き俺とドロシー様の結婚式だ。
 緊張するなという方が無理ってものだ。
 ドロシー様が結婚式で着るドレスは純白らしい。
 らしいというのは俺には見せてくれないからで、俺には結婚式の時までお預けらしい。
 因みにドロシー様のドレスの材料はあのシルクスパイダーの糸だ。
 王家のみに対してブリュト商会を通じてウェディングドレス用にシルクスパイダーの糸を供給している事でドロシー様のウェディングドレスに使われる量は十分に確保できたと言っていた。
 この結婚式にかかる費用はシルクスパイダーの糸であげた収益で大半は賄えるほどだ。
 因みに結婚式の費用は俺が出すことになっている。
 男側が結婚式の費用を全て出すのが神聖バンダム王国の慣例となっているので貴族はこれにならう事になる。
 ただ、平民階級はそこまで慣例に拘ることはないらしい。


 結婚式は王都の大神殿で執り行われるのだが、その日は大通りを俺とドロシー様がパレードするという事で騎士団が総力を挙げて警備をしている。
 本来であれば騎士団長のジムニス兄上が警備の責任者になるのだが、今回は俺の結婚式である事からジムニス兄上は警備に関わってはいない。
 式に出席しその後のパーティーにも出席者として参列するので警備はできないからだ。
 それはエリザベート姉様、クリュシュナス姉様も同様だ。


 青い屋根が初夏の日差しを受けキラキラと輝いている。
 というか、この王都には四季はあるが、日本ほどの変化があるわけではない。
 真冬に小雪が降る事はあっても積もるほどふるのは稀だし、真夏は日本のように40度近くまで温度が上がる事もない、精々30度を少し超える日が数日ある程度で湿度はそれほど高くない。
 今は春から夏に切り替わる時期でカラッとした晴天の天気が多い。
 今日は絶好の結婚式日和だ。


 控室で父上やジムニス兄上たちが俺に声をかけてきたが、何を言っていたのか記憶がない。
 まさかここまで落ち着かないものだとは思わなかった。
 前世の日本人だった時は33歳で不遇?の最後を迎えて人生に幕を下ろしたけど未婚だった。
 それなのにこの世界では15歳で結婚か・・・感慨深いというか、何というか、今が幸せの絶頂でないことを祈るばかりだ・・・って、誰に祈るんだ? 神様? 俺神様なんだけど?


「クリストフ様、お時間です」


 結婚式に参列するためにフィーリアもドレスアップしている。
 まだ体は幼いが身体能力は人類最高レベルの頼もしい俺の護衛で、今日だけは護衛ではなく俺の家族として俺を祝ってほしいと護衛に拘るフィーリアにも式に参列してもらった。


「そういう服もよく似合っているぞフィーリア」
「あ、有難う御座いますっ! クリストフ様もよくお似合いでっ!」


 護衛は王国騎士団、いわゆる王家の騎士団が俺の護衛も含めてすべて取り仕切っている。
 護衛だけではなく警備もひっくるめて王国騎士団の管轄だ。
 真っ白な式典用の鎧を身に纏った王国騎士団員が等間隔で会場に配置されておりそこに貴族をはじめとした招待客、そして俺の身内にドロシー様の身内である王族が決められた席に座っている。
 式としては日本とそう変わらない進行で俺が先に会場に入り新婦であるドロシー様は父親である陛下タヌキと会場に入ってくる段取りだ。


「クリストフ君、落ち着いて」


 落ち着け? ペロン、俺は落ち着いているよ。
 ほら手汗がべったり、足は小刻みに床をこついているだけじゃないか。


「あれはダメなやつね。クリストフってば完全に舞い上がっているわ」


 ふっ、俺が舞い上がっているっていうのか? カルラの目が節穴だってわかったよ!


「あ~ぁ、これじゃぁ、ドロシー様が可愛そうね」


 なんじゃと!? 何でドロシー様が可愛そうなんだ! クララ!


「カルラとクララはクリストフ君が舞い上がっているのを面白がっているように見えるのだけど・・・」


「プリッツ、そんな事・・・あるかも? クリストフがこんなにあがっているのを初めてみたしね!」


「そうそう、気にしないの。面白ければ良いんだし!」


 カルラとクララめ、覚えておけよっ!


「ドロシー・フォン・バンダム王女殿下のご入場です!」


 っ! き、きたっ!
 ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ!
 おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ落ち着け俺!


 ドロシー様は光沢があり淡く光る純白のドレスを身に纏い、顔は細かな細工がされているベールで隠しているが薄っすらと頬を紅色に赤らめた肌が見える。
 参列者からは「おぉぉぉっ」と声があがるが、それはドロシー様の美しさもあるが、恐らくはシルクスパイダーの糸を使ったドレスの見事さに声をあげているものも少なくないだろう。
 陛下タヌキの肘あたりに手を軽く添えて陛下タヌキに付き添われたドロシー様が一歩一歩俺の方に近づいてくる。
 うん、陛下タヌキが邪魔だ。


 ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ!
 き、綺麗だ。


 陛下タヌキとドロシー様が俺の前まで到着し、陛下タヌキが俺にドロシー様を託す。
 その時陛下タヌキがポツリと呟いた。


「幸せにしてやってくれ」


 その呟きは俺に向けたものだが、俺に聞かれる事を目的とはしていないのだろう、俺のゴッドイヤーでなければ聞き取れない僅かな音量だ。
 任せろ、陛下タヌキ! 俺がドロシー様を幸せにしてやる!


 俺は全身の毛穴という毛穴から滝のような汗を干からびてしまうのではないかと思うほど出しているが、しっかりとドロシー様を陛下タヌキから託された事を実感した。


「綺麗だ」


 俺は一言、そう一言だけドロシー様に呟き、ドロシー様はベールの下から俺に笑顔を向けてくれた。
 これで王妃殿下が生きていたらドロシー様もこんな陰りのある笑顔をしないだろう。
 王妃殿下は俺にとっても伯母上にあたる人で、この世界で意識を取り戻してから片手で数えるほどしか会っていないが、それでも俺の伯母上だ。
 俺だって悲しいと思うこともあるんだよ。


 式は恙なく終了し、俺とドロシー様はオープン馬車に乗ってパレードをした。
 その時にクララが俺たちをこう評したらしい。


「美女とピエロだ。ドロシー様は言うまでもないけどドレスに負けるどころかドレスによってその美しさが際立っていたね。クリストフは売れないピエロってところかな、終始顔が引きつっていて期待以上のヘタレさだったわ、ぷぷぷぷ」


 お、覚えていろよ!
 これでも俺はお前の上司だがらな!
 しかも神様なんだから!




 

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