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なんじゃもんじゃ

101 襲撃3

 




 この1ヵ月で王都内で暗殺された貴族は8人、王都以外での不審死は4人、そして暗殺未遂は2人、そこに暗殺された王族が3人と行方不明が2人。
 勿論、暗殺未遂は俺と父上の事で、行方不明の2人はまだ幼子おさなごなので安否が気がかりである。
 行方不明の王太孫と第4王女の2人は騎士団をはじめとして多くの兵を動員し連日捜索を行っているも発見報告はまだない。
 俺も犯人探しと同時進行で2人の捜索を行っているも残念ながら発見には至っていない。


 貴族で暗殺された8人若しくは12人の貴族は何れも国王派であり、城内では貴族派の陰謀だと騒ぐ者まで現れている。
 俺も貴族派が怪しいとは思っているが、ここまで露骨な暗殺をすれば貴族派だって怪しまれる事は分かっているはずで、俺はそこが気になっている。


「今回、暗殺された人たちの共通点は国王派で北部貴族が3、南部貴族が5。王都以外で暗殺の疑いがあるのは4人で東部貴族が1、北部貴族が2、南部貴族が1。もともと西部は貴族派が多く国王派は少なかったけど西部貴族が入っていないのはいびつではあるね」


「ペロンの言う通りね。それに暗殺された貴族は特にブレナン伯爵の罪を追及していた貴族のようだし」


 ブレナン伯爵とは前西部総督であった元侯爵の事だ。
 ブレナン元侯爵は帝級マジックアイテムの破損とボッサム帝国との戦いで多くの被害を出した責任を追及され伯爵に降爵させられ領地の1/3を減封された上で持っていた権益の殆どを返上させられているので国王派や国王に恨みを抱いていても不思議ではない。
 しかしいくら恨みを抱いていたとしてもここまであからさまな行動に出るだろうか?


「ブレナン伯爵が犯人だと誘導されているように感じますが、今のところは何も証拠がありませんしね」


 プリッツは俺と同じ違和感をもっているようだ。


「そう言われればそうだけど、動機は十分にあるからもっと深く調べてみる必要があるわね」


「ペロンの言うようにブレナンって線もあるけど、動機がある者なら他にもいるわよ」


 全員がクララを見る。
 俺もそれは考えていた。
 もし俺とクララの考えている人物が同一人物であればブレナンどころの話ではなくなる。


「第2王子ね」


 クララはサラッと重要な人物を口にする。
 それ、俺も考えていたけどね。


「それは・・・でも・・・」


「確かに動機はあるわね。第2王子は貴族派に近かったし王太子が居なくなれば次期国王の座が転がり込んで来る可能性も十分にあるわね」


「第2王子とブレナンが組んでいるって事も十分に考えられるわね」


 家の女性陣は恐れ多い事を隠す事もなく・・・
 ペロンとプリッツもちょっと引き気味だし。


「その線は十分に考えられる。・・・クララはその線を含めてプリメラに指示をして欲しい。だが、気取られないように十分に注意をして欲しい」


「了解したわ。それとプリッツを貸して欲しいわ」


 クララの横に座っているプリッツを見るとブンブンと首を横に振っているがクララの裏拳が顔面に直撃しプリッツはソファーからもんどりうって床に落ちる。


 皆、触れてはいけないと感じプリッツから目をそらす。


「・・・プリッツに何をさせるつもりなんだい?」


「情報部隊も人手不足なんで隠密行動が得意なプリッツを貸して欲しいだけだよ」


 隠密行動って・・・プリッツは影が薄いだけだよ・・・クララと言う濃い妹がいるだけでね。


「いいわよね!?」


 これは有無を言わさぬってやつだ。
 カルラとペロンは未だ顔を押さえ唸っているプリッツを哀れむような視線で見ている。
 ガンバレよプリッツ。


「フィーリア、リリイアをプリッツの代わりに父上の屋敷周辺の警戒にあたらせてくれ」


「畏まりました」


 こうして、皆がそれぞれの任務に戻って行く。
 さて、俺も俺にできる事をしますか。
 あの日から俺は王城に網を張っている。
 この屋敷と父上の屋敷はペロンとプリッツ(今後はリリイア)が見張っているので俺は王城を担当しているのだ。
 幸いな事にジムニス兄上、エリザベート姉様、クリュシュナス姉様も王城にいるので手間が省けている。
 あの日以来、王国騎士団や王国魔術師団は休みも無く行方不明の王太孫と第4王女を探し、犯人を捜している。
 その為、3人の兄姉は王城に泊り込んで屋敷には殆ど帰っていない。
 そして王城内の雰囲気は最悪で皆目が血走っている。


 俺は神格を得てから寝る必要が無くなったので昼夜を問わず王城を監視しているが、あの日以来王城に忍び込んだ者はいない。
 その間に国王派の貴族が多く暗殺されてしまった。
 実行犯はかなりの手練れなのだろう、簡単には尻尾を掴ませてくれない。
 だが、奴らの目標であるはずの国王とドロシー様を含めた王族、そして俺と父上は生きている。
 つまりまた殺しにくるはずだと俺は見ている。
 だから諦めず根気よく王城を監視している、この1ヵ月の間欠かさずに監視をしている。












 どうやら陛下タヌキも相当まいっているようで、白髪まじりの黒髪だった髪の毛が全て真っ白になっている。
 そんな中、御前会議が開催される事になって大臣たちと主要貴族が出席している。


「此度の件、王太孫と第4王女は流行り病で死亡した。今後・・・仮に両名の名を名乗る者が現れたとしても、一切王家とは関係ない者である」


『・・・』


 予想はできていた。
 こうなる事を危惧していたのだ。
 陛下タヌキだって苦渋の決断だっただろう、それでも国王として判断したのだ。
 今回の決断について俺には何も言う事はできない。
 そんな権利も権限も俺にはないのだ。
 だが・・・納得はできない・・・俺は犯人を許さないし、地の果てまで追いかけてこの報いを受けさせてやる。


「ブリトニー王妃殿下、レイザイト王太子殿下、グリフィン第4王子殿下、ラミルダ第4王女殿下、ベリグザイム王太孫殿下は流行病でお亡くなりになりました。3日後にこの事を発表し、その後国葬を執り行います」


 国王の言葉を引き継いで宰相が今後の予定について告げ、今回の件について他言無用、更には噂話も慎むようにと締めるのだ。
 御前会議は暗い雰囲気の中、進行し終了間際になって会議室の扉が勢いよく開け放たれた。


「陛下っ! 陛下はラミルダの捜索を打ち切るのですか!?」


 怒気をはらんだ金切り声をあげる女性、たしかベニー第2側妃だ。
 第1側妃は数年前に他界しているのでブリトニー王妃が他界した今では王妃に最も近い方であり・・・ラミルダ第4王女の実母でもある。
 ベニー第2側妃は後ろにチェニール王太子妃殿下を引き連れてズカズカと陛下タヌキの前まで進む。
 大臣が・・・名前は忘れたが、その大臣が側妃を止めようとしたがえらい剣幕で捲くし立てる側妃に気おされ後ずさっていた。


「ベニーか、チェニールまで、ここはそなたたちが来て良い場ではないぞ」


 陛下タヌキは生気のない目で2人を見つめ、力ない声で2人に退室を促す。


「今回の捜索打ち切りは納得行きません! 陛下はラミルダとベリグザイム殿を見捨てるのですか?!」


 俺だって納得しているわけではないのだ、実母である側妃の言い分は理解できる。
 だが、ヒステリックにわめき散らしても良くはならないのも事実で、今回の決定を覆すのは難しいだろうが覆そうと思うなら敢えて遠回りするべきだろう。
 俺が何を言いたいのか、それは・・・つまりこう言う事だ。
 今回の決定は陛下タヌキと宰相が話し合って決めた事なので、その2人を動かせるだけの後ろ盾を得る必要があるって事だ。
 その場合、最初に名が挙がるのは父上だろうが、次いで北部のセジミール辺境伯か東部のクジョウ侯爵だが、セジミール辺境伯は貴族派なので国王派ばかり暗殺されている今回の件では表立って動くのは避ける可能性が高い。
 それとクジョウ侯爵は暗殺された王妃殿下、そして俺の母上の父なので俺にとっては祖父になるのだが、身近過ぎてあまり騒ぐと混乱に拍車がかかると自重している感じがする。


「やめぬかっ! ベニーとチェルニールには暫く謹慎を申し付ける! 下がれっ!」


 2人の心情は分からないでもないが、呼ばれてもいない2人が御前会議で好き勝手な発言をすれば陛下タヌキもケジメを付けざるを得ない。


 宰相が衛兵を呼び2人を退場させる。
 茶番劇と言えないのが辛いところだ。


 御前会議後、帰りぎわに陛下タヌキが呼んでいると宰相が俺と父上を呼びとめる。


「両名ともよく来てくれた、そこにかけられよ・・・」


 護衛の騎士たちも疲れた顔をしているな。
 ジムニス兄上も少し見ないうちに老けた気がする・・・
 俺はジムニス兄上に軽く頭を下げ挨拶をする。
 当然、ジムニス兄上は俺に挨拶をしない。
 護衛の任にある内はおれの兄ではなく陛下タヌキの護衛騎士だからだ。


「態々呼び出してすまぬ・・・」


「勿体無きお言葉」


 父上も俺も陛下タヌキからの呼び出しの理由は予想がついていた。


「時間が惜しい、本題のみ申し伝える・・・ブリュトイース伯、貴殿にラミルダとベリグザイムの捜索を頼みたい」


「・・・」


 俺と父上は陛下の言わんとしている事が分かっている。


「3日だ、3日後の発表までしか時間がない。2人が死んでいるのであればその証拠を、生きているのであれば救出の手筈をブリュトイース伯に頼みたい」


 つまり死亡が発表された後に2人を見つけても遅いって事だ。
 一度公式に死亡が発表されれば例え生きていても死んだものとして扱われその存在が否定される事になる。


「手がかりは・・・御座いますか?」


「皆が寝る間も惜しんで捜索したが、2人の行方についてはまったく手がかりがない状況である」


 俺も1ヵ月間捜索をしていたが、見つける事ができなかった。
 それを後3日で探し出せとは無茶を言うよな。


「クリストフ、陛下の御下命である、・・・であるが、難しいのは分かっている。・・・何とかならぬか・・・」


「ブリュトイース伯、何とか、この通りだ!」


 陛下タヌキが俺に頭を下げるので護衛の騎士達が焦っているじゃないか。
 ジムニス兄上も何とかしろ! と目で訴えている。


「お2人を見つけ出せる保証は御座いません。それでも宜しければ・・・」


「おぉぉっ、やってくれるか!?」


 と言うわけで陛下タヌキの頼みで探索をする事になった。
 勿論、これまで王国騎士団や王国魔術師団が掴んだ情報を全て公開してもらった。
 それによれば王城に忍び込んだ暗殺者のこん跡は6人分あった、陛下タヌキもターゲットになっていたが夜半まで執務を行っていたので護衛騎士の多いエリアにおり難を逃れた可能性が高い、気配遮断のマジックアイテムを使った可能性が高い、最近掴んだ情報では暗殺集団である『ブリガンティ』の仕業である可能性が高い、他の貴族の暗殺も『ブリガンティ』の仕業の可能性が高い、そして『ブリガンティ』は聖オリオン教国と繋がっている可能性が高いと言うものだった。


「『ブリガンティ』ですとっ?!」


 父上がこれまでの報告書を読み反応したが、これはこれまで神聖バンダム王国内で『ブリガンティ』の活動報告が無かったからだ。
 それが今回、ここまで大々的に暗殺を行った以上、神聖バンダム王国内で基盤を固めたと考えるべきだろう。






 

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