ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

006A_ラーディア

 


 異世界で何日目かの朝がきた。テントが朝日に照らされて明るくなっているのがよく分かる。
 白む空に反応するように俺の意識も急速に浮上してくる。
「……」
 ユキがいない。先に起きたようだ。
 ん? 外がなんだか騒々しいな。
「ユキ、どうした……」
 ユキとジュエモンたちが何かを囲んでいる。なんだろうと思い、その輪の中に入った。
「……」
 頭から血を流して伸びている女性がいた。誰がこんな酷いことをしたんだ?
 死んでいるように見えるから、このまま埋めてやろう。


「ご主人様、女の人が倒れているのです!?」
「ユキ、ご主人様ではなく、おとうさんだろ?」
「あ、そうなのです。ごめんなさい、おとうさんなのです」
 恥ずかしそうにお父さんといってくれるユキの頭を撫でてあげた。可愛いね。
「行き倒れだね。死体を埋めてやろう」
 俺はテンポウたちに頼んで穴を掘ってもらうことにした。
「こんな場所で死ぬなんて、哀れな奴だ」
 テンポウたちが掘った穴に女性を投げ込んだ。なにか「グゲッ」とか聞こえたが、気のせいだろう。
「よし、土をかけてやってくれ」
 ジュエモンたちが後ろ足でズサッズサッと土を穴の中に入れていった。
「どこの誰かは知らないが、成仏しろよ」
「神様の元に召されますようになのです」
 どこの誰かも知らない奴に手を合わせて涙を流すなんて、ユキはいい子だね。


 ぱんぱんと土を踏み固めて、墓標として俺の頭くらいの大きさの石を置いた。俺ってなんていい奴なんだろうか。こんなどこの誰かも知らない奴の墓を作ってやるなんて。
 その時だった、土が蠢いたのだ。
「おとうさんっ!」
「まさか、ゾンビか!?」
 土の中からズバッと腕が出てきたと思ったら、もう1つの腕も出てきた。
「キャーーーッ! おとうさん、ゾンビなのです!」
 ユキが怖がっている。
「おのれ、ゾンビ! 俺の娘を怖がらせるとは、許せん!」
 俺は電撃剣を抜いて構えた。
 ゾンビは土の中から這い出てきて、上半身が見えている。死んだくせになぜか肩で息をしている。
 俺はゾンビに向けて電撃剣を振り下ろした。ザンッ!
「な、なんだと……」
 ゾンビが俺の電撃剣を真剣白羽取りしたのだ。
「誰がゾンビだっ!? あん……アビャバババッ―――」
 ふっ、俺の電撃剣は追加効果として電撃を与えるのだ。よし、麻痺したな!
「死ね、ゾンビ!」
 ガンッ。
「何っ!?」
 これは……もしかして絶対防御……か?
 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。
 何度も電撃剣を振ったが、全て見えない壁のようなものに阻まれてしまった。
「はぁはぁはぁ……くそ、ゾンビのくせにやるな!?」
「いい加減にしろーーーっ!」
「おとうさん、ゾンビは喋らないのです」
 ちっ。
「あんた、確信犯でしょ! 私がラーディアだって知っていてやってるわよね!?」
「ら……ラーディア……だと……知らん!」
 ゾンビがずっこけた。いつの間に穴から完全脱出したんだ!?


「……」
 ゾンビは勝手に話し始めた。俺が攻撃しようとするとユキの陰に隠れるんだ。卑怯者め!
「分かったの? 私はアフロディーテ様の命令であんたのアシスタントになってやっているの、ありがたいと思いなさいよ」
「くそっ」
「今、くそって言ったでしょ!?」
 俺の心の声が聞こえたようだ。無駄に顔と耳だけはいい奴だ。
「ラーディアおねぇちゃんは、おとうさんの知り合いなのですか?」
「そうなのよ! ユキはお利口だね!」
「おい、何ユキを呼び捨てにしているんだ! ユキ様と言え!」
「ばっかじゃない! なんで様をつけるのよ!?」
「ユキ、こいつのことはおねぇちゃんではなく、おばさんだ。分かったか?」
「おばさんなのですか? うん、わかったなのです!」
「ちょっと、変なことを教えないでよ! ユキ、私はおねぇちゃんよ。いいわね、お・ねぇ・ちゃ・ん。はい、リピートアフタミー」
「……」
 ユキが馬鹿を見る目でダメ神を見ている。ざまぁ。
「なんで言わないのよ!?」


 

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