ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

004A_白銀のドラゴン

 


 太陽が傾く方向に向かって街道を進んだ。地球でもこの世界でもそれは西である。
「ご主人様、あそこにホーンラビットがいるのです」
 町を出て歩いていると、ユキが魔物を見つけた。どうもユキの耳が魔物が出す音を捉えているようだ。
「倒してくるのです!」
「お、おう。気をつけてな」
 これまでに何度もユキは魔物を見つけては倒している。俺が出る幕がまったくない。
 しばらくするとユキは額に角があるウサギを持って現れた。
「ご苦労さん。怪我はしていないか?」
「大丈夫なのです!」
 ウサギの獣人であるユキがウサギの魔物を倒すのはいいのだろうか? それ以前に8歳の少女に戦わせていいのだろうか、という考えもないではない。
 しかし、おそらく俺よりもユキの方が戦闘力は高いと思われる。俺は剣を持っているが剣を使ったことなどないし、剣で戦闘もしたことがない。


 ユキからホーンラビットの死体を受け取るとアイテムボックス(極)に入れる。俺の持つアイテムボックス(極)は収納した物を解体できる機能があるので、解体する。
 先ほどから5羽のホーンラビットを解体しているので、毛皮や肉、それに角が溜まっている。肉は野営時に焼いて食えるからいいけどね。


「今日はこの辺で野営をしようか」
「はいなのです」
 街道から見えづらい林の陰でアイテムボックス(極)からテントを出すと、それを設置した。
「ユキ、薪を集めてきてくれるか」
「はいなのです」
 ユキは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながら林に入って行った。
「あんまり奥に行くなよ」
「はーいなのですー」
 その返事を聞いて俺は石を並べて簡単な窯を作った。
 この石は街道を歩いている時に手ごろな石をアイテムボックス(極)に回収しておいたものだ。人の頭くらいの石もあればもっと大きな石もあったので回収しておいた。
 もし魔物との戦闘になって、剣ではかないそうになかったら、10mの高さからこの石を雨のように振らせてやろうと思ったので、結構真面目に石を探しながら歩いていたのだ。


 しばらくしてユキがイノシシと薪を持って帰ってきた。なんでイノシシを狩ってくるかな。
「ご主人様、ブルボアを見つけたので狩ってきました!」
 嬉しそうだ。だけど、ここはちゃんと教えてあげないといけないな。
「俺はユキには危険なことをしてほしくない。だから、魔物を狩るのも危なくないか、ちゃんと考えてほしい」
 ユキは首を傾げて考えた。そして、ぱぁっと明るい表情をした。
「はいなのです! 危なくないように注意するなのです!」
「うん、そうしてくれ」
 頭を撫でてやる。嬉しそうだ。


 薪に火を熾して夜ご飯の仕度をする。仕度といってもアイテムボックス(極)で解体したホーンラビットの肉をフライパンで焼いて塩胡椒をするだけだ。
「いい匂いなのです~♪」
 ユキはホーンラビットの肉が焼けるのを楽しみ待っている。
「よし、焼けたぞ!」
 焼けたホーンラビットの肉を手ごろな大きさに切り分けて、パンと一緒に皿に盛ってユキに差し出すとヒマワリが咲いたような笑顔で皿を受け取った。
「ありがとうございますなのです~♪」
 ホーンラビットの肉は臭みもなく、肉汁がたっぷりでとても美味しかった。味つけが塩胡椒だけだったので、あまり期待していなかったけど、嬉しい誤算だ。
「とても美味しいのです~」
「沢山焼いたから、お代わりもあるぞ」
「はいなのです~♪」
 ユキは俺よりも沢山食べるから、3人分くらいの肉を焼いた。それでもまだホーンラビットの肉は余っている。


「あ、ご主人様。ちょっと行ってくるのです」
「え? なんだ? そうした?」
 ユキは林の中に走って行った。美少女はう●こをしない生き物だって言うし、いったいどうしたんだろう?


 しばらくすると、狼を担いでユキが現れた。
「……」
「ご主人様、リトルウルフなのです」
「ユキ、危ないことはしてはダメだろ」
「はいなのです。ですから危なくないことをしたのです」
「……」
 そうか、ユキにとってはゴールデンレトリーバーよりもひと回り大きな狼との戦いは危なくないのか……。俺の常識がおかしいのかな?


 食事が終わるとテントでユキを寝かせる。ユキも夜の見張りをすると言っていたが、子供が夜更かししては成長にかかわるから寝かしつけた。
 考えたら昨日も徹夜だった。でもまぁ、2徹くらいなら大したことはない。
 さて、今夜は昨夜できなかったことにチャレンジしよう。
 俺のジュエリークラフターの2つ目のアーツは使役アーツだ。
 この使役アーツは宝石と魔石を合成することで魔物を使役できる。だから、アイテムボックス(極)に入っている魔石と宝石を合成しようと思う。


 まずは小石を宝石にする。今回の小石は黄水晶シトリンにするのがいい気がする。シトリンの透明感のある黄色を思い浮かべMPを注ぎ込んだ。
 小石が振動し出して熱を帯び、そしてシトリン(劣悪)ができ上がった。
 シトリンにさらにMPを注ぎ込み品質を上げて普通、普通から上質、上質から極上にした。合成にどの程度の宝石が必要か分からないので、極上で試してみることにした。
 アイテムボックス(極)から取り出したのは夜になる前にユキが狩ってきたブルボアの魔石だ。
 ホーンラビットの魔石よりも一回り大きい親指の先ほどの大きさのブルボアの魔石とシトリン(極上)を合成することにした。
 シトリンの方が小さいけど大丈夫かな? なんでも試してみないと分からない。ダメだったら魔石と宝石が消失するだけだ。


 左手の上にシトリンとブルボアの魔石を乗せて合成と念じる。目がいたくなるほどブルボアの魔石とシトリンを見つめると共に光り出した。
 かなりの光を放ちブルボアの魔石とシトリンがくっついていく。なかなか神秘的な光景だ。
 1分ほどで光が収まると、そこには先ほどより1回り大きくなったシトリンがあった。
「消失していないってことは成功でいいよな?」
 確認のために神力眼を発動させた。うん、成功だ。でも、アースボアを封じ込めたシトリン(極上)と出た。アースボアってなんだ? ブルボアじゃないのか?


「じゃぁ、さっそく……アースボア召喚!」
 左手の上にあったシトリンが光ったので目を閉じてしまった。
「うわっ!」
 目を開けたら、俺の前にゾウのようなイノシシがいた。誰でもびっくりすると思う。
「お、お前、俺が召喚したアースボアか?」
「ブル」
 俺が質問したら首を上下させて肯定したように見えた。
 恐る恐る手を伸ばして触ってみる。ゴワゴワした毛だ。触り心地はあまりよくない。
 俺が召喚したアースボアはブルボアなんか目じゃないほどデカかった。
「この周辺を警戒してくれるかな。俺たちに近づく生き物がいたら教えてくれるか」
「ブルブル」
 了解したと言っている。と思う。
 アースボアはのっしのっしと歩いていった。あれ本当に俺の召喚した魔物だよな? ビフォーアフターが違いすぎるから不安だ。


「次はリトルウルフを合成するか」
 レベルが上がったのでMPは満タンだ。行けるところまで行くぞ!
 今度取り出した小石はショールがいいだろう。ショールというのは黒いトルマリンのことだぞ。
 MPを注ぎ込んで吸い込まれるような黒さのショールができた。このショールにMPを注ぎ込んで劣悪から普通、普通から上質、上質から極上へ品質を上げていく。
 そろそろMPが尽きそうだったけど、ここでレベルアップしたのでMPが満タンになった。ご都合主義もいいところだな。


「さて、次はこのリトルウルフの魔石と合成してと」
 魔石と宝石が発光してしばらくすると1つになった。神力眼で見てみると……。
「なんでリトルウルフじゃないんだよ?」
 ブラックアイアンウルフってなんだよ?
「出てこい、ブラックアイアンウルフ!」
 うん、分かっていたよ。こいつもデカいな。さっきのアースボアほどじゃないけど、ブラックアイアンウルフもデカい。
「おまえもアースボアと共に周辺の警戒をしてくれ」
「グル」
 ブラックアイアンウルフも周辺警戒に当たらせたので、多分大丈夫だろう。なんか2匹とも強そうだし。


 

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