照魔ヶ学園☆心霊研究部

セエレ

1.仲間集め


「なぁ、そこのキミ!オレと一緒に心霊研究しないか?!」
「うわぁあ!すみません、お金持ってないですっ!許してくださいぃい〜!」
声をかけた同級生が、また1人自分の前から去っていく。
…一体これで何人目だろうか。
真谷と約束を交わしてから数日経つが、自分の話を聞くどころか、目を合わせた瞬間皆どこかへ走って行ってしまう。
昼休みの時間を割き他のクラスにも顔を出してみたが、今回もダメなんだろうか。
2人くらい簡単に集まると思っていただけに、受けるダメージは凄まじかった。
(なんでだよ…絶対楽しいのに…)
廊下をとぼとぼ歩いていると、ふと後ろから視線を感じ足を止めた。
振り返ってみるが後ろには誰もおらず、ただ長い廊下が続いているだけだけでどこにも変わりはない。
(……気のせい、か)
部に入りたくて自分を見ていた人間でもいたのかと思って嬉しくなったが、それは自分の勘違いだったようだ。
(部の話だけでも、聞いて欲しいんだがなぁ…)
どうしたものかと頭を悩ませている劉人ゆうりの目が、学校の掲示板をとらえた。
掲示板には授業のお知らせや、新聞部が作った『今週の照魔ヶ新聞!』など様々なものが貼り出されている。
「…これだっ!!」
思い立ったらすぐに行動で、劉人ゆうりは急いで自分の教室へと戻って行った。



その後、授業開始の鐘がなってしまいコソコソ教室に入った劉人ゆうりだが、授業中も教師に見つからないよう細心の注意を払っていた。
授業を聞いているふりをしつつ、心霊研究部のポスターを作成する。
なかなか難易度が高いが、これも部のため。
見つかったら没収されることはわかっているので、今見つかるわけにはいかないのだ。
(活動内容は…学園の怪談を調べたり、村の異変を解決する…と。他に書くことはないか…?)
これだけではインパクトが足りない。
もっと、この学園の生徒全員が怪奇現象に興味を持つように書かなければ。
(そうか…オレが知ってるこの学園の噂を、少し書いてみよう!)
この照魔ヶ学園しょうまががくえんは今はそういった噂は聞かないが、どうやら昔は怪奇現象が多発していたらしく、調べれば調べるほど色々な情報を入手することができた。
…だからこそ、この部活がないことに心底驚いたのだが、そんな事はもはやどうでもいい。
これを皆が知れば、きっと興味を示してくれるはず。
(この学園はこんなに楽しいことに満ち溢れていて、色々な非日常を体験できるかもしれないんだ…!知らないまま高校生活を過ごすなんて、もったいなさすぎるぜ!)
部の名前と活動内容をデカデカと書き、その下にさらに目立つように名前ペンで囲いを作る。
そしてその中に、自分が知っている怪奇現象の一部を書き出した。
①忽然と姿を現す、真夜中の旧校舎
②廊下を漂う、足のない亡霊
③トイレの3番目の呪い、華子さん
※これらはまだほんの一部です。さらに詳しく知りたい方は、1年C組の榎原 劉人えのはら ゆうりまで!
(…こんなもんか)
なかなか上手くできたのではないかと、ポスターを眺めながら思う。
あとはこのポスターを大量にコピーし、学校の掲示板だけでなく廊下や各教室に貼り出せば1人でも入ってくれるかもしれない。
(見つかった瞬間に撤去されそうだから、貼り出すとしたら放課後…いや、夜中に忍び込むか)
部のポスターを貼れるし、怪奇現象に遭遇する可能性も上がって一石二鳥だ。
ポスターも無事に仕上がったので、劉人ゆうりは次の『真夜中の学園に忍び込む作戦』を考えることにした。






「くっそぉ〜…結局、なーんにもなかったなぁ…」
警備に引っかかることなく無事に学園に侵入することができた劉人ゆうりは、ポスターを貼りつつ怪奇現象が起こると言われた場所を訪れたり、行動を起こしたりしてみたものの、何も起こらなかった。
(村の様子が変わってから、この学園にも何か起こるような予感がしてたんだが…)
気配を全く感じなかったわけではなかったのだが、まるで眠りから覚めたばかりというような、まだ夢の中を漂っているような印象を受けた。
怪奇現象が起こり始めるのは、もう少し先になるのかもしれない。
ガックリと肩を落としながら通学路を歩いているうちに、学園に着いてしまっていた。
(いかんいかん、落ち込んでる場合じゃない。皆の反応を確認しに行かねぇと!)
一生懸命貼ったポスターを無駄にするわけにはいかないと思い、足早に玄関へ向かう。
玄関にたどり着き中を覗いてみると、掲示板を囲んで大勢の生徒が集まっているのが見えた。
今この場で自分が登場すれば、また皆はどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思った劉人ゆうりは声をかけたいのをグッとこらえ、耳を澄ませた。
「ねえこれ、例の金髪の…」
「あー、あの人か。私、あの人に声かけられたことある…」
「おいおい、なんだこれ。こんな部に誰が入るんだよ」
「しかもあの榎原だろ?幽霊見つけるどころか、俺らが幽霊にされちまうよ」
「てか、あいつガラ悪すぎ。また転校しないかなー」
「しー!本人に聞かれたらお前殺されるぞ!」
……ショックだった。
自分はただ、純粋に皆と怪奇現象を解決したいだけなのに、どうしてそれをわかってくれないのか。
そっと掲示板から視線を外し廊下を見てみると、他の生徒も自分のポスターを見てくれているようだったが、その反応を見る限りきっと同じようなことを言っているのだろうと簡単に予測できた。
(…上手くいかねえなぁ)
劉人ゆうりは苦笑し、静かに玄関を後にした。



頬にあたる風が気持ちよく、つい眠ってしまいそうになる。
劉人ゆうりは校舎裏の茂みに座り込み、ボーッと空を眺めていた。
(あー…綺麗だなー…)
ヒンヤリとしたコンクリートの冷たさを背中に感じながら、壁の向こう側に耳を傾ける。
どうやら隣のクラスの1年D組が、歴史の授業を受けているらしい。
先生の声や、ヒソヒソと楽しそうに会話する同級生たちの声を聞きながら、劉人ゆうりは目を閉じた。
いっそ、部活を立ち上げずに1人で行動するか。
(その方がいいのかもしれない…けど)
しかし、自分1人では限界がある。
いくら怪奇現象が好きであろうが、解決できなければ何の意味もない。
(仲間が、必要なんだ)
瞼をゆっくり開けるのと同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
静かだった教室が一気に騒がしくなり、色々な話題が教室内で飛び交っていた。
そろそろ自分の教室に戻ろうと立ち上がろうとしたとき、自分のいる校舎裏の窓に誰かが近付いてきたのか、騒々しい教室の中ではっきりとその話題を耳にした。
「心霊研究部のポスター見た?」
「見た見た!貼ったのって確か…最近C組に転校してきた、榎原 劉人えのはら ゆうりって奴でしょ?」
「そうその人!でさ、下の方に『この学園で起こる怪奇現象たち!』って枠あったじゃん?あの、よくわかんないやつ」
「あはは!あったあった!あれ書けば誰か食いつくと思ったのかねー、ちょーウケる!」
どうやらポスター作戦は、本当に大失敗だったらしい。
今頃全て真谷に回収されているだろうから片付けの心配はないが、真谷に見つかったときのことを考えると憂鬱になった。
(まぁ…また地道に声をかけていくしかないか)
喋っている2人に見つからないよう、しゃがみながら静かに移動する。
立ち上がっても平気な場所までくると、制服についた汚れを払い落とし、その場から立ち去ろうとした瞬間…劉人ゆうりの耳にとんでもない話が飛び込んできた。
「それがさ、男友達の1人がめちゃくちゃ食いついてたのよ!」
「えー?!誰々?」




緋雨ひさめ 赤葉あかは

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