新・痛々しく甘いチョコレェト

山田 みつき

12

私は、長谷川さんが言っていた事はこの事だとハッキリ自分が理解していた。

目の前に居る、私が『麗華』と名付けた、吉井真冬とゆう人間と出逢う事が出来た。
でもやっぱり何か引っ掛かる。

今はこうして眠っている彼女だが、目覚めた時にどう想うのだろう。
どんな言葉を吐くのだろう。

空間が、支配してゆく。

長谷川「…貴方、あの後飲みに行ったそうね。」

私「…ええ…。そこで偶然に著者と会いました。こんな偶然ってあるんですね。」

長谷川さんは、本を鞄から取り出して、読み直していた。

長谷川「この総編集を手掛けたのは私よ。」

私「…そうだったんですね。」

長谷川「貴方が入社し始めた頃、未だ貴方は読者だった。入社の時の文句で貴方…井川さんは、本の事、物語について語っていた。ファンタジーなものも多かったけれど、ありきたりな恋愛ものが多く、うちの出版会社に合わない様な勉強がかった本ばかり並べて居たわ。」

私「…其れは、否定しません。」

長谷川「どうしてうちの会社を選んだのか、そう思って私はこの本を読んで欲しいと言った筈。その頃、目を通しましたと貴方は言ったわ。」

私は懐かしい気持ちになっていた。
或いは、著者である、吉井真冬を羨ましいとさえ感じた事をすっかり忘れて居た様だ。

私「すみません…。私、多分、仕事をするって事に追われていて、自分の身に何が起こるかなんて想定も出来ないまま、只ひたすらに原稿に目を通して居たのです。修正し、編集し…職務をこなす事で私の生き甲斐になるだけで、きっと内容迄はそんなに深く冒頭する間もない程に、自分自身で圧力を掛けて居たのです。追い抜かれては駄目だ…まるで教師が点数を付けていくみたいに、マル、バツ…。」

長谷川「読者側だった。誰もが。その気持ちを忘れてはならないの。読んだ人達が、如何に楽しいのかとゆう事に欠けてしまう。職場なら、他にも幾らでも存在するわ。其れを貴方に理解して欲しかったのよ、私。」

私「直ぐ傍にあるものが…当たり前何じゃなくて…もしかしたら自分の身に起きるかもしれないとゆう危機感、期待感、そうゆう気持ちは大切なんですよね…。私きっと、親にマルバツで決められて居たので、現実が何か見失う事があるのです。」

長谷川さんは溜息を吐いて、私の汚れたスーツを濡れたティッシュで拭いてくれた。

長谷川「うちの会社は今、火の車なの。真剣に描いて来た原稿を、貴方は原稿用紙に目を通して、これでいいやだとか、字がおかしいだとか。そんな事をして売り出した本なんて世の中に広がる訳もなければ、取材でもそう。例えば自分が虐待の話の原稿が回ってきて、貴方は虐待されて居たとして、その原稿に目を通さず、原稿用紙ごと、捨てて来たでしょう?会社のゴミ箱からまるで何事も無かったかの様に、ゴミ化されてしまった期待の星が沢山あった。いつまでも目を背けて居るのではなく、だから私達が存在していて、著者の心と自分の心を交わさないといけないのよ。」

私「……じゃないと、いつまでも共感が産まれない…。」

長谷川さんは、呆れた顔で言った。

長谷川「そうね。外で煙草でも吸って来るわ。真冬ちゃんを見ていて。そして考え直しなさい。」

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