新・痛々しく甘いチョコレェト

山田 みつき

9

麗華は何もかもを忘れてしまったんだ。
きっとそう。
名前も年齢も『あの子』の事さえもー…。

私「小説って…読みますか?」

麗華は黙って鞄から取り出す。

麗華「…読むわよ。」

其れは実に軽率な内容と取れるものだった。
やはり人違いなのかもしれない。

私は、軽く嘘を吐いた。

私「私は…結構重たい内容のモノが好きで…。で、以前にドラマで年下の男の子を家に置いていたドラマを羨ましいと想っています。」

麗華は鼻で笑った。
私を嘲笑うかの様にして。

麗華「良い事なんてねー、ロクにないよ。流行ったよね。アイドルの男の子とOLの恋愛の話だったっけ?私はねー……。」

続きを知りたくなった。

私「そう…!理想で…何か、一人より二人の方が独りよりもマシじゃない?って台詞が好きで。」

ーーあれ?
私、合わせてるつもりだったけれど
案外覚えていた。
私も暇なOLだ。
きっとぼんやりテレビを付けている時に、耳に入って来たからにすぎない。

麗華「実際は、あんなの夢物語。もはや、叶ってたまるものかと思うよ。皆が言うんだ、私に『あの男の子とはどうなったの?』って。全然解らないの。もし私にそんな経験があったんだとして…私は敢えて、もう二度と、年下となんて交際しないと決めたから、忘れたんだと思う。…傷付けるだけだし、私には何のメリットもない。代償も大きい。だから敢えて一人としか交際してないと言うわ。…けどね?本当に記憶が曖昧なの。確か最期に日記を書いて、それで、その日記も見当たらない。何もかも忘れたの。前の職場の人間に偶然遭遇したと思ったら、私に吹き込んできた。私はどうしてか解らないけれど、小説を出したみたいなの。…変でしょ?」

この人…
紛れもなく
間違いなく、あの人じゃないのかな…。
長谷川さんが言っていた。

私「読書家なら…割と御存知かと思われます。私…隙間出版って言う出版会社の編集部…あの…私は、編集部員の…井川と申します。」

名刺を差し出した。
其れには『隙間出版』と書かれ、しっかりと『編集部/井川香澄(いがわかすみ)』と嫌味にも書かれている。
私は、本日解雇された身なのに、この名刺を差し出した事、背徳を感じたが…

其れでも、渡したかった。

しかし
途端に目の前の彼女が頭を抱えて身悶えてしまった。

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