甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第44話

「優一! お前も少しは空気を読め!」

「はぁ? んなこと言われてもなぁ……俺は関係ねーし」

「おまえなぁ……」

「大体、勝手に告白したりされたりして、変に意識し合ってる奴らが悪いだろ」

「おまっ! バカ!!」

 優一の言葉に、泉と由美華はビクッと肩を震わせる。 高志は直ぐに優一の口を押さえるが、優一の言葉は止まらない。

「大体なぁ、折角の修学旅行だぞ? なんでこいつら二人のために、俺たちまで気を遣わなきゃいけねーんだよ!」

「そ、それは……」

 高志も優一の言っている事は理解出来る。
 しかし、昨日の今日で立ち直れと言うのも無理だし、意識するなとも言えない。
 
「面倒臭ぇ……ちょっと待ってろ!」

「あ! おい! 何をする気だ!」

 優一はそう言うと、泉の元に行き腕を引っ張る。

「ちょっと来い!」

「え!? な、何?」

 優一はそう言うと、泉を由美華の元に連れて行く。
 
「おい御門!」

「え? な、何?」

「いつまでも変に意識してねーで、泉にさっさととどめを刺せ!」

「どう言う意味!?」

 高志は遠目でそんな三人を見てがっくりと肩を落とす。
 優一は泉を応援しているのだろうか?
 それとも楽しんでいるのだろうか?
 高志の口から不意にため息が溢れる。

「はぁ……」

 優一は気まずい雰囲気の二人を残して、高志と紗弥の元に戻ってきた。

「まったく!」

「な、何を言って来たんだ?」

「振るならハッキリ振れって言ってきた」

「お前は鬼か……」

「あんな雰囲気がずっと続いたらこっちだって気分悪いわ! 鹿せんべい買って来る!」

「なぜ?」

 優一はそう言って、一人で鹿せんべいを買いに向かった。
 高志と紗弥は遠目から、由美華と泉の様子を見守ることにした。
 一方で、優一に無理矢理対面させられた優一と由美華は気まずそうに互いに俯いていた。

「あ、あのさ!」

「は、はい!」

 最初に口を開いたのは由美華だった。
 なんとも申し訳無さそうな顔で泉の顔を見ていた。

「いや、あの……私さ……男の子を好きになった事って……実は無いんだよね……」

「そ、そうなの?」

「う、うん……ずっと紗弥が好きだったし……正直……その……恋とかよくわからなくて……」

「そ、そうだよね……お、俺はその……大丈夫だからさ! あの……出来ればいつも通り接してくれれば……嬉しいかなって……」

「う、うん……ありがとう。その……ごめんね」

「いや、大丈夫だよ。ありがとう、色々悩んでくれたみたいで……」

「わ、私こそ……本当にごめんね」

「大丈夫だよ……それよりも折角の修学旅行だし、楽しもうよ」

「うん……」

 泉は由美華に笑いながらそんな事を言った。
 しかし、泉は内心全然笑ってなどいなかった。
 ショックだったが、これ以上由美華を困らせては行けないと気を遣っていた。
 振られたのはこれが始めての泉は、振られて始めて振られることの辛さを知った。

「じゃぁ、高志達のところにもどろうか」

「そ、そうだね……」

「そんな顔しないでよ、笑ってくれたほうが、僕は安心出来るから」

「そ、そう?」

「うん、僕はそれに修学旅行も明日で終わりだし、いつまでもこんな湿っぽい感じはやめようよ」

「泉君がそう言うなら……」

 そう言って由美華はいつも通りの笑顔に戻る。
 泉はそんな由美華を見て安心し、由美華と共に高志と紗弥の元に戻って行く。

「二人ともお待たせ」

「ごめんね、心配掛けて」

「いや……俺は別に良いが……泉、大丈夫か?」

「うん、僕は大丈夫だから。それより早く鹿公園に行こうよ」

「お、おう……」

 すっかりいつも通りに戻った泉を高志は心配そうに見つめる。
 
「由美華……ちゃんと話せた?」

「うん……もう大丈夫! さ! 早く行こ!」

「なら……良いけど」

 紗弥も高志と同じように、心配そうな視線を由美華に向ける。

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