甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第39話

 泉はその女子生徒の事を何も知らなかった。
 名前もクラスさえも知らない。
 そんな彼女が目の前で顔を赤く染めながら立っている。

「あ、あのね……わ、私さ、泉君のこと前から良いなぁって思ってて……」

「そうなんだ、ありがと」

 泉は笑顔で彼女にお礼を言う。
 そんな泉の笑顔に彼女もうれしそうに笑う。

「だ、だからね……あ、あの……つ、つき合ってほしいなって……」

 彼女の言葉に泉は笑顔をやめ、困ったような表情で彼女んに答える。
 
「ごめん……僕、好きな人が居るんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、彼女の表情から笑顔が消えた。
 どんどんと瞳は潤み、彼女は口を開く。

「そ、そう……なんだ……あは、あはは。わ、わかったよ……ありがと」

「僕も君の思いに答えられなくてごめん」

「う、ううん……だ、大丈夫だよ………じゃ、じゃあね」

 そう言って彼女は泉の前から背を向けて走って行った。
 走って行く時、彼女が顔を手の平で隠しているのが分かった。
 泉はそんな彼女を見て心を痛める。
 
「わ、悪いことしたな……」

 何度経験しても、告白を断ることは辛い。
 自分の事を思ってくれた相手の思いを否定する、泉は告白を断るという事をそう考えていた。

「はぁ……」

 泉はため息をついて部屋に戻ろうと彼女とは反対側から部屋に戻ろうとする。

「あ……」

「え?」

 泉が角を曲がろうとした瞬間、陰にかくれていた由美華に遭遇した。
 なんで由美華が?
 そう思った泉は、無言のまま由美華を見た後、由美華に尋ねる。

「な、なにしてるの?」

「えっと……散歩?」

「き、聞いてた?」

 泉は冷や汗を掻きながら、由美華に尋ねる。

「き、聞いてないよ……」

「絶対嘘だよね? めっちゃ目が泳いでるけど」

「う、嘘じゃないよ……」

 そう言って更に目を反らす由美華。
 流石にもう誤魔化せないと思った由美華は開きなって、泉に尋ねる。

「ねぇねぇ! 泉君の好きな人って誰!?」

「やっぱり聞いてたんだ……」

 目をキラキラさせながら、由美華は泉に尋ねる。
 そんな由美華の質問に泉は顔を赤らめる。

「だ、誰でも良いじゃん……」

「え〜良いじゃん、教えてよぉ〜」

 由美華は泉の横腹をつつきながら、からかうように尋ねる。

「も、もういいじゃないか……」

「だめだよ! 言うまで返さないからねぇ〜」

 ニヤニヤしながら、しつこく尋ねてくる由美華。
 泉はもちろん言えるはずもなく、どうにか由美華から逃れようと、話しをごまかして、無理矢理その場を去る。

「わ、悪いけど急ぐから……それじゃ!」

「あ! 行っちゃった……泉君の好きな人ねぇ〜一体誰かしら?」

 由美華は悪い笑みを浮かべながら、顎に手を当てて考える。
 




 食事を終え、風呂も入り終えた高志達は、昨日同様に部屋で話しをしていた。
 それぞれどこに行ってきたとか、写真を見せ合ったりして、雑談に花を咲かせていた。
 そんな高志達の部屋で、一人だっけそわそわしている人物が一人居た。
 それは赤西だった。

「……いや……だが……」

 部屋の隅で一人ぶつぶつ独り言を呟きながら、赤西は何かを考えていた。
 そんな赤西を見て、高志達は不信感を抱く。

「なぁ、赤西の奴どうしたんだ?」

「なんかさっきから変だぞ?」

 高志と優一は、土井と繁村に赤西について尋ねる。
 すると繁村は不機嫌そうな顔をしながら、高志と優一に答える。

「あぁ……ほっとけほっとけ、あいつはもう俺の敵だ」

「は? 一体何があったんだよ」

「あー、実はね……」

 土井は繁村の代わりに説明し始める。
 赤西と朋華の様子がなんだかおかしかった事、そしてその様子がいつもの喧嘩とは少し違う事。

「なるほどな……」

「大体予想はついたな」

「え? 二人は分かったの?」

 土井の説明で、高志と優一は赤西の現在置かれている状況が何となく分かり、同時に他人が口を出して良いことでは無いことを理解した。

「まぁ、放っておけ」

「なるようになるだろ」

「そうかな? それより、泉はどうした? さっきから姿が見えないけど」

「あぁ、女子から呼び出しだと」

「泉はモテるからな」

 なんて事を話していると、突然赤西が立ち上がった。

「ちょ、ちょっとコンビニ行ってくる」

「ん、ついでに俺コーラ」

「じゃあ、俺はお茶」

「俺はソーダ」

「アイスティー頼む」

「あ、あぁ……わかった」

 赤西はそう言うと、部屋を出て行った。
 
「こりゃあ、遅くなるな」

「そうだな」

「?」

「ちきしょぉぉぉぉぉ!!」

 一人だけ状況の分からない土井を除き、他の三人は赤西の状況を理解していたため、赤西が戻ってくるのが遅くなるだろうと予想する。
 繁村は一人、涙目になりながら叫んでいた。





 赤西は部屋を出て、スマホを片手に旅館の入り口前に立っていた。
 
「お、お待たせ……」

「お、おう」

 少しして朋華が羽織を着てやってきた。
 髪を後ろで束ね、風呂上がりなのか、シャンプーの良い香りが赤西の鼻にも届いた。

「い、行くか」

「そ、そうね……」

 互いに顔はもう真っ赤だった。
 二人は互いに無言で、昨日向かったコンビニに向かう。

「……」

「……」

 沈黙の中、二人はお互いにちらちらと相手の顔を見ていた。

(はぁ……ついに来ちまったなぁ……西城の奴、俺のことどう思ってんだ? てか……こいつってこんな可愛かったか?)

(な、なななんで私が健輔ごときドキドキしてるのよ!! そ、そりゃあ、助けてくれてう、うれしかったけど!!)

 赤西と朋華はそんな事を考えながら、黙ってコンビニまでの道を歩く。
 二人はそのままコンビニに到着してしまい、互いに買い物を済まる。

「も、戻るか」

「そ、そうね」

 肝心な話しが出来ないまま、二人は旅館に帰る道を歩き始めた。

(は、早く言わなきゃ! 覚悟を決めたでしょ私!!)

(は、早く言えよ!! おまえが夜って言ったんだろ! この息苦しい雰囲気をなんとかしてくれ!!)

「け、健輔!」

「お、おう……な、なんだ?」

 ついに覚悟を決め、朋華は赤西の方を見る。

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