ロリドワーフ・ハイドワーク〜TS転生して地世界生活〜
第7話「揺れる」
熔鉱炉に巣食っている邪鬼アルマロスは想像以上の化け物だった。アレを現状の戦力のみで攻略するのはどう考えても無理がある。
転生者であるからと言ってボクに特別な能力があるわけじゃない。先輩転生者のエドワードは『女の子だから魔法の才能があるんじゃない?』とか言ってた気がするけど、そもそも魔法を使うための依代が無い。前世で普通の男子高校生のボクに何かしらの知識チートがあるわけでもないし。本当に役立たずだよこれ。
「救世主様、難しい顔をして……考え事ですか?」
「うん、まあね」
仲良く一緒に温泉に入っていたマレラが話しかけてきた。熔鉱炉から帰り着く頃には既に辺りは暗くなりかけていた。吐くわけにはいかなかったので朝から何も食べてなかったボクは、無我夢中で芋料理を食べた。そして汗を流すために温泉にマレラと入っているのだった。ちなみにナーサ達は今日はおらず2人きりだ。
「邪鬼のアルマロス見てきたけど、スゴイね。マレラ達のご先祖様達でも敵わなかったのも納得だよ」
「私は直接見たこと無いですけど、みんなから教えられた限り恐ろしい化け物だと聞いています。救世主様はいい案浮かびましたか?」
「さっぱりだよ。ごめんね、だらしない救世主で」
「まだ救世主様がやってきて4日ですからね。私も手伝いますから出来るところから解決していきましょう」
あぁ、マレラ優しい。
ふと、夜空を見上げる。もちろん星空などそこには無い。松明でうっすらと照らされている光点1つすらない岩の天井が広がっている。
「そう言えば……」
言おうか言わまいか逡巡したが、結局ゆっくりと口を開く。
「マレラってナーサやみんなの前ではボクのことをヒカルちゃんって呼ぶよね」
「救世主様と呼ぶわけには行けませんからね」
息を吐くようにゆっくりとマレラは答えた。ギレンに言われているようにマレラ達以外には可能な限り救世主である事は隠している。
「マレラと初めてあった時に救世主様って呼ばれるの恥ずかしいからやめてって言ったよね。ゴドルはヒカル殿って呼んでくれてるけどマレラはまだ救世主様って」
「…………気分を害してしまったのなら謝ります」
「いや、別に怒ってるわけじゃないよ。でもどうせナーサ達の前ではちゃん付けで呼んでくれるなら、2人きりの時もそう呼んでくれてもいいんじゃない?」
正直言って救世主様って何か他人行儀というか、1つの壁を感じる。別にボクは崇められたいわけでも、特別扱いされたいわけでもない。
「……それは命令ですか救世主様?」
「お願いかな。友達として」
「とも……だち……ですか……」
困ったようにマレラは顔を半分お湯に埋める。ぶくぶくと口から泡が出ている。
まだ出会って4日で友達宣言は早かったかな。ボク的には結構仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ。
「……分かりました、ヒカルちゃん」
恐る恐るそう呼んでくれた。恥ずかしいからなのか目を合わせてはくれない。その頬をほんのりと染まっていた。
「ああっ! ヒカルちゃんにマレラ様! 今日は先に入ってたんだね!」
脱衣所からナーサがピョンピョンと飛び跳ねながらやってきた。ナーサと仲の良い2人も一緒だ。
「ナーサちゃん、こんばんは。今日遅かったね、なんかあったの?」
いつもボクらよりも早くこの温泉に来て仲良くおしゃべりに興じている3人だったが、今日は何故かいつもより遅かった。
「今日はオババ様の所に習い事に行ってたからね。あっ、オババ様ってのはこの村で1番のお年寄りで噂では120歳以上なんだよ」
「習い事って何をしていたの?」
「今日は鍛治道だよ、鍛治は女の子の嗜みだからね」
鍛治って金属叩いて剣を作ったりするあの鍛治だよね。前世では男の職人仕事なイメージなんだけどここでは違うのか。
戦車道的な。
「あのねヒカルちゃん。元々鍛治は魔鋼石を鍛錬する事なの。魔鋼石は魔力を注ぎながら鍛錬する事で『依代』としての能力を持つことになるの。つまり、鍛治は私達女の仕事だったわけ」
マレラが補足してくれた。
なるほど。ドワーフは女性のみ魔力を持つという性質上、鍛治が出来るのは女性だけなのか。
「まぁ、魔鋼石を加工できる熔鉱炉が今は使えないから今の鍛治道は鉄とかを基本的には使っているよ。もちろん魔力を込める作業もないから一応男でもできるけどやりたがる人はいないけどね。そうだ、ヒカルちゃんも一緒に今度やろうよ。楽しいよ」
「うーん、そうだね。やってみようかな」
「決定!」
嬉しそうに破顔するナーサ。
熔鉱炉を取り返すいいアイデアが浮かぶまではどうせやる事ないしね。
「ふふふっ、10年習い続けているプロの腕前を見せてあげるよ」
「ナーサは子供の頃からやってるんだね」
「そだよ!! 私は天才だからね」
ナーサはぺったんこな胸を張ってはっはっは、と高笑いする。見た目が幼女なので、親に自慢する子供にしか見えないけど。
「そう言えばマレラも鍛治やったことあるの?」
「――っ!! え、えーと……」
マレラが目をキョロキョロとさせてわかりやすく動揺を露わにする。
「マレラ様はド下手クソだよ。巫女様の家系なのでしょうがない所もありますけど、それにしても下手クソすぎてオババ様から出禁にされました」
ナーサに包み隠さず言われてマレラが「ふにゅ〜」と変な声を出した。
「どうせ私はド下手ですよーだ。私は巫女だから鍛治できなくてもいいもん」
「巫女だったら出来なくていいの?」
「巫女の家系は生まれつき魔力が高いのです。でも魔力が高いという事は魔力の微妙な調整が苦手ってことでもあるんだよ。マレラ様の場合はそんな事よりも単にブキッチョなだけですけど」
「もー、全部言わないでよ! 気にしてるんだから!」
プクーッと頬を膨らませるマレラ。
そうか、マレラ無器用なのか。見た目が可愛いだけにそのギャップが微笑ましく感じてくる。金槌で指を叩いたりするのだろうか。
「はははっ……」
「ああっ!! ヒカルちゃん笑わないでくださいよ!」
「ごめんごめん。……出禁って事はマレラは一緒にできないのか」
今日も一日マレラとは一緒に行動できなかったので、少し寂しい。
「いえいえ。さすがにマレラ様に鍛治はさせられませんけど一緒に来るくらいならオババ様も許してくれると思いますよ。……と言うかオババ様は最近物忘れがひどいのでマレラ様を出禁にしてる事忘れてると思いますよ」
「そうなのか。じゃあマレラも一緒に行こう。今日はマレラと一緒に居れなかったからね」
「あらあら〜、マレラ様は随分ヒカルちゃんに好かれていますね」
ナーサがツンツンと指で突いてくる。
確かにマレラの事は好きだよ。同性の仲の良い友達として………………あぁ、また同性って思ってしまった。身体に心が引っ張られているのか。もう男に戻る事は無いのだろうからこのままでいいのかもしれない。
「――――――」
「あれ、マレラ。どうしたの、固まって?」
「……いえ……そのなんでもありません」
「……?」
今日はマレラの意外な一面がよく知れる日だなぁ。不器用な所とか、恥ずかしげな表情をする所とか。いつもの大人びて丁寧な接し方をしてくるマレラも良いけど、こっちの少し子供っぽい表情が垣間見れるのは新鮮で楽しい。
■■■
「よーし、準備完了!」
夜の帳はすっかり落ち、マレラやゴドルももう寝た頃にボクは動き出した。
とは言っても寝室から出るわけでは無い。
「マレラから魔力を注いでもらったし、行けると思うんだけど……」
ボクの手には『叡智の王冠』……つまりあのティアラが握られている。初代指導者であるエドワード先輩とはあの宝物庫以来会ってない。そろそろ一度会ってみたいと思っていたところだ。
あの空間に行くと気絶するのは以前に経験済みなので、今回は夜にこっそりと行く事でマレラ達には迷惑をかけない。
ベッドに寝そべり負担のかからないポジショニングを作る。
「ではでは――いっきまーす」
ティアラをつけた瞬間、ボクの意識は闇に飲み込まれた。
以前と同じように睡魔に飲み込まれるように落ちて行く。水底に飲み込まれる。ズーンとした圧迫感を感じ、沈んで行く。
そして気づいた時には、あの真っ白な空間にボクはいた。
「よぉ、後輩。思ったより早かったな」
「先輩に少し相談したい事があってね」
「はははっ、いいぜ。同じ故郷を持つもの同士気軽に話してこい」
エドワードはパチンと指を鳴らす。すると、何もなかった場所に白い机と2つの椅子が現れた。海水浴場とかにありそうなプラスチック製のしょぼい奴。
「ここは精神世界だからな。このくらい訳無いさ」
「なんでプラスチック製?」
「こっちの世界にはプラスチックが無いだろ? 懐かしくて咽び泣くだろ?」
「いや別に……」
先輩の向かい側の椅子に座る。ペコっと曲がる感じが如何にもプラスチック製らしい。
「ようこそジプシー。姫様、今宵はなんの相談だ?」
「…………」
「わかったわかった普通にするから。そんな苦虫を潰したような顔で見るなって」
本当にこいつは初代指導者なのか疑問に思ってくる。こんな適当な人間にドワーフ達が救われたかと思うと。
「それで、何の用だ後輩」
「実は……」
エドワードに今日の熔鉱炉の件について話した。特にあの化け物アルマロスをどうにかする方法はないか、と。
「……アルマロス……か。一応お前の中の記憶をのぞかせてもらった」
「はっ? 先輩なに勝手に……」
「精神世界だからなんでもありだぜ後輩。まぁ、動画では無く写真見たいな静止画でしか見れないんだがな。……これを見る限りアルマロスと呼ばれる邪鬼はオレがトカゲ型と名付けたやつだな」
「確かにボクもコモドオオトカゲみたいだなぁとは思った」
「ドワーフの住む洞窟内に侵入して来れるからそんなに大型では無いとは思っていたが、その通りだったな」
なるほど、大型では無いのか…………ん?
「ちょっとまって。あれより大型が外にはいるのか?」
「あぁ。トカゲ型は中型だな。オレのいた頃なら中型1匹程度に手こずる事はなかったが…………」
「えっ、でも100年前はアルマロス1匹に大苦戦して結局討伐は出来なかったんだよ」
「今から100年前って事は、オレが死んでから800年くらいだろ。それまでずっとあの穴倉に引きこもってたんなら平和ボケもするさ」
マジか。1000年前のドワーフってどんだけ強かったんだよ。そしてそのドワーフを地下世界まで追い払った邪鬼……。もう嫌になりそう。
「まぁ、後輩。アルマロス討伐は簡単だぜ。オレがお前に特別な『依代』の作り方を教えてやる。この900年の間に失われたであろう『依代』の上位存在だ」
「それはすごそう。……っで、今熔鉱炉はアルマロスが居るけど、熔鉱炉無くて作れるの?」
――。
――――。
――――――。
「………………さて、寝るか」
「おいっ!!」
結局、先輩は役に立ちそうになかった。
転生者であるからと言ってボクに特別な能力があるわけじゃない。先輩転生者のエドワードは『女の子だから魔法の才能があるんじゃない?』とか言ってた気がするけど、そもそも魔法を使うための依代が無い。前世で普通の男子高校生のボクに何かしらの知識チートがあるわけでもないし。本当に役立たずだよこれ。
「救世主様、難しい顔をして……考え事ですか?」
「うん、まあね」
仲良く一緒に温泉に入っていたマレラが話しかけてきた。熔鉱炉から帰り着く頃には既に辺りは暗くなりかけていた。吐くわけにはいかなかったので朝から何も食べてなかったボクは、無我夢中で芋料理を食べた。そして汗を流すために温泉にマレラと入っているのだった。ちなみにナーサ達は今日はおらず2人きりだ。
「邪鬼のアルマロス見てきたけど、スゴイね。マレラ達のご先祖様達でも敵わなかったのも納得だよ」
「私は直接見たこと無いですけど、みんなから教えられた限り恐ろしい化け物だと聞いています。救世主様はいい案浮かびましたか?」
「さっぱりだよ。ごめんね、だらしない救世主で」
「まだ救世主様がやってきて4日ですからね。私も手伝いますから出来るところから解決していきましょう」
あぁ、マレラ優しい。
ふと、夜空を見上げる。もちろん星空などそこには無い。松明でうっすらと照らされている光点1つすらない岩の天井が広がっている。
「そう言えば……」
言おうか言わまいか逡巡したが、結局ゆっくりと口を開く。
「マレラってナーサやみんなの前ではボクのことをヒカルちゃんって呼ぶよね」
「救世主様と呼ぶわけには行けませんからね」
息を吐くようにゆっくりとマレラは答えた。ギレンに言われているようにマレラ達以外には可能な限り救世主である事は隠している。
「マレラと初めてあった時に救世主様って呼ばれるの恥ずかしいからやめてって言ったよね。ゴドルはヒカル殿って呼んでくれてるけどマレラはまだ救世主様って」
「…………気分を害してしまったのなら謝ります」
「いや、別に怒ってるわけじゃないよ。でもどうせナーサ達の前ではちゃん付けで呼んでくれるなら、2人きりの時もそう呼んでくれてもいいんじゃない?」
正直言って救世主様って何か他人行儀というか、1つの壁を感じる。別にボクは崇められたいわけでも、特別扱いされたいわけでもない。
「……それは命令ですか救世主様?」
「お願いかな。友達として」
「とも……だち……ですか……」
困ったようにマレラは顔を半分お湯に埋める。ぶくぶくと口から泡が出ている。
まだ出会って4日で友達宣言は早かったかな。ボク的には結構仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ。
「……分かりました、ヒカルちゃん」
恐る恐るそう呼んでくれた。恥ずかしいからなのか目を合わせてはくれない。その頬をほんのりと染まっていた。
「ああっ! ヒカルちゃんにマレラ様! 今日は先に入ってたんだね!」
脱衣所からナーサがピョンピョンと飛び跳ねながらやってきた。ナーサと仲の良い2人も一緒だ。
「ナーサちゃん、こんばんは。今日遅かったね、なんかあったの?」
いつもボクらよりも早くこの温泉に来て仲良くおしゃべりに興じている3人だったが、今日は何故かいつもより遅かった。
「今日はオババ様の所に習い事に行ってたからね。あっ、オババ様ってのはこの村で1番のお年寄りで噂では120歳以上なんだよ」
「習い事って何をしていたの?」
「今日は鍛治道だよ、鍛治は女の子の嗜みだからね」
鍛治って金属叩いて剣を作ったりするあの鍛治だよね。前世では男の職人仕事なイメージなんだけどここでは違うのか。
戦車道的な。
「あのねヒカルちゃん。元々鍛治は魔鋼石を鍛錬する事なの。魔鋼石は魔力を注ぎながら鍛錬する事で『依代』としての能力を持つことになるの。つまり、鍛治は私達女の仕事だったわけ」
マレラが補足してくれた。
なるほど。ドワーフは女性のみ魔力を持つという性質上、鍛治が出来るのは女性だけなのか。
「まぁ、魔鋼石を加工できる熔鉱炉が今は使えないから今の鍛治道は鉄とかを基本的には使っているよ。もちろん魔力を込める作業もないから一応男でもできるけどやりたがる人はいないけどね。そうだ、ヒカルちゃんも一緒に今度やろうよ。楽しいよ」
「うーん、そうだね。やってみようかな」
「決定!」
嬉しそうに破顔するナーサ。
熔鉱炉を取り返すいいアイデアが浮かぶまではどうせやる事ないしね。
「ふふふっ、10年習い続けているプロの腕前を見せてあげるよ」
「ナーサは子供の頃からやってるんだね」
「そだよ!! 私は天才だからね」
ナーサはぺったんこな胸を張ってはっはっは、と高笑いする。見た目が幼女なので、親に自慢する子供にしか見えないけど。
「そう言えばマレラも鍛治やったことあるの?」
「――っ!! え、えーと……」
マレラが目をキョロキョロとさせてわかりやすく動揺を露わにする。
「マレラ様はド下手クソだよ。巫女様の家系なのでしょうがない所もありますけど、それにしても下手クソすぎてオババ様から出禁にされました」
ナーサに包み隠さず言われてマレラが「ふにゅ〜」と変な声を出した。
「どうせ私はド下手ですよーだ。私は巫女だから鍛治できなくてもいいもん」
「巫女だったら出来なくていいの?」
「巫女の家系は生まれつき魔力が高いのです。でも魔力が高いという事は魔力の微妙な調整が苦手ってことでもあるんだよ。マレラ様の場合はそんな事よりも単にブキッチョなだけですけど」
「もー、全部言わないでよ! 気にしてるんだから!」
プクーッと頬を膨らませるマレラ。
そうか、マレラ無器用なのか。見た目が可愛いだけにそのギャップが微笑ましく感じてくる。金槌で指を叩いたりするのだろうか。
「はははっ……」
「ああっ!! ヒカルちゃん笑わないでくださいよ!」
「ごめんごめん。……出禁って事はマレラは一緒にできないのか」
今日も一日マレラとは一緒に行動できなかったので、少し寂しい。
「いえいえ。さすがにマレラ様に鍛治はさせられませんけど一緒に来るくらいならオババ様も許してくれると思いますよ。……と言うかオババ様は最近物忘れがひどいのでマレラ様を出禁にしてる事忘れてると思いますよ」
「そうなのか。じゃあマレラも一緒に行こう。今日はマレラと一緒に居れなかったからね」
「あらあら〜、マレラ様は随分ヒカルちゃんに好かれていますね」
ナーサがツンツンと指で突いてくる。
確かにマレラの事は好きだよ。同性の仲の良い友達として………………あぁ、また同性って思ってしまった。身体に心が引っ張られているのか。もう男に戻る事は無いのだろうからこのままでいいのかもしれない。
「――――――」
「あれ、マレラ。どうしたの、固まって?」
「……いえ……そのなんでもありません」
「……?」
今日はマレラの意外な一面がよく知れる日だなぁ。不器用な所とか、恥ずかしげな表情をする所とか。いつもの大人びて丁寧な接し方をしてくるマレラも良いけど、こっちの少し子供っぽい表情が垣間見れるのは新鮮で楽しい。
■■■
「よーし、準備完了!」
夜の帳はすっかり落ち、マレラやゴドルももう寝た頃にボクは動き出した。
とは言っても寝室から出るわけでは無い。
「マレラから魔力を注いでもらったし、行けると思うんだけど……」
ボクの手には『叡智の王冠』……つまりあのティアラが握られている。初代指導者であるエドワード先輩とはあの宝物庫以来会ってない。そろそろ一度会ってみたいと思っていたところだ。
あの空間に行くと気絶するのは以前に経験済みなので、今回は夜にこっそりと行く事でマレラ達には迷惑をかけない。
ベッドに寝そべり負担のかからないポジショニングを作る。
「ではでは――いっきまーす」
ティアラをつけた瞬間、ボクの意識は闇に飲み込まれた。
以前と同じように睡魔に飲み込まれるように落ちて行く。水底に飲み込まれる。ズーンとした圧迫感を感じ、沈んで行く。
そして気づいた時には、あの真っ白な空間にボクはいた。
「よぉ、後輩。思ったより早かったな」
「先輩に少し相談したい事があってね」
「はははっ、いいぜ。同じ故郷を持つもの同士気軽に話してこい」
エドワードはパチンと指を鳴らす。すると、何もなかった場所に白い机と2つの椅子が現れた。海水浴場とかにありそうなプラスチック製のしょぼい奴。
「ここは精神世界だからな。このくらい訳無いさ」
「なんでプラスチック製?」
「こっちの世界にはプラスチックが無いだろ? 懐かしくて咽び泣くだろ?」
「いや別に……」
先輩の向かい側の椅子に座る。ペコっと曲がる感じが如何にもプラスチック製らしい。
「ようこそジプシー。姫様、今宵はなんの相談だ?」
「…………」
「わかったわかった普通にするから。そんな苦虫を潰したような顔で見るなって」
本当にこいつは初代指導者なのか疑問に思ってくる。こんな適当な人間にドワーフ達が救われたかと思うと。
「それで、何の用だ後輩」
「実は……」
エドワードに今日の熔鉱炉の件について話した。特にあの化け物アルマロスをどうにかする方法はないか、と。
「……アルマロス……か。一応お前の中の記憶をのぞかせてもらった」
「はっ? 先輩なに勝手に……」
「精神世界だからなんでもありだぜ後輩。まぁ、動画では無く写真見たいな静止画でしか見れないんだがな。……これを見る限りアルマロスと呼ばれる邪鬼はオレがトカゲ型と名付けたやつだな」
「確かにボクもコモドオオトカゲみたいだなぁとは思った」
「ドワーフの住む洞窟内に侵入して来れるからそんなに大型では無いとは思っていたが、その通りだったな」
なるほど、大型では無いのか…………ん?
「ちょっとまって。あれより大型が外にはいるのか?」
「あぁ。トカゲ型は中型だな。オレのいた頃なら中型1匹程度に手こずる事はなかったが…………」
「えっ、でも100年前はアルマロス1匹に大苦戦して結局討伐は出来なかったんだよ」
「今から100年前って事は、オレが死んでから800年くらいだろ。それまでずっとあの穴倉に引きこもってたんなら平和ボケもするさ」
マジか。1000年前のドワーフってどんだけ強かったんだよ。そしてそのドワーフを地下世界まで追い払った邪鬼……。もう嫌になりそう。
「まぁ、後輩。アルマロス討伐は簡単だぜ。オレがお前に特別な『依代』の作り方を教えてやる。この900年の間に失われたであろう『依代』の上位存在だ」
「それはすごそう。……っで、今熔鉱炉はアルマロスが居るけど、熔鉱炉無くて作れるの?」
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――――――。
「………………さて、寝るか」
「おいっ!!」
結局、先輩は役に立ちそうになかった。
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