無冠の棋士、幼女に転生する
第4話「小学生将棋王将大会」
「桜花これ着てこれ」
「……フリフリやだ」
「えー、可愛いのに」
私達が小学校に入学して1ヶ月。
学校にも慣れ始め幼稚園からの友達の他にも少しずつ新しい友達もでき始めた。
残念ながら桜花とクラスは別れてしまい、イチャイチャできるのは放課後だけになってしまった。悲しい。
私達が住む街では毎年『全国小学生将棋王将大会』という将棋大会の予選が行われている。
全国都道府県で予選が開催され、その予選を勝ち抜いた1人または2人(地域によって違う)が全国大会に集まり小学生の頂点を狙って戦い合うのだ。
一年生から三年生までが出場する低学年の部、四年生から六年生までが出場できる高学年の部があり、一年生である私と桜花は前者の低学年の部に出場する予定だ。
と言うことで、その大会の朝、私達がしているのは――オシャレだ!
何せ、初めての大会であり私の妹の初舞台。誰よりも輝かせて見せるんだから!
「桜花はやっぱり黒いゴスロリ系が似合うと思うんだけどなぁ。あっ、こっちのピンクの服も着てみて」
この日のために用意したオシャレンティーな服を取っ替え引っ替えして桜花に着せていく。桜花は可愛いからなんでも似合うから悩ましい。
「おねぇはその服で行くの?」
桜花に指摘されて自分の格好を見る。
謎の英語がプリントされただけのTシャツに、動きやすいズボン。オシャレのオの字も無い機動性特化の服装だ。
「私はいーの。オシャレなんてめんどくさいし」
前世はオシャレなんて気にしなかった中年おっさん。自分が着飾るよりも可愛い妹を可愛く仕立てる方が何倍も楽しい。
「むぅ〜、おねぇも可愛いのに」
「はははっ、褒めても何も出ないよマイシスター。……腕にシルバー巻いてみる?」
「いやー」
つい某エジプトのカード王みたいなにシルバーを勧めてしまった。首から千年アイテム吊そうか……。
会場には車で30分くらいで到着するので、受付開始の40分くらい前には家を出るつもりだった。10分前行動大切大切。
「さくら、桜花、いつまで着替えているの! 遅刻するわよ!」
母に言われて時計を見る。いつのまにか想定の時間より5分は遅れていた。
「やばやば。服はそれでいいや、超可愛い。あとはこの帽子、はい!」
目に付いたキャスケット帽を桜花に被せる。
むむむ、自分の才能が恐ろしいぜ。
何この天使。マイシスターエンジェル桜花たん。
小学生しか着れないようなピンクと白を基調とした可愛らしい幼女服に、フリフリとした水玉のスカート。大きめのキャスケット帽が小さな桜花の顔を際だたせている。超可愛い。
「さっ、桜花行こう!」
■■■
私たち姉妹は将棋大会に出場するために、予選会場まで来ていた。
私の住む県は都心部から少し離れている。
だからそこまで参加者はいないと思っていた。……思っていたんだけど。わ
「おねぇ、めっちゃ人多いよ」
「ほんとだねー。せっかくのゴールデンウィークだからネズミーランドとか行けばいいのにね」
「それブーメランだよ、おねぇ」
予想に反して会場は大盛況だった。
ゴールデンウィークだと言うのにそこら中に家族連れがいる。
流石は日本で一番規模の大きい小学生の将棋大会の予選だ。
本戦で優勝した人の中には後々にプロになった人もいるくらいだ。
「まぁ、将棋ブームだからね」
「中学生でプロになったあの人さまさまだよね〜。参加人数も去年より五割くらい増えてるんだってさー」
去年話題になった中学生プロ棋士。
マスコミに大きく取り上げられたおかげで普段将棋に興味のない層にもその名前は知られるところになった。
そのおかげで子供に将棋を習わせる親も増加し、将棋は一つのブームとなったのだ。
「おねぇ、トーナメント表発表されたみたいだから見に行こー」
桜花に手を引かれて会場に入る。
会場には長机がズラズラと並べられていて、それぞれに何個か将棋盤が置かれている。
壁に貼られているトーナメント表の前には人だかりが出来ていた。
私たちは小さな身体を駆使して、
「トーナメント、トーナメントっと……」
「桜花、この大会の予選はトーナメントじゃないよ。二勝通過二敗失格で通過した人が決勝トーナメントに進めるの」
「???」
つまり予選は一度負けてもまだチャンスがあるということだ。
三回対戦して二勝以上で決勝に進出する事ができる。
このルールなら最初に超強い人と当たって負けたとしても、まだチャンスがあるのだ。
「ふふふっ、おねぇ、決勝で会おうね」
自信満々に桜花は親指を立てる。
ちゃんと大会のルールを理解してくれたのか心配だ。
たぶん分かってないだろうけど、小学生大会だし会場の人が親切に教えてくれるでしょう。
という事で、私は桜花と離れて最初の対局席に座る。
一分ほど待っていると、対面の席に男の子が座った。この子が最初の対戦相手かな。
男の子は私を見ると、目を大きく開けて驚いたような顔をした。
「えーっと、こんにちわ。一年生?」
「うん、そうだよ。よろしくお願いします」
「あっ、うん。よろしくお願いします」
私が一年生で女の子だから驚いたのかな。たしかに女の子は珍しいけど、周りを見渡すと私たち以外にも何人かいるし、そこまで珍しいものじゃないと思うけどな。
「さくらちゃんは将棋始めてどのくらい?」
二人で駒を並べていると、少年が話しかけてきた。おっ、敵情視察かな。
「二年くらいだよ。幼稚園生の頃からやってるからね」
「マジ!? オレは小学生になってから始めて、今三年生だから将棋歴は二年と少しかな」
「えへへ、お手柔らかにお願いします、先輩」
負ける気は無いけどね!
桜花との約束もあるしとりあえず決勝トーナメントまでは進まないとね。
『では、時間になったので始めてください』
そんな声と共に一斉に将棋を指し始めた。
ちなみに今回の大会は予選決勝のどちらも持ち時間20分で使い切ると一手30秒で指さなければならないルールだ。
時計にはチェスクロックと呼ばれる便利な道具があって、正確に時間を測ってくれる。
ネット将棋では持ち時間10分で打つこともよくあるので、今回のルールはある程度は余裕を持って打つ事ができる。
それでもプロのタイトル戦のような待ち時間8時間とかと比べると、どうしても早指しとしての力は問われるだろう。
特に持ち時間を切らしたら、以降の手は全て三十秒以内に指し続けなければならない。三十秒で最善手を指し続けるなどプロでも不可能だ。だから早指しで大事なのは良い手打つことより悪手を打たないことだ。
「さくらちゃん、うたないの?」
対局が始まって先手の少年が角道を開け、それから一分くらい後手の私が一手も指さずにいたら心配して話しかけてきた。
「ごめんなさい。ちょっと緊張しちゃって」
「オレも去年初めて出た時はめちゃくちゃ緊張したよ。そんな時は深呼吸すると良いよ」
「ふふふっ、ありがとうございます。でも、もう大丈夫ッ!」
ホントは緊張してたわけじゃなくて考え事してただけなんだけどね。
でも貴重な思考時間を削ってしまったのは反省反省。
将棋の戦法は『最強の攻め駒』である飛車の使い方によって大きく分けて二種類に分類されます。
飛車が初期配置に『居る』まま縦に攻めていく戦法を『居飛車』。
そして飛車を初期配置から大きく左に『振る』戦法を『振り飛車』。
お互いノータイムで何手か進めた後に少年は飛車を王の前まで振ってきた。
振り飛車の一つである『中飛車』だ。
飛車を中央に配置することで、相手の王の顔面を狙いやすく攻撃的な戦法だ。
(先手だから『ゴキゲン中飛車』では無いよね。『先手中飛車』は藤井システムに代わって、振り飛車側が主導権を握れる戦法と言われていた時代もあるが……)
「うぅ……」
私は相手の攻めを全て受け止め続け、スキを見て王を穴熊に引きこもらせて守りを固める。
振り飛車相手に穴熊まで囲めば一つの作戦勝ちと言われるほどに、穴熊は硬い。
私の持ち時間はまだ3分残して居るのに対して、少年は既に30秒将棋になっている。
後はゆっくり攻めていけば……。
「負けました」
勝ち目がないことを悟って少年は負けを認めた。
初戦に勝利した私はその後の2戦も特に苦戦することなく勝利していく。
うーん、もうちょっと歯ごたえのある対局ができるかと思っていただけに拍子抜けだ。
大きな大会とは言え、参加資格は年齢だけだし誰でも出れるようなものだから実力もピンキリってことかなぁ。
この後無事に桜花も全勝で決勝トーナメントに進出が決定した。
流石は私の妹!
強い可愛い桜花ちゃん!
それからお昼休みを挟み、午後。
決勝トーナメント表が発表され、それを確認した。
「うーん、桜花とは決勝まで進まないと当たらないみたいだね。ラッキーなんだか、アンラッキーなんだか」
上位2人が全国大会に進出できる。
できれば桜花と2人で全国に行きたいなぁ。
「ええと、私の一回戦の相手は…………!?」
決勝トーナメント一回戦。
私の横に記された名前に見覚えがあった。
神無月ルナ。
二年前に出会ったあの少女の名前だった。
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