メイドの重み思いみが『痛み』で『嬉しみ』過ぎる

tomimato404

哀しむの、ひとりで起きた、誘いみ、方。


「記憶の混乱は見られませんが、少々思い込みが激しいようです」
「例えば、この天蓋のベットなど、本人は至って真面目に目にしているつもりのようです」
「私達には、想像もできない世界が、本人には見えて居るのです」
「ご家族の方には、理解に苦しむ事と思われますが、意識をしっかり持って、この……お孫さん?」

 一人、使い古された展開をどうにか回避しようと、夢遊病患者の対応風につぶやき続けた。
 しかし、目に入った手の小ささに疑問で遮られた。

「こんな手、誰の手? 私の手?」
「あぁ、もう……会社行かなくて……良いんだ」

 ブラック認定してくれた姉も、ただ頷いた父も、養う宣言した母も居ないが。
 身分証も、免許書も、すべての権利書を持ち出せず。
 薄い本も、缶バッチも、円盤も隠す暇すら無かった。

 ただ、沢山折られ燃やされた、刀の記憶だけは持っていた。
 
 思い起こされる、彼らの無念が史実と相まって、一筋溢れた。

「だから、ここは何処なのよ!!!!」

 身を起こした叫びで覚醒する。気の触れた幼児に声をかける者は無く。静まり返る寒さだけが迎えてくれた。二度目の人生を終えんが為に────。
 
「また、発狂してるのか、お前の相手にはぴったりだなっ。返事は?!」
「……まあ、いい。ほら入れ、今日からここが、お前の担当だ。朝から晩まであのおかしくなった奴の相手をしておけよ! 何ならここに住み着いても構わん。あれが死んでなければそれで良いんだよ」
「……こいつも分かっているやら……これは早いうちに替わりが要るな」

 何処からか聞こえたボヤキは、開く音で大きくなり、閉まる音で小さくなり、遠ざかる足音で、そして途切れた。
 身を震わせながら、目を凝らす。
 音の先にドアがあり、置き去りにされた少女だけが佇んでいた。

「貴女、寒くないの? こっちにいらっしゃい」

 親戚の子供受けした優しげな対応で本心を隠し、『できる大人』に憧れを抱いてしまう程度に気さくに話しかけた。しかし、反応はない。

「おかしいわ、いつもは天使の笑顔で、袖の下を通さばなついてくれたのに……時間制で」

 ぽんぽんと、半身を起こした私は、隣を広げた手のひらで叩いた。

 その瞳に希望は無く、虚ろなメイド(仮)はドアの前で立っていた。悲しみでも無く、苦しみでも無く、ただ抜け落ちたハイライトの瞳で、見ていないことだけは分かった。

 持たされたメイド服は、綺麗に折り畳まれていた。
 しかし、服以外は汚れていた。何処から連れて来られたのか、痛んだ髪をただまとめ、荒れた肌が全体に目立ったまま、身を隠す何かに包まれるのみだった。

「勿体ない」

 ベットから駆け寄り、手を引いて、椅子の背に手を置かせ、メイド服を受け取り、

 ────脱がせた。

「くぇっ? どぅやって着てるのよ!?」

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