downpour

ノベルバユーザー279823

土砂降りー序ー

誰もが日常が日常である事を非日常だと思わない。
当たり前を当たり前と思う事が一番不幸とも知らずに。

9月10日
この日、記録的な大雨が街を襲った。
「雨すごいねぇ…」
そう言って隣で歩くのは幼馴染の佐竹立夏(さたけりつか)
その顔立ちはアイドルと言うよりは女優と比喩した方がしっくりくる美人で真面目な優等生。
誰にでも優しく思いやりがある女の子。
ベタな設定なのだが正真正銘の幼馴染だ。
そしてモテる、とてもモテる。
僕経由で告白をする奴らもちらほらといる。
なのにどうしてか、彼氏も作らずこうして僕と隣で登校してくれる。世話焼きの幼馴染だ。
ちなみにこれもベタだが家も隣で、部屋も二階の向かい合わせなのだ。
架空の読者に解説をしていると立夏が濡れた髪をハンカチで拭きながら言う。
「傘持ってきて正解だったねぇ…。」
すかさず僕も返事をする。
「こんなに降るとは予想外だったな。ツイてない。」
雨に濡れた立夏のブラウスをチラ見しながら適当に返事をしていた。
家を出るまでは曇っていたが、急な土砂降りだった。
その視線がバレたのか
「もー、京は本当にえっちだねぇ…」
おっと、そう言えば申し遅れたが、僕の名前は五条京(ごじょうけい)フツメンにしてthe・平凡を形にした男だ。
なんて自己紹介を誰にするやも気付かず立夏は
呆れ半分照れ半分といったところか顔を赤くしてこっちをジト目で蔑視している。
「まて、決して見てない、僕はえっちでは無い。」
焦って弁解する。
「決してピンクなブラ線は見ていない!雨で張り付いたブラウスから見える肩も奥ゆかしいエロス!なんて思っていない!」
立夏は顔をリンゴの様に赤くし腕で体を抱くように守った
「見てるじゃん!京のあほ!」
すかさず
「幼馴染の体に欲情するほど僕は飢えていない!」
------
ブチっ!!
何か聴こえた、実際聴こえてはいないが確かに感じた。
まるで糸を無理に引っ張った様な、繊維が悲鳴をあげ千切れる様な音を。
「もう知らない!京なんか死んじゃえ!お葬式とお通夜には出てあげるけど!もう知らない!」
そう言い残すと早足で歩き出した。
「葬式はともかく通夜も出てくれるんだ…」
僕は何が悪かったかさっぱりわからない。
ベタの連発な人生だが流石に可愛い幼馴染が僕の事を好きなわけがないだろう。
淡い期待をぶち壊し立夏の後を早足で追う。

    やっと追いつき隣で平謝りしていると立夏が何かに気がつく。
「あ、猫…捨てられちゃったんだね…。」
道の端に置かれたボロボロの段ボール
その中には無垢な瞳をこっちに向ける子猫が2匹弱々しく鳴いていた。
「こんなベタなシュチュエーションあるかよ。」
雨の日に捨て猫、段ボール、何かの小説か漫画の世界か。
「京ぃ〜、このままにしておくのは可哀想だよぉ…」
こっちは捨てられた子犬の様な目で僕を見つめる。
はぁ。ため息を1つ
「立夏、お前の傘に僕を入れろよ。」
そう言い、傘を段ボールに被せる。
「京はなんだかんだ優しいんだから。」
なぜか僕より嬉しそうに誇らしげに立夏が言う
「やめろよ、僕は確かに偽善者だけど人に尊敬はされたくない。」
「そういうとこかっこいいのに…」
ボソッと立夏が言う
雨の音で聞き取れなかったが何か呟いた。
問いただそうと思いながら時計を見る。
「おっと。時間ギリギリだ、行こう。」
そう言い傘を持つ、立夏が濡れない様に僕の右肩を犠牲にする。
ごめん右肩雨に濡れてくれ。
「うん、急がなきゃ。」
何か嬉しそうに機嫌が直る立夏を見ながら思う
-本当に女ってわからねぇえ!!

相合傘は我ながら恥ずかしいなと思いつつも校門をくぐり玄関についた。
「朝から見せつけてムカつきますね!そしておはようございます!京先輩!」
悪態を付きながら元気よく挨拶をしてくれるのは後輩の五十川渉(いかがわわたる)
朝練終わりなのか首からタオルをかけている。
陸上部の期待の星、ハードル走・短距離共に全国レベルの、僕からすれば化け物な後輩。
ショートカットでキリッとした目元、美人なのだが笑顔にはまだあどけなさが残る、全体的にはボーイッシュな見た目。
この子にきっとどの教科が好き?と尋ねると「体育!」と答えるほどに。
「見せつけてないぞ、お前が一番だ。おはよう渉。」
よほど一番と言われたのが嬉しいのか上機嫌に僕の目を見てくる。
可愛い、すごく可愛い、愛してる。
そう父性を覗かせる眼差しで見つめ合っていると
「京、私もう行くから!あとその嫌らしい視線やめなよ、あほ京!」
立夏が不機嫌そうに歩き、器用に渉には笑顔で手を振り階段を上がっていった。
「また何か機嫌悪くしたかな。」
なんて誰に言うまでもなく独り言を言うと
「鈍感さでは京先輩に敵う人はいないですね…」
呆れた様にそう呟く、可愛い後輩を抱き着き頬ずりしたい衝動を唇を噛み完璧に抑え、いや少し抑えきれなかったのだが。とりあえず頭を撫でる。妥協案だ。
「えへへ、やめてください〜。」
気持ち良さげに撫でられる後輩をこのまま死ぬまで撫でていたいと思った。
しかし僕は後輩という生き物は決して好きではない。
むしろ媚び諂う嫌らしい生き物だと思っていた。
「後輩」と頭の中の●oogleで検索をかけると裏切り・消し方・と出るほど確執を持つ過去があった。
そんな後輩嫌いというハードルをまるで飛行機に乗って飛び越えるかのように確信的に変えたのが五十川渉だ。
おっと、予鈴がなった。教室へ行こう。














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