転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

リチムと俺

「ん?話は終わったのか?」
「あぁ、すまない。こういう話は先にしておくべきだったな。お前も寝ていたかっただろ?」
「いや、後継者に関係することじゃ。そんな話の最中に寝ていられんわ」

 ジークとリチムは微笑み合った。まるで幼馴染の様だ。

「さて、さっきは紹介の途中で止められたからな、名前を教えて貰ってもよいか?」
「あ、あぁ、俺は水原隆司。今年……まぁ、この世界に暦の概念があるかは知らんが、今年で26歳になる」
「我はリチメルド。ジークとシーノからはリチムと呼ばれている。お主もそう呼んでくれ。我は今年で326歳じゃな。正確にはもっと上じゃが。こちらの世界でも暦はあるから、心配せんでよい」

 なるほど、リチムというのは愛称だったのか。それに、さすがドラゴン、長生きだな。
 ……もっと上というのはまた今度聞こう。もう長い話は勘弁だ。

「お主、我の姿を見ても全く恐れている様子がないのう。素晴らしい。気に入ったぞ」

 ……恐怖よりも、ドラゴンが存在するという驚きの方が強いだけなんだがな。

「して、先程からあえて『竜語りゅうご』で話しているのじゃが、問題なく聞き取って話せているあたり、お主の身体にかけられている言語変換系の魔法、かなり高性能なようじゃのう」

 そう言うとリチムは、シーノの方を向き、普通の言語で話した。

「タカシの身体に言語変換系の魔法をかけたのはシーノか?」
「はい、魔石は使いましたが」
「そうか……ここまで腕を上げておったんじゃのう」

 感慨深そうな顔でリチムは言った。

「そうは言っても、まだまだリチムさんには及びませんよ」
「そうじゃな。我もそう簡単に抜かれては困る。……じゃが、簡単に抜いてきそうな者も居るがの」

 リチムはちらりと俺を見た。

「お主、魔法はどのくらい使えるんじゃ?」
「全く使えない。今日目が覚めたばかりだからな」
「そうか……まぁ、半年もすれば、荒いとは思うが、ある程度使えるようにはなるじゃろう。契約はその頃にして貰おう」

 契約?なんだそれ?

 と聞こうとすると、口を開く前に答えが返ってきた。

「あぁ、契約というのはじゃの、異なる種族同士で命を預け合うような魔法じゃ。片方が死ねば、もう片方も死ぬ。じゃが、その分メリットもある。いくつかあるが、一番わかりやすいのは『念話ができるようになる』じゃの」
「念話……テレパシーってことでいいんだよな。それって、誰にでも通じるのか?」
「いや、契約を結んだ2人の間だけじゃの。誰にでもきこえるわけではない」

 これは残念だが、全く使えないよりはかなり便利だろう。

「じゃあ、距離は関係あるのか?」
「いや、どれだけ離れていても届く。じゃが、離れれば離れるほど、雑音が入って聞き取りにくくなる」
「なるほど。でも、十分便利だな」

 そういったことを話していると、ジークが会話に入ってきた。

「そろそろ暗くなるな。リチム、今日は紹介だけじゃなく、一つ頼みたいことがあって来た」
「なんじゃ?……まぁ、タカシの魔力量を見れば、なんとなくわかるがの」
「たぶん察しの通りだな。こいつのステータスボードを作ってほしい」
「案の定じゃな」

 今日は聞いたことの無い言葉をよく聞くな。ステータスボードってなんだ。

 そんなことを考えている間、リチムは何かを探している様子だった。

「そうじゃのう……タカシ、そこにある平たい石を持って立っておれ」
「平たい石……これか?」

 そう聞いて振り向くと、リチムが顔を鼻がつくくらいの距離まで近づけていた。

「……よし、その石を見てみろ」

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