転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

無職と占い師


「また駄目だったか……」

   現在就職活動中の俺、水原隆司みずはら たかし。今年で26になる。
   それで、何が駄目だったかというと、就職だ。高校で2回留年、2年間浪人して入った大学はストレートで卒業したが、なんとか入った会社で、3年目に先輩の失敗を押し付けられて底辺扱いを受けるようになったので、その会社は辞めた。そして今、職に就けていないという訳だ。……先に辞めたのは失敗だったかな。
   まぁ、奇跡的に採用されたコンビニや居酒屋のバイトでなんとか生きている。

「こうなったらやけ酒だな……とりあえず買いに行くか」

   イライラする時はたまに、酒を飲みまくる。酒を買う時は大抵コンビニだ。
   俺は特に何もせず、財布だけ持って、夕日を背に受けてコンビニへ出掛けた。



   コンビニからの帰り道で、突然声をかけられた。

「ちょっとそこのお兄さん、もしかしてあなた、今失業中じゃないですか?」
「……あ、俺か?」

   声をかけてきた人はコクンと頷いた。

「まぁ、たしかに失業中だ。だが、いきなりそういう事を聞くのは、失礼なんじゃないか?」

   声をかけてきたのは、今は晴れているのにもかかわらずレインコートを着て、フードを顔が見えないくらいまで被った、声と髪の長さからすると女の人だった。

「あ、それはすいませんでした。私は、失業中の方や無職の方の占いをしている、占い師です。職占いとか、して行きませんか?」
「職占い?……それはどういうものなんだ?」
「いつ良い職につけるか、もしくは、天職がどんな職業か……そのようなことを占っております。」
「……占ってもらおう。いつ職につけるかで頼む」

   俺は少し不信感を抱きつつも、頼むことにした。いつ職につけるかがわかれば、ゴールが見えて頑張れると思ったのだ。

「ありがとうございます。では少しの間、私の目を見ていて貰えますか?」

   占い師はフードを外し、俺の目を見つめてそう言った。
   ……かなり可愛い顔をしていた。

「わ、わかった。だが、場所はここでいいのか?占いって結構、机を挟んで向かい合わせに座ってやるイメージがあるんだが……」
「大丈夫ですよ。むしろ、外で開けた場所の方がやりやすいです。……それじゃあ、いいですか?」
「あぁ、大丈夫だ」

   言われた通りに、俺は彼女の目を見つめた。
   5秒ほど経った後、彼女はニコッと笑って、「もういいですよ」と言った。

「ど、どうだった?」
「えっとですね、一週間以内には良い職業が見つかると思いますよ。就けるのはもう少し先になりそうですが」
「一週間以内か……早くないか?」
「大丈夫です。今までにこの占いで外したことはありませんから。(……初めてだからですけど)」

   最後に何か聞こえたような気がするが、気のせいということにしておこう。

「……わかった。それじゃあ信じさせてもらうよ、ありがとな。……もうこんな時間か。そろそろ帰ってもいいか?」
「大丈夫ですよ。……そういえば、お酒が大量に入った袋を持ってますけど、そんなに飲まれるんですか?」

   俺はコンビニで10本ほど缶ビールと酒を買ってきていた。それを持ったまま占いをしてもらっていたのだ。

「まぁな。最近イライラすることが多くて、今日はやけ酒だーって買ってきたんだ」
「なるほど……お1人で飲まれるんですか?」
「そうだな。特に一緒に飲むような友達も居ないし」
「でしたら、私がご一緒させていただいてもいいですか?……お酒は飲めないので、ジュースとかでですけど」

   1人で飲んでいてもつまらないだろうと考えた俺は、一緒に飲んでもらうことにした。

「もちろんだ。ジュースならうちにあるものを飲んでくれればいい。好きなものかわからないけどな」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。大体のジュースは飲めるので大丈夫ですよ」
「なら良かった。じゃあついてきてくれ。家はこっちだ」

   こうして俺は、たまたま出会った占い師と一緒に酒を飲むことになった。



「ありがとな、色々と話を聞いてくれて。おかげでちょっとすっきりしたよ。さっきは失礼なんて言ってごめんな」
「いえいえ、大丈夫ですよ。むしろ、色々と面白いお話を聞かせて頂いて楽しかったです」

   家に帰った俺達は、酒やジュースを飲みながら話をしていた。
   主に俺の今までの人生の話をしていたんだが、占い師は結構良い奴で、いろんな話にいい反応をしてくれた。

「そういえば、君の名前きいてなかったな。……あ、俺は水原隆司だ」
「たしかに、まだ言っていませんでしたね。でも、私の名前はまだ言うべきではないかと。どうせすぐにわかりますので」
「そうか……。まぁ、無理強いはしないさ」

   「すぐにわかる」というのが引っかかったが、特に強制はしなかった。あまり人に嫌われたくはないからな。

「……あの、天職の方も占ってもいいですか?」
「いいけど、どうしてだ?」
「単純に私が気になるんです。……それじゃダメですか?」
「いや、いいよ。やり方はさっきと同じか?」
「はい。では、目を見てください」

   また俺は、彼女の目を見つめた。
   5秒ほど経った後、彼女はニッコリと笑った。
   そしてそれと同時に、一気に酔いが回ってきたのか、視界が歪んで全身から力が抜け、俺は床に倒れ込んだ。
   占い師はまだ笑っていた。

「あなたの天職は──」

   最後の言葉を聞き取れずに、俺は気を失った。

コメント

  • 真京(旧:間虚羽

    まだ1話ですが面白そうです!
    (初めてだから)は少し笑いました!
    よければ私の作品も読んでみてください(*´꒳`*)

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