一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

42 小さく大きな物語73

ブラちゃんの背に乗り王都まで到着した俺達だが、リーゼさん達を追いこしてしまったらしい。何処へ行けば良いのかと聞くと、古い方の城へ行けという。ブラちゃんは何所かへ行ってしまい、俺達はその城へ向かって行く。しかし俺は、この町の景色に既視感を覚え始める。城門前で雷が落ちるのではないかと、何かの思い出がよみがえって来た。色々なものを思い出した俺だが、特に変わる事はなかった。何かストリアも色々思い出しているようだが、俺はそれを軽く躱して城の中へ入って行った…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)
ブラグマガハ(ドラゴンの人)
ルーキフェート(王国の姫)


 城の内部は蝋燭の灯りがともされている。
 道順を示すように、通路に灯りが続いていた。
 俺達にその道を歩けと言っているのだろう。

「分かりやすい道が作ってあるな。まあそっちに行ってみるか」

「なんか罠っぽいけど? 大丈夫かな?」

「たぶん大丈夫だ。俺達に手を貸して欲しいって言うんだから、変に罠をしかけてたらおかしいだろ?」

「そうだな、私達を倒しても何一つ得はない。心配する必要はないな」

「そっかー、じゃあ大丈夫かなぁ?」

 リッドは少し不安がっているが、俺達はその道を進む事に選んだ。
 一応他の道もあるにはあるが、灯りはなく暗い道を進まなければならない。
 まあわざわざそんな道を行かなくても、示された道があるのだからそちらに行くべきだろう。

 俺達はその道を進んで行くと、道には色々と絵画が飾られている。
 二人の王と、七人の子供が並び笑っている絵画は、幸せだった頃の物だろう。
 描かれている七人の子供の内一人が、現在の王であるラヴィ―ナ様である。

 ただ俺は、その頃を知らない。
 俺の前世でこの世界に来た時には、もうそんな状態ではなくなっていたのだ。
 ほんの一瞬の幸せのひと時なのだろう。

 その先に続き飾られているのは、二人の女性と小太りの男の絵である。
 炎を纏う美しい少女を中心に、左にも知った顔が並んでいる。
 その白い髪の女性には、ストリアにも見覚えのあるものだろう。

 更に、一人の兵士と天使が寄り添い合う絵に、獣のような男と鋼鉄の巨人の姿。
 先ほどの女性二人トトラリの、もう一人の女性が追加された物。
 昔の俺の顔と、隣に並ぶのはその妻となった者が馬車を護衛する物。

 黒い男と少女の姿。
 他にも色々と続いている。
 何となく、この国の重大事件を絵にした物だと感じた。

 その絵画を見て進んで行くうちに、城の上階へ到着していた。
 続いていた灯りはこの先の部屋の前で終わり、その先は暗闇へと変わっている。
 扉は開かれていて、中に入れと誘っている。

 ただその場所は、王が住むべき場所ではない。
 この部屋は確か、リビングルームのような場所だったはずだ。

「じゃあ入ってみるぞ」

「うん」

「何も無いとは思うが、注意はしておけよレティ」

「ああ、分かってる」

 部屋の中は綺麗に整理されてはいるが、生活用品が色々と置かれて人が住んでいる様に見える。
 リビングを改装して部屋に作り替えたのだろう。
 その部屋の窓際に、一人の女性の姿が見えた。

 それはラヴィ―ナ様ではなく、あの絵画に描かれた子供の一人。
 ルーキフェートと呼ばれる、継承権を持つ一人だった。
 しかしもう子供と言っていい年齢ではないはずで、シャインより年上のはずなのだが、その美しさは十代と言っても過言ではない。

 一時期美容にも影響があると言われたキメラ化の法だが、本当に効果があったらしい。
 まあ村に居る人の中にも結構そう言う人は居るし、別に気にする事もない。

「よく来てくださいました。少し人数が足りないようですが……まあいいでしょう。あの女の顔は見たいとは思いませんからね」

 あの女というのが、リーゼさんだというのは知っている。
 それ以外の女はジャネスの姉ちゃんとチェイニーしかいないし。
 昔あった勇者の事件で、リーゼさんとルキちゃんが関わっていたと聞いたことがある。
 確かバールが町中に言いふらしていたのだけど、内容としてはあまり多くは知らない。

「さあ、お座りになってください。お茶を入れて差し上げますわ」

 俺達はそれに従い、長椅子に腰を下ろした。
 もう随分と大人になったこの子に、ルキちゃんと呼ぶのは違うのだろうか?

 今は俺が年下で、向うは俺が生まれ変わった事を知らない。
 例えそれを言ったとしても、簡単に信じないはずだ。
 変に混乱させるより、このまま他人として話すのが良いのだろうな。
 俺は知らない振りをして、ルキに話しかけた。

「貴女がラヴィ―ナ様ですか?」

「いえ、私はルーキフェートと申します。ラヴィ―ナは、彼方に見える城に留まっています」

「ブラちゃんに聞きました。俺達に殺して来いと言うのでしょう。でも俺達は……」

「違います。ここに呼んだのはラヴィ―ナではなく私の意思によるものです。私はラヴィをを死なせたくありません。ですから、どうぞお力をお貸しください」

 ルキは俺達に頭を下げている。
 俺達の心情としても聞いてやりたいのだけれど、何もしなければ他国の侵略が始まる。

 つまり、ラヴィ―ナ様を助けて、戦争にもならず、誰も死なずに怪我させない。
 戦争回避したら民の戻って来る場所を確保して、将来も安全に暮らせるようなって、って出来るのかそれ?
 そうとうに難易度高すぎないか?

「えっとさ、何か妙案でもあるのかな? 俺だって殺したくないし納得もいかないけど、ブラちゃんに聞かされた作戦が現状最善な気がするんだ。それ以上の作戦がなきゃ被害が拡大するぞ」

「ええ、確かにその通りです。英雄が倒したという状況がなければ、ただ逃げたと思われても仕方ありません。そうなれば各国での追跡や、逃げ延びた民の身も危ういでしょう。ですから、ラヴィ―ナの死を偽装し、死体さえ残さず消滅したとするしかないでしょう」

「あの~、それ結構難しくないですか? 倒したと見せる必要があるのだから敵の前でやるわけですよね? 王の顔ぐらい分かるでしょうし、偽物を使う訳にはいかないでしょう。それでもし偽物を使ったとしても、その人はどうなっちゃうのか分からないですよ?」

 リッドの疑問はおおむね正しい。
 ただ、俺は一人だけそれが出来る人物を知っている。
 変身魔法を使い、超スピードで動く事が出来る男。
 それは俺が住んでいた村に居た、黒い男のべノムのことだ。

 ただ、もうそろそろ敵軍の進行が始まる頃で、べノムもそれに参加しているはずである。
 下手な動きはさせてもらえないだろう。

「ブラグマガハ殿には、一つ仕事を頼んであります。ドラゴンとなったあの方には、敵陣よりべノム殿を食い殺したとして、こちらに運んで着て貰います。彼が居れば殆どのことは解決するでしょう」

 魔物に襲われて食われたとなれば、敵軍も怪しまないか。
 だとしたら後は……。

「ラヴィ―ナ様を説得するだけかな?」

「はい、そうなのですが、ラヴィ―ナは相当に頑固者で、きっと言うことは聞いて貰えないでしょう。なんというか、国の為に犠牲になる自分に酔ってる節がありますから。ですから叩きのめして連れて来てください」

「結局倒すんかい!」

 因みにルキは、俺達には手を貸してくれないという。
 王であり姉妹である彼女に手はあげられないと言っていた。
 しかし俺の予想だと、二人の間で戦いがあった気がしている。

 命を懸けると言い出したラヴィ―ナ様を、ルキが止めないわけがない。
 勝負がどうなったかは知らないが、結局聞いてはくれなかったのだ。
 だとすると、思った以上に頑固者に成長している気がする……。

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