一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

41 小さく大きな物語72

ブラちゃんに村の事情を聞き、すでに戦争のことは知っていると聞いてしまった。ここまで来た苦労が無駄になりそうだったが、ブラちゃんが提案を持ち掛けてきた。俺達に王を倒して英雄にならないかと言ったのだ。俺とストリア、リッドはそれを断るのだが、他の四人は王都へ向かってしまう。しかし考えを改めた俺達は、ブラちゃんに乗って王都へ向かって行くのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)
ブラグマガハ(ドラゴンの人)


 ドラゴンの背に乗り飛ぶというのは、昔に憧れていたような記憶がある。
 あれはどのぐらい子供の頃だったか覚えてもいないのだが、もしかしたら遥か前世の話だったりするのかもしれない。
 しかし実際乗った感覚としては、極限に危ないものである。

「うをおおおおおおおお、落ちるうううううううう!」

「ぎゃああああ、乗るんじゃなかったよおおおおお!」

「くぅ、風圧が……」

「おおおおい! もうちょっとスピードを緩めてくれええええ!」

 ゴツゴツした鱗はそこそこ掴めるのだが、空を楽しむとかそんな事はできそうもない。
 強烈な風圧は速度を上げる度に激しくなるし、油断したら空に舞い上げられて墜落して死ぬ。
 せめて手綱でもあればもう少しマシだったのかもしれないが、必至に掴まるだけでも精一杯だ。

「ハッハッハ、まあ安心せい、振り落とされたらこの口で捕まえてやるわい!」

 その声は風の強い空の上でもハッキリと聞こえて来る。
 意思疎通は完璧に出来る大きな声だが、声が聞こえると体にも振動来ている。

「おい喋るな、振動で落ちるだろ! というかそんなの真っ平だからな!」

「にゃあああああああ、もう駄目だああああああああ」

「クッ、私に掴まれリッド」

「うひゃああああああああああああああ!」

 落ちそうになったリッドにストリアの手が伸びた。
 本当にギリギリで、真面目に落ちそうになっている。
 しかしその辺りから随分スピードが落ち、地上が近づいて来ていた。

 多少安心した俺は、下に見える国を見つめる。
 馬車は到着していないようで、どうやら俺達の方が先に到着してしまったらしい。

「うおああああああああああああ?!」

「わわわわ!」

「おっと」
 
 ズンと着地した衝撃で、俺達は掴んでいた指がが外れ、ブラちゃんの背から転げ落ちてしまった。
 着地したから安心という訳ではない。
 だって背中からでもそこそこ高さがあるし、落ちたら凄い痛そうだ。
 しかし今までの経験から受け身を取り、足を痺れさせながらも無事に着地したのだが、上からリッドに落ちて来られてクッションにされてしまった。

 ストリアは……まあ普通に着地している。
 心配するまでもない。

「おおいリッド、重いからどいてくれ」

「ああ、ごめんねレティ、今退くから」

 俺はリッドを退かして立ち上がると、王都の様子を見渡した。
 ここは王都の中央にある、中央広場という場所らしい。
 中心に噴水があり、流れ続けている。 

 真昼間だというのに、誰の姿もなく、声の一つ、足音の一つも聞こえない。
 まるでゴーストタウンのようだった。
 この国の王は、本気でこの国を終わらせようとしているのだろう。

 この場所からは二つの城が見える。
 少し壊れかけている城と、幾つもの穴が開き、ボロボロの城があった。
 まあ古さで言うならボロボロの方が上だろうか?

「でさ、そのラヴィ―ナって人は何処に居るんだよブラちゃん」

「王は城に居られるに決まっているだろう。あの城へ進むがいい。では我は他の仕事があるのでな、サラバだ!」

 ブラちゃんはボロボロの城を指さした。
 そして直ぐに飛び立ち、見えなくなってしまう。

「はぁ、兎に角、行くべき道は示されたな。じゃあその城へ行ってみるとしよう」

「ああ、そうだな。私達の挙式ももう直ぐだ」

「え~っと、おめでとう二人共!」

「リッドも乗るんじゃない。俺はそんな事言った覚えはないからな! おいストリア、話しを聞け! 先に行くなって!」

 なんとなく、この国の町並みは見覚えがある気がする。
 見ていたとしても赤ん坊の頃の話なんだから、それが気のせいなのは知っているが。
 あの道を曲がったなら綺麗なカフェがあったり、その先には綺麗な子が居るパン屋があったり……

 知らないような知っているような、不思議な気持ちが湧き上がって来ていた。
 その場に来ると本当にそんな店があって、誰も居ない町並みを見て、何故か懐かしい気持ちになって来る。
 よく分からない感情を振り払い、俺達は城門前にまで来ていた。
 二人はスタスタと進んで行くが、俺はその門を潜るのを躊躇っている。

「どうしたのレティ、何か有った?」

「気分でも悪いのなら休んで行くか?」

「いや……別になんでもない。ただちょっと雷が落ちるようなきがしただけだよ」

「雷? 何を言っている、それは昔に解決しただろう。さあ私と一緒に行こうレティ」

「解決? そうだったっけ……?」

「二人共、この国に来た事あったっけ?」  

「いや俺は……あった……かもな」

「ああ、その時には、一緒に暮らしていたぞ。子供と一緒にな」

 何時もの冗談であるはずの言葉は、真実として聞こえて来る。
 昔あった大切な思い出が頭を過った。
 その一つを思い出すと、何もかもが蘇って来たのだ。
 楽しかった生活や、俺が死んだ苦い記憶まで、だがそれは、俺であって俺でない者の記憶である。

 今の俺は、昔の俺の続きではあるけど、過去の記憶が蘇った所で、今の俺は何も変わりはしない。
 ふと昔の記憶が蘇ったという、それだけの話である。
 だから俺は、今の俺が好きな人と結ばれなければならないのだ。

「ストリア、冗談はやめろ。じゃあ行こうかリッド」

「あ、うん」

「待てレティ、今何か思い出さなかったか? おいレティ!」

 その発言から見るに、ストリアも何かしらの記憶を引き継いでいたのだろう。
 何時からその記憶があるのか知らないけれど、その記憶に流されている気がする。
 いや、そもそも赤子の時から記憶が残っていたなら、最初から何も変わっていないのかもしれない。

「まあどっちでも良いか、ストリアはストリアだしな」

 シャインのことは……きっと母としての愛情と、娘であった愛情が混じっていたのだ。
 それで愛が大きくなりすぎて、恋だと勘違いしたのかもしれない。 
 流石に娘との結婚は、泣く泣く諦めなければならないのだろう。

 俺は一応父親だったようだから。
 失恋で涙をながしながら、俺は城の中へと入って行った。 

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