一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

32 小さく大きな物語68

変な祭りに強制参加させられた俺達。神輿をぶつけて落ちなかった方が多い方が勝ちというルールで、上に乗るとかなり怖い。バールの活躍により向うの東軍が勝ってしまい、作戦会議が行われた。バール対策を教え、俺のやる気も出そうな約束をとりつけて、次の戦いが開催される…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


 残りあと三日。
 勝ち数は昨日の分の負けで五分に戻されたらしい。
 俺達西軍が勝利するには、後二回の勝利が必要だ。
 約束の為にも勝ちたい所だが、バールと姉ちゃんのことは兎も角、リーゼさんはそう甘い相手ではない。

 俺達の師匠みたいなもんだし、本気でやる気になれば大体先回りされるだろう。
 いかにやる気にさせないか、その事にかかっていると言ってもいい。

 だがそれも中々難しい話だ。
 宿も別になって接触も出来ないし、相手も此方もさせてもくれないだろう。
 結局なるようにしかならないのだ。

「さて、今宵の作戦ですが、既に腕の伸びる方への対策はしてあります。晒し者にしているゴミクズの中から志願者をつのり集めましたので。あとは、奴等を全部叩き落すのみだあああああああ!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 西軍リーダー、オゾラさんの叫びで、大いに盛り上がる西軍の皆さん。
 そして今宵も祭りの時間が来たのだった。

「行くぞ二人共、今日の試合も絶対に勝利で終わらせよう!」

「レティなにかあったの? 凄く気合が入ってるね」

 あの話はリッドにも内緒にしてある。
 何処から話しが漏れるかわからないからな。
 ちゃんと勝つことが出来たなら誘ってみようと思っている。

「別に何もないぞ。得に何かあるわけじゃあないんだ。相手と戦うなら勝ちたいのは当然だろう。そうおもうよなストリア?」

「……レティ、何か隠し事をしているだろう。まさか私が分からないとでも思ったのか?」

「……俺は何も隠し事なんてしていないぞ! ただ純粋に勝利への道を進んでいるだけだ!」

「その言葉、信じるとしよう。だが、もし女関係の話だった場合、私が先にレティの貞操を奪うことを宣言しよう!」

「何言ってんのお前?! そんな事にはならねぇよ! ほらもう始まるから早く行くぞ!」

 ストリアとの体の関係……ないないないないない。
 それよりまさか感づかれるとは思わなかったのだけど、何故バレた?
 自分でも気づかない癖のようなものでもあるのだろうか?
 何かはわからないが、俺は今後は注意しようと神輿の上に登って行った。
 昨日は全く分からなくて怖いだけのものだったが、今日は大体対策が出来ている。

『いくぞおおおおおおおおおおおおおおお! せええええええええのおおおおおおおおおおおおお!』

 最初の軽いぶつかり合いが始まり、勇気のない奴等はここで落ちて行く。
 だが今回西軍に落ちる奴は居ない。
 前回の戦いで大敗して、負けの可能性が高いから、神輿の上に登った人達は気合が入っているのだ。
 つまり、金の為である!

 そして向うは、昨日と同じ戦法をとろうとしている。
 伸ばした手の中に入らない人が、何人か神輿から落下して行く。
 金よりも自分の体を優先した奴等だが、今後一年間は町の人に馬鹿にされるであろう。

 だが、そいつ等のおかげで西軍に勝機が訪れた。
 こちらの気合を知ってか、東軍の奴等も気合が入れて行くが、もう遅い。
 二度目のぶつかり合いが始まる前に、バールを無力化させる作戦が開始された。
 神輿の近くに水着になった女達が現れ、バールに愛の呼びかけを発している。

「バールさーん! もし手を放してくれたら、私が相手をしてあげますよー。このオッパイ目にはいりませんか?」

「バールさん、手を放してこっちを見てくださ~い! ほらほら~!」

 とか色々と言ってはいるが、もうバレバレの攻撃だ。
 若い子から結構歳のいってるお婆ちゃんとかも色々と揃っているが、バールの奴には効果があったらしい。

「今いきま~す!」

 そんなバレバレの罠にバールは簡単に引っ掛かり、乗っていた神輿から飛び降りてしまった。
 女達はバールを取り囲み、明日の為にも話しをして気をもたせている。
 明日さえ乗り切れればどうでもいいからと、思案している女達だ。
 まさしく金の為である。

 バールが居なくなり俄然有利となった西軍は、一気呵成に攻め立てる。
 いきなり居なくなったバールの為に、東軍が衝撃に耐えられずに相当数が神輿から落ちて行く。
 流れは完全にこちらの物だった。

 三度四度と繰り返されるぶつかりあいで、神輿の上にはリーゼさんがたった一人が残されている。
 もう決着はついていた。
 だが、やる気を出したリーゼさんは、何か下の人達に指示を出している。
 何を話しているかは聞こえないが、作戦があるのは間違いないだろう。

「オゾラさん、向うが何か仕掛けて来そうだぞ。気を付けてくれ!」

「おおお、了解だああああああ!」

 そして次のぶつかり合いで、東軍に奇跡が起こった。
 簡単に言うなら、テーブルをひっくり返したのである。
 俺達が乗っている神輿のテーブルを、一度ぶつけて髪合わせ、勢いをつけて持ち上げたのだ。
 
「おわああああああああああああ?!」

「うひゃああああああああああ?!」

「うッ……!」

 乗っているのが俺達だけなら耐えられたかもしれないが、足場が斜めになって大量の人が流れ落ちる。
 どうにも耐える事が出来ずに、神輿から全員が落ちてしまった。
 向うにとっては大逆転と言った感じだが、勝ち負けという以前に大惨事である。
 一応リッドの魔法で怪我した人には治療が行われたのだが、それよりももっと酷い惨状が広がりそうな雰囲気だ。

「今のは反則だろうがああああああああああああああああ!」

「ルールの範囲内だよ! 文句を言っても結果は変わらないぜ!」

「なんだとおおおおおおおおおお!」

「やるかああああああああああああああ!」

 反則だと騒ぎ立てる西軍と、ルール内だと言いはる東軍。
 結局おさまりがつかず、大喧嘩に発展してしまったのだ。
 喧嘩で混乱する中、神輿も何故か燃え出すしまつ。
 明日の祭りどころか、今後の祭りにも影響が出そうなほどである。
 そんな状況でも、落ち着いてこちらに来ているのがリーゼさんだ。 

「ふぅ、これじゃあ祭りどころじゃないわよね。昼の内に買い物も済ませてあるし、明日になったら出発しましょうか」

 まさかリーゼさん、そこまで計算して火までつけた?!
 そうなら絶対やり過ぎだ。
 いや、まさか、そんな訳が無い。
 たぶん考えすぎだ。
 ……たぶん。

 結局明日に話しが持ち越され、朝方から話し合いが行われている。
 だがもめにもめた三時間の話し合いの結果、何方も譲らず平行線に終わったらしい。
 予算に関しては今回だけ平等に分配されたようだ。
 だがそれが出来るなら、最初からそうしろと俺は言いたい。

 そして、肝心のあの約束がどうなったかと言えば、祭りが無くなったのにして貰える訳がなかったようだ。
 リーゼさんの恐ろしさを知っただけの町だったなぁ。

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