一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 相性は最悪だ、だが実力だけは認めざるを得ない。

悪魔に使役された二人の兄弟と戦いとなる。高い防御能力を持つ奴等に、俺一人ではダメージを与えられず、ジリ貧にしかならなかった。これでは無理だと近場に居る仲間へ向かうのだが、そこには居ちゃならない俺の女房が戦っていた。頭を抱える俺は、ロッテを帰らせようとするのだが、そうしている間にも奴等兄弟が大魔法を唱えていた。俺はロッテと回避に専念すると、ロッテに巻き込まれた奴を助けてやれと指示を出す。ロッテは素直に言うことを聞き、仲間の回復に向かったのだった…………


ベノム      (王国の兵1)
ロッテ      (王国の兵2)
レアス      (相性最悪の女兵士)
ゲオルム・ファウス(悪魔ゲルトハイム)
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)


 倒すのは元からの目標だが……ロッテはあのまま回復させておくとしよう。
 きっとその方が危険も少なくて済むはずだ。
 今なら明後日の方向をみているし、このまま移動して別の誰かを見つけるか。
 あとで言われることは我慢するしかねぇな。

「今のうちだな……」

 俺は再び奴等を引き離し、町角を曲がり戦場を移動して行く。
 どこもかしこも戦ってはいるが、こちらが多少有利だろうか?
 さて、共闘できそうな味方は……

「……何の用ですかクソ鴉、わたくしの前に現れないでくれませんか。目が汚れてしまいそうですから消えてください。それとも私に殺されに来たんでしょうか?」

「誰がテメェなんぞとわざわざ顔を合わせにゃならんのだ! ここへ来たのはただの偶然だぜ!」

 出会ったのはレアスというムカつく女だ。
 元貴族だか何だか知らねぇけど、俺の言うことなんざ聞きやしねぇ。
 蝙蝠の翼とその爪は、相手の戦魔に似ている気がするが、それを言ったら確実に攻撃して来るだろう。
 だが実力だけはありやがる。
 霧化はダメージすら受けることなく移動や出現を用意にやれるし、速度だって俺よりは劣るが、そこそこ速い。

 魔法にしてもそうだ。
 重力と吸引を主に使うこの女の魔法は、当たりさえすれば必中で効果をあらわす。
 それを表すように周りにはカラカラにされた三体の戦魔が転がっている。

「ああ、なる程、そちらの方から逃げ出して来たのですね。オホホホホ弱虫ですわね」

「クッ、追いつかれたか! 敵が三人になっちまったじゃねぇか」

 奴等は空を飛ぶ俺達を囲むように周りを回っていた。
 弟の方は飛べないはずだが、その足元には地面から伸びた砂がある。
 あれが足場の役目をしているようだ。
 割りと器用な使い方をするらしい。
 タガを外されて能力の幅が広がっているのか?

 奴等は俺達の周りを何度も回り、その距離を縮めて来ている。
 それにより俺とレアスの背中が当たりそうになっていた。

「ちょっと触らないでくれませんか?! 馬鹿が移ったらどうしてくれるんです!」

「うっせぇよ! 俺だってしたくてしてるんじゃねぇんだ。文句があるなら奴等を倒してから聞いてやるぜ!」

「フンッ、いいでしょう。前菜を頂いてからメインディッシュを首り殺してあげましょう!」
 
 俺達が無駄な言い合いをしている間に、周りを回る二人が、タイミングを計ったように同時に動き出した。
 俺の前からは麻痺の爪が、後ろからは大槍が向かって来ている。
 レアスは上に、俺は下へと身を躱す。

 二人共俺の方に来るかとも思ったが、弟の方はレアスに向かって行った。 
 敵意を放ち、邪魔をしそうなレアスを敵と判断したらしい。
 だがレアスに意識が行けば、砂の防御がなくなるだろう。
 俺はレアスに弟を任せ、シィヴァのとの戦いを再開した。

「かかて来いよ、この野郎!」

「…………」

 奴は水の槍を作り出し、俺に向かって突きを放った。
 この槍を軽く考えてはならない。
 形状変化と伸縮、更には毒の力までもつこれは、ギリギリで躱すのは不可能だ。
 なるべく距離をとりながら奴の攻撃を躱し続ける。
 俺が動く度に奴の槍が形状を変えるが、続ける内に大体の動きは見えて来た。

 どうやらこの槍は、その手持ちにある槍の水量でしか伸び縮みもできないらしい。
 それにあまり複雑な形状には変化できないようだ。
 出来るのは槍、剣、ムチ、長い針状の物ぐらいだろう。
 それなりに見切った俺は、武器の動きを読んでシィヴァの体に斬撃を与える。
 奴の腕の鱗を吹き飛ばし、深い傷を残してやった。

「…………!」

「よっしゃー! やっと初撃を食らわせてやったぜ。ああ、ちょっとスッキリしたああああ!」

 喜んでばかりもいられない。
 このシィヴァには強力な再生能力が備わっているのだ。
 この程度の傷では、時間を置けば復活してしまう。
 だから、今の内にやれるだけのダメージを与えてやらなければならない。
 まあ多少やり過ぎても、頑丈なこいつは死にはしないだろう。
 そう、死にはしないから、俺の気が晴れるまでやってやろう!

「食らっとけやコラアアアアアアアアアア!」

 二つ三つと奴の傷を増やし、そろそろ俺の気もすんで来た頃。
 決定的な一撃を入れてやろうと動いたのだが、何故か体に悪寒を感じた。
 それは気のせいなどではなく、ハッキリとした危機を運んで来る。

 気付いたのは影のおかげだろう。
 何時の間にか夕日を覆うような巨大な影が、俺達の周囲に現れていた。
 ハッと上空を見上げると、嬉々とした女の顔が見える。

「ブラッディアス・アッシュ!」

 その手には普通の民家程度には巨大な黒い魔法が完成して、もう放り投げられていた。
 討ち放たれた射線上には、ハーディとシィヴァ、それに戦魔の一体と、この俺も存在している。
 ……駄目だアイツ、俺ごとやる気だ!

「全員纏めて、成仏させてあげますわああああああ!」

「この馬鹿女あああああああああああ!」

 あの魔法に当たったら不味いことだけは理解できる。
 俺は攻撃を諦め、その場から全力で逃げ出して行く。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!」

 後方を確認すると、逃げ遅れた戦魔と兄妹の二人がのみ込まれようとしていた。
 のみ込まれた戦魔は無残に吸い尽くされるも、二人は水と地の力で身を護っている。
 この魔法でも耐えきりそうな気がしないでもない。

 いや、それよりもこっちの心配だ。
 あの黒い玉は俺の体まで吸い込もうとしている。
 奴等兄弟のように、俺に護りの力はない。
 あれにのみ込まれたら、たぶん死ぬ。
 俺は必至に速度を増して、魔法を振り切り別の場所へと移動して行った。

 かなりの距離を移動すると、ここで戦っていた仲間の姿が見える。
 あれは……エルとメイだろうか?
 エルは炎の翼をもつ女で、あの兄弟とは微妙に相性が悪いだろう。
 しかしメイが居るならば、多少の不利なら覆せるはずだ。
 二人との共闘を決意し、俺はその場へと近寄って行く。

「……ふう……」

「エルさん、どうぞ水です!」

「……ん」

 汗を拭う仕草をしたエルに、メイが水筒を手渡している。
 なんだか舎弟のような関係にも見えるが、一応恋愛で付き合っているらしい。
 まだ破局していなかったのは、一重にメイの努力があってこそだろうか?
 ただ便利だから使われているだけの様な気もするな。

 二人は実力もあり、地面には墨と化した戦魔が転がっている。
 それに何よりも、あの馬鹿女よりも聞き分けが良い。
 それが重要なことだ。

「おいちょっと手伝え! あの兄弟が来るぞ!」

「……ん……何?」

「あ、べノムさん、どうかしたんですか?」

「だから敵が来るって言ってんだろうが! いいから周りに気ぃ払えや!」

「……ふぅ……」

「頑張りましょうエルさん。まず深呼吸をして準備しましょう!」

 スーハ―と、本当に深呼吸をし始めたエル。
 ちょっとツッコミでも入れてやりたいが、あの兄弟が無事にやって来たらしい。
 しかし近くにレアスの姿は見当たらない。
 きっと大魔法を使ったから追跡を諦めたのだろう。

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