一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
26 会いたいような会いたくないような、来ちまったものは仕方がない。
悪魔の宣告から四ヶ月が経った。かなり油断した兵士達が町を見て回っている。その日の夕方、奴等悪魔が行動を開始したのだ。舗装された道の下から飛び出して、百を超える戦魔達が現れる。その戦魔から爪が振り下ろされる瞬間、兵士の一人が招待を現した。黒い姿をしているこの俺べノムである。四ヶ月もの間戦略を立てていた俺達王国の兵士である。俺は首謀者の悪魔を見つけると、一気に詰め寄り攻撃を仕掛ける。確実に当たるはずの攻撃だったが、何時の間にか戦魔が現れ攻撃を防いでしまった。そして隣に控えていた馬鹿兄弟との戦いが始まる…………
ベノム (王国の兵1)
ロッテ (王国の兵2)
ゲオルム・ファウス(悪魔ゲルトハイム)
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
下僕と言われて動き出したのは、シィヴァ・タナトリスとハーディ・タルタリスの兄弟である。
この二人もこんな悪魔に使役されるなんて思っても居なかっただろう。
「クッ、やっぱり来るかよ。二人共簡単に操られてるんじゃねぇよ!」
『…………』
返事は帰って来ない。
虚ろな表情で悪魔の命令に従っている。
助ける為にもぶっ倒してやらなきゃならないのだが、この二人は強い。
考えなしに突っ込んだら手痛い目に遭うのは俺だろう。
だが魔法が発動していない今ならぶっ倒せる可能性はある。
「フッ、いいだろう……徹底的にぶちのめして、ぶん殴って蹴り飛ばして、気が済んでから元に戻してやるからなぁ! 覚悟していろクソ兄弟! おうらああああああああああああああ!」
『…………』
俺は奴等を狙い、超速の攻撃を繰り出す。
奴等では目で追いきれぬほどの斬撃の雨が、シィヴァの全身を捉えた。
ガガガと音が重なる程の攻撃は、体の各所を斬り刻んだ。
……はずだったのだが、一切のダメージを与えられてはいない。
奴を護る様に、砂の防御が展開されていたのだ。
これをやったのは、弟の方だろう。
「邪魔するんじゃねぇぜ馬鹿野郎。テメェからやってやるぞオイ!」
硬い鎧を着こんだ奴は、俺にとってはあまり戦いたく無い相手だ。
自慢の刃も、その鎧を斬る事が出来ないからな。
それでもやるしかないだろう。
「おおおおおおおおおおお!」
奴の持つ大槍を軽く躱し、頭部への一撃。
右の脇の斬り上げて、顔面を蹴り付けた。
相手の鎧には傷がつきそうもないが、斬撃の舞は続けている。
何処か弱点はないかと探っているのだが、兄の方が黙ってはいなかった。
背後から麻痺の爪を構え、この俺を狙っている。
そこそこ鋭い奴の攻撃も、ギリギリまで引き付けて反撃を食らわしてやるが、やはり砂の防御が間に合っていた。
俺一人でこの二人を相手にするのはかなり辛いものがある。
誰かもう一人でも居てくれればと、逃げて行ったバールを思い出す。
……まあ多少の恨みがあったとしても、バールが戻って来ることはないだろう。
奴は危険なことに首を突っ込みたがらないからな。
それより……
「ああウゼェ、これじゃあ何時まで経っても決着がつかねぇぜ」
近くの誰かを呼んで見るべきだろうか?
ここから見えるのはド派手な炎だ。
あれはランツか、それともエルか?
他には、楽し気に高笑いを繰り返す女の声。
アイツはどうでもいい。
共闘なんざ真っ平だ。
堅実な剣の音をさせるのは、体力だけはありやがる普通の男と狂暴な女だろう。
実力的には少々辛いか?
他にも色々と居ることは居るが、奴等が相手では実力が足りない。
炎が上がった所に行くしかないだろう。
俺はこの兄弟から距離をとり、炎が上がった場所へと向かって行く。
奴等も追って来て居るが、速さで俺に追い着ける者はいない。
軽く振り切ると、その場所へ到着した。
「あそこだ!」
地面に足をつけたとき、俺はその光景に絶句した。
「あっ、べノムだ。お~い! ロッテちゃんが助けに来たよ~!」
それはもう俺の知ってる奴どころではなかった。
俺の女、というか女房だが、俺が真っ先に避難させたはずだったんだが……
まさかわざわざ戻って来たのかよ。
「……帰れ! というか避難しとけよ! 危ねぇだろうが!」
「見よこのお腹を! もうロッテちゃんのお腹はへっこんで体調は万全なのだ。バッチリ戦いにも参加できるのですよ!」
内容を解読すると、マッドを産んで、たるんだ腹が元に戻ったから大丈夫ということらしい。
俺としては何にも大丈夫じゃねぇんだが、そんな話を続けている間に、あの兄弟に追いつかれてしまったようだ。
その二人の馬鹿兄弟が、この場に到着すると、大きな魔法を唱えだした。
「……流れる水流よ……」
「……大地を揺るがす大砂の渦よ……」
これは、城で見た魔法だろう。
イモータル様に止められたとはいえ、強力な魔法には違いない。
攻撃して止められなければロッテが危ういかもしれない。
俺はロッテの体を掴み、避難を優先させた。
「おいロッテ、ここは避難するぞ!」
「ええ? 折角来たのにー?」
「お前が来たから避難するんだよ! クソッ、もう詠唱が終わりそうだな。下に居る奴等は避難しろおお! 大魔法が来るぞおおおおおおおおお!」
ロッテを抱き上げ空に飛び上がると、俺は下の奴等に警告を発する。
しかし奴等の詠唱はまだ続いている。
あの時より長い詠唱は、強烈な威力のほどを想像させる。
「……食い散らせ、リヴァイアス・ウェイ!」
「……食らい尽くせ、アース・ウォール!」
二つの魔法は合成されて、泥の竜が現れる。
大口を開けるように俺達に向かって来るが、やがて自重に耐えられなくなり地面へ落ちて行く。
そのまま地に落ちて弾けると、見渡す限りの道が泥で溢れてしまっている。
俺達にダメージはないが、逃げ遅れた何人かが泥の波に流されて行った。
放っておけば泥の重みで抜け出せず、その命すら危ういだろう。
「おいロッテ、操られているだけの馬鹿兄弟に誰も殺させるな! 兵士の奴等を救い出してやれ!」
「おっけー! じゃあ久しぶりにやっちゃうね♪」
「やっちゃうね♪ じゃねぇよ! 俺は近くの奴と助けてやれって言って……オイやめろ!」
「いくよ……マウンテン・ストーン!」
多量の泥が敷き詰められた道が、ドーンと盛り上がっていく。
たぶん高速で空に打ち上げるような魔法かもしれないが、今はその速度を押さえている様だ。
その山からは泥だけが流され、巻き込まれた兵士達が乗っかっていた。
全員生きているようだが、ずいぶんと疲弊している。
戦魔に襲われれば一溜りもないだろう。
しかし天使との融合で、ロッテのやり方が乱暴になってる気がするぞオイ。
いや、元からか?
「まあいい、ロッテはあいつ等を回復させてやれ。俺はこいつ等をッ、相手にしてるからよ! 飛んでる戦魔には気を付けろよ」
「おっけー!」
ロッテは弱った兵士の元へ向かって行くが、この兄弟はロッテには目もくれず、俺だけに狙いを絞っている。
悪魔が言った通りにしか行動できない、戦魔と同じ状態なのだろう。
だが、治す方法がないわけではない。
一度暴走した俺やグラビトンの為に、研究所が作った薬がある。
それを飲ませればあるいは元に戻るかもしれないが、この状態では困難だろう。
やはり倒さなければ道はない。
ベノム (王国の兵1)
ロッテ (王国の兵2)
ゲオルム・ファウス(悪魔ゲルトハイム)
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
下僕と言われて動き出したのは、シィヴァ・タナトリスとハーディ・タルタリスの兄弟である。
この二人もこんな悪魔に使役されるなんて思っても居なかっただろう。
「クッ、やっぱり来るかよ。二人共簡単に操られてるんじゃねぇよ!」
『…………』
返事は帰って来ない。
虚ろな表情で悪魔の命令に従っている。
助ける為にもぶっ倒してやらなきゃならないのだが、この二人は強い。
考えなしに突っ込んだら手痛い目に遭うのは俺だろう。
だが魔法が発動していない今ならぶっ倒せる可能性はある。
「フッ、いいだろう……徹底的にぶちのめして、ぶん殴って蹴り飛ばして、気が済んでから元に戻してやるからなぁ! 覚悟していろクソ兄弟! おうらああああああああああああああ!」
『…………』
俺は奴等を狙い、超速の攻撃を繰り出す。
奴等では目で追いきれぬほどの斬撃の雨が、シィヴァの全身を捉えた。
ガガガと音が重なる程の攻撃は、体の各所を斬り刻んだ。
……はずだったのだが、一切のダメージを与えられてはいない。
奴を護る様に、砂の防御が展開されていたのだ。
これをやったのは、弟の方だろう。
「邪魔するんじゃねぇぜ馬鹿野郎。テメェからやってやるぞオイ!」
硬い鎧を着こんだ奴は、俺にとってはあまり戦いたく無い相手だ。
自慢の刃も、その鎧を斬る事が出来ないからな。
それでもやるしかないだろう。
「おおおおおおおおおおお!」
奴の持つ大槍を軽く躱し、頭部への一撃。
右の脇の斬り上げて、顔面を蹴り付けた。
相手の鎧には傷がつきそうもないが、斬撃の舞は続けている。
何処か弱点はないかと探っているのだが、兄の方が黙ってはいなかった。
背後から麻痺の爪を構え、この俺を狙っている。
そこそこ鋭い奴の攻撃も、ギリギリまで引き付けて反撃を食らわしてやるが、やはり砂の防御が間に合っていた。
俺一人でこの二人を相手にするのはかなり辛いものがある。
誰かもう一人でも居てくれればと、逃げて行ったバールを思い出す。
……まあ多少の恨みがあったとしても、バールが戻って来ることはないだろう。
奴は危険なことに首を突っ込みたがらないからな。
それより……
「ああウゼェ、これじゃあ何時まで経っても決着がつかねぇぜ」
近くの誰かを呼んで見るべきだろうか?
ここから見えるのはド派手な炎だ。
あれはランツか、それともエルか?
他には、楽し気に高笑いを繰り返す女の声。
アイツはどうでもいい。
共闘なんざ真っ平だ。
堅実な剣の音をさせるのは、体力だけはありやがる普通の男と狂暴な女だろう。
実力的には少々辛いか?
他にも色々と居ることは居るが、奴等が相手では実力が足りない。
炎が上がった所に行くしかないだろう。
俺はこの兄弟から距離をとり、炎が上がった場所へと向かって行く。
奴等も追って来て居るが、速さで俺に追い着ける者はいない。
軽く振り切ると、その場所へ到着した。
「あそこだ!」
地面に足をつけたとき、俺はその光景に絶句した。
「あっ、べノムだ。お~い! ロッテちゃんが助けに来たよ~!」
それはもう俺の知ってる奴どころではなかった。
俺の女、というか女房だが、俺が真っ先に避難させたはずだったんだが……
まさかわざわざ戻って来たのかよ。
「……帰れ! というか避難しとけよ! 危ねぇだろうが!」
「見よこのお腹を! もうロッテちゃんのお腹はへっこんで体調は万全なのだ。バッチリ戦いにも参加できるのですよ!」
内容を解読すると、マッドを産んで、たるんだ腹が元に戻ったから大丈夫ということらしい。
俺としては何にも大丈夫じゃねぇんだが、そんな話を続けている間に、あの兄弟に追いつかれてしまったようだ。
その二人の馬鹿兄弟が、この場に到着すると、大きな魔法を唱えだした。
「……流れる水流よ……」
「……大地を揺るがす大砂の渦よ……」
これは、城で見た魔法だろう。
イモータル様に止められたとはいえ、強力な魔法には違いない。
攻撃して止められなければロッテが危ういかもしれない。
俺はロッテの体を掴み、避難を優先させた。
「おいロッテ、ここは避難するぞ!」
「ええ? 折角来たのにー?」
「お前が来たから避難するんだよ! クソッ、もう詠唱が終わりそうだな。下に居る奴等は避難しろおお! 大魔法が来るぞおおおおおおおおお!」
ロッテを抱き上げ空に飛び上がると、俺は下の奴等に警告を発する。
しかし奴等の詠唱はまだ続いている。
あの時より長い詠唱は、強烈な威力のほどを想像させる。
「……食い散らせ、リヴァイアス・ウェイ!」
「……食らい尽くせ、アース・ウォール!」
二つの魔法は合成されて、泥の竜が現れる。
大口を開けるように俺達に向かって来るが、やがて自重に耐えられなくなり地面へ落ちて行く。
そのまま地に落ちて弾けると、見渡す限りの道が泥で溢れてしまっている。
俺達にダメージはないが、逃げ遅れた何人かが泥の波に流されて行った。
放っておけば泥の重みで抜け出せず、その命すら危ういだろう。
「おいロッテ、操られているだけの馬鹿兄弟に誰も殺させるな! 兵士の奴等を救い出してやれ!」
「おっけー! じゃあ久しぶりにやっちゃうね♪」
「やっちゃうね♪ じゃねぇよ! 俺は近くの奴と助けてやれって言って……オイやめろ!」
「いくよ……マウンテン・ストーン!」
多量の泥が敷き詰められた道が、ドーンと盛り上がっていく。
たぶん高速で空に打ち上げるような魔法かもしれないが、今はその速度を押さえている様だ。
その山からは泥だけが流され、巻き込まれた兵士達が乗っかっていた。
全員生きているようだが、ずいぶんと疲弊している。
戦魔に襲われれば一溜りもないだろう。
しかし天使との融合で、ロッテのやり方が乱暴になってる気がするぞオイ。
いや、元からか?
「まあいい、ロッテはあいつ等を回復させてやれ。俺はこいつ等をッ、相手にしてるからよ! 飛んでる戦魔には気を付けろよ」
「おっけー!」
ロッテは弱った兵士の元へ向かって行くが、この兄弟はロッテには目もくれず、俺だけに狙いを絞っている。
悪魔が言った通りにしか行動できない、戦魔と同じ状態なのだろう。
だが、治す方法がないわけではない。
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