一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

24 小さく大きな物語66

畑に潜む化け物との戦いも終わり、俺達は宿に戻って来ていた。バール達とも別れて部屋に戻るが、不意に言った一言で料理の一品が減らされてしまった。減らされては不味いと、俺とリッドは自分の手で料理を作る事になった。報酬で持って来てくれた肉と野菜を使い料理をすると、肉満載の料理が完成した。美味い飯を食べて、次の日には出発をしたのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


 農場の町を出発して三日、俺達はのんびりと旅を続けている。
 王国に近づくにつれて魔物の出現が激しくなるとも考えていたのだけど、不気味なほどに何も起こってはいない。
 まあ俺達にとってはいいことではあるけど、嵐の前の静けさだったりするかもしれない。
 注意するに越した事はないだろう。

 そんな中、到着したのは国境の町だ。
 この町を越えた先には王国と帝国の二つの国境となっている。
 十何年か昔、魔物の襲撃で壊され、この町の場所に砦を作ったらしい。

 だが、その造られた砦も王国との争いで壊され、今は相当頑丈な壁をもつ町へと変わっている。
 大きく高く伸びる町を囲う壁は、銀色の鋼鉄で造られて、太陽でギラギラと光っていた。
 それも王国による襲撃を防ぐためなのだろうけど、一度壊されてからは王国との戦いは起こっていない。

 だが魔物が出て来るようになったこの世界では、町を護るのには相当良い壁だろう。
 無駄にはなっていない。
 俺達七人はその町に入ってはみるのだが、この町はとてもアツかった。

 アツいと言っても意味は様々で、この場合は熱気と暑さ両方といえるものだ。
 鋼鉄の壁が日光を反射し、町の中は湯気が立ち昇って物理的に暑い。
 そして人々においても熱気が感じられるぐらいの人物が多いらしい。

「うおおおおおおおおおおお!」

「いやああああああああああ!」

「どりゃああああああああああ!」

 と、荷物を持ち上げるにしてもそんな感じで、町中で何処もかしこも叫んでいる。
 二つの意味でとてもアツく煩い町だ。
 そんな煩い町に到着し、先頭を進んでいた俺は、二人の男女に肩をつかまれていた。
 サラシと言われる包帯っぽいものを男は腹に、女は胸に巻き付け、下は短パンという水着に近い様な恰好である。

「うおおおおお、よおく、お越しくださいましたああああああ!」

「是非、あと四日あるお祭りを楽しんでいってねええええええええ!」

「一体なんだよ。煩いわお前ら! 耳元で騒ぐなよ!」

 四日ある祭りということは、この町は今絶賛お祭りの最中だということらしい。
 ちなみに六人は煩そうだからと俺から離れて避難している。

「つまりですねえええええ、これはあああああああ……」

「だから煩いからボリュウムを下げろ!」

「できませええええん! これは祭りの一環なのでええええ!」

「うおおおおおおおお!」

「うるせえええええ!」

 関わるだけで煩さが倍になっていくという、とんでもない町だった。
 超体力を持っている俺にしても、この言い合いは凄く疲れる。
 それでもなんとか我慢して説明を聞くと、どうもこれは昔来た東方の国の人が伝えた祭りだという。

 神輿というものを二つ造り、それに乗りながら東西に別れてそれをぶつけ合うのだとか。
 毎年怪我人どころか死人まで出るという危ない祭りなのだが、むしろそれが良いと、とんでもない盛り上がりを見せているらしい。
 そして何時の間にか大声を出すという独自のルールが追加され、今に至ると。
 
 困った事に、この祭りの時期にこの町に来てしまった人は、領主であろうと東西の何方かに振り分けられて強制加入させられるそうだ。
 圧倒的に迷惑ではあるが、掟ならば従わなければならないだろう。
 何故なら拒否した人間の全員は、祭りが終わるまで十字架に張り付けられて、体中に落書きをされるという屈辱を受けるらしい。

 この場所からも見えているが、『祭りに参加しない卑怯者』『やらないならお前は人間じゃねぇ』とまで書かれている。
 それも性別問わずで。
 これは俺達も参加するしかないだろう。

「じゃあ俺はああああ、町の役場にいますからああああああ、後で来てくださいねええええええええ!」

「待ってますからああああああああああああ!」

 その意思を伝えると、二人は何所かへ去って行った。
 一応町を去るという選択しも有るには有ったが、この先が本番なのに食料や水の準備もなく進むのは無謀だろう。
 それに町の門番もどうせグルだから、脱出は困難だと思う。 

「なんかまた妙なことに巻き込まれたなぁ。じゃあ全員同じチームでいいよな」

「レティ君レティ君、一応チーム分けはしといた方がいいと思うわよ? 人数差があるとかで、勝手に決められるかもしれないしね」

 まあそんなことも有るのかなと、リーゼさんの言う通りにチーム分けをしてみる事にした。

「そっか、じゃあ馬車と同じってことにしよう。いちいち決めるのも面倒だし」

「私はレティと同じだから何も問題はない。それで構わない」

「僕もそれでいいけど、バールさんは納得していないんじゃないのかな?」

 ストリアとリッドは納得しているのだが、俺の隣にはそれに納得していない男が一人。
 誰かと言えばバールの奴だ。
 どうせ言うことは何時ものことだろう。

「お父さんはレティと一緒のチームが良い!」

「お前はタダの他人で俺に親父はいない。戯言は寝て言ってくれ。だからその提案は却下だ」

 何十度目か、何百度目かもわからないそのやり取りを繰り返し否定を返す。
 残りの二人はというと……

「あ~、私は殴れれば何でも良いんだけど?」

「お前と一緒のところ以外だったら何処でも良いのよね!」

 ジャネスの姉ちゃんとチェイニーはそんな感じだ。
 バール以外は納得しているから、もう決定したも同然である。

「じゃ、多数決で決定な。やりたくないならあの十字架に張り付けにされといてくれ」

「ふぅ、仕方ない。じゃあお父さんはレティの壁となって立ち塞がろう。全力で掛かって来い!」

「ああ、全力で排除させてもらおう。まあチームが別れたらだけど」

 で、あの二人が言っていた町役場に来たのだけど、外では親でも殺されたかのように、東と西の陣営が睨み合っている。
 両陣営とも百人近くは居るらしく、それだけこの祭りに本気ってことだろう。
 ただし、子供と老人の姿は見かけない。
 危険だから年齢制限でもしているのかもしれない。

 という訳でチェイニーは外されて、やっぱりチームを分断されてしまった。
 チェイニーの代わりにリーゼさんが向うのチームに行く事になって、久しぶりに俺達幼馴染が出動するのだった。

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