一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 サミーナ。

バルバスを下した俺達は、サミーナという女と戦っている。動きと速度、器用さにも特化した彼女に俺達は苦戦をしいられた。しかしハーディとの連携と、奥の手の使用により何とか倒し、拘束して自宅へと連れ帰った…………


シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
サミーナ  (酔っ払い兵士)


 あのボロ小屋とさほど大差ないが、少しマシな程度の我が自宅。
 かなり手狭ではあるが、弟と二人で生活できるぐらいの場所だ。

「…………」

 その自宅にて、俺は女が目覚めるのを待っていた。
 あの時から日が替わり、サミーナにはベッドで眠って貰っている。
 もちろん、その体は拘束して縛り上げているが。
 ここにハーディは居ない。
 ハーディにはボロ小屋に食料を運んでもらっている。
 俺は今、このサミーナという女と二人っきりだが、この女の体に興味があるというわけでもない。
 単に女王の資質があるのだろうと思っただけだ。

「…………」

 朝が来た今日も、町の中には特に変わった様子はなく、普段通りの風景がやって来ている。
 まだ四人が居なくなったことに気付いていないのか、それとも、水面下でもう動いているのか。
 攫った奴等が、あまり素行の良くない奴等だから、判断が難しいところだ。

「ん……んん? なんか……すっごい気持ち悪い……酒が切れた? いや、それより、ここは?」

 サミーナはやっと目が覚めたらしい。

「起きたか」

「あんたは……ハッ、まさか酔っぱらってる内に色々と……出来ればもう一回お願いします」

 昨日の戦いで酔いが醒めたと言っていたはずだが、ただの酔っぱらいの戯言だったか?

「何を勘違いしている。まさか昨日の事を覚えてないのか?」

「昨日? 昨日は確か店で飲んで……それから、中央広場で疲れて寝て……それから? 誰か男と体をぶつけ合ったような? ハッ……もう一回お願いします!」

「だから違うと言っている。しかしそれにしても、この姿の俺にそういう事を求めるとは、中々変わった女のようだ」

「この国でそんな姿の奴は珍しくないんだし、私は別に気にしないよ。それにね、人の姿をしている化け物の方が私は恐ろしいんだ。襲って来た帝国の奴等とか、今だに脳裏に焼き付いているよ」

「自分が縛られてるのによく言えるな? 俺がその化け物だと何故考えない? お前をこれから殺すかもしれないのだぞ」

「貴方はそんな事をしないわよ。だって私はまだなにもされていないんでしょ? それより、ほら、私は貴方を欲しがっているわ。さあ来て……」

 この女は、俺を誘うような動きを見せている。
 そういう気持ちが疼かないわけではないのだが、それ以上にこの女の行動はあやしい。
 無駄に何度も俺を誘う言葉を発しているのだ。
 この国の兵士は諦めが悪いから、足だけでもロープを解かせようとしているのだろう。
 訓練している人間ならば、足だけでも人を落とすのは容易いことだ。

「……遠慮させて貰おうか。その間に何をされるかわからんからな」

「……チッ、バレてたか。騙されてくれれば多少良い目を見させてやったのに。じゃあまず名前でも名乗れよ、この人攫い野郎! 一体何を狙ってるのさ!」

「本性を現してくれて何よりだ。まずは自己紹介といこうか。俺はシィヴァ・タナトリスという。ここにはいないが、もう一人の奴は、ハーディ・タルタリス。俺の実の弟だ。まあよろしく頼むぞ。目的だが……お前を女王にしてやろうと思ってな」

「はぁ? まさかまだ寝ぼけているとは思わなかったわ。本当の目的を言ってみなさいよ」

「だから、お前を女王にしてやると言っている。権力に興味はないか? 全て思いのままにできるのだぞ」

「興味ないわね。それに、国があんたの思いのままになんかなりはしないのよ」

「俺は国を治めたいなどと思ってはいない。ただこの国の女王に思い知らせてやりたいと、そう思っているだけだ。俺達のようなこの国の民の痛みをな」

「痛み……」

「お前は言ったな。帝国の奴等の顔が忘れられないと。だがそれは俺達に民にとっては、もう何度も起こっていることなのだ。力のなかった俺達民が、どれ程の気持ちで今まで過ごして来たと思っている。夜襲を乗り越えた先の大破壊。だからと言って終わりはしない魔物への恐怖。その次は天子の襲撃とかあり得ない事までだ。あげくあんな逸物の化け物に町を壊されて、どうして平静でいられるというんだ!」

「その為にこんな人攫いをしているって? 笑えないわよアンタ。その尽くを護ってくれた国の王にを怨むなんて、まるで意味がないことだわよ! それで私を王にするって? 冗談じゃないわ!」

「王であるならば民を護るのは当然のことだ。しかしここまでの何度もの戦いは、俺達を生み出すのには充分だった。俺達二人が生まれたのならば、この先に続く者達が現れるかもしれない。今その可能性が果てしなく上がっているということだ。その先にあるものは、何時か訪れる王国の崩壊。崩壊した領地を巡る他国の介入。あるいは戦争。そこに王国の存在はなくなるだろう」

「……考えすぎじゃない」

「そう切り捨てていいものではない。何もなかったとしても今後起こるべきものへの対処は必須だ。それに、女王を粛清しようという訳ではない。王座を奪い、民の鎮静化を図るのが目的だ。それにお前が賛同してくれると助かるのだが」

「ハン、笑わせるわね。馬鹿みたいな妄想ばかり並びたてて、誰が賛同するのよ! 寝言は寝て言いなさい!」

「賛同するならばそれなりの対応をしてやろうとも思ったが、まあ仕方がないだろう。あとで食事は持って来てやる。じゃあ便所の扉は開けといてやるから、下着はおろさせてもらうぞ。後は自分でなんとかするんだな」

「おおおおおおおおおおい?!」

「他の男共の前でやられないだけ有情だろう。俺も自宅のベッドが汚れるのは嫌だからな。ああ、俺達の事は心配するな。存分に出せばいい」

「おおおおおおおおおおおおおおおい!」

 俺は暴れるサミーナを強引に押し倒し、下着だけをおろして家を出て行った。 

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